邪神の子 ~赤き瞳のクレイドル~   作:末末

166 / 245
──川の流れに石ころ一つ放り込みゃ。沈むか流れてどこかに行くか。
でなけれゃ、流れを大きく変えるか──

マルザス・グルスの数え歌


第146話 休暇の終わりと新たな動き

 

 

 

冒険者ギルドには出向かず、部屋でゴロゴロと過ごす事にする。

リリンとミザリアスさんと、宿内で食事をして酒を飲むくらいだ。外に出るつもりは無い。

“再始動”まで、のんびりとしたいんだよな──何も考えず、だらだらとする時間も大事だと習ったんだよ。

“碧水の翼”の面子が集まるのは、いつになるかな……もうじきとはいえ──それぞれ、都合があるだろうしな──ちらりと、部屋に備え付けの時計を見る。

午後の一時少し、か……昼食は、どうするかな。

面倒だな。夕食まで眠るか──眠るのは、得意だからな…………すう、ふうと鼻で息をする。

うん、気持ちが落ち着く──ゆったりと枕に頭を沈め……意識が、ふわりと消えた。

 

コン、コココン──遠慮がちだが、ちゃんと部屋に響く音。

「はーい」

ふう、とベッドから起き上がる。時間は──午後の五時少し。そういえば、夕食前に起こしてくれと頼んでいたっけか。

カチャリ、とドアが開き、レイナさんが顔を見せて来た。

「夕食、少し前ですよ」

それだけを告げ、一礼すると去って行った。もうそんな時間か──大きく欠伸をする。夕食は、何だろうな──一応、浄化で体を清める。

夜にでも、一風呂浴びるか……妙にだらついている感じだが、今は休暇中という事でいいだろう──よし、食堂に行くか。

 

一階、いつもの端のテーブル席に付く、夕食目当ての宿泊客もちらほら見える。談笑していたり、お茶を飲んでいたりと、様々だ。ちょっと、一服するか──「レイナさん、煙草盆を貸してくれませんか。あと、香草茶を冷たいのでお願いします」

当然の様に、テーブル近くに待機していたレイナさんに注文をする。

前に、付きっきりでいいんですか? とアルガドさんに聞いたら、曰く──「忙しくない限りは、好きにさせとくよ」との事だった。

 

「直ぐに、お持ちしますね!」

明るく応え、奥に戻って行くレイナさん。さて、そろそろミザリアスさんとリリンが、来る時間かな……煙草盆と香草茶が運ばれて来た。

レイナさんに礼を云い、早速煙管に煙草葉を詰め、生活魔法で火をつける──

“深風”だ。苦味と甘味を同時に味わえる、爽やかな香りの煙草。

ぷかり、と煙を吐く──微かな苦味と甘味と、爽やかな香りが吹き抜けて行く。

 

 

今日の夕食。鶏と根菜のシチューに、鶏の照り焼き。酢漬け野菜──パンか米の二択。うん、米だな。

「クレイと同じ物で。あと、目玉焼きを半熟でお願いしますね」

「あたしも、米でおねがーい。エールお代わりねー」

食事の時間が、だいぶ賑やかになった。ミザリアスさんとリリンと一緒に夕食を取る事が、ここ最近の習慣みたいになっていた。

 

「“碧水の翼”の活動も、直に始まるんでしょ?」

がぶり、とエールを飲み干しながらリリンが尋ねてくる。食後は、酒の時間だ。

「ああ、メンバーが集まるのを待っているんだよ」

果実酒炭酸割りを口に含む。うん、いい香りと味わいだ。

摘まみは、塩の炒り豆と香辛料をまぶした生ハム。

「あたしの仲間達も、直に帝都に戻って来るでしょうね。注文、お願いしまーす!」

リリンが、エールとオウルリバーをショットグラスで頼んだ。

「確か、リリンさん達のパーティー名は──“霧雨の風(ミスト・ウィンドウ)”ですよね?」

優雅な手付きで、生ハムにフォークを刺すミザリアスさん。

霧雨の風(ミスト・ウィンドウ)か……いいパーティー名だな……。

 

オウルリバー炭酸割りを、ぐびりとやる。炭酸割りは、チビチビやるものじゃない。炭酸の刺激と、オウルリバーの香りを楽しむものだ。

「クレイドルのパーティーは、いつくらいに戻って来るの?」

リリンは、オウルリバーをちびりと含むと、エールで一気に飲み下す。

ウィスキーのチェイサーに、水ではなくエールか。そういう飲み方、この世界にもあるんだな……まあ、ドワーフらしいな。

「休暇は一週間程度だから……明日か明後日には、合流出来るだろうな」

オウルリバー炭酸割りを飲み干し、塩の炒り豆に手を伸ばす。

 

 

早朝、夜明け前に目が覚めた。目覚めは悪くない……カーテンの隙間からは、明け方前の冬の空が覗き見えた。

魔力制御には、うってつけの時間──よし。顔を洗ったあと、裏庭で魔力制御といこうか……。

 

夜明け。裏庭のベンチに腰掛け、魔力制御を行っている。

裏庭が陽光に照らされると共に、魔力制御終了とする──一、二時間くらいはやったか?

軽い倦怠感を感じるが、頭はスッキリとしている……悪い気分じゃない。

煙草盆を引き寄せ、煙管に煙草葉を詰める。生活魔法で火をつけ、ゆっくりと吸い込み──ぽかり、と煙を吐く。

煙草の煙が、陽光の中をゆうらりと漂って行く。

今日の朝食は、何だろうか?

