邪神の子 ~赤き瞳のクレイドル~   作:末末

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幕間 待雪草(スノードロップス)ハーフランナー(駆け足族)

 

 

 

「手先が器用な、斥候役の紹介な……ふむ」

冒険者ギルドマスターのダルガンさんに、斥候役について直に尋ねてみた……。

今いる場所は、ギルドマスター室だ。折り入って相談があります、と云ったら部屋に通されたのだ。堅めのソファが、相変わらず心地良い……。

同席しているのは、受付嬢のサイミアさん。猫族特有のしなやかな体付きと、青い瞳が印象的だ。

ダルガンさんは、厳つい顎先を分厚い手で撫で回しながら思案顔をしている。

サイミアさんが入れたお茶に手を伸ばしながら、ダルガンさんが云う。

「まあ、ソロで活動している奴らには心当たりはあるがな……ハーフランナー(駆け足族)て聞いた事あるか?」

私達も、お茶に手を伸ばす──ハーフランナー。 霧雨の風(ミスト・ウィンドウ)のジャックさん達から、少しだけ聞いた事はある……。

 

「今、腕利きのハーフランナーが城塞都市にいるんだが、あいつら腰が軽いから直ぐに余所に移るんだよ。話を通したいなら、今決めた方がいいぞ?」

ダルガンさんが、お茶を啜りながら云う。

シェリナとジョシュを見る。二人が頷く──決まりね。

「会わせてもらえませんか?」

はっきりと、ダルガンさんに云う。

うん、これで良いと直感的に思った……。

「よし、早速話を通す。サイミア、手配してくれ。リーネ、おめえ達は宿で待機していろ……っと、その前にハーフランナーがどういう種族か、教えておこうか……」

 

ダルガンさんから、ハーフランナー(駆け足族)の事を教えてもらった。

善意の種族であり、悪人のハーフランナーは自分が知る限り居ないという事(多分)。

常に陽気で楽天的でお喋り。どんな時でも、前向きな種族。

勇気、という点においても信頼できる種族──そして、“落とし物をよく拾う”種族だという事。

「落とし物……ですか?」

ジョシュが、首を傾げながらダルガンさんに尋ねる。ふむ、とダルガンさん。

「例えばだ、何かしらの持ち物が見当たらねえ。さて、どこで落とした(・・・・)だろう? そういう時は、まず身近にいるハーフランナーに尋ねるんだ。こういう物、見なかったか? と」

お茶を啜るダルガンさん。続けて云う。

「十中八九、ハーフランナーはこう応える──「ああ、これの事?拾っておいてあげたよ。はいどうぞ」とな」

 

それって、あの……言い淀むシェリナに、ダルガンさんがきっぱりと云う。

「“落とし物をよく拾う”、善意の種族何だよ。それだけだ……いいな?」

ダルガンさんが、お茶を入れ換えるために席を立つ。

「斥候に、罠と鍵の解除の腕は、お墨付きの種族だ。ちなみに、ハーフランナーがパーティーにいると、不思議と財布は落とさない(・・・・・)らしいな」

トトトト……と、ダルガンさんがティーポットにお湯を注ぐ音が聞こえた。

 

 

ダルガンさんに、宿で待機している様に云われ、私達はオーガの拳亭に戻った。

お昼まで、まだ時間はあるのよね。オーガの拳亭の食事は美味しいし、値段も手頃。いい宿だと思うわ。

さて、紹介されたハーフランナー(駆け足族)が、どういう人か気になるのよね。

ダルガンさんの推薦という事なので、心配はしていないのだけど……何か、気になるのよねえ。

「すいません、サンドイッチ盛合せお願いします」

小腹が空いていたのか、ジョシュが注文をする。次いでに果実水も。

リーネは、果実水炭酸割りを頼んだ。

そうねえ……「炭酸水お願いしまーす」

明るい内から、お酒というのはちょっと抵抗あるからね。

 

大皿に盛られた、一口大に切り分けられたサンドイッチが運ばれて来た。

ハムチーズ、玉子焼きのサンドイッチに、ベーコンと玉葱のサンドイッチ。各種のサンドイッチを摘まむ──うん、小腹を満たすのにいい具合ね。

新しいパーティーメンバーか……何か楽しみでもあり、緊張もあるのよね。

ダルガンさんの紹介だから、間違いはないと思うけど──「え、これ君の? 駄目だよ、ちゃんと持っててないと。衛兵に届けるとこだったよ。大事なものだったら、きちんと管理してないと駄目だよ?」

不意に、騒がしさが巻き起こった。何だろう?

