邪神の子 ~赤き瞳のクレイドル~   作:末末

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覇王の訓練場編も、直に終わります。

(゚∈゚ )ホーホーホホー……ホー。


第143話 覇王の訓練場 暗黒騎士四人と戦士一人

 

 

「来るぞ……ルドガー、グラン正面を頼む。俺とイアンは、側面に回る。クレイドルは──」

「側面から回り込んで、背後に位置取ります」

よし、とサイモンさんが頷く。ルドガーさんとグランさんが、カイトシールドを構え、どっしりと腰を落とす。

 

「大いなる父君よ、今、我々には貴方の加護が必要です──兄弟を、友を、敵意と害意から守る力をお与え下さい──貴方の息子として、お願い申し上げます──“暗黒騎士の守護(ガーディアンオブダークネス)”」

ルドガーさんの、朗々とした詠唱が静かに、清らかに響いた。

涼やかな風が、俺達の周囲を過ぎて行く……暗黒神(大いなる父君)の加護だ──ズズ、ズシン……ズン──重量のある足音が近付いてくる。そして、微かな熱気。

回廊奥から姿を見せたのは──巨大な爬虫類、否、レッサードレイク(下位亜竜)の一回り以上の巨体をしている、亜竜だった。

体高は二メートル近く、体長は尻尾を入れ四メートルはあるだろう。

全身筋肉質の赤い肌に、太く鋭い両前足と後ろ足の爪。鋭い牙が生え揃った口からは、小さな炎が、チロリと噴き出している──巨体の火竜、ファイアドレイクだ。

 

「火吹き亜竜か……ふん。どれ程のものかな?」

正面に立つグランさんが、手にするロングソードをくるりと、弄ぶ。

すでに、暗黒神(大いなる父君)の加護を受けている──ファイアドレイクが、ゴオゥッと大きく息を吸う音が聞こえた──「皆、俺達の背後に付け!!」

ルドガーさんの声と共に、俺とサイモンさん達がルドガーさんとグランさんの背後で、固まる。

ルドガーさん達が、カイトシールドをしっかりと構えた。

熱気が、俺達の横を吹き抜けて行く。火竜の吐息(ブレス)だ。キメラのものとは比べ物にならないだろう──暗黒神(大いなる父君)の加護と、暗黒騎士の守護が無ければ、到底耐えられない程の熱気。不意に、熱気が止んだ。

炎の匂いが、周囲に残った──「反撃だ!!」

グランさんの掛け声と同時に、俺達は動く。自慢の吐息は防がれたぞ? 今度はこちらの番──ラウンド(ツゥ)だ。

 

グウアァァァッアッッ!! ファイアドレイクが叫んだ。自慢のブレスが、完全に防がれた事に対する怒りだろうか──隙があるぜ? ファイアドレイクさんよ?

ルドガーさん達の鉄壁の守りの次は、俺達の番だ……サイモンさんとイアンさんが、側面に位置取るため、即座に動き出す。

俺はサイモンさんと共に、左側に移動しつつファイアドレイクの背後に回る。

首をぐるりと回し、周囲を確認するファイアドレイク。自分の状況が分かったのか、低く威圧的に喉を鳴らす──そして、正面に立つルドガーさんとグランさんを睨み付ける。

 

ファイアドレイクの巨駆が、のそりと動く。太い尻尾がずるりと、大地を這う。

グウゥゥ……ファイアドレイクが、静かに唸りながら、周囲を見回す──膠着状態になるのは良くないな……そう思った矢先、サイモンさんとイアンさんが側面から斬り込んで行く。

不意を突かれた形になったファイアドレイクが、叫ぶ。

ファイアドレイクの横腹が、サイモンさん達に切り裂かれていくが──浅い。外皮がなかなかに強靭らしい。

俺はイアンさんと共に、ファイアドレイクの側面から背後に回り込み、その背後近くに立つ。

 

前方と側面から攻められる、ファイアドレイク。背後に回った俺には、今だ気が付いていないが、時間の問題だろう……背に飛び乗り、“宵闇(トワイライト)”の一撃を食らわせるのは、まだ早い……あれは、そう易々と使えない。

使えて、二回程だ。魔力の消費が尋常では無い──いや、消費を惜しんでいる場合じゃないな……よし、使える時に使おう。そのタイミングが重要だ。

さて──ファイアドレイクの太く長い尾が、ずるりと這っている。どうするか?

