邪神の子 ~赤き瞳のクレイドル~   作:末末

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集団戦の描写、ごちゃっとして面倒ですな。

(゚∈゚ )クルッポー。ポーポーポポー。


第139話 覇王の訓練場 二日目 汝らに覚悟有りや?

 

 

 

夕食の時間。食堂に集まっているのは、見習い達に教官達。サイモンとイアンは、見習い達と共にのテーブルに着いている。

補佐役のグラン、ルドガー。そして雇われの冒険者たるクレイドルは、別テーブル。あえて見習い達との距離を取るためだ。

適度な距離感を保つ事で、自分達に頼らない様に親交から遠ざかる事が理由だ。

 

「おい、どうした」──あの顔……何て表現したらいいだろうな──「お~い。スラン?」──美貌だとか……ああ、いや。そんなものじゃないな──「ねえ、調子悪いの?」──あの金髪に肌の色と……唇。 あれ(・・)を直視──「おい、スラン!」

うん? 仲間の声に、我に帰る。

「あ、ああ。大丈夫だ」

温くなったシチューに、スプーンを潜らせる。今日のシチューはジャガイモとニンジンに、鶏肉のシチュー。

温くなっても、食堂の食事は美味い──でもそんな事は、どうでもよくなっている……俺を治癒してくれた、冒険者のクレイドル、さんだっけか。

輝く様な金髪に、吸い込まれる様な漆黒の瞳……そして、紅く濡れた様な唇に白い歯……俺は、それらを決して忘れないだろう。

「おい、ぼんやりするなよ。しゃっきりしろよ」

背を叩かれた。ふう、と息を吐き頭を振り、何とか現実に戻った──仲間達の喧騒が耳に通り、その輪に加わる。

明日はどうなるだろうかと、スランは思った──

 

 

「サイモン達と話したんだが、明日からは、午前午後でA~D隊の実戦訓練と決まった」

ルドガーさんが云う。一日毎で交替という事ではなくなったのか。

「ふむ。その方が効率的かな」

納得した様に、グランさんが頷く。空いた日は自主訓練という事だったが、連日の実戦訓練になるという訳か……見習い達は大変だな。

「クレイドル、疲労は無いのか? 明日は休んでも構わないぞ?」

グランさんに聞かれた。ルドガーさんが頷いている。疲れか……。

「いや、大丈夫です。明日も、今日と同じ様に補佐します」

タフだな、と二人が苦笑した。

 

夕食も終わり、後は自由時間となった。サイモンさんは見習い達に、飲酒と許可無く帝都に戻る事は禁止、就寝時間を守るようにとだけ告げ、見習い達を解散させた。

「さて、ここからは大人の時間だ」

イアンさんが俺達を見て云った。ルドガーさんが続けて云う。

「飲みに行こう。ここの酒場は、いい蜂蜜酒(ミード)を出す」

「よし、行こうか」

グランさん達が立ち上がる。一日の締めくくりは酒だな。いい摘まみもあるといいな。

 

 

「黒ワインを二つと蜂蜜酒三つ。それと、山菜の煮込みとソーセージ盛り合わせを頼む」

サイモンさんの追加注文に、明るく答える店員。店はなかなかの活気だ。やはり、冒険者っぽい人は見当たらない──客は衛兵が中心だ。

グラスに残った蜂蜜酒を飲み干し、チーズに手を伸ばす。

帝都が近いから、ある程度の魚介類も扱っているみたいだな……改めてメニューに目を通す。

魚、貝、イカ……ああ、マリネあるじゃないか。

「すいませーん。白身魚とイカのマリネお願いしまーす」

はーい、と店員さんの明るい返事。

「本当にマリネ好きだな」

苦笑するグランさん。まあ、仕方ない。前世が前世だからな。日本人は、魚だ。あ、ワサビ多めと注文するのを忘れた。

「生魚、なあ……まあ店に出る以上、鮮度は確かだろうがな」

黒ワインを口に運ぶルドガーさん。生魚は少し苦手っぽいな。

「煮物と揚げ物は好きなんだがな。生魚は少し苦手だ」

黒ワインを干す、サイモンさん。煮魚もいいですよね。

 

「山菜の煮込みと、ソーセージ盛り合わせ、お待たせしました。お酒も直ぐに来ますよ~」

猫族の女性店員さんが、料理を運んで来た。山菜煮込みとソーセージ盛り。

いいな。酒のあてに文句無い摘まみだ。

「お酒、お待ちどうさまで~す」

黒ワインと蜂蜜酒が運ばれて来た。蜂蜜酒、なかなかいいんだよな……山菜煮込みもいい薫りだ。

山菜煮込みに箸を伸ばし、自分の取り皿に取り分ける。

「相変わらず、器用に使うものだな」

俺の箸使いを見たグランさんが、感心したように云う。

味が染みている山菜美味いな。シャキシャキ感と、しっとり具合のバランスがいい。白菜の歯触りに似た山菜。うん、美味い。

 

「あと二日の実戦訓練で、見習い達に死線を潜らせたい──となれば、死人が出る可能性は、ある……」

サイモンさんが云い、グランさん達を見る。ふむ、とグランさんが頷く。

「多少の無理をさせる……程度でいいだろう」

ルドガーさんが云う。イアンさんが、そうだなと答えた。

死線を潜らせる──か。死地を乗り越える事で心身を鍛える……そういう事だな。これ、何と云ったっけか?

