座学担当が、レンケインさんに決まった。
ダルガンさんから改めてレンケインさんの事を紹介された。
ここ城塞都市の冒険者ギルドで、レンケインさん以上の知識を持った人は居ないとの事だ。
これからの日々の訓練スケジュールを決める事になった。午前は座学。午後はいつもの様に体力造り、戦闘訓練と決まった。
午後を座学にすると、午前の戦闘訓練の疲れと、昼食後の倦怠感が座学の邪魔をする──というのがレンケインさんの考えだった。
なるほどな。言いたい事は分かる。昼食後の倦怠感。すなわち眠気。体調にもよるが、睡魔の強力さは尋常じゃないからな。
「わかりました。その日程でお願いします」
というか今一番気になるのは、ジェミアさんとリネエラさんが、遠目からこちらを見つめている事だ……。
これからの予定が決まった。午前、座学。午後はいつも通り、体力造りに戦闘訓練。
ジェミアさんとリネエラさんを、ダルガンさんが追っ払う。二人は追い払われる際、「フー!シャー!」と威嚇していた。いや、上司を威嚇するなよ……。
レンケインさんは、俺に教える座学をまとめる時間が欲しいといい、それを聞いたダルガンさんは、今日は休暇にしてやると言ってくれた……。
さて、休みを貰ったがどうするか……と思っていたら、ジャンさんが声をかけてくれた。
「名所巡りと、城でも見に行くか?」
おお、名所か。そして、城!! 遠目に見てもあの城の剛健さが気になっていたんだよなあ。
まずは、と案内された場所は石碑。この城塞都市の成り立ちが刻まれた石碑だ。
理知的なトロルと、移民を率いてきた男が覇王公の支援の元に築き上げた、この都市の歴史。
異世界知識として多少は知っていたものの、実際に石碑を目にするとでは、大分違うものだ。
そして城塞都市の城。絢爛さは一切無いが、威厳と剛壮さが、圧倒的な存在感を現している。
これは凄い。まさしく異世界の建築物だ。
何となく、ジャンさんに尋ねる。
「城塞都市に、神殿はあるんですか?」
「んん? あるぞ、神聖神の支殿に暗黒神の支殿がある」
ジャンさんがいうには、帝都領内の各都市にはこれらの支殿があるという事だ。
覇王公ミルゼリッツは神嫌いとして知られているが、人々の信仰自体は否定しなかったという。
狂信者では無い限りは──狂信者に対する覇王公の扱いは、相当に血生臭い事だった。押し込め焼き。荒野遺棄。晒し首街道、等──異世界知識が発動してしまった……。
知らない方がいいというか、知りたくなかった……邪神め! 邪神が!!
暗黒神の支殿が近かったので、案内してもらった。
暗黒神の支殿というだけあって、建物全体が黒を基調にしている。おおう……何だろうな、初めて来た気がしない。
支殿入り口の前にあるは花壇。黒薔薇が敷き詰められた花壇だ。
黒薔薇か。前世では見た事なかったからなあ。ある事はあったらしいが、実物を見た事が無くてもここの黒薔薇は、凄い。綺麗さよりも前に、凄味を感じる……ふと、気配を感じ立ち上がる。
いつの間にか、しゃがみ込んでいたらしい。
「あの……御兄弟の方ではありませんよね?」
一人の修道女、シスターが立っていた。獣人女性だ。艶のある黒い毛並みの狼族……何となく、後ろに下がる。
「ええと……御兄弟?」
「ああ、つまり同じ暗黒神の信徒ですかって事だ」
ジャンさんが俺の疑問に答えてくれた。
「ああ、いいえ。特に信心は持ち合わせてはいません」
うん。邪神に対しての信仰心は、無い。
「せっかく来たんだ。寄進をしていったら、いい」
「寄進ですか。しかし、いいんですか? 信心持ってませんが?」
「はい。大丈夫ですよ。寄進をしたからといって、信心に目覚める訳ではありませんし」
優しく微笑むシスター。まあ別にいいけど、賽銭箱でもあるのだろうか。
「クレイドル、あそこに売店があるだろ? 短剣と黒薔薇、黒ワインが売っているから、どれかを買って、花壇奥の祭壇に捧げればいいんだ」
「なるほど。じゃ、ちょっと行ってきます」
「シスター、なぜ彼に暗黒神の気配を感じたんです?」
「う~ん……ほんの一瞬なのですが、大いなる父君に関係する気配を感じたのです」
大いなる父君。信徒が、暗黒神の事を口にする際の独特な言い回し。
「ところで、彼はどういう?」
「ああ、冒険者ギルドの新人ですよ」
「それは、それは。随分久し振りではありませんか?」
「そうですね……一年ぶりってとこです。訓練中ですが、先が楽しみな奴ですよ」
楽しそうに笑うジャンベール。その横顔を見るシスターも、何か嬉しそうに微笑みを浮かべている。
神聖神の支殿は、ここから大分離れているとの事なので、またにしようとなった。
「ジャンさん、お腹空きました」
「そうだな……オーガ亭でもいいが、煮鍋亭という飯屋がある。鍋料理と煮物を中心に出す店でな。今の時間は空いているはずだ。そこに行こうか」
「おお、鍋ですか。いいですね」
「新鮮な鶏肉が売りでな、鳥刺しを出してくれるんだが、城塞都市ではそこの店だけなんだよ」
おお、鶏の刺身。先人転生者の知識か!?
「行きましょう、行きましょう」
伊達男が見目麗しい寵童を連れ、街を練り歩いている──という噂が広がっている事を二人が知るのは、少し後の事になる。
ベテラン冒険者はまだまだ、集まって来ます。
まだまだ続くよ! 修行、訓練パート!