見習い達の治療も終わり。地上に戻る事になった。
何かしらの達成感を得たと感じているのか、A隊の顔は明るい。
イアンさんに先導され、出入り口に向かうA隊。俺とルドガーさんはその殿を務める。追ってくる魔物、魔獣等は居ないが、油断はならないからな。
「ま、今回はこんなとこかな」
ルドガーさんが、A隊を眺めながら云う。
コボルトリーダーに武装スケルトン。そして
帝都騎士団の見習いの実力は分からないが、今回、暗黒騎士団の見習いは運が良かったのかもしれないな……もしかして、
無事、地上に帰還。昼下がりの陽射しが目に染みた。
深呼吸をして、外気を体に取り入れる。冬の空気が心を引き締め、頭を冴えさせる──地上待機のB隊は、心構えが出来ているだろうか?
グランさんとサイモンさん。そして地上のB隊が見えた。
引き継ぎ後、B隊がダンジョンに潜る事になっている……さて、彼らに運不運がどう働くだろうな?
「クレイドル、体調は大丈夫なのか?」
ルドガーさんが話しかけてきた。妙に心配をかけてしまったか?
“
「さっきまで怠さはありましたけど、もう平気です」
手のひらを数度握り締める。疲労感は無い。慣れたという事か?
「タフだな……全く。頭が下がるよ」
半ば呆れながら、ルドガーさんが感心したように云う。
イアンさんと引き継ぎが済んだサイモンさんと、グランさんがB隊を連れてやって来る。
さて、今日最後の一働きか。午前午後のダンジョンだが、不思議と疲労は無い。
「サイモン、先に降りていてくれ」
グランさんがサイモンさんに云う。おう、と答えたサイモンさんが、B隊を先導して覇王の訓練場に降りて行った。
「クレイドル、ルドガーとイアンから……色々と聞いた。ご苦労だったな。後は──」
「うん? 潜りますよ。疲れはないですから」
“
「……そう言うと思った。頭が下がるな」
ルドガーさんと同じ事を云うグランさん。その顔には、不適な笑みが浮かんでいる。
「俺は大丈夫です。“碧水の翼”の一員ですからね」
フェイスガードを引き上げ、兜を脱ぐ。少々暑くなっていたからな……冬の外気に顔を晒す──火照った顔に、冬の空気が心地いい。
午前午後と、立て続けに覇王の訓練場に潜るクレイドル。その疲労はどれほどのものだろうと思ったが、話を聞く限り大した事は無いように思えた……。
紅い唇は、妖しく濡れている……駄目だ。見惚れている場合では無い。
妖艶──という言葉ですら表現出来ない容姿から、眼を逸らす。
多少慣れているとは言え、眼を逸らすのも一苦労だな。全く……。
再びクレイドルを見やると、黒鷲の兜を被り、フェイスガードを降ろしていた。ううむ……もう少し、顔を眺めたかったが……「B隊は、どうなりますかね?」
ガンガン、と黒鷲の兜を叩きながらクレイドルが云った。クレイドルの癖だ。
「ふむ……大いなる父君の采配次第だろうな」
「でしょうね。さて……運不運が、どう転ぶか」
運不運、か……と、グランは小さく呟いた。
サイモンさんと、B隊はすでに覇王の訓練場に降りている。
これからどうなるかな、だな……まあ、何とかなるだろう。楽天的な気持ちが湧いて来る。
訓練場に降りると、B隊を率いるサイモンさんが、早速斥候を指示してきた。
「グラン、クレイドル、斥候を頼む。通路に、魔物魔獣が出現するには、まだ時間があるだろうから、部屋を中心に索敵してくれ」
サイモンさんの言葉に、グランさんが頷く。そうか。部屋の中を索敵する事に決まっていたのだったな。
さて……どれほどの魔物、魔獣が引っ掛かるだろうか? 見習い達の手に負える程度の魔物、魔獣が出現すればいいが……それは、やはり運不運だな。
少し先を行くグランさんが立ち止まり、待ての合図を出した。
探る様な視線を、手前の部屋に向けている……グランさんが、静かに近付いて来た。
「クレイドル、
霊体か……城塞都市の“静寂の祠”で経験したな。あの時は、ラーディスさんから対不死の魔術を施されたんだったな。
ふと、“
『霊体には基本、通常の武器は通じにくい。霧を払うように、ひたすら武器を振って散らすしかない。だが、それは効率が悪い。効率が良いのは、何らかの手段で武器に一時的な魔力を付与。もしくは、神聖術か暗黒術の加護を一時的に受ける事だ』
ラーディスさんは、講義でそう云っていたな……。
『まあ、何らかの魔力付与がされた武器を用いれば、充分通じるがな』
「サイモン達の所に戻るか」
グランさんの言葉に頷く。霊体に対して、見習い達の攻撃は通じるだろうか?
待機中のサイモンさん達。B隊は落ち着いている様に見える。だが、相手が霊体だと知ったならば、どういう反応をするだろうか……?
「サイモン、手前の部屋に魔力反応、霊体四だ」
「……霊体か。見習い達には荷が思いかも知れないが、取り合えず当たらせてみるか」
ニヤリと笑うサイモンさん。グランさんも似たような表情をしている。
悪い大人だな……二人とも。信仰心不足の、見習い達の攻撃が霊体に通じない事を知っているだろうに。
「よし。見習い達に
悪い顔でサイモンさんが云った。グランさんも笑っている。悪い大人だよな……二人とも。
クレイドルの顔にも、“悪い笑み”が浮かんでいた──全く……。
グランさんが、部屋の扉を蹴り開けたと同時に、サイモンさん率いるB隊が部屋に踏み込んだ。
部屋の中にいたのは、ふわりと漂う半透明の布の様な物──顔の部分には、三つの暗い穴が浮かび上がっている。下級の
ゴーストだ……死んだ人間の雑念を元にした、低級のアンデッド。物理攻撃が、通じにくい存在。
見習い達が、相手をする事が出来るだろうか?
キイィィィ~アァァァ~! 乱入者達に気付いたゴーストは金切り声を上げた──
先制攻撃は、失敗した──B隊は、金切り声を直に受け、恐怖でしゃがみこんだ。狂乱状態にならないだけでも、マシか……。
恐怖心に囚われ、身動きの取れないB隊の前に出て、
ばしゃっ、と水を叩く音と同時に、霊体が弾け散った。
グランさんとサイモンさんが、手早く残りのゴーストを始末していた──さすが暗黒騎士。
ふむ……見習い達には、霊体はまだ早いという訳か。見習い達は、よろよろと立ち上がるが、まだゴーストの恐怖から抜け出せない様で、顔色が悪い……「よし。お前達並べ」
サイモンさんがB隊を整列させると、その前に立ち、手をかざして
「グランさん、浄呪はああいう使い方も出来るんですか?」
「ああ、アンデッドから受けた精神的負荷を、取り除く事が出来るんだ。重篤な状態なら神官の出番だが、恐怖程度なら私達暗黒騎士でも対応出来る」
サイモンさんの、浄呪の祈りが終わると同時に、B隊を包み込む様に暗黒の霧がふわりと漂い、やがて消えた。
見習い達の顔色が明らかに良くなり、ほっとしたような表情になっている。
「すぐに移動だ。最低でも一度の戦闘をしない限り、地上には戻らないからな」
サイモンさんの言葉に、B隊が返事をする。
「サイモン、引き続き斥候をする。先に出てるぞ。クレイドル、行こう」
すぐに、グランさんの後を追う。気を付けてな。とサイモンさん。
さて、お次はどんな魔物魔獣、