邪神の子 ~赤き瞳のクレイドル~   作:末末

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覇王の訓練場は、少し長くなります。

(゚∈゚ )クルッポ


第134話 覇王の訓練場 歴戦の兵士

 

 

 

午前組十名の、今日の実戦訓練は終了となった。

「死者、重傷者無し……しかし、結果としては……」

「いまいちだな。決して良いとは言えんな」

サイモンさんとイアンさんが話し合う。部外者の俺から見ても、見習い連中の練度は良くなかった……いや、練度以前に“実戦”に対する心構えが出来てなかったと言った方がいいだろうか?

「兵舎に戻るか。昼食後、午後組を指揮しないとな」

ルドガーさんの声に、皆頷く。

グランさんは一足先に、見習い連中を連れ、覇王の訓練場(グラウンドオブオーバーロード)から地上に戻って行った。

 

昼少し過ぎの訓練場周辺は明るい雰囲気で、衛兵や市民達が行き交っている。

露店がいくつか出ていて、日曜雑貨や食事を提供している店や、武具を取り扱っている店もあり、一つの拠点として機能している様だ。

そういえば、同業(冒険者)らしき人らは見かけないな──「覇王の訓練場への、冒険者の立ち入りは制限されているんですか?」

隣を行く、サイモンさんが答えてくれた。

「ああ、騎士団と衛兵の訓練期間中は、制限されているんだ」

なるほどな、道理で。そもそも、覇王の訓練場の難易度的には、中級クラス以上と認定されているから、そうは来ないだろうな……。

「昼食を済ませて、小休止。午後も引き続き、A隊B隊を訓練場に降ろそう……指揮はまず、俺が取る」

イアンさんが云った。午後も、引き続きで訓練か……さて、どうなるかな?

 

昼食は、皆と同じ兵舎で取る事にした。酒場を兼ねた食堂もあるが、ちょっとした交流のためと金がかからないからだ。

定食、二種──鶏肉野菜炒めと豚肉野菜煮込み。それに玉葱のスープに酢漬け野菜だ。このメニューだと……米だな。

 

「明日、明後日とまだ二日ある。見習いを鍛える時間は充分にあると思うが?」

「それはそうだが……カエルの件で、だいぶ落ち込んでいるぞ」

サイモンさんとイアンさんの会話。

確かにな……ブルフロッグ戦を終えた後、見習い達の顔色は酷いものだった。

少し離れた席で、食事をしている見習い達を見ると、午前組の十名達は、浮かない顔で食事をしている。

そんな午前組を、午後組の十名は心配そうに見ていた──「ふん……午後組は、どうなる事か」

ルドガーさんは、豚肉野菜煮込みを平らげ、水を口に運ぶ。

「少々、発破をかけないといけないかもな」

ちぎったパンを、煮込み汁に浸すグランさん。そう食べるか……美味そうだな。

俺は、食事の〆に酢漬け野菜(大根)を摘まむ。うん美味い……ポリポリとした歯触りが心地いい。

 

「午後も同じ様に、実戦訓練をさせるんですか?」

サイモンさん達に尋ねる。隊を二つに分け、それぞれ敵に当たらせる──それが騎士団のやり方なのだろうが……。

「勿論。同じ条件での訓練だ」

「だが、今のままでは少々厳しいな」

サイモンさんの言葉に、ルドガーさんが云う。

「そろそろ、見習い達に仕度をさせよう」

グランさんが、席を立つ。よし、とルドガーさん達も準備に取りかかる。俺も仕度をするか……。

 

 

「グラン、食事中には聞けなかったが、クレイドルのあの容姿……」

サイモンが、フェイスガードを引き下げているクレイドルを眺めながら、グランに尋ねた。

美貌──という言葉ではとても表現出来ないほどの容姿……輝く金髪に綺麗に整った目鼻立ち。

漆黒の瞳に……濡れた様な紅い唇。そこから覗く、白い歯──人間離れした美貌……「まあ、言いたい事は分かる。私はある程度、慣れているが。副団長とは、また違ったタイプだな……私が言える事は、あの顔をまともに見るな、という事だ」

グランは、ぼんやりとクレイドルを眺める。なるほどな、とサイモンが呟く……。

 

覇王の訓練場(グラウンドオブオーバーロード)”の出入り口前には、イアンとルドガー。二人から、少し離れた所でクレイドルが待機している。

やがて、イアンに指揮されたA隊が、イアンを先頭に、覇王の訓練場に潜って行く。

その直ぐ後ろから、ルドガーとクレイドルが付いて行った──「よし、地上待機のB隊に合流するか」

サイモンの言葉に、ああ、と答えるグラン。

(少し、地上待機組を激励するかな……)

グランは、所在なさげに佇む、B隊を見て思った。

 

 

今日、二度目の覇王の訓練場。

コボルト、コボルトリーダー。ブルフロッグ──コボルトとブルフロッグはともかく、コボルトリーダーは一階層で出現するには、強力だ……出現する魔物、魔獣の種類はどうなっているのか……。

