(゚∈゚ ) くるるる
俺とグランさんは、再びの斥候を努めている。視界は充分。通路全体を仄かな灯りが照らしている。不思議な仕組みだよな……だが、場所によっては完全な闇に閉ざされる所もあるらしい。
いわゆる、“
今の所、そういう場所にお目にかかった事は無いが、いずれ経験する事になるだろう……。
「よし……生命探知にかかった。数二」
通路右側の一室に視線を向けるグランさん。
「サイモンさんに報告してきます」
頼む、とグランさん。俺も生命、魔力探知が出来るようになっておいた方がいいかな……。
後方で待機する、サイモンさんに報告をする……生命探知にかかったという事は
「分かった。前と同じ様に強襲だな」
早速、B隊を引き連れてグランさんに合流するサイモンさん達。
扉の前で待機しているグランさんに、合図と同時に、扉を蹴り開けるようハンドサインを送るサイモンさん。
ハンドサインか……騎士団は、やはり軍隊だと思わせる仕草だな──扉を蹴り開けると同時に、突入と決まり、サイモンさんがB隊に説明し、扉近くに待機させた。見習い達の顔に、明らかな緊張感が浮かんでいる──サイモンさんが、グランさんに合図を送った。
ガアァン、とグランさんが扉を蹴り開ける。一瞬戸惑うB隊──「突入しろ、グズグズするな!」
サイモンさんの叱咤に、B隊が部屋に飛び込んだ。
部屋に居たのは、
部屋に突入したB隊は、初見のレッサードレイク目掛け、がむしゃらに突き進んで行く。
サイモンさんは、何の指示もしない。
レッサードレイクに対しては、囲まれない様にするのがセオリーらしいが、その指示もしなかった。
サイモンさんは、ただ黙ってB隊を見ている──B隊は、ひたすらに武器を振ってレッサードレイクに抵抗している。泥仕合──そういう流れになっていた。五対二で、この有り様だ……サイモンさんが口出ししない理由が、何となく分かった気がする。
「囲んで始末しろ!」
サイモンさんが、B隊に指示を出す。ぎこちないながらもレッサードレイクを囲むB隊。
その動きを見たレッサードレイク二体は、背中合わせになった……そういう知恵は回るんだな。さすが群れで行動する魔獣だ。何となく、腰の後ろからハンドアクスを取り出す。
五対二。戦力として倍以上……ではあるが、強襲は失敗。レッサードレイクを間近で見た見習い達は、腰が引けてしまっていた。サイモンの表情は、苦虫を噛み潰した様になっていた。
サイモンの指示にも、鈍い動きを見せていた……ふう、と胸の内でため息を吐いてしまう。
レッサードレイクが、背中合わせに動き始めた。自分達が、囲まれようとしていると理解しての動きだ。
(簡単にはいかないだろうな……)
だが、極力手だしはしない。何せ五対二。倍以上の戦力だ。自分達でどうにかしないとな……。
ふと、クレイドルを見ると、ハンドアクスを手にしていた。
見習い達の、負傷の手当てを手伝う。見習い達は、
レッサードレイクに噛みつかれ、ボロボロになっている籠手を、ゆっくりと引き抜く。
う……と小さく呻く見習い。ズタズタになっている肌着の袖を引き裂いて、改めて傷口を見る。
レッサードレイクの噛み跡がくっきり残っているが、それほど深くなく、出血はもう止まっている。
ふむ……見習いの腕を少し押さえる。
くぅ……と見習いが呻いた。打撲と裂傷。折れてはいないだろうが、ヒビは入っているみたいだな……よし。
「少し痛むだろうが、耐えてくれ」
意識を集中する──暖かな感触が、手のひらを包む。よし、この暖かさが治癒の根本だ。見習いの腕に手をかざす。
はぁ、と見習いがため息を吐く。多少の痛みは再生の証しだ……よし。打撲と裂傷、ヒビは治癒出来た。時間にして、十秒ちょっとか。
「よし、済んだ。痛みは少し残るかもしれないが、直に治まるだろう」
フェイスガードを引き上げ、治癒跡をきちんと確認する……打撲、裂傷跡も綺麗に消えている。我ながら、良く出来たな。うん……いい経験を積めた。
「あ、あの……あ、ありがとうございまし、た」
ぎこちなく礼を云う見習いの顔を見る。年の頃は一五、六歳くらいか?
