邪神の子 ~赤き瞳のクレイドル~   作:末末

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第145話 “碧水の翼”再起動(リブート)

 

 

朝食後、荷物をまとめて兵舎を出た。見習い達を先行させ、馬車で帝都に帰還する。帝都と覇王の訓練場は、距離にして一時間少し。

帝都から、三日と少し離れていたが、何か懐かしい気がする。軽く揺れる、六人乗りの馬車の中──妙に眠気を感じていると、グランさんが声を掛けてきた。

「そういえばクレイドル。お前の姉、ミザリアスさんに行き場所(・・・・)を告げて、留守にすると伝えていたか?」

そういえば──ぞ……く──眠気が、消えた。

 

 

帝都に到着。見習い達の馬車は、そのまま暗黒騎士団の兵舎に向かっていく。

教官のルドガーさん達は、副団長に直接、報告に行くそうだ……一先ず、俺は街中で馬車から降りた。

「後から、暗黒騎士団支部に呼ばれるかもしれないからな。なるべく、宿に待機していてくれ」

グランさんから、馬車内でそう云われた。

約、四日の留守か……“黒山羊の蹄亭”、アルガドさんの宿に戻ろう……何か妙な胸騒ぎがするんだよな。

 

「いらっ……おう、クレイドル。今帰りか」

グラスを研いている途中のアルガドさん。

「ええ、ただいま。荷物を置いてくるので、鍵をお願いします」

はいよ、と鍵を渡してくるアルガドさんに礼を云い、階段を上がる。

随分、長く家を空けていたような気分だ……それだけ、ここの宿に馴染んでいるという事か。

部屋に入ると、目に写るのは見慣れた風景。武器棚に掛けられた“魂食み(ソウルスレイヤー)”。

そして、武器棚の横に立て掛けられたバトルアクス。机にテーブル、きちん整えられた清潔なベッドにカーテン。何もかも変わってなく、安心する。

さて、着替えるか──帰ってきたんだ。

 

この沁々とした気持ちが、直ぐに打ち破られる事になるのを、クレイドルはまだ知らない──

 

 

「お茶をお願いします」

いつものカウンター席に座る。おお久しぶり。思わず撫で回してしまう。

「あいよ、お待ち」

コトリ、と湯気立つ大きめのティーカップ。香辛料入りの香草茶を啜る……はあ~、安心する味だな──「クレイ」──久しぶりに、実家のリビングでお茶を飲んでいるという感じだ──「クレイ」──もう一杯、頼むか。

「アルガドさん、もう一杯──」

「クレイドル」

アルガドさんが、グラスを研く手を止め、俺の背後を見つめていた……何ぞ?

その視線を追い、振り返る──ジト目の微笑みを浮かべた、我が姉。ミザリアスさんが立っていた。

 

カウンターから席を移して、一階食堂の端の席。ミザリアスさんと食事を取る、いつもの席だ──「クレイ? この四日間、何処に行っていたんです?」

果実水に口を付けながら、ミザリアスさんが尋ねてきた。

というか、ミザリアスさんは受付嬢姿なんだが、仕事を抜けて来たのか?

それを聞くとやぶ蛇になりそうので、聞かないでおこう。正直に、話す以外ないな。

「三日ほど前に、覇王の訓練場での暗黒騎士団の見習い達の訓練補佐を、依頼されたんだよ。それを受けたんだ」

うん。正直に話したぞ──香草茶を啜る。

 

「何故、それをお姉ちゃんに話さなかったのです? 私はそれほど、頼りにならない姉なのですか?」

頼りにならない、という部分はよく分からないが、ミザリアスさんからしたなら、一言云って貰いたかった──という事なのだろうな……そう考えたならば、まあ……うん。

「姉さん、ごめん。心配……かけたくなかったんだよ。姉さんが聞いたら、絶対に反対しただろう? だから、その……わざと云わなかったんだよ。心配かけて、本当に、ごめん……」

邪神の加護、発動せず! 脳をフル回転させ、無いこと無いことを口に出した! 我ながら、なんて台詞回しだ! これで、通じろ!

「なるほど……私に心配をかけたくなかったというのね。ふふ、当然よね。もう、本当に心配したんだから……」

やれやれ、とばかりにミザリアスさんは果実水を飲み干す……済んだか、この話し合いは──

「……覇王の訓練場から、帝都まで一時間少しよね? 手紙なりで、連絡出来たと思うのだけれど……?」

マジか!? 第二ラウンドか! どうするればいい? どうすりゃしのげる?

