邪神の子 ~赤き瞳のクレイドル~   作:末末

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第136話 覇王の訓練場 見習い達の死線

 

 

 

来た道を戻りながら、覇王の訓練場一階の各部屋を探知する事に決まった。

ダンジョン内の一部屋の大きさは、今までの経験からして大体、小さくて範囲五、六メートル。少し大きくて七、八メートルくらいだったな。

高さは、三メートルはあったか? ダンジョンによって違うのだろうが……覇王の訓練場は、どうか?

 

慎重に進む、ルドガーさんと俺。一つ、部屋を過ぎる。ここ一階にある部屋は、五つ。

一つ過ぎたのであと四つ……ルドガーさんが、二つ目の部屋の前で止まる。

「クレイドル、生命探知に、四体かかった。イアンに伝えてくれ」

頷き、静かにイアンさんとA隊の所に戻る。

 

扉を確かめると、鍵は掛かっていない……蹴破ってからの先制攻撃という事に決まった。

ルドガーさんが蹴り開け、A隊を先頭にイアンさんが指揮官として続く。

俺とルドガーさんは、その補助。それは変わらない……ルドガーさんが静かに扉の側に立つ。

ドアの正面には、A隊。

その背後に立つイアンさんは、ルドガーさんの合図(扉を蹴り破る)を待っている。

俺はイアンさん達の背後、最後尾に付く。俺とルドガーさんが立ち入るのは、いざという時と決まっている……見習い達が、死地に踏み入るまでは静観する事になっていた。死人が出ない様にするだけだが……どうなるかな?

ルドガーさんが、イアンさんを見て頷く……と同時に扉を蹴り破る。

 

蹴破られたドア越しに見えたのは、前屈みに立つ二足歩行のトカゲ、というより恐竜の様に見えた……確か、ラプトルだっけか?

それを一回りほど小さくした魔獣。極彩色の肌。裂けるように開いた口から覗く、短く鋭い牙に、鉤爪の着いた短い腕。筋肉質の脚にも、鋭い蹴爪。太めの尻尾……見習いの手に余る魔獣じゃないか?

 

レッサードレイク(下位亜竜)四! 広がれ! 囲まれるなよ!!」

イアンさんの指示に、A隊が素早く横隊を組む。

あのラプトル、レッサードレイクというのか。体高八十センチ、体長二メートルいかないくらいか……なかなかの迫力だが、見習い達はどう対処する?

 

いきなり扉を蹴り破られたレッサードレイク達の反応はなかなか良かった──全く気配に気付いていなかったらしく、飛び上がるほどに驚いていた。一撃喰らわせるには、充分な時間だ……。

レッサードレイク(下位亜竜)四! 広がれ! 囲まれるなよ!!」

イアンの指示に、素早く反応して横隊を組むA隊。まあまあの動きだ……さて、どう先手を取る?

すぐ横にいるクレイドルに目を向けると、片手に投擲用のハンドアクスを握っている。臨戦態勢は整っているか……何時でも剣を抜ける様に、俺も鯉口を切る。

 

A隊の一人が、身を投げ出す様にレッサードレイクに斬りつけた。首に一撃を喰らったレッサードレイクは甲高い声を上げ、後ろに下がる。

傷は浅い様で、すぐに体勢を整えるのが見えた。

「囲まれるなよ! 一対多で当たれ!」

イアンさんの指示がちゃんと耳に入っているようで、A隊は連携を取れた動きをしている……とはいえ、少し危なっかしい感じだな。

だが……ルドガーさんが動かないならば、俺が出る必要もないという事だ。

レッサードレイクは機敏さに優れているので、それぞれA隊を囲む動きを見せている。

A隊も、囲まれないように互いに距離を取りながら、動き続けている。

 

見習い、レッサードレイクともに、互いを牽制をしながら、攻め手に欠けている動きをしている……もどかしい。

ハンドアクスを握る手に力が入る──イアンさんもルドガーさんも動かないならば、差し出がましい事は出来ない。

この、膠着状態を崩す一手があれば……。

「ううむ」

「クレイドル、手出しはまだ無用だ……気持ちは分かるがな」

もどかしさが、声に出てたらしい。

ルドガーさんが、A隊とレッサードレイクから目を離さず、話しかけてきた。

 

「分かっています。しかし……膠着状態が続けば、不利になるのは……」

「ああ、見習い達だ。先制攻撃が上手くいかなかったのが、よくなかったな……」

ため息混じりに、ルドガーさんが云う。俺もルドガーさんも、A隊とレッサードレイクから目を離さない。

不測の事態は、充分起こりうるからな……だが、一番、落ち着かないのはイアンさんだろう。

 

