(゚∈゚ )クルッポ
午前組十名の、今日の実戦訓練は終了となった。
「死者、重傷者無し……しかし、結果としては……」
「いまいちだな。決して良いとは言えんな」
サイモンさんとイアンさんが話し合う。部外者の俺から見ても、見習い連中の練度は良くなかった……いや、練度以前に“実戦”に対する心構えが出来てなかったと言った方がいいだろうか?
「兵舎に戻るか。昼食後、午後組を指揮しないとな」
ルドガーさんの声に、皆頷く。
グランさんは一足先に、見習い連中を連れ、
昼少し過ぎの訓練場周辺は明るい雰囲気で、衛兵や市民達が行き交っている。
露店がいくつか出ていて、日曜雑貨や食事を提供している店や、武具を取り扱っている店もあり、一つの拠点として機能している様だ。
そういえば、
隣を行く、サイモンさんが答えてくれた。
「ああ、騎士団と衛兵の訓練期間中は、制限されているんだ」
なるほどな、道理で。そもそも、覇王の訓練場の難易度的には、中級クラス以上と認定されているから、そうは来ないだろうな……。
「昼食を済ませて、小休止。午後も引き続き、A隊B隊を訓練場に降ろそう……指揮はまず、俺が取る」
イアンさんが云った。午後も、引き続きで訓練か……さて、どうなるかな?
昼食は、皆と同じ兵舎で取る事にした。酒場を兼ねた食堂もあるが、ちょっとした交流のためと金がかからないからだ。
定食、二種──鶏肉野菜炒めと豚肉野菜煮込み。それに玉葱のスープに酢漬け野菜だ。このメニューだと……米だな。
「明日、明後日とまだ二日ある。見習いを鍛える時間は充分にあると思うが?」
「それはそうだが……カエルの件で、だいぶ落ち込んでいるぞ」
サイモンさんとイアンさんの会話。
確かにな……ブルフロッグ戦を終えた後、見習い達の顔色は酷いものだった。
少し離れた席で、食事をしている見習い達を見ると、午前組の十名達は、浮かない顔で食事をしている。
そんな午前組を、午後組の十名は心配そうに見ていた──「ふん……午後組は、どうなる事か」
ルドガーさんは、豚肉野菜煮込みを平らげ、水を口に運ぶ。
「少々、発破をかけないといけないかもな」
ちぎったパンを、煮込み汁に浸すグランさん。そう食べるか……美味そうだな。
俺は、食事の〆に酢漬け野菜(大根)を摘まむ。うん美味い……ポリポリとした歯触りが心地いい。
「午後も同じ様に、実戦訓練をさせるんですか?」
サイモンさん達に尋ねる。隊を二つに分け、それぞれ敵に当たらせる──それが騎士団のやり方なのだろうが……。
「勿論。同じ条件での訓練だ」
「だが、今のままでは少々厳しいな」
サイモンさんの言葉に、ルドガーさんが云う。
「そろそろ、見習い達に仕度をさせよう」
グランさんが、席を立つ。よし、とルドガーさん達も準備に取りかかる。俺も仕度をするか……。
「グラン、食事中には聞けなかったが、クレイドルのあの容姿……」
サイモンが、フェイスガードを引き下げているクレイドルを眺めながら、グランに尋ねた。
美貌──という言葉ではとても表現出来ないほどの容姿……輝く金髪に綺麗に整った目鼻立ち。
漆黒の瞳に……濡れた様な紅い唇。そこから覗く、白い歯──人間離れした美貌……「まあ、言いたい事は分かる。私はある程度、慣れているが。副団長とは、また違ったタイプだな……私が言える事は、あの顔をまともに見るな、という事だ」
グランは、ぼんやりとクレイドルを眺める。なるほどな、とサイモンが呟く……。
“
やがて、イアンに指揮されたA隊が、イアンを先頭に、覇王の訓練場に潜って行く。
その直ぐ後ろから、ルドガーとクレイドルが付いて行った──「よし、地上待機のB隊に合流するか」
サイモンの言葉に、ああ、と答えるグラン。
(少し、地上待機組を激励するかな……)
グランは、所在なさげに佇む、B隊を見て思った。
今日、二度目の覇王の訓練場。
コボルト、コボルトリーダー。ブルフロッグ──コボルトとブルフロッグはともかく、コボルトリーダーは一階層で出現するには、強力だ……出現する魔物、魔獣の種類はどうなっているのか……。