「ルドガー、クレイドル、斥候を頼む」

イアンさんの言葉に頷き、ルドガーさんが進む。俺は少し距離を取り、その背を追う。

 

「ルドガーさん、覇王の訓練場に出現する魔物、魔獣の種類は決まっているんですか?」

肩越しに、ちらと俺を見ると、ルドガーさんが云う。

「そうだな……一階から三階までは、それほど強力な魔物や魔獣は出ない。少なくとも、難易度の高い討伐依頼の対象になるほどの魔物等は出ない……」

だが、とルドガーさん。

「正直、コボルトリーダーが現れた時は、マズイと思ったがな」

コボルトリーダーがコボルトを率いていたなら、見習い達に死人が出てもおかしくなかっだろうな……あれは、それだけの魔物だ。

ルドガーさんと二人で始末出来たのは、やはり暗黒神の“偶然(守護)”の賜物だろうな。

 

しばらく通路を進む。ブルフロッグと戦闘をした地点を過ぎる──今だ、ルドガーさんの生命探知に、何もかからず。

「止まれ」

ルドガーさんの合図。何かに耳を澄ます様に、首を傾げている……俺を見て、手招きをする。静かに移動し、ルドガーさんの横に立った。

「耳を澄ませろ……聞こえるか?」

じっ、と耳を澄ませると、微かに金属音が聞こえる──武装した、何か。コボルトやオークでも無い気がする……もしかして?

「武装スケルトンだ。六体以上は、いるだろうな。イアンに報告だ。見習いではキツイ相手だ」

さすが暗黒騎士、不死者(アンデッド)は分かるか……。

「武装スケルトンの経験は?」

ルドガーさんが尋ねてきた。

「あります。指揮官クラスとも、やり合いました」

城塞都市の“石壁の砦”での経験がある。生前の戦闘能力に加え、“覇王公”への忠義を残している、武装スケルトンと指揮官クラスの武装スケルトン……決して楽な相手ではない。

ルドガーさんの言う通り、見習いでは手に負えない可能性がある。

「よし……なら話は早いな。取り急ぎ、イアンに報告だ」

はい、と頷き、足早にイアンさんとC隊の下に戻る事にした。

 

「イアン、武装スケルトンが向かって来ている。数七体ほど。指揮官クラスはいないと思う。見習い達では、荷が重いぞ」

グランさんの言葉に、イアンさんが少し考える……「よし、A隊はここで待機させる。俺達で相手をしよう」

即決する、イアンさん。ここらの判断は見習いたいものだな。

「A隊は待機。俺達の戦いを、しっかりと見ろ。いいな!」

イアンさんが、A隊に言い聞かせる。はい!と返事をするA隊。

さて……武装スケルトンか。なかなかに手強いんだよな。宵闇(トワイライト)を抜き、強く握る──クレイドルの瞳が、フェイスガード越しに赤く瞬いた。

 

武装スケルトンの事を報告後、イアンさんに尋ねる。暗黒神の加護の事についてだ──「暗黒神の加護を、祈れませんか?」

午前の様に“偶然(守護)”の事だ。守護を得る事が出来れば、見習い達でも──「無理、だな」

ルドガーさんが云った。続けて、イアンさんが云う。

「大いなる父君の守護は、一日に一度だけだ。俺達は前にそれを祈り、受け入れられた……甘える事は出来んな」

う~ん。なるほどな。分かる気がする……神の加護はそうそう受けられないだろうからな。

兄上(暗黒神)は、お堅いからなあ~。僕に加護を願ったらどうだい? まあ、何がどうなるか分からな〉父上、今度またお願いしますね──ちぇっ、と小さな舌打ちが遠くに聞こえた。

 

「クレイドル?」

心配そうなルドガーさんの声が聞こえた。

「……何でもありません。俺とルドガーさんが先鋒でいいんですか?」

「ああ、頼む。俺は補助にまわるが、それでいいか?」

イアンさんが、俺とルドガーさんに云う。頼む、とルドガーさん。俺は頷きで返す……武装スケルトンか、戦闘経験を積むのにうってつけの相手何だよな。

金属が、規則正しく聞こえてきた。軍隊の行進……脳裏に浮かんだのは、それだった。間違いない、武装スケルトンだ。

 

現れた武装スケルトン、その数八体。鎧、籠手に盾と剣──多少錆び付いているものの、帝国兵の標準装備だ。

俺達を視認したと同時に、盾と剣を構え、臨戦体勢に入る武装スケルトン。

生前の戦闘技術、兵士としての規律そのままに、整列する武装スケルトン。

帝国兵と戦う事と同じだ……指揮官はいない様だが、油断はならない。

「よし、俺達で始末するぞ、いいな」

ルドガーさんが云う。はい、と頷く。

何の問題も無い……“宵闇(トワイライト)”がある。スケルトンに対しては、打撃戦が有効だ……何の問題も無いな。

ザッ、と武装スケルトンが隊列を整えた。前衛四、後衛三。集団戦闘を熟知した、歴戦の動き。

手強いだろうな……だからこそ、いい経験になる。

 

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