邪神の子 ~赤き瞳のクレイドル~   作:末末

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第144話 覇王の訓練場 火竜討伐とステーキ

 

 

通路に横たわるファイアドレイク(火竜)の死体を、“浄化”で清める──無論、埋葬のためでは無い。素材回収を許可されたので、血抜きをするためだ──回収部位は、後ろ足の大爪と尻尾に、両目に魔石だ。

ルドガーさんが回収許可を出したのは、「素材や 宝箱(チェスト)を見習い達の前で回収すると、小遣い稼ぎに無断でダンジョンに潜るかもしれないからな」との事で、見習い達が居ない今なら、構わないそうだ。

「私が、瞳と魔石を回収しよう」

常備持ち歩いている、解体道具を慣れた手付きで取り出すグランさん。

なら、俺は──大爪と尻尾を、回収するか。初級訓練終了時に、お祝いで貰った解体道具を出す。

いい道具何だよな、これ──後ろ足の指の間に鋭い刃を通し、根本まで斬り裂く。そして大爪を根本から斬り離す。取り合えず計八本。重量はなかなかのものだ。後は尻尾。間接部を手触りで確認しながら、根本からしっかりと切断出来た──ふうっ、と一息吐く。

 

「なるほどな……解体なんて初めてみたが、なかなかにえげつないな」

俺とグランさんの作業を見ていた、ルドガーさん達が云う。まあ、だろうな……だが、猟師の解体作業とあまり、変わらないんだよなあ。

「よし、済んだぞ。瞳と魔石だ」

それらを差し出して来るグランさん。素材回収袋を広げ、中に入れて貰い、手早く大爪と尻尾も袋に納める──もう少し余裕はあるが、これくらいにしておこう……。

 

ファイアドレイクの死体から離れて、小休止。

もう一、二戦して検証を続けるか、地上に帰還するかと話し合う。

「二階で、早々にファイアドレイク(火竜)だからな……これ以上となると、想像は付かない」

サイモンさんが云う。確かにな……現時点において、皆はほとんど無傷。多少の傷は癒し終えている──検証は一、二度では終わらないだろう。

今後何度か、繰り返すのが妥当だろうな──「クレイドル、冒険者としての意見を聞きたいんだが……どう思う?」

サイモンさんが尋ねて来た──「冒険者として云うならば、帰還ですね」

きっぱりと云う。ファイアドレイクというリスクを乗り越えたならば、帰還してもいいだろう──と云うのが、冒険者としての考えだ。

さらに云うなら、死んだら終わり──そこまでは云わなかったが。

 

「そうだな。取り合えずの検証はここまでにして、戻ろう。検証の機会はまだある」

イアンさんが云った。皆が頷き、帰還となる。

「覇王の訓練場の、魔物魔獣の出現条件について、取り合えず報告書を書かないとな」

グランさんが云う。兵舎に戻り、夕食後に報告書について話し合う事に決まった。

 

 

──見習い達と共に夕食。今日のメニューは、ステーキにトマトサラダ。玉葱のスープに丸パンと、青菜の酢漬け野菜。

手のひらより少しばかり大きめのステーキがメインだ。厚みも四、五センチはある。 ご馳走(ステーキ)を前に、見習い達がどよめく。

料理長が、見習い達から離れたテーブルに座っている俺達をチラリと見て、見習い達に云った。

「今日は、いい牛肉(・・)が入ったから特別だ。しっかり味わって食えよ?」

はいっ! と見習い達が元気に返事をする。料理長はもう一度俺達を見ると、苦笑しながら厨房に戻って行った──「さて、頂くか。いい牛肉(・・)を」

ルドガーさんが、早速ナイフとフォークを牛肉のステーキに刺す──

 

──少し前。兵舎に戻り、身支度を終えるとルドガーさんの案内で、厨房に案内してもらった。

今から料理を始めるという料理長に、ファイアドレイクの肉を調理出来ないか? と尋ねた。

「ドレイクの肉ね……大層美味いと聞いた事はあるが、なぜそんな事を?」

恰幅のいい、人の良さそうな五十代ほどの料理長が、少し驚いた様に云う。

「尻尾を持ってきたんです。夕食に使えませんかね?」

何!? と料理長に、ざわめく厨房。

「コルバンさん、覇王の訓練場でファイアドレイクを仕留めたんだよ。その後、尻尾を回収したんだ」

「よ、よし。こっちの台に出してくれ」

料理長の名は、コルバンさんと云うのか。覚えておこう。尻尾の入った素材回収袋の口を開き、指定された台の上に、ずるりと置く。なかなかの重さ。改めて見ると、結構長いな──「剥いだ皮は、返して下さい」

 

クレイドルの言葉に、うんうんと上の空で答えながら、コルバンはファイアドレイクの尻尾を指で押しながら云う。

「いい肉質だ。よし……ステーキだな」

ニヤリ、と深い笑みを浮かべ、コルバンが楽しそうに云った。

 

見習い達には、ドレイクの肉は牛肉という事にして振る舞った。魔獣の肉だと知れると、面倒な事になるとの判断からだ。

「牛肉の上位版、て所だな」

とは、コルバンさんの言葉だ。ファイアドレイクの皮は、どう使えるかな……?