「ルドガー、クレイドル、斥候を頼む」
イアンさんの言葉に頷き、ルドガーさんが進む。俺は少し距離を取り、その背を追う。
「ルドガーさん、覇王の訓練場に出現する魔物、魔獣の種類は決まっているんですか?」
肩越しに、ちらと俺を見ると、ルドガーさんが云う。
「そうだな……一階から三階までは、それほど強力な魔物や魔獣は出ない。少なくとも、難易度の高い討伐依頼の対象になるほどの魔物等は出ない……」
だが、とルドガーさん。
「正直、コボルトリーダーが現れた時は、マズイと思ったがな」
コボルトリーダーがコボルトを率いていたなら、見習い達に死人が出てもおかしくなかっだろうな……あれは、それだけの魔物だ。
ルドガーさんと二人で始末出来たのは、やはり暗黒神の“
しばらく通路を進む。ブルフロッグと戦闘をした地点を過ぎる──今だ、ルドガーさんの生命探知に、何もかからず。
「止まれ」
ルドガーさんの合図。何かに耳を澄ます様に、首を傾げている……俺を見て、手招きをする。静かに移動し、ルドガーさんの横に立った。
「耳を澄ませろ……聞こえるか?」
じっ、と耳を澄ませると、微かに金属音が聞こえる──武装した、何か。コボルトやオークでも無い気がする……もしかして?
「武装スケルトンだ。六体以上は、いるだろうな。イアンに報告だ。見習いではキツイ相手だ」
さすが暗黒騎士、
「武装スケルトンの経験は?」
ルドガーさんが尋ねてきた。
「あります。指揮官クラスとも、やり合いました」
城塞都市の“石壁の砦”での経験がある。生前の戦闘能力に加え、“覇王公”への忠義を残している、武装スケルトンと指揮官クラスの武装スケルトン……決して楽な相手ではない。
ルドガーさんの言う通り、見習いでは手に負えない可能性がある。
「よし……なら話は早いな。取り急ぎ、イアンに報告だ」
はい、と頷き、足早にイアンさんとC隊の下に戻る事にした。
「イアン、武装スケルトンが向かって来ている。数七体ほど。指揮官クラスはいないと思う。見習い達では、荷が重いぞ」
グランさんの言葉に、イアンさんが少し考える……「よし、A隊はここで待機させる。俺達で相手をしよう」
即決する、イアンさん。ここらの判断は見習いたいものだな。
「A隊は待機。俺達の戦いを、しっかりと見ろ。いいな!」
イアンさんが、A隊に言い聞かせる。はい!と返事をするA隊。
さて……武装スケルトンか。なかなかに手強いんだよな。
武装スケルトンの事を報告後、イアンさんに尋ねる。暗黒神の加護の事についてだ──「暗黒神の加護を、祈れませんか?」
午前の様に“
ルドガーさんが云った。続けて、イアンさんが云う。
「大いなる父君の守護は、一日に一度だけだ。俺達は前にそれを祈り、受け入れられた……甘える事は出来んな」
う~ん。なるほどな。分かる気がする……神の加護はそうそう受けられないだろうからな。
〈
「クレイドル?」
心配そうなルドガーさんの声が聞こえた。
「……何でもありません。俺とルドガーさんが先鋒でいいんですか?」
「ああ、頼む。俺は補助にまわるが、それでいいか?」
イアンさんが、俺とルドガーさんに云う。頼む、とルドガーさん。俺は頷きで返す……武装スケルトンか、戦闘経験を積むのにうってつけの相手何だよな。
金属が、規則正しく聞こえてきた。軍隊の行進……脳裏に浮かんだのは、それだった。間違いない、武装スケルトンだ。
現れた武装スケルトン、その数八体。鎧、籠手に盾と剣──多少錆び付いているものの、帝国兵の標準装備だ。
俺達を視認したと同時に、盾と剣を構え、臨戦体勢に入る武装スケルトン。
生前の戦闘技術、兵士としての規律そのままに、整列する武装スケルトン。
帝国兵と戦う事と同じだ……指揮官はいない様だが、油断はならない。
「よし、俺達で始末するぞ、いいな」
ルドガーさんが云う。はい、と頷く。
何の問題も無い……“
ザッ、と武装スケルトンが隊列を整えた。前衛四、後衛三。集団戦闘を熟知した、歴戦の動き。
手強いだろうな……だからこそ、いい経験になる。