 

部屋に戻り、身支度を整える。朱色を基調とした服──いつ買ったっけか? この服……まあいい。

朝食の時間はレイナさんが知らせてくれるから、少しのんびりするとしようか……ごろり、とベッドに横たわる。

 

 

「私は茹で玉子を、半熟でお願いします」

朝食の時間。ミザリアスさんが丁度の時間にやって来た。

朝食のメニューは、鶏と葱の雑炊に玉葱の酢漬け。それにプラス一品で、茹で玉子。朝ならではの、シンプルなメニューだ。

「“碧水の翼”が再始動したなら、その後の行動はどうするか考えているんですか?」

茹で玉子の殻を、丁寧に剥きながらミザリアスさんが尋ねて来た。

今後の行動なあ……正直、分からん。

リーダーのレンディアとシェーミィが帰還して来ない限りは、分からん。

俺の茹で玉子を、ひょいと取り上げ殻を剥くミザリアスさん。

ペキ、パリと茹で玉子の殻が、テーブルに落ちる。

俺の茹で玉子は、固茹でだ──「はい」とツルツルの茹で玉子を差し出してくるミザリアスさん。

 

共に朝食を終え、ミザリアスさんは職場に戻って行った。

その際、「帝都から出るなら、必ずギルドに報告して下さいね」と、釘を刺してきた──

 

 

朝食後は、相変わらずだらだらと過ごす。少しの眠気を覚えつつ、ベッドの上で左右に反転しながら、だらりと過ごす──なかなかにいい時間だ。

怠惰に、のんべんだらりと過ごす時間──いずれやって来る、新しい流れに備えての時間だと、直感的に感じている。

……さて、“碧水の翼”の再始動も近いだろうな。

直感が囁いている──本格的に眠気がやって来た……毛布を首元まで引き上げ、身を縮ませて眠りの体勢に入る。

昼までは、ゆっくりと眠れるな──クレイドルは、夢を見る事も無い、深い眠りに沈み込んでいった…………。

 

 

コココ、コン──遠慮がちだが、よく通るノックの音。レイナさんか。部屋に備え付けの時計を見る。昼少し前といった時間か。

「どうぞ」

ノックに応えると、レイナさんがドアを開ける。

「レンディアと名乗る方が、お越しです」

来たか。眠気が消えた。“碧水の翼”再始動までもう少しだ──「すぐ行きます……ちょっと待って下さい」

銅貨五枚を、レイナさんに手渡す。

少しもじもじとしながらも、礼を云い受け取るレイナさん。

グレイオウル領の定宿、“灰月亭”のルーリエちゃんを思い出した。

「あ、ありがとうございます……」

頬を少し赤く染め、囁く様に礼を云うレイナさん。

 

一階に降りる。カウンター席に、見慣れた緑色のケープコートを羽織った女性が座っていた。

足元に、無造作に旅の荷が放り置かれている──銀色の髪が、コートの背に綺麗に流れている。

「アルガドさん、香辛料入りの茶を下さい。塩の炒り豆もお願いします」

おう、少し待ちな、とアルガドさん。

「香辛料入りのお茶は、この時季には何とも堪えられないわよね」

ふう、と茶に息を吹き掛けながら啜るレンディア。

 

 

レンディアは当然の様に、ここ“黒山羊の蹄亭”に宿を取った。取り合えず三泊。俺も、三泊で再更新した。

グランさんは直ぐに連絡が付くが、シェーミイがいつ戻るかは、少し分からない。猫だからな。

皆が揃ってからが、“碧水の翼”再始動だ。

荷物を部屋に置いたレンディアと合流。昼食は、ここで取る事にした。

久し振りに、黒山羊の蹄亭の食事を楽しみたいとの事だ。

それを聞いたアルガドさんが嬉しそうに微笑み、「腕によりをかけるからな」と云った。

 

「ねえ、あの店員さん何なの?」

小声で尋ねてくるレンディア。いつもの、端のテーブル席に着くと、当たり前の様に近くに待機するレイナさんの事だ。

「うん。まあ、そういう係り何だよ」

「係りって何の!?」

アルガドさんに呼ばれたレイナさんが、俺達に一礼すると厨房に向かって行った。

 

「おう、お待ちどうさん。豚と根菜の香辛料たっぷりシチューに、白身魚と赤身魚の炙り焼き。青菜と茸のバター炒めだ。そうは店に出ないぞ」

アルガドさん直々に、料理を運んで来てくれた。

「ゆっくりしていきな、お嬢」

アルガドさんは、厨房に戻って行った。

シチューの、食欲をそそる香辛料の薫りが、何とも言えない。

炙り焼きにされ、一口大に切り分けられた魚の炙り焼きも美味そうだ。

青菜と茸のバター炒めからは、バターの良い香りが漂って来ている──レイナさんが取り皿に、魚の炙り焼きと、青菜と茸のバター炒めを取り分けてくれた。

レンディアが、礼を云う。

 

「お飲み物の注文は、何かありますか?」

尋ねてくるレイナさんに、レンディアが果実酒炭酸割りを頼む。

昼から酒か、と思いながらも同じのを注文した。

少々、お待ちくださいとレイナさんが一礼し、厨房に戻って行く。

「アルガドさんの、心尽くしを楽しみましょうよ」

レンディアが、早速シチューに手を伸ばす。俺は、まず魚の炙り焼きかな──

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。