ええと……“修羅場に踏み込む腹積もりが出来たなら、その死地に踏み込むべし。生きるも死ぬも、そのあと。何ら問題は無し。腹据えて進むべし”だったか……なかなかにヘビィな教えだな。

これ、何だっけか? 前世で、好きな作家の本の内容だったな……。

「死地を前にして、覚悟を決め、ただ腹据えて踏む込むべし……と云う言葉がありますよ」

蜂蜜酒を手に取り、チビリと飲む。

「死地を前にして、ただ踏み込む……腹据えて進め、か」

サイモンさんが、グラスに口を付ける。

 

 

早朝に目が覚めた。カーテンの隙間から見える外は、今だ暗い。

陽が登る前に目が覚めたのは、習性だ……魔力制御の時間。兵舎で宛がわれのは、四人部屋。

起きているのは、俺一人。グランさん達は毛布を頭まで被って寝ている──安らかな寝息が、微かに聞こえる。

三名を起こさない様に、タオルと煙草盆を持って静かに部屋から出て、兵舎の裏庭に向かう。

 

裏庭には、ベンチが幾つか。花壇もある。冬の花がゆらゆらと揺れている。

ベンチに浅く腰掛け、魔力を意識しながら、深呼吸一つ、二つ──鳩尾から魔力が身体に拡がっていく。

頭、指先、爪先までに魔力が拡がっていく感覚──今日は良い感じだな……冬の空気をゆっくりと吸い、静かに吐く……。

 

 

朝食の時間。ソーセージにスクランブルエッグ。玉葱のスープとパン。

いつもの酢漬け野菜。うん、何一つ文句無い朝食だ。

「一日で、見習い達の実戦訓練を済ませる訳だから、一部隊の訓練は一時間ずつ、四時間と見て……夕方前くらいには、終了になるか」

別テーブルで見習い達と食事をしている、サイモンさんとイアンさんを見ながら、ルドガーさんが云った。

「そうだな。だが、何があるか分からない。予定通りにいかないと思った方がいいぞ」

グランさんがお茶を啜る。一時間ずつか……妥当な時間かな。

 

 

「二日目だが、予定を少しばかり変更する」

見習い達に、サイモンさんとイアンさんが予定を告げている。

一日事に、覇王の訓練場に交替で潜る予定を、午前と午後に分けて、A~D隊の訓練を行うと説明していた。

つまり、一日の内で見習い達全員の実戦訓練という訳だ。

「見習い達の負担は、まあちと増えるかな?」

「そうだろうな。多少の無理はさせてもいいと、私は思っている」

グランさんはルドガーさんに答えると、俺をちらり、と見た。

「そのために、私達がいるんだ。だろ?」

「はい。今日からは、見習い達の救援はギリギリまで待ちます」

俺の答えに、グランさんがニヤリと、笑う。

 

 

覇王の訓練場前。A隊にB隊が並んでいる。

「よし、A隊準備いいな? ルドガー、クレイドル、斥候を頼む」

サイモンさんの指示。俺とルドガーさんは頷き、先行して覇王の訓練場に移動する。

覇王の訓練場に入る前、暗黒神(大いなる父君)へ加護は頼まないのですか? との質問に、サイモンさんはきっぱりと、「この二日間は、よほどの事が無い限り、大いなる父君へ甘えるつもりは無い」との事だった。

「気を付けてな」

サイモンさんの声を背に、俺とルドガーさんは、覇王の訓練場に潜る。

 

覇王の訓練場は、単純な建造となっている。L字型の造りで、基本は直線。曲がり角は左右どちらか。丁字路や十字路は少ないという──俺とルドガーさんは慎重に、仄かな灯りの中を進む。

先頭を行くルドガーさんが立ち止まり、前方を指差す。

「何かを探知しましたか?」

ルドガーさんに近付き、尋ねる。頷くルドガーさん。

「ああ、数五体。恐らくは、コボルトかオークだろうな」

「サイモンさんに、報告します」

頼む、との言葉を背にサイモンさん達の下へ向かう。どちらにせよ、見習い達にはうってつけの相手であればいいが……。

 

サイモンさんに指揮された見習い達──A隊が横列を組み……目の前のオーク五体を待ち受ける構えを取り、ジリジリと進む。

オークは隊列も何も無い。ただ五体で群れているだけだ──指揮官が居ないと、こんなものか。

グワッグワと、錆び付いた武器を構えながら、A隊を威圧しているオーク達。

見るからに、腰が引けている。オーガの一体でもいれば、こうはなっていないだろうにな……。

「突き進め! 豚面を殲滅しろ!!」

サイモンさんの激に、A隊がオーク達に突撃していく。

 

A隊は、オーク達を苦もなく殲滅。幸先は悪くない。オーク数体なら、どうという事も無いと、A隊は証明して見せた。

休憩を取らずに、そのまま進む事になった。

俺とルドガーさんは、再び斥候の任務につく。

「部屋の探知は、後回しですか」

「ああ、B隊に残しておこう」

通路での、魔物魔獣の遭遇率(エンカウント)はそれほど高くないが、会うときは会う。

「引き続き斥候を続けよう。クレイドル、行こうか」

ルドガーさんに頷き、その背を追う。

何となく、こんなものか? と思う。暗黒神(大いなる父君)は優しくも、厳しいと聞いている。今だ信仰心、未熟な見習い達に対しての度量はいかほどのものか──〈我が加護を得られるかは、覚悟次第であろうな。我に対しての信仰心は、死地に踏み込む覚悟あってこそよ〉──うん!? 今の声……暗黒神か!

ルドガーさんとサイモンさんが、立ち止まる。やはり、今の声聞こえたか……覚悟、か。ルドガーさんが呟いた。

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