邪神の子 ~赤き瞳のクレイドル~   作:末末

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第142話 覇王の訓練場 出現パターンの検証開始

 

 

B隊を率いたイアンさんが戻って来た。どこか嬉しそうだ。

「クレイドルの推測、合っていたぞ」

俺達を見て、ニヤリと不適な笑みを浮かべるイアンさん。

イアンさんが云うには、出現した魔物はコボルトにオーク。それらよりは多少手強い、プレートアント(甲鎧蟻)だったという──プレートアント(甲鎧蟻)と聞いて、思わず肩を震わせた。 それに気付いたグランさんが、フフッと軽く笑った。何が可笑しいか。

「俺も潜ったんだ。オーガかコボルトリーダーくらいは出てきても、よかっただろうに」

少々不満げに、イアンさんが云った。恐らく、出現する種類は、見習い達の人数。というか、強さの平均に合わせたんだろうな……。

「後何度か試そう。充分検証をしたら、報告書を提出する事になるだろうな」

グランさんが云った。確かに、とルドガーさん達が頷く。

「昼食後、C隊D隊を潜らせながら、引き続き検証といこう」

サイモンさんが云う。よし、と皆が頷いた。

 

昼食を取るために、一旦兵舎に帰還。

その後、覇王の訓練場にC隊D隊を潜らせる。C隊の引率役は、サイモンさん。

見習い達には、検証の事は知らせないという事に決まった。

「知った所で、どういうと言う事じゃないからな──何にせよ、検証の後だ」

との事だ。まあ、こんなものだろう。

ただ見習い達は、同行する教官が一人になった事に、少々戸惑いを見せていた(後から知ったが、俺も教官と思われていた)。

「よし、C隊行くぞ。気合い入れろ」

サイモンを先頭に、見習い達が潜って行く──検証は時間が掛かるだろうな。

 

「やはり大した事ない。コボルト数体にレイヴス(墓場カラス)数匹。そんな程度だ。 オーガもコボルトリーダーも顔を見せない」

C隊と共に戻って来たサイモンさんが、やれやれとばかりに云う。

レイヴス(墓場カラス)何ていうのは初めて聞いたが、サイモンさんの言いぶりでは、脅威のある存在じゃないのだろう。

「なるほどな、推測通りか……引き続き、もう少し続けよう」

ルドガーさんの言葉に皆が頷く。だが、皆に云っておきたい事があった……。

「ええと、三日目何ですが……少し思い付いた事があるんです──」

ちょっと前から考えていた事を、皆に話す。

 

沈黙──皆が、強い笑みを浮かべ、暗黒騎士の気が、強く周囲に満ちる。

「三日目の訓練は中止だな……見習い達に、明日一日の休暇を与えよう」

サイモンさんの言葉に、ルドガーさんが頷く。

「いいな。さてどうなる事か……くくっ」

イアンさんが、嬉しそうに含み笑いをする。

「なかなかな事を思い付いたな……キツくなりそうだ。全く」

グランさんが、やれやれとばかりに俺を見る。笑ってますよ? グランさん。

俺が云った事は、単純な事だ──「俺達五名で、覇王の訓練場(グラウンドオブオーバーロード)に潜ったならば、どうなるでしょう?」

皆が、顔を見合わせる。まあ、そうなるか。立ち入った者の強さで、魔物魔獣の種類(強さ)が決まる──そこに、自分達だけが入ったならどうなるか?

「クレイドルの言いたい事は分かった……よし、試す価値は大いにある。それは、明日にでも始めよう──だがその前に、D隊の訓練を終えるか」

グランさんが云い、D隊の元に向かって行く。

 

グランさんが率いていたD隊が、帰還してきた。

「ふん、やはり大した事なかったな。出現したのは、コボルトに、低級のグール(食屍鬼)程度だった。見習い達で、充分に相手する事が出来た」

グランさんの報告に、サイモンさん達が頷く。

「決定的と言ってもいいな……立ち入る面子に応じて、強さが決まるというのは……明日、クレイドルの言う様に、俺達だけで覇王の訓練場(グラウンドオブオーバーロード)に挑んでみるか……」

ルドガーさんが、俺達を見回す──「やろう」

イアンさんが云った。にいっ、と笑みを浮かべている。

他の面々も、同じ様な笑みを浮かべているだろう。そして、俺も──

「よし、明日は見習い連中は休暇。そして、俺達の時間という事だな」

サイモンさんの言葉に、俺達は頷く。

地上に帰還後、イアンさんが見習い達に、三日目は休みと言い渡し、帝都に戻る事と飲酒は禁止。それ以外は自由行動。のんびりするも、自主訓練するも自由と告げた。

 

