邪神の子 ~赤き瞳のクレイドル~   作:末末

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第140話 覇王の訓練場 出現の法則と対大物

 

 

 

〈我が加護を得られるかは、覚悟次第であろうな。我に対しての信仰心は、死地に踏み込む覚悟あってこそよ〉──暗黒神(大いなる父君)の声が、はっきりと聞こえた。

「サイモン、聞こえたな?」

「ああ、はっきりと聞こえた……」

背後のA隊を見ると、特に変わった様子は見受けられない……やはり、言葉を聞くにはまだ早いか……。

ふと、クレイドルを見ると、フェイスガードを引き上げて宙を見上げている……クレイドルにも聞こえたらしいな。

 

サイモンさん、ルドガーさんにも当然聞こえただろうが、A隊はどうかな?

背後を振り返り、A隊の様子を見るが……特に、どうという事もない様だ。

声は聞こえなかったか……一息吐き、フェイスガードを下げる。さて、何を持って覚悟と見なされるだろうか……?

「クレイドル、引き続き斥候だ。行こう」

暗黒神(大いなる父君)の事には触れず、ルドガーさんが云った。

「よし、行きましょう」

ガンガン、と兜を叩く──やはり癖になってるな。これ。

「それ、癖か?」

妙な物を見るような目付きで、俺を見たルドガーさんが先を行く。俺は静かに、その背を追った。

 

直線の通路──もう、すでに見慣れた風景だ。

先頭を行くルドガーさんの生命探知には、今だ何の気配もかかっていない様だ。だが……。

「ルドガーさん。静か過ぎませんか?」

物音がしない、という事ではなく。感覚というか直感として、そう感じた……いつだったか、不自然な静けさは要警戒だと教わったな……。

「だな……少し慎重に進もう。生命探知を少し強めにする」

ルドガーさんが、剣の鯉口を切った。

 

もう少しで曲がり角、という所でルドガーさんが立ち止まり、止まれ、のハンドサインを出した。

やがて──ず、ずし、ずん──重量を引きずる様な音が微かに聞こえた。

「大物が来る……サイモンの所に戻ろう」

ルドガーさんが、先に行くよう促してきた。頷き、足早にサイモンさん達の所に戻る。

 

「サイモン、大物だ。恐らく魔獣系で、数は一体だろう」

ルドガーさんの報告に、眉をひそめるサイモンさん。

「まだ一階だぞ。ここ(覇王の訓練場)はどうなっているんだろうな……」

ため息と共に、サイモンさんが云う。

 

〈んっふふ~ここ(覇王の訓練場)はね~立ち入る者の強さに応じて、出現する種類が決まるんだよ~勿論、上限はあるけどね~お友達と頑張ってね~〉

「はあ!?」

いきなりの、邪神(親父)のアドバイス……もっと先に教えろ!! 先に聞かされていたら、それとなくグランさん達に、告げれたものを!邪神が! 邪神め!!

「クレイドル!?」

ルドガーさんが、いきなりの俺の声に振り返る。サイモンさんも同様だ。

「……後で説明します。今は、目の前の相手に集中しましょう」

出来るだけ、冷静に告げる。はあ、とため息を吐く……。

 

「サイモン、見習い達を下げた方がいい。俺達三人で、大物を仕止めよう」

「よし。分かった……クレイドル、いいな?」

ルドガーさんとサイモンさんの言葉に頷く。

A隊に、下がれとサイモンさんが叫んでいる──そして、ずん。ずしん──と大物が曲がり角から体を表した……ああ、これ何て言ったっけ?

獅子と山羊の頭。獅子の上半身に、山羊の下半身。尾は大蛇──「キメラか……こんな所で」

舌打ち混じりに、ルドガーさんが云った。

体高百五十センチ近く、体長は三メートルはあるだろうな……大蛇の尾を入れると、三メートルは越えるだろう。こちらとの距離は十メートルほど。警戒しているのか、ジッとこちらを睨み付けている。

 

「ルドガーさん。暗黒神(大いなる父君)に加護を願うんですか?」

「……いや、大いなる父君は、死地に踏み込む覚悟あっての信仰心と仰せられた。ならば、覚悟を見届けて頂こう……クレイドルには悪いが」

ああ、暗黒神の加護を受けた時の、諸々の強化が得られない事を謝っているのか……。

「構いませんよ。付き合います」

「全く、頭が下がるよ。冒険者というのは、皆こうなのか?」

いつの間にか戻って来ていたサイモンさんが、苦笑混じりに云った。

キメラは、まだ警戒状態だ。一対三の状況だからといって、退く事は無いだろう……。

 