心を鬼に──レッサードレイクとにらみ合いを続けるA隊の少し後方で、イアンは剣の柄に手をかけ、その様子を見ていた。

膠着状態──どちらかが一手踏み込めば、この膠着状態は崩れる。良くも悪くも、だが……「ふう」

小さなため息。A隊を無事(無傷)に帰還させるのは簡単だ。

連中を下がらせ、自分とルドガー、クレイドルでレッサードレイクを始末すればいい。難しくはない……それでは見習い達に“死線”を潜らせる事は出来ない。

教官てのは簡単じゃあないな。見習い達に死線を潜らせて、生きて還さなければならない。

 

「何、ダラダラしている! たかがトカゲだろうが、始末しろ!!」

剣を抜き、A隊に檄を飛ばす。

A隊が俺を振り返らず、「応!」と力強く答えた──良し、いいぞ……「やれ!」

A隊が喚声を上げ、半ば自棄になった様にレッサードレイクに突きかかっていく──良し。

背後のルドガーとクレイドルを見る。二人が頷いた。すでに臨戦態勢だ。

頼む、との思いを込めて頷き返す。ルドガーは、力強い笑みを浮かべている。

クレイドルの表情はフェイスガードで見えないが、笑みを浮かべているのが、雰囲気で分かった。

 

「大いなる父君は、常にお前らを見ているぞ! トカゲごときに、怯える姿を見せたいのか! 突き倒せ、大いなる父君の名の下に!!」

イアンの号令の下、A隊の突撃にレッサードレイクが慌てふためく。

ギッギイィィッ! と喚き声を上げ、囲みを崩すレッサードレイク。

乱戦──一対多に持ち込んでいるかも分からない状態になった。

 

見習いの一人が、レッサードレイクに押し倒された。レッサードレイクは、鋭い牙を噛み鳴らし、見習いの首に食い付こうとしている。

盾は、レッサードレイクに押し倒された時に手放してしまっていた──手にしているのは、ただ一振りの剣。

首筋を狙い噛み付いてくるレッサードレイクを、剣で防いでいるが──駄目だ。限界が、近い……ギッギイィッ! レッサードレイクが仰け反る──その首に、手斧が突き立っていた。

今だ──仰け反るレッサードレイクの首を、下から薙ぎ払い切り裂く──確かな手応え。

血が振りかかる前に、横に転がる。ドサリ、とレッサードレイクが倒れる音。

盾を拾い上げ、立ち上がる。残り三体のレッサードレイクは、仲間が取り囲みながら攻め立てている……体に異常は感じない。剣を握り締め、盾を拾い、仲間に合流するべく駆ける──手斧を投げてくれたのは、誰だろう?

 

「余計な手出しでしたかね?」

レッサードレイクに押し倒された見習い。あのままだと首を喰い千切られただろう。

他の見習い達は、ようやく囲んだレッサードレイクから、手を離す事が出来ない──そう思った瞬間には、ハンドアクスを投擲していた。

首筋に、見事命中。致命的なダメージではないだろうが、充分な隙を作る事が出来るほどの効果はあったはずだ──見習いは、仰け反るレッサードレイクの首を上手く切り裂く事が出来た。これで、決まりだな。

「いや、あの見習いに代わって礼を言う。あのままだと、殺されてたろうな」

ふう、と息を吐くルドガーさん。教官として、そう簡単に手助けは出来ない苦衷があるんだろう……。

 

レッサードレイクを取り囲んだA隊が勢いづき、一気に攻め立てる。

クレイドルのハンドアクスに助けられた見習いも加わっている──レッサードレイク三体。見習い五人の状況。これで勝てなければ……どうかしている。

「さっさと始末しろ! 押し包んで潰せ!」

イアンの号令の下、A隊が一気にレッサードレイクに攻勢をかける。

喚き声を上げ、抵抗するレッサードレイクに構わず攻め立てるA隊。

多少の引っ掻きなど気にせずに、剣を振るい、盾を打ち付けるA隊。確実に、一体ずつレッサードレイクを仕留めていく──「よし、終わりだな」

ルドガーさんが言い終わるとともに、最後の一体を、先ほど手を貸した見習いが仕留め、戦闘終了となった。

 

 

部屋の片隅に、両腕で一抱えほどの、鉄枠の付いた木箱が出現していた──宝箱だ。

見習いの補佐という今回の依頼では、ダンジョン内での魔物魔獣の素材、魔石は回収しないよう、取り決めがあるので宝箱も無視だ。浅い階層だから、大した物はないだろうしな。

「クレイドル、治癒に手を貸してくれ」

ルドガーさんの声。見習い達は、皆手傷を負っているが、軽傷だ。ぱっと見、骨折だとか重度の打撲は見当たらない。

「直ぐ始めます」

さて。治癒の経験値稼ぎといくか──

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