夕食。俺達は兵舎ではなく、外の食堂兼居酒屋で夕食を取りながら、一杯やる事にした。

前に来た所と同じ、蜂蜜酒(ミード)の美味い店。俺に気付いた猫族の女性店員さんが、ウィンクしながら小さく手を振ってきた。

「蜂蜜酒三つに、黒ワインを二つ。あと、ベーコンと青菜炒めに、ハムサンドを五つ」

ルドガーさんが、流れるように注文をする。

はーい。お飲物から、すぐお持ちしま~す、と店員が手早く注文を書き取り、さっ、と厨房に向かって行った。

「さて、軽く明日の打ち合わせといくか」

サイモンさんが、水の入ったグラスに口を付ける。

「覇王の訓練場は、全十階層。通路や部屋に罠が仕掛けられているのは、五階からと聞いている」

「悪魔系が出現するのは、八階からだったか」

グランさんの発言に、イアンさんが続ける。悪魔系か──“魂食み(ソウルスレイヤー)”持ってこれば良かったか?

ぼんやり、考えていると飲み物が運ばれて来た。

「お酒、お待たせしました~料理もすぐお運びしますね~」

猫族の女性店員さんだ。ウィンクをして、ウフフと笑いかけてきた。

「全く、モテやがるな」

去っていく店員さんを横目で見ながら、ルドガーさんが笑い、黒ワインに手を伸ばす。

 

おう、ハムサンド美味い。ほどよく焦げ目の付いた厚切りのハムが、たっぷりの玉葱と一緒に挟まれている。ハムの塩気と玉葱の爽やかさが何とも堪らない──蜂蜜酒をグビリとやる。

「一応、三階を目処にしようと思っているんだがな。どう思う?」

黒ワイン片手に、ベーコンと青菜炒めを摘まみながら、グランさんが云う。

「そうだな……だが、潜ってみないと分からん。入る者の“強さ”に応じて出現する種類が変わるというのは、怖いな」

グビリ、と蜂蜜酒を呷るイアンさん。

まあな、とグランさんが黒ワインを干す。どうなるかは潜ってみないと分からない、か……ふむ。

「すいません。注文お願いしまーす」

ハムサンドを平らげ、口元を拭う。何を注文するかな……蜂蜜酒に揚げじゃが。鶏と山菜煮込みだな。うむ。

 

「俺達が潜る事で、どういう相手が出現するか分からない以上、考えても始まらない。明日は明日だ……今日は飲もう。深酒しない程度にな」

杯を掲げ、サイモンさんが云う。ニヤリと、皆が微笑む── 「乾杯」杯を掲げ、呟く。

 

 

三日目の朝。見習い達に見送られながら、ルドガーさんとグランさんを先頭に、覇王の訓練場に潜る俺達。さて……どうなるかな? 通路の雰囲気は、今までと変わらない。

先頭を行くのは、ルドガーさんとイアンさん。その後ろには、グランさんとサイモンさん。そして殿は俺。三段構えの隊列。

周囲を警戒しながらも、足早に進む。

各部屋は無視すると決まっている。ただ進むだけ。少なくとも、三階まで。

今だ、会敵は無し──一階に入ったばかりだからな。今回の検証は、なかなかに疲れるだろう…。

 

二階に降りる階段の、手前の広場まで進んで来たが、ここまで魔物や魔獣には出会わなかった。

二階からが、本番という事か──「よし、小休止だ」

サイモンさんが云う。広場に腰を下ろし、各々携帯食を出す。

魔道コンロと乾燥スープがあればなあ……それらがあれば、暖かい食事が取れたのだが、今は干し果物に、干し肉とチーズが休憩中の食事だ。

多少の雑談後、腰を上げて二階に降りる。さあて、どんな魔物や魔獣が現れるかな──ルドガーさんとイアンさんを先頭に、階段を降りる。

 

二階も変わらない景色。石造りの武骨な回廊に、俺達の足音と微かな鎧の金属音が響く──先頭を行く、ルドガーさんとサイモンさんが立ち止まり、止まれ、のハンドサインを出す。少しして、イアンさんがこちらに来た。

「ヤバイな。早速の大物が来た」

言葉とは裏腹に、顔が笑っている──ズズン──ここまで聞こえてくる重量音。キメラ以上の大物か……想像も出来ないが。ルドガーさんが戻って来た。顔が笑っている。

ファイアドレイク(火竜)だ」

獰猛な笑みを浮かべながら、楽しそうに告げるルドガーさん。

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