邪神の子 ~赤き瞳のクレイドル~   作:末末

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第137話 覇王の訓練場 見習い達の運不運

 

 

 

見習い達の治療も終わり。地上に戻る事になった。

何かしらの達成感を得たと感じているのか、A隊の顔は明るい。

イアンさんに先導され、出入り口に向かうA隊。俺とルドガーさんはその殿を務める。追ってくる魔物、魔獣等は居ないが、油断はならないからな。

「ま、今回はこんなとこかな」

ルドガーさんが、A隊を眺めながら云う。

 

覇王の訓練場(グラウンドオブオーバーロード)で感じたのは、出現する魔物や魔獣は、規則性が良く分からないという事だ。

コボルトリーダーに武装スケルトン。そしてレッサードレイク(下位亜竜)……一階から出現するには、かなり手強い相手。帝都騎士団の見習いから死人が出たのも頷ける。

帝都騎士団の見習いの実力は分からないが、今回、暗黒騎士団の見習いは運が良かったのかもしれないな……もしかして、暗黒神(大いなる父君)の加護が働いたのか?

 

 

無事、地上に帰還。昼下がりの陽射しが目に染みた。

深呼吸をして、外気を体に取り入れる。冬の空気が心を引き締め、頭を冴えさせる──地上待機のB隊は、心構えが出来ているだろうか?

グランさんとサイモンさん。そして地上のB隊が見えた。

引き継ぎ後、B隊がダンジョンに潜る事になっている……さて、彼らに運不運がどう働くだろうな?

「クレイドル、体調は大丈夫なのか?」

ルドガーさんが話しかけてきた。妙に心配をかけてしまったか?

流血と苦痛の茨の外殻(ソーンオブマックスペイン)”の事があるからな……これを発動したあの状態(・・・・)は、見た目最悪だっただろうし。

 

「さっきまで怠さはありましたけど、もう平気です」

手のひらを数度握り締める。疲労感は無い。慣れたという事か?

「タフだな……全く。頭が下がるよ」

半ば呆れながら、ルドガーさんが感心したように云う。

イアンさんと引き継ぎが済んだサイモンさんと、グランさんがB隊を連れてやって来る。

さて、今日最後の一働きか。午前午後のダンジョンだが、不思議と疲労は無い。

邪神(父上)の加護か?……違うな。うん。

 

「サイモン、先に降りていてくれ」

グランさんがサイモンさんに云う。おう、と答えたサイモンさんが、B隊を先導して覇王の訓練場に降りて行った。

「クレイドル、ルドガーとイアンから……色々と聞いた。ご苦労だったな。後は──」

「うん? 潜りますよ。疲れはないですから」

流血と苦痛の茨の外殻(ソーンオブマックスペイン)”の事か。色々聞いたってのは……グランさんとサイモンさんにも、あの血塗れ姿を見せる事になるかもな……正直、嫌だが。

「……そう言うと思った。頭が下がるな」

ルドガーさんと同じ事を云うグランさん。その顔には、不適な笑みが浮かんでいる。

「俺は大丈夫です。“碧水の翼”の一員ですからね」

フェイスガードを引き上げ、兜を脱ぐ。少々暑くなっていたからな……冬の外気に顔を晒す──火照った顔に、冬の空気が心地いい。

 

午前午後と、立て続けに覇王の訓練場に潜るクレイドル。その疲労はどれほどのものだろうと思ったが、話を聞く限り大した事は無いように思えた……。流血と苦痛の茨の外殻(ソーンオブマックスペイン)の事は、直に目にしないと何とも言えない──クレイドルはフェイスガードを引き上げ、兜を脱いでいた──その横顔を見てしまう……輝く様な金色の髪が、昼下がりの陽射しに照り映えている。白磁色の肌は、冬の外気で透き通る様な白さを見せていた。

紅い唇は、妖しく濡れている……駄目だ。見惚れている場合では無い。

妖艶──という言葉ですら表現出来ない容姿から、眼を逸らす。

多少慣れているとは言え、眼を逸らすのも一苦労だな。全く……。

 

再びクレイドルを見やると、黒鷲の兜を被り、フェイスガードを降ろしていた。ううむ……もう少し、顔を眺めたかったが……「B隊は、どうなりますかね?」

ガンガン、と黒鷲の兜を叩きながらクレイドルが云った。クレイドルの癖だ。

「ふむ……大いなる父君の采配次第だろうな」

「でしょうね。さて……運不運が、どう転ぶか」

運不運、か……と、グランは小さく呟いた。

 

 