 

 

夕食後は、いつもの居酒屋に移動。報告書についての、ちょっとした会議だ。

少し離れたテーブルを取って貰った。今の段階で、覇王の訓練場のルール(・・・)を他人に聞かれるのは、よくないとの判断からだ。

守秘する訳ではない。確証がある程度得られるまでは、他の騎士団や衛兵にはまだ聞かせられないからだ。

とはいえ、五人の男達の胸中は、『ほぼ確実だな』との考えである。

 

蜂蜜酒(ミード)と黒ワイン、お待ちどうさまで~す。お食事の方、すぐ来ますから~」

いつもの猫族の女性店員ではなく、少しそばかすの残る、赤毛のショートヘアーの娘さんだ。

顔を赤らめ、チラチラと俺に視線を送っていた……何ぞ?

 

「相変わらず、罪作りだな」

グランさんが俺を横目で見ながら、黒ワインに手を伸ばす。サイモンさんとイアンさんが苦笑を浮かべ、それぞれ蜂蜜酒と黒ワインを手に取る。

「俺も浮いた話、欲しいぜ全く」

ルドガーさんが、がぶりと黒ワインを喉に流し込んだ……解せぬ。

俺は蜂蜜酒を取り、一口啜る。独特の甘さと少しの酸味。うん、美味い──

 

報告書の内容を取りまとめる。それほど複雑ではなく、『入る者の強さで、出現する魔獣と魔物の強さが変化する可能性有り。今後も検証は必要』という方向で報告書をまとめる事に決まった。

もちろん、“俺の憶測”の件は除外して貰った。

 

料理が到着した。大振りの白身魚の塩煮、鶏と山菜の煮込みに、山葵葉の刻み漬け。

うむ、何とも堪らない注文だ。特に山葵の刻み漬けが──「これが、山葵葉の刻み漬けか……初めてだ」

サイモンさんが、奇妙な物を見るように呟く。

「一度は試してみたらどうです?」

そう勧めながら、箸を伸ばす。美味いんですって。

塩味のタレに漬け込まれた山葵葉は、相変わらずの旨みと刺激を与えてくれる……ツン、とした刺激が、鼻から後頭部に伝わる。これだよな、これ。

蜂蜜酒で刺激を流し込む。サイモンさんが刻み漬けにフォークを通し、口に運ぶ──すぅっ、と鼻で息を吸うと、蜂蜜酒に口を付ける。

「いや、これは……美味い、かも」

涙目になりながらも、きっぱりと云うサイモンさん。ルドガーさんは、サイモンさんを疑わしい目で見ている。

 

「さ、取り分けたぞ」

イアンさんが、それぞれの取り皿に白身魚の塩煮を分けて配ってくれた。白身からは、温かそうに湯気が立っている。

こちらも美味そうだ。イアンさんに礼を云い、早速口に運ぶ。何だろうな、塩味の中に甘味を少し感じる──美味い。

煮汁を充分に吸った白身は箸で摘まんでも崩れる事無く、歯応えを感じる。

「相変わらず、器用に箸を使うものだな」

優雅に塩煮を摘まみながら、グランさんが云う。

鶏と山菜の煮込みも美味い。鶏の柔らかさと山菜の歯触りが良い。酒に合う、さっぱりとした味付けだ。

 

追加の酒と摘まみを頼み、明日の予定を話す。

「計らずも四日目になったが、明日は朝食後に帝都に戻るか」

サイモンさんが云った。見習い達の実戦訓練も済み、覇王の訓練場のルール(・・・)もある程度分かった事で、引き時と決まった。

「お酒とお料理でーす」

猫族の女性店員だ。俺をチラリと見てウィンクをした。手際よくテーブルに酒と料理を並べ、俺に小さく手を振り、厨房に戻って行った──「どうしたら、女にモテるんだろうな……」

黒ワインのグラスを手に、ルドガーさんが遠い目をして呟く。酔っているなあルドガーさん……。

「優しかったら、いいんじゃないですか?」

適当に云い、揚げじゃがに手を伸ばす。塩と香辛料がしっかりと効いていて、美味いんだよな。

「利いた風な口をきくな!」

ルドガーさんが、黒ワインを一気に呷った。

ぐっふ、サイモンさんとイアンさんが酒を吹き出しかける。

グランさんは顔を伏せ、肩を震わせている──笑いを堪えているな?

 

ルドガーさん、その台詞はこんな時に使うものじゃあないですよ……。

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