顔立ちに、まだ幼さが残っている年頃の少年だ。若いな……何故か顔が赤い。まあ、いい。
治癒は終えた。まだ進むか、それとも撤収するか……俺はどちらでも構わないのだが。フェイスガードを引き下げる。
「グランさん、こっちは済みました。これからどうします?」
クレイドルは、負傷者の治癒をする時は顔を見せないほうがいい。というグランの言葉を、さっぱりと忘れていた……。
B隊が一戦した事で、ノルマ達成を果たしたと、サイモンさん達が判断した。
「よし……今日はこんな所だな。隊をまとめて、帰還しよう」
サイモンさんが、小休止中の見習い達を見回しながら云った。
覇王の訓練場に入ったのが昼下がりだから、もう夕方前にはなっているか? 少し、腹が減ったな……。
「休憩は終わりだ。皆、立て。地上に戻るぞ!」
パンパン、と手を叩きながらサイモンさんがB隊を立たせる。
B隊は、無事に帰還。成果は
まあ、こんな所か……あと二日もある。今日はゆっくりと見習い達を休ませてやろう。
「サイモン。見習い達を連れて、先に出てくれ。私とクレイドルが殿をする」
「よし、頼む……お前ら聞いてたな。そろそろ夕飯の時間だ。戻るぞ」
B隊を先導する。さて、戻ったらルドガー達と明日の計画を考えるかな……背後はグランとクレイドルに任せれば安心だ。
日暮れまではもう少しあるみたいだ。まだ昼下がりの気配が残っている。夕食まで、時間はあるだろうな。
「皆、無事か?」
地上に帰還すると、ルドガーさんとイアンさんが出迎えてくれた。
「ああ、無事だ。見習い連中はいい経験しただろう」
苦笑混じりに、サイモンさんが答える。グランさんは微笑みを浮かべている。
「よし、お前らは兵舎に戻って風呂でも入れ。その頃には、夕飯の時間だ」
サイモンさんの指示に、B隊は兵舎に戻って行く。足取りは重くない。
何かしらの達成感を得たのだろう……俺が治癒を受け持った見習いが、チラチラと視線を送ってきていたが、何ぞ?
「俺達も戻るか」
ふう、と肩の力を抜いた様に云うサイモンさん。
見習い達を指揮するのも、それなりの気苦労があるんだろうな。コキコキと首を鳴らす。
「ご苦労だったな……夕食後にでも、今日の見習い達の事を話そう。それを参考に、明日の計画を立てよう。待機中のC隊とD隊をどう動かすか、話し合った方がいいな」
イアンさんが云い、サイモンさんが頷く。
「そうしよう。私にも異論は無い」
グランさんが云った。ルドガーさんも頷く。暗黒騎士同士の話し合いが始まっている。
兜を脱ぎ、冬の気配を肌で感じる──雪が降りそうだな……。
初日は終了。明日は待機中の十名の実戦訓練か。今日の様な感じになるか、それとも……。
「クレイドル、兵舎に戻ろうか。夕食まで、のんびりしていよう」
グランさんの声に振り返る。
煙管も吸いたいしな……露店で、軽食というのも良いかもしれない。まずは、着替えだな。
「はい、戻ってお茶でも飲みましょう」
グランさんと共に、兵舎に足を運ぶ。
ほう、と息を吐く──白い吐息が空に溶けていった。もう、本格的に冬入りかな……。
「ダーンシルヴァス程では無いが、寒くなってきたな」
グランさんの息も白くなっていた。ダーンシルヴァスか、通称暗黒都市だっけか。大陸の北西に位置する、帝国領と並ぶ程の大国と習ったな。
「ダーンシルヴァスにも、行ってみたいですね」
「レンディアとシェーミィが戻ってきたら、行ってみるか。帝都とはまた違った趣があるぞ」
グランさんが、何か懐かしそうに云った。