邪神の子 ~赤き瞳のクレイドル~   作:末末

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第141話 覇王の訓練場 大物食い(ジャイアントキリング)

 

 

 

キメラ──獅子と山羊の頭に、大蛇の尾。獅子の上半身に山羊の下半身。炎と毒の吐息(ブレス)を有す。蝙蝠の翼を持つ有翼種もいる、大型の魔獣。

森林の奧や荒野等が棲息地。基本的に人里で見る事はまずない。とはいえ、極希に人里近くに寄ってくる可能性はある。そうなれば、即座に領主が討伐隊を組み、付近の住民は避難する事になる。

冒険者ギルドで討伐依頼が出たなら、最優先事項となるほどの脅威といっても過言ではない──と、異世界知識が発動した。こんなのがダンジョンに現れるとはな……“覇王の訓練場(グラウンドオブオーバーロード)”、優しくないな。しかし、入る人間の強さに応じて魔物、魔獣の強さが決まるなんて、誰も分かってなかったのか……?

 

そんな大物と向かい合う、俺達三人。

サイモンさんが山羊に、ルドガーさんが獅子に、そして俺が大蛇に向き合っている──ゆらゆらと、その身を揺らしながら大蛇が俺の様子を伺っている……感情の見えない蛇の瞳。その視線を、真正面からしっかりと受けてやる。

さて、どうするか。大蛇までは距離が遠い。俺の手にする戦槌(メイス)、“宵闇(トワイライト)”では、向こうから来ない限り、届かない。

大蛇も馬鹿ではないだろうからな、むやみに噛み付いては来ないだろう……ならばやる事は──

 

山羊頭が、ズウゥゥ、と息を吸い込む。吐息(ブレス)の予兆──あえて、待つ。

ブレスを吐いた直後のキメラは、多少なりとも弱体化する……どこまで本当か分からないが、試す価値はある。

大いなる父君よ、ご覧あれ……あなたの加護は我に有り──山羊頭、さあ来い!

山羊の頭が仰け反り──ガアッ、と頭を前に付きだした。

炎の吐息。一と抱えほどの火球が、向かって来た──ゴシャアッ! カイトシールドで、火球を弾き散らす。 なるほど……こういう感じか。

熱より衝撃が強く、すでに熱気は消えている。爆発系のブレスか──さて、ブレスは凌いだぞ?

ルドガーの視線を感じ、横目で見る。

 

獅子が吠え、前足を振り下ろして来た──ギィンッ! 鋭い爪をカイトシールドで防ぐ。なかなかの衝撃が、盾から腕に伝う……反撃のタイミングが無いほどの衝撃だ。

先ほど、山羊頭が炎の吐息を吐き出し、それをサイモンが盾で弾いたのを、横目で確認した──ブレス後は、多少弱体化するというのは、本当だろうか?

頭部、というか部位事に、体力等は別なのか気になるな──グウゥゥル……唸る獅子頭。切り裂いた片目からの出血は収まっている。

前足の一撃を防がれた事で警戒しているのか、それともブレス後の弱体化というのは、本当だったのか……何にせよ、攻め時だ。

クレイドルの事も気になるからな……ちらりと、サイモンを見る。

一瞬、目が合った─今が、攻め時と。

 

ゴシャアッ、と爆裂音がここまで聞こえてきた。微かな熱気が、流れてくる──山羊頭のブレスをサイモンさんが受けたのだろう……それとほぼ同時に、ギィンッ! と打撃音。これは、獅子と向かい合うルドガーさんだろうな──大蛇が俺から視線を外し、前方、山羊と獅子の方向に目を向けた。

本能的な動き──「やはり獣だな」

腰の後ろに指している、ハンドアクスを素早く取り出し、大蛇目掛けて投擲する──

 

シィッヤアァァァッッ!! 大蛇が、突如甲高い金切り声を上げた。

大きく身を捩りながら、荒れ狂っている。後頭部から見える物──ハンドアクス。クレイドルが常に身に付けている物だ。それを頭部に食い込ませた大蛇が、血を撒き散らしながら荒れた。

山羊と獅子が、明らかに戸惑った動きを見せる。大蛇が司令塔か?──今だ。

サイモンと歩調を合わせ、一気に片を付ける。

クレイドル、大蛇は頼んだ──獅子の頭部に、剣を振り下ろす。血飛沫が上がるが、少し浅いか?よろめくキメラ。まあいい、決着まで時間の問題だ──大いなる父君、ご覧あれ。

 

バギィンッ! 山羊の片角を砕いた。

ギィエェェ~!! 山羊が悲鳴を上げる。弱体化しているかどうかは分からないが大蛇が怯んだと同時に、山羊と獅子までもが戸惑った。

ザシッ! ルドガーが、獅子の眉間に一撃を加えるのが横目で見えた。

多少よろめくキメラ。絶命には至らないか。

さすが大物、しぶとくタフだ。だが──時間の問題だ。

ルドガーにクレイドルがいる。俺達で充分だ。

大いなる父君の加護も感じるしな……このキメラをあなたに捧げます──

 