「黒き鋼の刃、形を成せ“黒き旋風(ダークネスエッジ)”!」

ルドガーさんの詠唱と共に、複数の黒き刃がファイアドレイクの身を包む──ファイアドレイクの表皮が切り刻まれ、血を撒き散らす──ダメージ目的ではなく、撹乱するための術だ。

グワァァオ! とファイアドレイクが喚き散らした。

 

黒き刃に体を切り裂かれたファイアドレイクが、ドシドシと、ルドガーさん達に向かって行く──単純だな。

だが、油断は出来ない。サイモンさんとイアンさんが、さっきより一歩踏み込み、荒れ狂うファイアドレイクの側面を、さらに斬り裂いていく。

皮を深く斬り裂き、肉まで到達したのだろう。出血が多くなっていく──ゴオアァァァッ!! ファイアドレイクが叫ぶ。苦痛と怒りの怒声が、響いた──グルン、とファイアドレイクがその身を大きく回転させる。

仕切り直しのためだろうか? サイモンさんとイアンさんが、跳躍しつつ下がる。俺の目の前に、太い尻尾が迫って来た──半円を描いて迫る尻尾を前に、丸太みたいだなと呑気に思う……ラウンドシールドを構え、その尾を受けると同時に後方に跳び、少しでも衝撃を殺す──その次いでに──「宵闇(トワイライト)」……と小さく囁きながら、戦鎚(メイス)を尾に叩き付けた。

 

ドゥンッ──衝撃音と同時に、クレイドルがファイアドレイクの尻尾に弾き飛ばされたが、同時に、戦鎚を尾に叩き付けるのがはっきりと見えた──ただでは済ませないという事か。

クレイドルは、壁まで転がっていく──大したダメージは無いだろう。

尾に叩き付けられる時に、後方に跳び下がったのが見えたからな……クレイドルならば、大丈夫だろう──「グラン! 来るぞ!」

ルドガーの声。クレイドルの事は、頭から追い払う──あいつなら、大丈夫だ……牙を剥き出しにしながら、血塗れのファイアドレイクが俺達を睨み付けて来た──ゴオォォォウワアァァッッ!!

悲鳴にも似た、怒号……最終決戦(ラストラウンド)だな──「よし……決着の時だ」

正面に戻って来ていたサイモンが静かに云い、俺達が頷く。

 

尻尾の一撃は重かったが、少しばかり身を引いたので、直撃は避けられた──少々腕に響いた程度。さすがストルムハンド製のラウンドシールドだ──さて、大蜥蜴にどんな状態異常が現れるかも気になるな。とにかく、グランさん達に合流するか……。

真正面に、グランさんとルドガーさん。やや左右にサイモンさんとイアンさんが、ファイアドレイクの首筋を挟み込む様に、位置している……ファイアドレイクは、俺の事は視野に入っていないようだが──さて?

 

 

向かい合ったファイアドレイクの異変に最初に気付いたのは、グランだった──

目の焦点が合っていない? 爬虫類の瞳からは何の感情も伺えないが、妙に瞳が濁った様に見えるのだ。

さらに、体が微かに揺れている──多少の傷を負っているが、致命的な一撃は今まで無かったはずだ……クレイドルが何かしたな?

「一気に決めるぞ!!」

ルドガー達に、檄を飛ばす。応!とルドガー達が応える。クレイドルは今だ後方にいる……さて、挟み撃ちといくか。

 

ガアッ! と噛みついてこようとするファイアドレイクの顎を避け際に、首筋を斬り裂く──硬い。なかなかに強靭だな。

ファイアドレイクが、前足で掴みかかってくるのを、イアンが盾で受け流しつつ、前足を剣で叩き落とすのを横目で見る──ファイアドレイク、やはりタフだな……待てよ、何かファイアドレイクの様子が変だな?

微妙にふらつき、出血量が増えていないか? それほど深く斬られていないはずだが……「一気に決めるぞ!!」

グランの檄が聞こえた。ファイアドレイクの異変に気付いたか──「応!」と応える。サイモンとイアンも檄に応えた。

 

グランさん達が、勝負を決めるべく剣を振るい始めた。前方、側面からとファイアドレイクを攻め立てる──瞬く間に、その身を鮮血に染める、ファイアドレイク。床に血溜まりが出来る程の出血だ──これが、状態異常効果か?

常時出血状態……だとしたら、えげつないな。まあいい、やる事が決まった──ファイアドレイクの尾に駆け上がって、背に乗る。そして、頭を叩く。

よし、やるぞ──クレイドルは、素早く駆け出すとファイアドレイクの尾に跳躍した。

 

ルドガーは、ファイアドレイクの身体に、明らかな異常が見えているのに気付いていた──おびただしい出血量。

剣で斬り裂いているとはいえ、これほどまでか? と思うほどの出血……すでにファイアドレイクはまともに立って居られないほどに弱っている。ただ生存本能だけで戦っている状態──止めを、と皆に指示しようとした矢先、ファイアドレイクの頭部付近に立っているクレイドルに気付く。

クレイドルは、戦鎚(メイス)を大きく振りかぶり──「宵闇(トワイライト)!」と叫ぶと同時に、ファイアドレイクの頭部に叩き付けた。

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