通路に横たわる
ルドガーさんが回収許可を出したのは、「素材や
「私が、瞳と魔石を回収しよう」
常備持ち歩いている、解体道具を慣れた手付きで取り出すグランさん。
なら、俺は──大爪と尻尾を、回収するか。初級訓練終了時に、お祝いで貰った解体道具を出す。
いい道具何だよな、これ──後ろ足の指の間に鋭い刃を通し、根本まで斬り裂く。そして大爪を根本から斬り離す。取り合えず計八本。重量はなかなかのものだ。後は尻尾。間接部を手触りで確認しながら、根本からしっかりと切断出来た──ふうっ、と一息吐く。
「なるほどな……解体なんて初めてみたが、なかなかにえげつないな」
俺とグランさんの作業を見ていた、ルドガーさん達が云う。まあ、だろうな……だが、猟師の解体作業とあまり、変わらないんだよなあ。
「よし、済んだぞ。瞳と魔石だ」
それらを差し出して来るグランさん。素材回収袋を広げ、中に入れて貰い、手早く大爪と尻尾も袋に納める──もう少し余裕はあるが、これくらいにしておこう……。
ファイアドレイクの死体から離れて、小休止。
もう一、二戦して検証を続けるか、地上に帰還するかと話し合う。
「二階で、早々に
サイモンさんが云う。確かにな……現時点において、皆はほとんど無傷。多少の傷は癒し終えている──検証は一、二度では終わらないだろう。
今後何度か、繰り返すのが妥当だろうな──「クレイドル、冒険者としての意見を聞きたいんだが……どう思う?」
サイモンさんが尋ねて来た──「冒険者として云うならば、帰還ですね」
きっぱりと云う。ファイアドレイクというリスクを乗り越えたならば、帰還してもいいだろう──と云うのが、冒険者としての考えだ。
さらに云うなら、死んだら終わり──そこまでは云わなかったが。
「そうだな。取り合えずの検証はここまでにして、戻ろう。検証の機会はまだある」
イアンさんが云った。皆が頷き、帰還となる。
「覇王の訓練場の、魔物魔獣の出現条件について、取り合えず報告書を書かないとな」
グランさんが云う。兵舎に戻り、夕食後に報告書について話し合う事に決まった。
──見習い達と共に夕食。今日のメニューは、ステーキにトマトサラダ。玉葱のスープに丸パンと、青菜の酢漬け野菜。
手のひらより少しばかり大きめのステーキがメインだ。厚みも四、五センチはある。
料理長が、見習い達から離れたテーブルに座っている俺達をチラリと見て、見習い達に云った。
「今日は、いい
はいっ! と見習い達が元気に返事をする。料理長はもう一度俺達を見ると、苦笑しながら厨房に戻って行った──「さて、頂くか。いい
ルドガーさんが、早速ナイフとフォークを牛肉のステーキに刺す──
──少し前。兵舎に戻り、身支度を終えるとルドガーさんの案内で、厨房に案内してもらった。
今から料理を始めるという料理長に、ファイアドレイクの肉を調理出来ないか? と尋ねた。
「ドレイクの肉ね……大層美味いと聞いた事はあるが、なぜそんな事を?」
恰幅のいい、人の良さそうな五十代ほどの料理長が、少し驚いた様に云う。
「尻尾を持ってきたんです。夕食に使えませんかね?」
何!? と料理長に、ざわめく厨房。
「コルバンさん、覇王の訓練場でファイアドレイクを仕留めたんだよ。その後、尻尾を回収したんだ」
「よ、よし。こっちの台に出してくれ」
料理長の名は、コルバンさんと云うのか。覚えておこう。尻尾の入った素材回収袋の口を開き、指定された台の上に、ずるりと置く。なかなかの重さ。改めて見ると、結構長いな──「剥いだ皮は、返して下さい」
クレイドルの言葉に、うんうんと上の空で答えながら、コルバンはファイアドレイクの尻尾を指で押しながら云う。
「いい肉質だ。よし……ステーキだな」
ニヤリ、と深い笑みを浮かべ、コルバンが楽しそうに云った。
見習い達には、ドレイクの肉は牛肉という事にして振る舞った。魔獣の肉だと知れると、面倒な事になるとの判断からだ。
「牛肉の上位版、て所だな」
とは、コルバンさんの言葉だ。ファイアドレイクの皮は、どう使えるかな……?