「キメラの特長は、大蛇と山羊頭それぞれ、毒と火のブレス(吐息)を使う。頻度は高く無いらしいが、油断は出来ない。大蛇の毒牙に山羊の頭突きと蹄、獅子の噛み付きに体当たりと、前足の爪に注意というとこか……座学で学んだだけだがな」

サイモンさんが、落ち着いた様に云う。

「いい経験になりそうだ……こっちから仕掛けるか?」

今だ、こちらを警戒しているキメラを見つめながら、ルドガーさんが云った。その顔に微笑みが浮かんでいる。頼もしいな、暗黒騎士……。

「ルドガー、仕掛けよう。この後の、B隊の訓練もあるからな」

「だな……手早く終わらせよう。俺が獅子を叩く。サイモン、山羊を頼む。クレイドルは──」

「撹乱しつつ、背後に回り込んで、隙を見て大蛇を叩きます」

よし、任せたと、ルドガーさん。毒ブレスなんぞ吐かせるか。“宵闇(トワイライト)”を引き抜き、軽く握り込む──

 

ルドガーさん、サイモンさんが少し距離を取りながら、横並びになり進む。俺はその背後を、二人の歩調に合わせながら進む。

キメラとの距離が縮まっていく。こちらから見て、左が山羊頭。右が獅子頭──キメラは身を沈め、飛びかかる気配を見せる。大蛇が、シャアッとこちらを威嚇する──ルドガーさんとサイモンさんが、一気に詰め寄る様にキメラに肉薄する。

キメラが、一瞬怯んだ。飛びかかるタイミングを逃したのだ。

サイモンさんとルドガーさんがほぼ同時に、山羊と獅子の正面に立った。

俺はキメラの側面から、大蛇を意識しながら背後に回り込む。

 

グウゥゥゥアァァ~!! キメラの咆哮と共に、戦闘が始まった。

キメラの側面を通りすがりに、宵闇(トワイライト)で軽く叩く。気をそらす程度の一撃。

宵闇(トワイライト)とは唱えない。あれは、魔力を大分消費する。使えて二回くらいだ。ここぞという時に使いたい。よし、このまま背後を取り、大蛇の注意を引こう──

 

グウッア!?──クレイドルに横腹を叩かれ、山羊頭が首を回し、通りすぎて行った何者かを見ようとする──ほんの一瞬の隙。

剣を、こめかみ目掛け振り下ろす。首筋には少し遠い──ガァン!

ち、振り向いたか。振り下ろした剣は、山羊の角に当たった。もう少し踏み込んでいたなら、砕く事が出来たか?

砕く事こそ出来なかったが、ひびを入れる事は出来た……もう一撃入れるか?

こちらを睨み付ける山羊。さて、仕切り直しだな──サイモンの顔に、強い笑みが浮かんでいた。

 

上手いな、クレイドル。キメラが俺達に気を取られている隙に、横を通り抜けて行った。

通り抜けざまに軽く一撃を加え、俺達から気をそらした。そのお陰で──獅子の片目を潰せた。

首を裂くつもりだったが、踏み込みが浅かった。いや、すぐに気を取り直したキメラを誉めるか?

顔の半分を血で染め、残った片目に憎悪を宿し、牙を剥き出しに俺を睨み付けている獅子。

さて、これからだな──ルドガーは、自分が微笑んでいる事を知らない。

 

背後を取る事は出来た。今、大蛇から見下ろされている状況だ。シイィ、と赤い舌を出しながら、感情の見えない瞳で俺を見つめている。

警戒すべき事は、三つ──大蛇の毒ブレス。毒牙の噛み付き。山羊の下半身の蹄の蹴り。

毒ブレスの威力がどの程度かは分からないが、俺が身に付けている赤闇の胸鎧と籠手には、魔力と状態異常耐性が備わっていると、ラーディスさんから聞いている──よし……覚悟の決め時だ。

毒ブレスと毒牙は無視しよう。赤闇の装備が防いでくれると覚悟を決める。

山羊の下半身の蹴りだけを、警戒するとしようか……盾をしっかりと構える。

ジリ、と少しずつキメラに近付く。ルドガーさんとサイモンさんが、どうキメラと向かい合っているのかは、ここでは分からないが……大蛇の始末は俺の仕事だ。

シイィィ~、と大蛇が俺を見下ろしてきた──上等だ、クソ蛇が──にいっ、と微笑むクレイドルの瞳が、赤く瞬いた。




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