邪神の子 ~赤き瞳のクレイドル~   作:末末

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幕間 グランドヒルの新パーティー

 

 

(きこり)達の護衛依頼は、つつがなく終わった。二日目は、魔獣化した動物も出ず、猪や熊等の、少し危険な動物にも出くわす事もなかった。

荷台に乗せた、伐採した木々を加工場に送った時点で、依頼完了となった。

「助かったぜ。ありがとな」

親方が、私達に礼を云う。なあに、依頼を終わらせただけさ、と答えるジャックさん。

 

「冒険者ギルドに報告に行きますか。昼食は、その後ですね」

親方と話しているジャックさんを横目に、フルースさんが云った。

「ジャック! 先に冒険者ギルドに行ってるぞ!」

ランドさんが、ジャックさんに声をかける。おう、と答えるジャックさん。

時間は、お昼前といった感じ。昼食は何になるかな……いつもの“青風館”だろうか?

 

「俺達が卸した肉が入っているだろうからな。青風館に行こうか。新鮮な猪と鹿の肉がたっぷりあるぞ」

ランドさんが嬉しげに云う。新鮮な肉……鍋にでもするのかな?

煮物も良いな。肉と野菜たっぷりの煮込みや、シチューもいいし──うん。楽しみだ……。

「ジャックが戻るまで、冒険者ギルドでお茶でも飲んでのんびりしましょうか」

フルースさんが、穏やかに云う。

ふう、とシェリナが一息吐く。ジョシュがのんびりとした口調で、云った。

「フルースさん、俺達は一度宿に戻って荷を置きます。一風呂浴びてから、合流しますよ」

風呂好きのジョシュが、云った。フルースさんが微笑む。

「ええ、構いませんよ。急ぐ事も無いですからね」

 

私達は荷物を置き、冒険者ギルドに戻る事にした。お風呂に行くジョシュに、あまり長風呂しないようにと声をかける。

「ああ、シャワーだけで済ませるよ。浴室を使うのは、夜にするつもりだ」

お風呂用の手桶片手に、ジョシュが云う。

「先に行ってるからね」

シェリナの声に頷きながら、ジョシュはシャワー室に向かって行く。

ホントに、お風呂好きなのねえ……まあ、気持ちは分かるけどね。私も、昼食後にお風呂に行こう。

 

冒険者ギルドの喫茶室。ジャックさん達は、のんびりとお茶を楽しんでいた。

「おう、戻ったか。ギルドへの報告は済んでるぜ」

ジャックさんが、ティーカップ片手に私達に告げる。

「報酬は、中々のものだったぞ。魔獣化した鹿の角と猪の牙に魔石。それらに、受けた依頼の報酬を足して、計一人辺り。金貨四枚に銀貨二枚だ……まあ、こんなものだろうな」

ジャックさんが目を細めながら、お茶を啜る。

思った以上の報酬。本当に、貰っていいのだろうか?

「ああ、それと。お前達の冒険者ランクも上がったぞ……今日から、Dランクだ。あとから、改めてギルドマスターから通達があるだろうよ」

ジャックさんの言葉。Dランクに昇格……ランクアップの事は、考えていなかった……。

「さあ、座って。ジョシュが来るまで、お茶の時間といきましょう」

優しげな笑みを浮かべながら、フルースさんが云う。

ランドさんの、店員を呼ぶ声がぼんやりと聞こえた……初級のDランクか……。

 

「初級のDランク……」

シェリナは立ったまま、呆然として呟く……。

「おい、席に着けよ。少し落ち着け、お茶の時間だ」

苦笑混じりの、ランドさんの声が優しい。

店員さんが、お茶と砂糖まぶしの炒り豆と焼き菓子を持ってきた。

「Dランクからは、依頼の幅が広がってやり易くなるぞ」

ジャックさんが、塩味の焼き菓子を摘まみながら云う。私もつられて、焼き菓子を手に取る。

「討伐依頼も、難易度が低ければ大概のものは受けられますよ」

お茶をカップに注いでくれる、フルースさん。

礼をいい、カップに口をつける……温かいお茶が気持ちを落ち着かせる。

ふう、とシェリナのため息。私と同じように、落ち着いたかな?

 

遅れてやって来たジョシュに、初級Dランクに昇格した事を告げると──シェリナと同じ様に、呆然とした様子で固まってしまった。その様子を微笑ましく見るジャックさん達。

私は、ジョシュにお茶を勧めて、落ち着くように云った。お茶を啜るジョシュと私達に、ジャックさん達が今後の事をアドバイスしてくれた。

まず、パーティー名を決めた方がいいとの事だ。

 

「パーティー名ってのは、言ってみりゃあ看板だ。各地を移動する時に、冒険者ギルドに報告するだろ? その時に、少し融通を効かせて貰える事があるんだよ」

「つまり、依頼にもよりますが、このパーティーになら任せても大丈夫、と認識されるんですよ」

ジャックさんとフルースさんのアドバイス……う~ん。正直、思ってもみなかったな。パーティー名、パーティー名ねえ……後で、シェリナとジョシュと話し合わないといけないわね……。