夕食後は、いつもの居酒屋に移動。報告書についての、ちょっとした会議だ。
少し離れたテーブルを取って貰った。今の段階で、覇王の訓練場の
守秘する訳ではない。確証がある程度得られるまでは、他の騎士団や衛兵にはまだ聞かせられないからだ。
とはいえ、五人の男達の胸中は、『ほぼ確実だな』との考えである。
「
いつもの猫族の女性店員ではなく、少しそばかすの残る、赤毛のショートヘアーの娘さんだ。
顔を赤らめ、チラチラと俺に視線を送っていた……何ぞ?
「相変わらず、罪作りだな」
グランさんが俺を横目で見ながら、黒ワインに手を伸ばす。サイモンさんとイアンさんが苦笑を浮かべ、それぞれ蜂蜜酒と黒ワインを手に取る。
「俺も浮いた話、欲しいぜ全く」
ルドガーさんが、がぶりと黒ワインを喉に流し込んだ……解せぬ。
俺は蜂蜜酒を取り、一口啜る。独特の甘さと少しの酸味。うん、美味い──
報告書の内容を取りまとめる。それほど複雑ではなく、『入る者の強さで、出現する魔獣と魔物の強さが変化する可能性有り。今後も検証は必要』という方向で報告書をまとめる事に決まった。
もちろん、“俺の憶測”の件は除外して貰った。
料理が到着した。大振りの白身魚の塩煮、鶏と山菜の煮込みに、山葵葉の刻み漬け。
うむ、何とも堪らない注文だ。特に山葵の刻み漬けが──「これが、山葵葉の刻み漬けか……初めてだ」
サイモンさんが、奇妙な物を見るように呟く。
「一度は試してみたらどうです?」
そう勧めながら、箸を伸ばす。美味いんですって。
塩味のタレに漬け込まれた山葵葉は、相変わらずの旨みと刺激を与えてくれる……ツン、とした刺激が、鼻から後頭部に伝わる。これだよな、これ。
蜂蜜酒で刺激を流し込む。サイモンさんが刻み漬けにフォークを通し、口に運ぶ──すぅっ、と鼻で息を吸うと、蜂蜜酒に口を付ける。
「いや、これは……美味い、かも」
涙目になりながらも、きっぱりと云うサイモンさん。ルドガーさんは、サイモンさんを疑わしい目で見ている。
「さ、取り分けたぞ」
イアンさんが、それぞれの取り皿に白身魚の塩煮を分けて配ってくれた。白身からは、温かそうに湯気が立っている。
こちらも美味そうだ。イアンさんに礼を云い、早速口に運ぶ。何だろうな、塩味の中に甘味を少し感じる──美味い。
煮汁を充分に吸った白身は箸で摘まんでも崩れる事無く、歯応えを感じる。
「相変わらず、器用に箸を使うものだな」
優雅に塩煮を摘まみながら、グランさんが云う。
鶏と山菜の煮込みも美味い。鶏の柔らかさと山菜の歯触りが良い。酒に合う、さっぱりとした味付けだ。
追加の酒と摘まみを頼み、明日の予定を話す。
「計らずも四日目になったが、明日は朝食後に帝都に戻るか」
サイモンさんが云った。見習い達の実戦訓練も済み、覇王の訓練場の
「お酒とお料理でーす」
猫族の女性店員だ。俺をチラリと見てウィンクをした。手際よくテーブルに酒と料理を並べ、俺に小さく手を振り、厨房に戻って行った──「どうしたら、女にモテるんだろうな……」
黒ワインのグラスを手に、ルドガーさんが遠い目をして呟く。酔っているなあルドガーさん……。
「優しかったら、いいんじゃないですか?」
適当に云い、揚げじゃがに手を伸ばす。塩と香辛料がしっかりと効いていて、美味いんだよな。
「利いた風な口をきくな!」
ルドガーさんが、黒ワインを一気に呷った。
ぐっふ、サイモンさんとイアンさんが酒を吹き出しかける。
グランさんは顔を伏せ、肩を震わせている──笑いを堪えているな?
ルドガーさん、その台詞はこんな時に使うものじゃあないですよ……。