ジャックさん達、“
「冒険者証の更新は済んだろ?」
エールのジョッキに口を付けるジャックさん。
「はい、おかげさまで」
「頭下げる必要はないよ。それだけの実力が身に付いていたって事だ」
何か嬉しそうに云い、オウルリバーを口にするランドさん。フルースさんが、店員を呼ぶ。
「俺達は、実家に顔を見せて明日にでも拠点に戻るが、お前達はどうする?」
厚切りのベーコンを、口の中に放り込む様に食べるジャックさん……豪快ね。
「一旦、城塞都市に戻るか、他の領地に行くか、少し話しましたけど」
私は果実酒を干す。次は炭酸割り頼もうかな。
「リーネが云ったように、一度城塞都市に戻って、それから帝都に向かう事も考えています」
ジョシュがエールをグビリと干し、厚切りベーコンにフォークを伸ばす。
「帝都かあ。かなり華やかな場所だと聞いていますけど、どうなんですか?」
「そうですね……華やかで整備されていて、かなり広い所です。驚きますよ」
シェリナの質問にフルースさんが答え、皿に残った厚切りベーコンを食べ終えると、料理と飲み物の追加を店員に注文する。
私とシェリナは果実酒炭酸割りを、ジョシュはエールのお代わりを頼んだ。
「全て観光するのに、一週間以上はかかると言っても、大袈裟じゃないからな」
ジャックさんは、ジョッキを一気に呷り、飲み干す。
「揚げじゃがと、鶏と茸の炒めもの、お待ちどうさま~。飲み物は直ぐにお持ちしますね~」
追加の料理を店員が運んで来た。香辛料と塩で下味が付けられた揚げじゃがも、良い香りを上げている。鶏と茸の炒めものも美味しそうだ。
「ジャックさん達、“
「ああ、俺達の拠点は帝都だ。前にも云ったかもしれないが、ここミストウッズは、俺達の地元でな、休暇で戻って来てたんだよ」
ジョシュの質問に、ジャックさんが答える。
「飲み物、お待ちどうさまでした~」
運ばれて来た飲み物を、フルースさんが各々に配ってくれた。
「パーティーメンバーに、帝都が地元の奴がいてな、そろそろ合流するつもりだ。今頃、暇を持て余しているだろうな……」
ジャックさんがエールをがぶり、と飲み干す。
「そうですね。そろそろ彼女と合流しますか」
フルースさんが、黒ワインを上品な仕草で口に運ぶ。
四人目のメンバーがいたんだ。果実酒炭酸割りを口に運ぶ。炭酸の刺激が、喉を震わせる……うん、美味しい。飲みすぎないように気を付けないとね。
「あいつの事だ、だれか気の合いそうな奴を見付けて、一時的に組んだりしてるかもな」
揚げじゃがを口に運び、エールを飲むランドさん。
何とも美味しそうな顔を見せる。揚げじゃが、炭酸に合いますよね。
「その人、どういう人何ですか?」
エール片手に、フォークで揚げじゃがを取るジョシュ。
「ドワーフだ。物理的な戦闘力なら、俺達よりも上だ。だが、一番に彼女が頼りになるのは、ドワーフ特有の指先の器用さだな」
「ダンジョン内の、宝箱や罠。鍵の解除はあいつ頼みなんだよ」
ランドさんとジャックさんの話。ドワーフか……城塞都市で、何人か見かけたわね。
スティールハンドという鍛冶屋の店主さんとその奥さんからは、正式に冒険者証を登録してもらった時に、私達はお祝いしてもらったっけ……。
「俺達は、明日にでも城塞都市を経由して、帝都に向かうつもりだ。お前達も一緒にどうだ?」
ジャックさんが、そう声をかけてきた。
早朝。私とシェリナは、洗面所に向かった。途中でジョシュとすれ違う。
「おはよう。俺はシャワーを浴びてくるよ」
「朝食後は、ジャックさん達と合流だから、長湯しないでよ」
シェリナの言葉に、分かってるよと答えるジョシュ。
城塞都市を経由して、帝都に向かうというジャックさん達と同行する事に決まった。
私達は、一旦城塞都市に戻り、それから帝都に行くかどうかを、改めて話し合う事に決まった。
この宿、“竜鱗の欠片亭”とお別れね。後で挨拶をしないと……良い宿だったなあ。
朝食を終えて、竜鱗の欠片亭の女将さんに、別れの挨拶をする──「機会があれば、何時でも寄ってね」
明るく別れる……そうね、またいつか。
「城塞都市に出向く方、そろそろ出発しま~す。お急ぎ下さ~い」
御者の声が、馬車乗り場に響く。
「よう。待たせたか?」
ジャックさんの声。その後ろには、ランドさんとフルースさん。
「いいえ。今集まった所です」
六人乗りの馬車を、ジャックさん達は予約してくれた。
充分な余裕の広さを持った馬車での移動は、心地好いものになるだろうな……。
早速乗り込んだ馬車の床から、暖かい空気がふわりと、浮かんで来た様な気がした。
「暖かいですね……どうなっているんです?」
ジョシュが、誰に聞くともなく云った。
「ああ、床をよく見てください」
フルースさんが、微笑みを浮かべる。
