邪神の子 ~赤き瞳のクレイドル~   作:末末

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第133話 覇王の訓練場 偶然(守護)は続かず

 

 

 

「よし! 押し込め!!」

イアンさんの号令に、B隊が一気にオークの群れに突撃する。

群れとはいっても、もはや四体だけだ……勝ちだな。始末が付くのはもう直ぐだ。

 

始末したオークの数、八体。イアンさんは指揮を取るだけで、直接戦闘には関わっていない。

B隊のみで、数に少し優るオークを倒した。負傷者は出たが軽傷だ。

軽い打撲程度ならば、俺の軽治癒で充分だと思ったので、経験を兼ねて任せてもらった……それにしても、暗黒神の偶然(守護)が早くも発動したのには、少々驚いた。

B隊がオークと出くわした際、先頭を進む数体のオークが驚き、武器を取り落とした。

それを見たイアンさんが、B隊に先制攻撃の指示を出し、そこから乱戦に持ち込んで、オークの殲滅を果たした。

 

「よし、幸先は悪くないな……大いなる父君よ、偶然(守護)に感謝します」

イアンさんが、暗黒神に簡易な祈りを捧げる中、グランさんの指示で、B隊がオークの死体を通路の端に片付けている。死体は腐敗前に、ダンジョンに吸収されるんだっけか……。

「よし、もう済んだ。他に痛む所は?」

オークの死体の片付けを横目に、腕に打撲傷を負った、見習いの治療を終える。

「あ、いえ。もう大丈夫です……ありがとうございました」

礼をいい、立ち上がる見習い。年の頃は、十五、六くらいか……ふむ。打撲傷ならば、よほど酷くない限り軽治癒で充分だな。

一礼し、仲間の下に戻って行く見習い。その背を見ながら、グランさんに言われた事を思い出す。

負傷者の治癒をする時は顔を出すな、との事だった……解せぬ。

 

「B隊に、もう一戦させるか、地上で待機中のA隊と入れ替えるか、どうする?」

グランさんがイアンさんに尋ねる。B隊の様子を見ると、そわそわと少し落ち着きが無い。先の勝利の余韻が今だ残っているみたいだが……さて、イアンさんの判断はどうだ?

「ふむ……よし、入れ替えだな。大いなる父君の守護を得られている内に、自信を取り戻させよう。今のままだとA隊連中の気持ちが折れかねない」

「それでいいと思う。早速、サイモンに伝えてこよう」

イアンさんの判断に賛成したグランさんが、訓練場の出入り口に向かって行く。

「クレイドル、治癒の礼を言う。まだ見習い達には、大いなる父君の治癒は早いからな」

ふう、とため息混じりに、イアンさんが礼を言った。

「俺の経験にもなりますからね。軽傷ならば、治癒できる事が分かりましたよ」

なるほどな、とイアンさん。治癒術のコツは、単純な事──癒す──という強い意思を持つ事だとは、“魔導卿”ラーディスさんの教えだ。

 

イアンさんとの雑談中、サイモンさんとルドガーさんが、A隊を連れてやって来た。

A隊の様子は、今は落ち着いている感じだ。グランさんから、何らかの激励でも受けたのだろうか?

「……微かだが、大いなる父君の守護を感じるな……グランの言った通りだ。よし、入れ替えだな。連中に自信を取り戻させよう」

ルドガーさんが、サイモンさんに云う。

イアンさんが、見習い達に引き上げを告げている。少々、不服そうだが引き上げに同意するだろう。

やがて、イアンさんがB隊を連れ、出入り口に向かって行った。

 

「クレイドル、疲れて無いか?」

グランさんと交代したルドガーさんが、話しかけてきた。

先のコボルトリーダーとの一戦は大した事なかったしな──「いや、大丈夫ですよ」

ふうむ、とルドガーさん。今日は、半日は潜っているつもりだからな……。

「冒険者てのは、タフだな……頭が下がるよ。正直、ダンジョンには長く止まれないんだよな」

体力面ではなく、精神面の疲労がツラいそうだ……俺は平気だが、冒険者の中にも、精神面で長く耐えられない人もいるんだよな。

「ルドガー、クレイドル。引き継ぎは終わった。二人、斥候を頼めるか?」

サイモンさんがやって来て云った。頷いて答える。

「取り合えず……一階奥、二階へ続く広場まで行く事にしよう。時間的に、戦闘が出来るのは、あと二度ほどかな」

ルドガーさんが、サイモンさんに云う。そういえば、まだ一階何だよな……何かもどかしいな。

碧水の翼(へきすいのつばさ)”なら、もう少し速やかに行動出来たろうな、という思いがあるだけだ……比べても仕方ない事だけどな。

 

「よし、行くか。生命探知は、任せてくれ」

剣を抜き、盾を構えるルドガーさん。俺は静かに、“宵闇(トワイライト)”と盾を構える。

「はい。お願いします」

おう、と頷き、ルドガーさんが先を行く。気を付けてな、とサイモンさんの声が聞こえた。

ルドガーさんの少し後ろ側に付き、廊下を進む……さて、コボルトにオークときて、次の相手は何だろうな? 虫じゃなかったらいいんだが……。

左への曲がり角直前で、ルドガーさんが立ち止まり、待ての合図を出してきた。

「……生命探知に反応ありだ。多分、魔獣だな……数は、三体。向かって来ている」

魔獣か。まだ一階だから、それほど強力なものは出ないだろうが、油断はできないな……。

「戻りましょう。見習い達に、早めに腹を括らせる必要ありますよ」

「そうだな。よし、戻るか。さて、どんなやつが来るかな」

俺とルドガーさんは、速やかにここから離れる。微かに、獣の臭いを感じた気がした……。

 

