邪神の子 ~赤き瞳のクレイドル~   作:末末

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第135話 覇王の訓練場 武装スケルトンと流血と苦痛の茨の外殻(ソーンオブマックスペイン)

 

 

 

武装スケルトン──生前の戦闘技術を引き継いでいる、特殊なアンデッド。

強さは地域事に少し異なるが、いずれにしろ手強い事には変わらない。歩兵、槍兵、弓兵。さらに魔術兵。

兵士や騎士だけとは限らず、名のある剣士や戦士も武装スケルトンとなる可能性もある。

古戦場が危険区域と見なされるのは、武装スケルトンが昼夜を問わず、出現する可能性が高いからだ。

特に、帝国兵の武装スケルトンは、生前の精強さと強かさも引き継いでおり、さらに強力な存在と知られている。武装スケルトンの上位版として、竜骨スケルトンという種がいるが、これは輪にかけて強力である──

 

 

ガアァン! 真正面から、盾に撃ち付けられた衝撃に踏ん張る。横合いから迫って来る武装スケルトンから距離を取るため、後方に跳び下がる。

連携が上手いな……A隊は、武装スケルトンの戦い方をちゃんと見ているだろうか? 多くを学べるぞ……くそっ、それにしても手強いな。

「オオオォォアッッ!!」

咆哮にも似た、叫び声──クレイドルだ……。

ちらと、目をやると信じられないものが目に入った。全身血塗れで、血飛沫を上げながら、戦鎚(メイス)を振るっているクレイドルの姿が。

バグンッ! クレイドルのメイスで頭骨を砕かれた武装スケルトンが、崩れ落ちる。

(何が起きたが分からんが……凄まじいな……よし、踏ん張り所だ)

ルドガーは、不敵な笑みを浮かべる。

 

武装スケルトンに対して、弱体化の補助魔術を使おうとしたのが、ミスだった。アンデッド特有の魔力耐性に阻まれ、なかなか術が通りにくい。

ルドガーとクレイドルを強化する術を選択すればよかったか……?

いや、余計な事は考えるな。心を落ち着かせろ。深呼吸一つ、集中だ……。

──暗黒は常に傍らにあり 暗黒からもたらされる刃はその身を廻る──

黒き刃の旋回(ターンオブダークエッジ)」イアンの詠唱と同時に、ルドガーとクレイドルの周囲に、旋回する手のひら大の黒い刃が張り巡らされた。

武装スケルトンに対してではなく、ルドガーとクレイドルに向けての暗黒術……敵と味方に対してへの効果が違う術。敵に対しては、その身を黒い刃で包み込み裂傷を与え、味方に対しては、刃の防護障壁になる術だ。

イアンは、この術をルドガー達に使用した……よし、上手くいった──「オオオォォアッッ!!」

悲鳴にも似た雄叫びが聞こえた──クレイドルか……?

クレイドルに目をやると、信じられないものが目に入った……全身血塗れで、血飛沫を上げながら、メイスを振るうクレイドルの姿。

何が、どうなって、そんな姿になっている!?

 

対武装スケルトンの経験はあるが、ここの武装スケルトンは、なかなかに手強い。

連携が上手く、一対多に持ち込もうとしてくるため、ルドガーさんと分断しようと仕掛けてくる。決着を早く着けないと、まずいかもな……仕方ない、これ(・・)を使うか……。

首元に手をやり、首にかけられたこれ(・・)に指先で触れる。チクリとした感触。

──“流血と苦痛の茨の外殻(ソーンオブマックスペイン)”──

「血と苦痛茨となれ」

茨が、瞬時に身体中に広がり、体内に食い込み始める。神経を抉られる、相変わらずの苦痛……くっそ!

 

「オオオォォアッッ!!」

バシャッ! クレイドルの鎧の隙間から、血飛沫が散る。

苦痛に対する怒りをぶつける様に、メイスを振るうクレイドル。

バグンッ! メイスで頭骨を砕かれた武装スケルトンが、崩れ落ちる。

クレイドルの異常さを察した武装スケルトン三体が、クレイドルを囲む。 前方と左右に一体ずつ。

少し警戒をしつつ、ジリ、とにじり寄る武装スケルトン──クレイドルはその動きを気にもせず、左側に位置する武装スケルトンに突っかかって行く。

突き出された剣を無造作に盾で払い、武装スケルトンの胴を蹴りつけた。

蹴られた武装スケルトンが、後方に仰向けになり、倒れ込む。止めは刺さない。少しでも数を減らすための行動だからだ。始末は後でも出来る。

 

これで二体一……まだ有利な状況ではない。武装スケルトン二体が、斬り込んで来る。

同時にではない。斬り込んで来る先頭の武装スケルトンより、ほんの少し下がった所で、刺突の構えを取りながら進んで来る、武装スケルトン。

時間差をつけての攻撃のためだ。

クレイドルが先頭の攻撃を避けるなり、受けるなりすれば、後方の武装スケルトンが、即座に剣を突き込んで来るだろう。

左右、後ろ、どちらに避けようが、盾で受けようが、関係無い備え──だが、クレイドルは避ける、受けるの選択肢は取らなかった。

 

クレイドルは前に出た。今にも、斬撃を撃ち込もうとしている武装スケルトンに、身を投げ出す様な勢いで、盾撃(シールドバッシュ)を叩き付けた。弾き飛ばす感触を感じた瞬間には、その後方の武装スケルトンに向かう──武装スケルトンの鋭い剣の突きを腹に受けながらも、クレイドルの勢いは止まらず、メイスを武装スケルトンの頭部に振り下ろす。

グシャリ、とした感触。これで、始末は済んだ。

 

腹への一突きは鎧に阻まれ、大した事は無い。後は、もそもそと蠢く武装スケルトン二体の始末だ──バシャッ、とクレイドルの体から血飛沫が散り、苦痛に顔をしかめる。

(あと……何体だ?)