サイモンさんと、B隊はすでに覇王の訓練場に降りている。

これからどうなるかな、だな……まあ、何とかなるだろう。楽天的な気持ちが湧いて来る。

訓練場に降りると、B隊を率いるサイモンさんが、早速斥候を指示してきた。

「グラン、クレイドル、斥候を頼む。通路に、魔物魔獣が出現するには、まだ時間があるだろうから、部屋を中心に索敵してくれ」

サイモンさんの言葉に、グランさんが頷く。そうか。部屋の中を索敵する事に決まっていたのだったな。

さて……どれほどの魔物、魔獣が引っ掛かるだろうか? 見習い達の手に負える程度の魔物、魔獣が出現すればいいが……それは、やはり運不運だな。

 

少し先を行くグランさんが立ち止まり、待ての合図を出した。

探る様な視線を、手前の部屋に向けている……グランさんが、静かに近付いて来た。

「クレイドル、不死族(アンデッド)だ。数四体、恐らく霊体だ」

霊体か……城塞都市の“静寂の祠”で経験したな。あの時は、ラーディスさんから対不死の魔術を施されたんだったな。

ふと、“宵闇(トワイライト)”に眼をやる。ラーディスさんから受けた講義を思い出す……。

 

『霊体には基本、通常の武器は通じにくい。霧を払うように、ひたすら武器を振って散らすしかない。だが、それは効率が悪い。効率が良いのは、何らかの手段で武器に一時的な魔力を付与。もしくは、神聖術か暗黒術の加護を一時的に受ける事だ』

ラーディスさんは、講義でそう云っていたな……。

『まあ、何らかの魔力付与がされた武器を用いれば、充分通じるがな』

 

「サイモン達の所に戻るか」

グランさんの言葉に頷く。霊体に対して、見習い達の攻撃は通じるだろうか?

暗黒神(大いなる父君)の采配が、どう表れるかだな……。

待機中のサイモンさん達。B隊は落ち着いている様に見える。だが、相手が霊体だと知ったならば、どういう反応をするだろうか……?

「サイモン、手前の部屋に魔力反応、霊体四だ」

「……霊体か。見習い達には荷が思いかも知れないが、取り合えず当たらせてみるか」

ニヤリと笑うサイモンさん。グランさんも似たような表情をしている。

悪い大人だな……二人とも。信仰心不足の、見習い達の攻撃が霊体に通じない事を知っているだろうに。

「よし。見習い達に霊体(お化け)を見せてやろうか」

悪い顔でサイモンさんが云った。グランさんも笑っている。悪い大人だよな……二人とも。

クレイドルの顔にも、“悪い笑み”が浮かんでいた──全く……。

 

グランさんが、部屋の扉を蹴り開けたと同時に、サイモンさん率いるB隊が部屋に踏み込んだ。

部屋の中にいたのは、ふわりと漂う半透明の布の様な物──顔の部分には、三つの暗い穴が浮かび上がっている。下級の不死族(アンデッド)

ゴーストだ……死んだ人間の雑念を元にした、低級のアンデッド。物理攻撃が、通じにくい存在。

見習い達が、相手をする事が出来るだろうか?

キイィィィ~アァァァ~! 乱入者達に気付いたゴーストは金切り声を上げた──恐怖(フィアー)だ。

先制攻撃は、失敗した──B隊は、金切り声を直に受け、恐怖でしゃがみこんだ。狂乱状態にならないだけでも、マシか……。

恐怖心に囚われ、身動きの取れないB隊の前に出て、宵闇(トワイライト)を引き抜き様、ゴーストに叩き付ける。

ばしゃっ、と水を叩く音と同時に、霊体が弾け散った。

グランさんとサイモンさんが、手早く残りのゴーストを始末していた──さすが暗黒騎士。

ふむ……見習い達には、霊体はまだ早いという訳か。見習い達は、よろよろと立ち上がるが、まだゴーストの恐怖から抜け出せない様で、顔色が悪い……「よし。お前達並べ」

サイモンさんがB隊を整列させると、その前に立ち、手をかざして浄呪(ディスペル)の祈りを唱える。

 

「グランさん、浄呪はああいう使い方も出来るんですか?」

「ああ、アンデッドから受けた精神的負荷を、取り除く事が出来るんだ。重篤な状態なら神官の出番だが、恐怖程度なら私達暗黒騎士でも対応出来る」

サイモンさんの、浄呪の祈りが終わると同時に、B隊を包み込む様に暗黒の霧がふわりと漂い、やがて消えた。

見習い達の顔色が明らかに良くなり、ほっとしたような表情になっている。

 

「すぐに移動だ。最低でも一度の戦闘をしない限り、地上には戻らないからな」

サイモンさんの言葉に、B隊が返事をする。

「サイモン、引き続き斥候をする。先に出てるぞ。クレイドル、行こう」

すぐに、グランさんの後を追う。気を付けてな。とサイモンさん。

さて、お次はどんな魔物魔獣、不死族(アンデッド)が出る事やら……。

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