邪神の子 ~赤き瞳のクレイドル~   作:末末

159 / 245
幕間 待雪草(スノードロップス)のこれから

 

 

 

ジャックさん達、“霧雨の風(ミスト・ウィンドウ)”と“竜鱗の欠片亭”で夕食。相変わらず、ここの鶏と山菜煮込みは美味しい。

「冒険者証の更新は済んだろ?」

エールのジョッキに口を付けるジャックさん。

「はい、おかげさまで」

「頭下げる必要はないよ。それだけの実力が身に付いていたって事だ」

何か嬉しそうに云い、オウルリバーを口にするランドさん。フルースさんが、店員を呼ぶ。

 

「俺達は、実家に顔を見せて明日にでも拠点に戻るが、お前達はどうする?」

厚切りのベーコンを、口の中に放り込む様に食べるジャックさん……豪快ね。

「一旦、城塞都市に戻るか、他の領地に行くか、少し話しましたけど」

私は果実酒を干す。次は炭酸割り頼もうかな。

「リーネが云ったように、一度城塞都市に戻って、それから帝都に向かう事も考えています」

ジョシュがエールをグビリと干し、厚切りベーコンにフォークを伸ばす。

 

「帝都かあ。かなり華やかな場所だと聞いていますけど、どうなんですか?」

「そうですね……華やかで整備されていて、かなり広い所です。驚きますよ」

シェリナの質問にフルースさんが答え、皿に残った厚切りベーコンを食べ終えると、料理と飲み物の追加を店員に注文する。

私とシェリナは果実酒炭酸割りを、ジョシュはエールのお代わりを頼んだ。

「全て観光するのに、一週間以上はかかると言っても、大袈裟じゃないからな」

ジャックさんは、ジョッキを一気に呷り、飲み干す。

 

「揚げじゃがと、鶏と茸の炒めもの、お待ちどうさま~。飲み物は直ぐにお持ちしますね~」

追加の料理を店員が運んで来た。香辛料と塩で下味が付けられた揚げじゃがも、良い香りを上げている。鶏と茸の炒めものも美味しそうだ。

「ジャックさん達、“霧雨の風(ミスト・ウィンドウ)”の拠点はどこなんですか?」

「ああ、俺達の拠点は帝都だ。前にも云ったかもしれないが、ここミストウッズは、俺達の地元でな、休暇で戻って来てたんだよ」

ジョシュの質問に、ジャックさんが答える。

「飲み物、お待ちどうさまでした~」

運ばれて来た飲み物を、フルースさんが各々に配ってくれた。

 

「パーティーメンバーに、帝都が地元の奴がいてな、そろそろ合流するつもりだ。今頃、暇を持て余しているだろうな……」

ジャックさんがエールをがぶり、と飲み干す。

「そうですね。そろそろ彼女と合流しますか」

フルースさんが、黒ワインを上品な仕草で口に運ぶ。

四人目のメンバーがいたんだ。果実酒炭酸割りを口に運ぶ。炭酸の刺激が、喉を震わせる……うん、美味しい。飲みすぎないように気を付けないとね。

「あいつの事だ、だれか気の合いそうな奴を見付けて、一時的に組んだりしてるかもな」

揚げじゃがを口に運び、エールを飲むランドさん。

何とも美味しそうな顔を見せる。揚げじゃが、炭酸に合いますよね。

 

「その人、どういう人何ですか?」

エール片手に、フォークで揚げじゃがを取るジョシュ。

「ドワーフだ。物理的な戦闘力なら、俺達よりも上だ。だが、一番に彼女が頼りになるのは、ドワーフ特有の指先の器用さだな」

「ダンジョン内の、宝箱や罠。鍵の解除はあいつ頼みなんだよ」

ランドさんとジャックさんの話。ドワーフか……城塞都市で、何人か見かけたわね。

スティールハンドという鍛冶屋の店主さんとその奥さんからは、正式に冒険者証を登録してもらった時に、私達はお祝いしてもらったっけ……。

「俺達は、明日にでも城塞都市を経由して、帝都に向かうつもりだ。お前達も一緒にどうだ?」

ジャックさんが、そう声をかけてきた。

 

 

早朝。私とシェリナは、洗面所に向かった。途中でジョシュとすれ違う。

「おはよう。俺はシャワーを浴びてくるよ」

「朝食後は、ジャックさん達と合流だから、長湯しないでよ」

シェリナの言葉に、分かってるよと答えるジョシュ。

城塞都市を経由して、帝都に向かうというジャックさん達と同行する事に決まった。

私達は、一旦城塞都市に戻り、それから帝都に行くかどうかを、改めて話し合う事に決まった。

この宿、“竜鱗の欠片亭”とお別れね。後で挨拶をしないと……良い宿だったなあ。

 

朝食を終えて、竜鱗の欠片亭の女将さんに、別れの挨拶をする──「機会があれば、何時でも寄ってね」

明るく別れる……そうね、またいつか。

「城塞都市に出向く方、そろそろ出発しま~す。お急ぎ下さ~い」

御者の声が、馬車乗り場に響く。

「よう。待たせたか?」

ジャックさんの声。その後ろには、ランドさんとフルースさん。

「いいえ。今集まった所です」

六人乗りの馬車を、ジャックさん達は予約してくれた。

充分な余裕の広さを持った馬車での移動は、心地好いものになるだろうな……。

早速乗り込んだ馬車の床から、暖かい空気がふわりと、浮かんで来た様な気がした。

 