 

「あー! クレイドル、どーこ行ってたのよぉー!」

ドワーフの冒険者、リリン・ウィンターヒルがずかずかと、黒山羊の蹄亭に入って来た。

俺達のテーブル席にどかりと座り、エールと厚切りチーズを注文する。

いつの間にか、テーブル席近くに位置取っていた黒山羊の蹄亭の店員、レイナさんが注文を手早く受け付け、厨房に去って行く。

「まあ、いいわ……クレイドル、帝都から離れるなら、私に一言伝えてね」

じっ、と目を覗き込んで来るミザリアスさん。目を逸らさず、「はい」と、しっかりと答えた。

 

「エールと厚切りチーズ、お待たせしました。他に、ご注文ありますか?」

レイナさんの明るい声。明るい内から酒はな……まあ、たまにはいいか。

「果実酒炭酸割りと、ソーセージと卵焼きを頼めますか?」

「はい! 大丈夫ですよ!」

ハキハキと明るく答えるレイナさんが、頷く。

注文を受け、何とも嬉しそうに厨房に駆けて行くレイナさん。

「……ああいう娘が、好みなの?」

赤く輝くジト目で、レイナさんを見送るミザリアスさん。危険だな、これ……。

「違います」

きっぱりと云っておく。

 

朝っぱらから軽く飲み、少しばかり雑談してお開きとなった。

ミザリアスさんからは、帝都外に出るなら、必ずギルドに報告する様にと釘を刺され、リリンからも同様な忠告を受けた──部屋に戻るか。

時間は、昼前になっている……昼食は、いいかな。

今は、ゆっくりと眠りたい。覇王の訓練場での疲労を、しっかりと回復しとかないとな──ベッドに横たわり、ふう、と大きく息を吐く……直ぐに、意識が離れていった──

 

 

ココ、ココン……ノックの音に目が覚める。

「はい、大丈夫ですよ」

ベッドから起き、答える。開いたドアから、レイナさんが顔を出した。

「お休みのところ、すいません。グランさんという方がお越しです」

覇王の訓練場の件だな……よし。着替えは必要ない。一休みする前に浄化で小綺麗にしているからな……「直ぐに、行きます……これ、取っておいて下さい」

銅貨五枚を、レイナさんの手に滑らせる──ひゃっ、とレイナさんの声。

 

漆黒の髪を結い上げた、黒ずくめの男がカウンター席に座っている。グランさんだ。

その隣に座り、アルガドさんに炭酸水を頼んだ。

グランさんは、香辛料入りの香草茶を飲んでいる。香辛料の香りが漂って来た。

「ゆっくり休めたか?」

目を細めながら、香草茶を啜るグランさん。

「ええ、充分に……姉がらみで少し怖い事がありましたが」

「ほら、炭酸水だ……ミザリアスはなあ」

アルガドさんが苦笑しながら、炭酸水をカウンターに置く。

 

「騎士団支部に行けばいいんですか?」

炭酸水を喉に流す。いい刺激だ。

「ああ、それは大丈夫だ。私達で報告書をまとめて、副団長に提出したよ。近い内に他の騎士団と情報を共有する事になった」

二杯目の香草茶を啜るグランさん。

「それと、もう一週間過ぎようとしている。“碧水の翼”もそろそろ活動再開だろう」

くうっ、と香草茶を干すグランさん。そうか……そろそろ、か。

「今回の報酬だが、冒険者ギルドで受け取ってくれ……確か、金貨三十枚だ」

「多すぎませんか?」

二杯目の炭酸水を注文する。三日の約束で、金貨三十枚は多いよなあ。

あいよ、とアルガドさん。炭酸水を受け取る。

 

グランさんに、冒険者ギルドに付き合ってもらう。金貨三十枚は、俺一人の手に余る。

通帳係りのグランさんに頼んで、パーティー口座に入金してもらおう。

ギルド内の正面カウンターには、ギルドマスターのシュウヤさんが、書類仕事をしていた。テキパキと、手際が良いな。

 

俺とグランさんに気付いたシュウヤさんが、書類から顔を上げた。

「ああ、クレイドル君にグランさん。暗黒騎士団支部から話は聞いていますよ。部屋で話しましょう」

ギルドマスター室に案内するため、すい、と立ち上がるシュウヤさん。

副ギルドマスターの、魔族のライザさんに促され、シュウヤさんの後を追う俺達。さて、どんな話かな……。

 

「まずは、暗黒騎士団支部からの報酬、金貨三十枚。それとクレイドル君は昇格です。暗黒騎士団への貢献は、冒険者ギルドへの貢献と認めます……初級は卒業、今日をもって中級のEクラスです。冒険者証を出してください」

金貨の入った袋を、磨かれた応接テーブルに置くシュウヤさん。俺はライザさんに、冒険者証を差し出す。

「確かに、お預かりします。更新いたしますので、帰りにでもお受け取りください」

ライザさんが、側に控えていた職員に冒険者証を渡す──中級のEクラスか。

レンディア達に、少しずつ近付いたかな……。

「グランさん、報酬の内、金貨二十五枚をパーティー口座に入金しておきましょう」

俺一人の収入としていいような、額とは思えないからな──「いいのか?」とはグランさんの言葉。

「いいんです。手持ちに、金貨五枚あれば充分過ぎますよ」

「……分かった。後で手続きしよう」

 

ギルド内では、ミザリアスさんには会わなかった。まあいい……リリンも見当たらなかったな。

昼食まではまだ早いのだが、さてどうするか?

中途半端に時間が出来たな……「グランさんは、この後どうするんです?」

「今は公務中なんだ。用が済んだなら戻らなければならない……すまんな」

「いえ。気にしないで下さい。近い内に、“碧水の翼”が再活動と、覚えておきます」

うむ、と微笑むグランさん。じゃあ、と冒険者ギルド前で別れる。

さて……宿に戻って、少し昼寝でもするか。

昼食は、抜かしてもいいかな……。

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