サイモンさんに報告。サイモンさんは、相手を迎え撃つのではなく、こちらから攻める事に決めた。

「よし、前衛三、後衛二の隊列だ。日頃の訓練を思い出せ。前後の入れ替えを意識しろ。相手の数が少ないとはいえ、油断するな……隊列を組み次第、進め」

サイモンさんの指揮の下、A隊が速やかに隊列を組み、慎重に進み始める。

「ルドガー、クレイドル、俺と見習い達の背後に付いててくれ」

了解、と俺達。さて、お相手は何だ?

 

A隊が曲がり角に近付く前に、その“お相手”が姿を現した……カエルだ。見た目、赤茶色の肌をした大きなカエル。全長……八十センチはあるだろうか?

ただのでかいカエルであるはずもなく、水掻きの付いた手からは鉤爪が伸び、肌はよく見たら、レンガの様な質感……刃物は通りにくそうだな。

大いなる父君の偶然(守護)は、どう働くだろうか?

「なかなかに面倒な相手だな。見た目通り堅いぞ」

あのカエルの事を知っているらしい、ルドガーさんが呟く様に云った。

 

「一対多で当たれ! 爪に気を付けろ! 斬るよりも、突け! 突いたら直ぐに引き抜け、抜けなくなるぞ。そうなったら、剣を手放して下がれ!」

サイモンさんの指示の下、A隊がレンガ色のでかいカエルに向かって行く。

先頭にいるカエルが、A隊に気付いていない様に、ゲッゲゲッ、とあらぬ方向を向いて野太い鳴き声を上げる……隙だらけだ。

先頭を行くA隊の一人が、カエルの首目掛け、剣を突き刺し、引き抜く。

グゲッ! と声を上げるカエル。致命傷になっていなかったのか、血を吐きながら後方に下がって行く──「押し込め! 体の表面では無く、下側の柔らかい部分を攻めろ! 一体を一人で対応するな!」

サイモンさんが、A隊に指示を出す。今の状況ならば、カエル一体に二人がかりで相手取るのが正しいだろうな。

速やかな始末……それで見習い達の心が安定すればいいがな。

 

連携は取れている様に見えたが……ううむ、歯がゆいな。数の利を上手く使えず、連携が取れていない。

三体のカエルを、捌ききれないのが見て取れる。サイモンさんも渋い顔をしているだろうな……。

押し包んで一気に攻め込み、潰す事が出来るだろうに……「もどかしいな」

ルドガーさんが、舌打ち混じりに呟く。

同感だが、要請がない以上、自分達が出る事は出来ない。

「押されてるぞ……面倒な相手だが、強力な魔獣という訳では、無いんだがな……」

またもや舌打ち混じりに呟くルドガーさん。あのカエルは初めて見たが、確かに面倒そうな相手だな。うん? 最初に一撃を食らったカエル、いつの間にか居なくなってないか?

「ルドガーさん、最初に一撃を食らったカエル、居なくなってませんか?」

「……だな。待てよ。少しマズイかもな」

二体のカエルに、てこずっているA隊を睨むように見つめながら、ルドガーさんが云う。

「サイモン! ブルフロッグが仲間を引き連れて来るぞ!」

ルドガーさんが剣を抜き、臨戦態勢を取る。ブルフロッグというのか、あのカエル。仲間を呼ぶ? ホントに面倒だな。

俺も“宵闇(トワイライト)”を構える。

 

ゲゲッゲッゲッゲゲゲッッ──ざっと見るに、十体は越えているか? カエル、ブルフロッグの群れ。増えるの早いな……A隊は、はっきりと怯えを見せている。

やれやれだ──「ルドガー、クレイドル、手を貸してくれ」

サイモンさんの要請。と同時に、サイモンさんがA隊を後方に下がらせる。

サイモンさんは、腰が引けている若手の前に出ると、ブルフロッグの群れに手をかざす。

コロリ、とブルフロッグが数体倒れる。暗黒術を使ったのか、魔力の流れを感じた。倒れたブルフロッグを乗り越え、サイモンさんが剣を振るう。

ルドガーさんが、ブルフロッグの群れに斬り込んでいく。瞬く間に、ブルフロッグ数体が切り裂かれ、血を撒き散らしていく。

俺も血生臭さの中に乗り込み、宵闇(トワイライト)を振るう。“囁き”は必要ないな──

ブルフロッグの頭部を叩き潰す。しっかりとした手応え。

剣よりも戦鎚(メイス)が有効か。鉤爪を振りかざして迫って来たブルフロッグの頭部を、盾で横殴りにして、戦鎚を頭部に振り下ろす。

ぐしゃり、とした感触──悪くないな。周囲を見回すと、ブルフロッグも数体ほどになっていた。

 

 

「ここまでだな……サイモン、引き上げにしないか」

「……そうだな。大いなる父君の偶然(守護)も消えた事だしな」

サイモンさんが、疲労しているA隊に目をやりながら、ルドガーさんの言葉に頷く……見習い達に自信が付くのは、いつになる事か……。

サイモンさんとルドガーさんが、二人揃ってため息を付いた。

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