云われた通り床を見ると、仄かな光を浮かべる円形の、図面の様なものが貼り付けられている。
「魔法陣、ですよね?」
シェリナが、ボソリと呟く。へー、これが。魔法陣……細かい文字や紋様が、刻まれているわね。
「ええ、“魔導卿”の開発した冷温陣です。とても便利な代物ですよ」
フルースさんが云った事に、シェリナが反応する。
「“魔導卿”って……上級冒険者のラーディス・グレイオウルですよね!?」
普段の大人しい雰囲気が一変し、はしゃいだ声を上げるシェリナ。
「ずいぶん食い付くな……まあ、仕方ねえか。“魔導卿”といやあ、魔術師の憧れみたいなものだからな」
くっくっくっ、とジャックさんが笑う。
「二十代で魔導士試験に合格するなんて、後にも先にも無いって言われるほどの、天才……いえ、異才と言われているのですよ、“魔導卿”は──」
興奮しながら、その“魔導卿”の数々の逸話を話続けるシェリナ──あ、これ、止まらないわね。
ジャックさん達は、苦笑を浮かべ、肩を竦めるだけ。話したいだけ話させておこう──そんな雰囲気だ。
「“魔導卿”の凄い所はね──」
魔導卿の逸話を、さらに話し続けるシェリナ。それ、本当?としか思えない様な逸話を、馬車が休憩のため止まるまで、シェリナは興奮した面持ちで語り続けた。
「おお、城塞都市が見えてきたぞ」
ジャックさんが窓を開け、身を乗り出す。久し振りの城塞都市だ。
会いたい人や、また行きたいお店が思い浮かぶ。
城塞都市での思い出に浸っている内に、馬車乗り場に到着した。
馬車から各々荷物を下ろす。私達の荷物は、それほど多く無い。食器に着替え。携帯食にポーション類に雑貨くらい。野営用品、買っておかないとね。
城塞都市の広く大きな鉄城門も久し振りだ。城門前で、他の冒険者や旅人、行商人に交じってジャックさん達と共に列に並ぶ。
「ジョシュ、お前らは城塞都市に留まるのか?」
「あ、はい。挨拶したい人達がいるので、二、三日は城塞都市で過ごします。ジャックさん達は?」
昇格の報告も兼ねて、久し振りにジャンベールさん達に会いたいんだよな。
「俺達はここで一泊して、明日にでも、帝都に向かう予定だ。帝都で待機している仲間と合流してやらないとな」
そういえば、帝都の仲間の話をしていたな。
「ジョシュ、お前達“
ランドさんが尋ねてきた……そういえば、決めてないな……。
「一応、初級訓練で基本は教えてもらったんですが、誰とは決めていませんね……」
ふむ、とランドさん。試す機会があれば、やってみたいんだが、俺達三人の中で、シェリナが向いている気がするんだよな。
「そういうのが得意な奴を、仲間に迎えるのも手だぞ」
ジャックさんが云う。なるほどな……そういう事も考えた方が、いいのか。
「種族的に言えば……前にも言ったドワーフ。猫族に狐族、あとは……ハーフランナー、か」
「ジャック、ハーフランナーは……まあいい」
うん? 何か二人とも口ごもっているけど、何だ?
「まあとにかく、器用な奴を加えるって選択肢をリーネ達と話し合ってみな」
そうジャックさんが、話を締めくくった。ハーフランナーて何だ?
城塞都市の冒険者ギルドに到着。あー何か、落ち着くな。冒険者の基本を学んだ、思い出深い場所って感じ。
「よう、
ダルガンさんと、ジャックさん達のやり取り。この強面も久し振りだね。
「うん? リーネ達も一緒か。おめえらも元気そうで何よりだ」
「お久し振りです、ダルガンさん」
リーネが頭を下げた。私達も釣られて頭を下げる。
ジャックさん達に続いて、私達も移動報告をする。森林街ミストウッズから、城塞都市グランドヒルへ、と……。
「おう、リーネ達もパーティー名決めたか……
嬉しそうに笑うダルガンさん。
「ありがとうございます。しばらく留まって、帝都に向かうつもりです」
ダルガンさんとジャックさん達と少し雑談。
ジャックさん達は宿を取るため、ギルドから出ていった。そうだ、私達も宿を取らないと。
「ダルガンさん、中宿のお薦めありますか?」
「中宿か……そうだな、オーガの拳亭がここから近いな。食事もなかなかいい。お薦めだ」
オーガの拳亭、か。何度か見かけたわね。ジョシュとシェリナを見ると、二人が頷いた。
「分かりました。今から行ってきます」
おう、またな、とダルガンさん。
「昼食には、少し早いけどどうする?」
「オーガの拳亭で食べようよ。食事もいいみたいだし」
ジョシュとシェリナが云う。そうね、まず宿を取ってから考えようか。
巨大な握り拳が描かれた、看板の宿──オーガの拳亭に着いた。
「さ、入りましょう」
リーネを先頭に、“
野太い歓迎の挨拶共に出迎えてくれたのは、肩出し、スリットの入った派手なドレスを纏った──薄化粧の、“巨漢”。
後に、ジョシュに「雌のオーガだと思った」と言わせた。
宿の女将──マダム・ミランダだった。