「まあ、パーティー名については充分に話し合うんだな……昼飯にしよう。昇格記念の祝いだ。俺達の奢りで、たっぷり食え」

ジャックさんが席を立つと、豪快に云った。フルースさん、ランドさんも何か嬉しそうに微笑んでいる……私達は、いい先輩と知り合ったみたいだ。

 

少し遅い昼食は青風館だ。予め予約を取っていたようで、奥の席に通された。

「猪鍋が先で、鹿肉の焼肉はその後ですね」

フルースさんが云う。猪鍋に、鹿の焼肉か……滋養に良さそうだ。

「何より、新鮮だからな。ほぼ狩り立ての肉だ。感謝の思いを込めて、じっくり味わうとしよう」

ランドさんが、沁々と云った……そうよねえ。生き物の命を、我が身にするんだもの……。

昇格のお祝いの様な雰囲気の中、なかなかに豪勢な昼食になった──猪鍋に鹿の焼肉、山菜と茸の炒め物。山の幸をたっぷりと味わう事ができた。

 

 

ジャックさん達にお礼をいい、宿に戻った。私とシェリナは、ひとまずお風呂。パーティー名を三人で話し合うのは、その後と決まった。

「パーティー名かあ……じゃ、後でな」

ジョシュは部屋に戻って行った。

さて、お風呂でさっぱりしたら、何かいい名でも思い浮かぶかも……。

 

「パーティー名かあ……」

正直、考えた事なかったな。村の名前から取るっていうのは、何か違うしな……。

そういえば、城塞都市で先輩冒険者達と話した時、あまり大げさなパーティー名は呆れられると言ってたっけ……う~ん。リーネとシェリナが戻ってからだな──ジョシュは棚から剣を取り出し、鞘から抜いた。明かりにかざし、じっと見つめる……刃こぼれは、無し。さっき布で拭ったので曇りも無い──

「パーティー名かあ……」

ジョシュは剣を見つめながら、一人呟く。

 

さっぱりとしたお風呂上がり。シェリナと二人で、ジョシュの部屋を訪れる……ジョシュは直ぐに出てきた。

「ああ、下に降りるか?」

ジョシュの声に頷く。喧騒の中の方が、話しやすい事もあるからね……まあ、そんなに深い話でも無いけれど。

早速、下に降りる。宿の喧騒に慣れたものだと思う……私達も、冒険者生活に馴染んだものね。

テーブルに着き、蜂蜜酒(ミード)を頼む。ちょっとお高めだけれど、今回は稼げたから少しはいいでしょう。

 

「パーティー名、何だけど……何か思い付いた?」

リーネが言った。う~ん、と唸るジョシュ。お風呂でさっぱりとしたら、何かいいパーティー名が思い浮かぶと思ったけど、駄目だった。

さて、どうしようかな? 村の名前からパーティーの名前を取るというのは、嫌だし……。

「すいません。ソーセージとチーズお願いします」

ジョシュが、店員さんに注文をする。

のんびりしてるわねえ……まあ、私もリーネも似た様なものだけど。

パーティー名ねえ……ちびり、と蜂蜜酒を啜る。うん、美味しい。さっぱりとした味わいが、優しく喉を潤す。

「前衛、中衛、後衛とバランス取れているよね、私達。そこからパーティー名を考えたのだけれど……どうも思い浮かばないのよねえ」

リーネが首を傾げる。全然思い浮かばないのは、私もジョシュも同じ……正直、急ぐ様な事でもないと思うのだけどね。蜂蜜酒のお代わりを頼もうかな。

 

シェリナの、蜂蜜酒を注文する声に我に返る。パーティー名を考えている内に、ボンヤリしてたみたい……「うん? 雪が降っているみたいだな」

ジョシュが、宿の出入り口を見ながら言った。

つられて、私も出入り口を見る。確かに、チラホラと雪が舞う様に降っている……雪かあ。

「私達の村も、降っているかな」

チビチビと、蜂蜜酒を啜りながらシェリナが言う。

「そういえば、なんだっけ? 村でよく見かけた、春先になると咲く、白い花」

ジョシュが、唐突に花の事を言った。ああ、あの白い花は、確か……。

「ええと、待雪草(スノードロップ)だったかな?」

チーズに手を伸ばしながら、シェリナが言った。 そう、待雪草。下向きに咲く白い花。あれ好きなのよね……よし、決まった。

「パーティー名、決まったわ。うん」

私の宣言に、二人が顔を見合せ、私を見る。

待雪草(スノードロップス)にしない?」

「スノードロップス、か……うん、悪くないと思う」

ジョシュが、頷きながら言う。シェリナは蜂蜜酒をくいっと呷ると言った。

「うん。いいと思うよ」

「よし、決まりね。明日、ギルドに申請するわ。ジャックさん達にも報告ね」

うんうん、と頷くジョシュとシェリナ。

「改めて、待雪草(スノードロップス)として、乾杯しましょうか」

ジョシュが店員を呼ぶ。パーティー名が決まった事で、冒険者として、本格的な始まりの様な気がした。

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