命中。投擲したハンドアクスは、綺麗な放物線を描き、しっかりと大蛇の後頭部付近に食い込んだ。

さすがに仕止めきれなかったものの、かなりのダメージを与えた様に見えた──同時に、キメラが妙な動き、というか雰囲気を見せた。

混乱というほどではないが、明らかに戸惑いの雰囲気を見せている──今、勝機だな。

横合いからキメラに近付き、その背にしがみ付いて登る。大蛇と目が合った──その瞬間、フシィィッ! と薄い青色の吐息(ブレス)を浴びせられた。

これが、毒ブレスか。ツン、と臭う刺激臭に包まれる──それだけだ。

何の不調も感じない。さすが赤闇の鎧。状態異常耐性は並みじゃない……目を見張る様に、こちらを見る大蛇。毒が効かなかった事くらいは分かるのか?

ジャァァッ! 口を大きく開き、直接毒を注ぐべく、噛み付こうとしてくる大蛇……「宵闇(トワイライト)」小さく囁き、大蛇の横っ面を 戦槌(メイス)でぶん殴る。

ブシィッ! 顎が砕け、牙が弾け散る感触。大蛇の頭部が、ゆらゆらと蠢く──その頭部に、止めの一撃を振り下ろす。

肉と骨が砕け、押しつぶれる感触が、戦槌から腕に伝わる。

大蛇は、ぺしゃりとその身を沈ませる──宵闇の効果は分からなかった。

 

大蛇の始末は済んだ──さて、あとはキメラ本体だ。

ルドガーさんとサイモンさんは、キメラを相手取っている。俺はキメラの体を移動しながら、その頭頂部に向かう。

キメラは、ルドガーさんとサイモンさんに全神経を向けているので、俺がその背をゆっくりと移動しているのに、気付いていない……俺を背に乗せた時点でおしまいだ。

獅子の頭と山羊の頭の接合部──その近くに立ち、戦槌を振り上げ、接合部目掛けて思いきり叩き付ける。

肉を潰し、骨にまで到達する感触が、しっかりと伝わって来た──がくん、とキメラの体勢が前のめりに崩れた。

おっと、キメラの背から飛び降りる。ルドガーさんとサイモンさんが、剣を振るうのが見えた。

もう、決着だな──血の臭いが漂ってきた。

 

 

「今日は、こんな所にしておくか。B隊の事もあるからな」

キメラの死体を横目に、サイモンさんが云う。

「ああ、引き上げだな……待てよ。クレイドル、後で説明する事があると言っていたな?」

ルドガーさんが、訝しげな表情で尋ねてきた。

やはり、あの件か──〈んっふふ~ここ(覇王の訓練場)はね~立ち入る者の強さに応じて、出現する種類が決まるんだよ~勿論、上限はあるけどね~お友達と頑張ってね~〉──覇王の訓練場(グラウンドオブオーバーロード)に出現する魔物、魔獣の種類は出入りする者の強さに応じて決まるという事……「あくまで、俺の推測ですよ? グランさんとイアンさんにも聞いて貰いたいので、地上に戻ってから話します」

ルドガーさんとサイモンさんが、顔を見合わせる。

「……分かった。推測だろうが、聞いておいていた方がいい気がしてきた」

ルドガーさんが言い、サイモンさんが頷く。

なかなか、衝撃的な話になると思うぞ~。だが、信じてもらえるかどうか……〈んふふ、大丈夫だよ~〉うるさいな!

 

 

地上に帰還。A隊を下げ、グランさんとイアンさん。そしてルドガーさんにサイモンさん。四人を前に、俺の推測を話した。

(邪神の云う事なのでどこまで本当か……まあ、信頼していない訳じゃないが)

沈黙……まあ、そうなるか。そう容易く信じられる事じゃないだろうからな。

「立ち入った者の強さに応じて、出現する魔物魔獣の種類が、決まるか……」

グランさんが考え込む。ふうむ、とイアンさん。

「通りでな、妙だと思った。一階で出現する魔物魔獣のバランスがよく分からなかったからな」

サイモンさんが云う。ルドガーさんが、やれやれと首を振る。

「クレイドルの推測は、充分考えるに値すると思うが?」

グランさんが、皆を見回しながら云う。

「……だな。一考すべき事項だ。試すべき事柄だと思う。B隊で、少し試してみるか」

サイモンさんが云う。グランさん達が頷く。

試す……かあ、見習い達だけを行かせるという訳ではないだろうけどな。

さて、どうなる事か……。

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