「暖かいですね……どうなっているんです?」

ジョシュが、誰に聞くともなく云った。

「ああ、床をよく見てください」

フルースさんが、微笑みを浮かべる。

云われた通り床を見ると、仄かな光を浮かべる円形の、図面の様なものが貼り付けられている。

「魔法陣、ですよね?」

シェリナが、ボソリと呟く。へー、これが。魔法陣……細かい文字や紋様が、刻まれているわね。

「ええ、“魔導卿”の開発した冷温陣です。とても便利な代物ですよ」

フルースさんが云った事に、シェリナが反応する。

「“魔導卿”って……上級冒険者のラーディス・グレイオウルですよね!?」

普段の大人しい雰囲気が一変し、はしゃいだ声を上げるシェリナ。

「ずいぶん食い付くな……まあ、仕方ねえか。“魔導卿”といやあ、魔術師の憧れみたいなものだからな」

くっくっくっ、とジャックさんが笑う。

 

「二十代で魔導士試験に合格するなんて、後にも先にも無いって言われるほどの、天才……いえ、異才と言われているのですよ、“魔導卿”は──」

興奮しながら、その“魔導卿”の数々の逸話を話続けるシェリナ──あ、これ、止まらないわね。

ジャックさん達は、苦笑を浮かべ、肩を竦めるだけ。話したいだけ話させておこう──そんな雰囲気だ。

「“魔導卿”の凄い所はね──」

魔導卿の逸話を、さらに話し続けるシェリナ。それ、本当?としか思えない様な逸話を、馬車が休憩のため止まるまで、シェリナは興奮した面持ちで語り続けた。

 

 

「おお、城塞都市が見えてきたぞ」

ジャックさんが窓を開け、身を乗り出す。久し振りの城塞都市だ。

会いたい人や、また行きたいお店が思い浮かぶ。

城塞都市での思い出に浸っている内に、馬車乗り場に到着した。

馬車から各々荷物を下ろす。私達の荷物は、それほど多く無い。食器に着替え。携帯食にポーション類に雑貨くらい。野営用品、買っておかないとね。

 

城塞都市の広く大きな鉄城門も久し振りだ。城門前で、他の冒険者や旅人、行商人に交じってジャックさん達と共に列に並ぶ。

「ジョシュ、お前らは城塞都市に留まるのか?」

「あ、はい。挨拶したい人達がいるので、二、三日は城塞都市で過ごします。ジャックさん達は?」

昇格の報告も兼ねて、久し振りにジャンベールさん達に会いたいんだよな。

「俺達はここで一泊して、明日にでも、帝都に向かう予定だ。帝都で待機している仲間と合流してやらないとな」

そういえば、帝都の仲間の話をしていたな。

 

「ジョシュ、お前達“待雪草(スノードロップス)”は、罠や鍵の解除は誰が担当なんだ?」

ランドさんが尋ねてきた……そういえば、決めてないな……。

「一応、初級訓練で基本は教えてもらったんですが、誰とは決めていませんね……」

ふむ、とランドさん。試す機会があれば、やってみたいんだが、俺達三人の中で、シェリナが向いている気がするんだよな。

「そういうのが得意な奴を、仲間に迎えるのも手だぞ」

ジャックさんが云う。なるほどな……そういう事も考えた方が、いいのか。

「種族的に言えば……前にも言ったドワーフ。猫族に狐族、あとは……ハーフランナー、か」

「ジャック、ハーフランナーは……まあいい」

うん? 何か二人とも口ごもっているけど、何だ?

「まあとにかく、器用な奴を加えるって選択肢をリーネ達と話し合ってみな」

そうジャックさんが、話を締めくくった。ハーフランナーて何だ?

 

 

城塞都市の冒険者ギルドに到着。あー何か、落ち着くな。冒険者の基本を学んだ、思い出深い場所って感じ。

「よう、霧雨の風(ミスト・ウィンドウ)。久し振りじゃねえか」

ダルガンさんと、ジャックさん達のやり取り。この強面も久し振りだね。

「うん? リーネ達も一緒か。おめえらも元気そうで何よりだ」

「お久し振りです、ダルガンさん」

リーネが頭を下げた。私達も釣られて頭を下げる。

ジャックさん達に続いて、私達も移動報告をする。森林街ミストウッズから、城塞都市グランドヒルへ、と……。

 

「おう、リーネ達もパーティー名決めたか……待雪草(スノードロップス)か。まあ悪くねえな。おまけに、初級のDに昇格か。これからも頑張りな」

嬉しそうに笑うダルガンさん。

「ありがとうございます。しばらく留まって、帝都に向かうつもりです」

ダルガンさんとジャックさん達と少し雑談。

ジャックさん達は宿を取るため、ギルドから出ていった。そうだ、私達も宿を取らないと。

「ダルガンさん、中宿のお薦めありますか?」

「中宿か……そうだな、オーガの拳亭がここから近いな。食事もなかなかいい。お薦めだ」

オーガの拳亭、か。何度か見かけたわね。ジョシュとシェリナを見ると、二人が頷いた。

「分かりました。今から行ってきます」

おう、またな、とダルガンさん。

 

「昼食には、少し早いけどどうする?」

「オーガの拳亭で食べようよ。食事もいいみたいだし」

ジョシュとシェリナが云う。そうね、まず宿を取ってから考えようか。

巨大な握り拳が描かれた、看板の宿──オーガの拳亭に着いた。

「さ、入りましょう」

リーネを先頭に、“待雪草(スノードロップス)”がのんびりとした歩調で入店する。

 

野太い歓迎の挨拶共に出迎えてくれたのは、肩出し、スリットの入った派手なドレスを纏った──薄化粧の、“巨漢”。

後に、ジョシュに「雌のオーガだと思った」と言わせた。

宿の女将──マダム・ミランダだった。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。