出血で少し朦朧とする。武装スケルトンを殲滅するまでは、流血と苦痛の茨の外殻(ソーンオブマックスペイン)を解除するつもりは無い──クレイドルは、自分の周囲を旋回する、手のひら大の黒い刃に、気付いていない。

 

 

「……血と苦痛は、去った……」

ルドガーさん達が、最後の武装スケルトンを始末するのを見届けた後、解除。

流血と苦痛の茨の外殻(ソーンオブマックスペイン)の言い訳は……どうするか?

壁に寄りかかり、息を整える……。甲殻ムカデ(メイルセンチピード)の時よりは、使用時間は短かったので、あの時ほど疲労感は無いが……。

 

壁から離れ、「浄化」を使う。解除したら、傷痕はすぐ消えるが、血塗れなままなのが欠点だな。

もう一度、「浄化」……よし、血生臭さは消えた な……ふと気付くと、ルドガーさんとイアンさんが、何とも言えない複雑な表情で近付いて来る。

さて言い訳は、と……正直に言おうか?

「クレイドル、さっきのあれ(・・)なんだが……何かしらの、“呪物”の効果か?」

グランさんが、見習い達に聞こえない様に、小声で尋ねてくる。イアンさんは、ちらりと後ろを見た。

 

「分かりますか……ええ、そうです。ただ、周囲には何ら悪影響は与えません」

首元から、流血と苦痛の茨の外殻を取り出して見せる……二人とも、引いているな……。

茨状の鎖に、鮮血の様な色の七角形?のルビーが繋がっているネックレス……鎖も刺々しく、宝石の色もなあ……「周囲に影響は、ありません」

大事な事なので、二回言っておく。

「ああ、分かった……に、してもだ。血飛沫を上げながら、暴れるとはな」

首を振りながら、呆れた様に云うイアンさん。

「体は大丈夫か? 結構な出血の様に見えたぞ……?」

心配そうに尋ねてくるルドガーさんに答える。

「少し……だるいくらいですが、大丈夫です。初めてではないですから。それと、“呪物”の事は、あまり口外しないで下さい」

分かった、と答えたルドガーさんとイアンさんは、奇妙なものを見る目で俺を見た……何ぞ?

 

 

引き続き、訓練場を進む。ルドガーさんと俺は、斥候として先頭を行く。

その後からは、イアンさんに率いられるA隊。

のっけから武装スケルトンと鉢合わせしたのは、C隊にとっての不運だったとは、ルドガーさんとイアンさんの言い分だった。

確かに。武装スケルトンをA隊が相手取ったならば、死人が出てもおかしくない。

「少なくとも、見習い達に一戦は経験させないとな」

とは、グランさんとイアンさんの共通意見だ。

それはそうだ。訓練のため、潜った意味が無いだろうしな……だが、出現する魔物、魔獣の種類が、見習い達が戦える程度の相手が出現する様に、安定していない気がするんだよな……この不安定な難易度は、覇王の訓練場の独特のものなのだろうか。

 

「そろそろ、二階に降りる階段広場に着く頃だが……生命探知にも、魔力探知にもかからないな……二階に降りるのは、少し危険な気がする」

ルドガーさんが、前方を意識しながら云う。

一階から三階までは、強力な相手は出現しないと聞いてはいるが……武装スケルトン、コボルトリーダー。見習いには荷が重い相手が出現しているからな……待てよ、ちょっと気になってた事があったな。

「ルドガーさん。各部屋への探知はしてないんですか?」

「うん? ああ、通路にのみ集中しているからな。部屋は……そうか、なるほどな」

うんうん、と一人頷くルドガーさん。

「イアン達の所に戻ろう。少し計画変更だ」

くるり、と(きびす)を返すルドガーさん。

速やかに、その後を追う。

 

 

「イアン、少し計画を変えよう。ここまでに、部屋を幾つかスルーしていた。探知は通路にのみ絞っていたが、出入り口に引き返しつつ、探知の範囲を部屋まで広げよう」

「……よし、分かった。最低でも一戦は出来るだろうし、何だったら、今日は見習い達に、実戦の雰囲気を感じさせた事で良し、としよう」

ルドガーさんとイアンさんの話し合いは、すんなりと決まった。

イアンさんが、A隊の下へ向かう。決まった事を伝えるのだろう。

「部屋での一戦か。通路より狭い分、見習い達には多少、気を使う事になりそうだな」

ルドガーさんの言葉に、俺は頷いた。

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