私達は顔を見合わせる。

「ああ! ミランダ、久し振りだねえ! いつぶりだろう? ちょっとした誤解と不運で、僕が留置所に入れられた時に、身元保証人になってくれた時以来かな?」

朗らかに、ペラペラ捲し立てる声にあちこちから笑いが起こる。

「はいはい、久し振りね。今日はどうしたの? 食事?それとも、泊まり?」

適当にあしらうミランダさんの声。もしかして、ダルガンさんの紹介の人って……?

 

「ううん。ダルガンさんからの紹介で、サイミアさんから、腕利きの斥候を必要としているパーティーがいるから、会ってみたらって云われてね。ここに来たんだよ」

「ふうん……で、そのパーティー名は?」

ミランダさんが、ちらりとこっちを見た。

「ええとねえ、何だったかな? 花か草の名前だったはずだよ。宵待草だったかな? それとも、竜涎花だったかな……?」

待雪草(スノードロップス)じゃなくて?」

ミランダさんが、答える。

「ああ、それだ。待雪草。寒いとこの出身かな? んで、そのパーティー来ている?」

朗らかによく通る声が、陽気に店に響く。

「ええ、お待ちかねよ。案内するわ」

 

 

「初めまして、ファルケン・スナッチフットだよ。スナッチフットというのは、家名でね。名字とは少し違うんだ。まあ、それはいいや。ファルでいいよ」

私達一人一人と握手しながら、人懐こく挨拶をするハーフランナー。

その姿は、栗色の髪と瞳をした少年だった。耳の先がやや尖っている。

身長は低めで、ドワーフほど。百五十センチくらいかな……見かけだけで言えば、同年代くらいの年齢に見えるのだけど──

「ハーフランナーはね、外見が変わりにくい種族なのよ。あなた達より、十は多く見ていた方がいいわ」

ミランダさんの言葉に、ファルケンさんがニコニコと頷く。

 

着ている衣服は、上下ともに柑橘色。茶色の革のベストを身に着けている。

少し大きめの、肩掛けバッグを斜め掛けにしていて、腰回りのベルトには、ポーチが複数掛けられている。

手にしているのは、先端に飾り付けがされた頑丈そうな杖。冒険者というよりは、旅人といった装いに見える。

よいしょっと、といった感じでテーブルに着くファルケンさん。

「ミランダ、果実水炭酸割りね。あと、酢漬け野菜もね」

はいはい、とファルケンさんの注文を受けるミランダさん。

 

ミランダさんが、私にそっと耳打ちしてきた──「会話のペースに巻き込まれない様にね。キリ無いわよ」──と。

確かに……ジョシュ達は、早くもファルケンさん──ファルの会話に引き込まれていた。

 

ハーフランナー(駆け足族)の故郷は、スプリンターヒルと云うんだ。周囲を小高い丘に囲まれた土地でね。ちょっと大きな街程度の、小さな国なんだ。ハーフランナーの御先祖が、竜とのなぞなぞ勝負に勝ってね、かなりの財宝を手に入れたそうなんだ──あ、果実水炭酸割りのお代わり下さい──それを元手に、土地を買ったんだ。それが、今のスプリンターヒルなんだよ」

へえ~、と話に聞き入るジョシュとシェリナ。

ファルは果実水炭酸割りで喉を潤し、サンドイッチ盛合せを口に運んでいる。

 

「今の話……本当ですか?」

疑う訳じゃないんだけど、若干の疑問が湧くのよねえ……注文を聞きに来た、ミランダさんに尋ねる。

「本当だとは思うわ。ただ、前に聞いた時は竜じゃなくて、炎の魔神だったけれど」

ミランダさん曰く──ホラ話はしないとは思うけれど、同じ話を聞く度に細部がコロコロ変わるので、今一つ信じきれないそうだ。

もうお昼にいい時間なので、昼食を頼む事にした──ついでに、ファルの長話を止めるためでもある。ハーフランナーがどういう種族が、何となく分かった気がする。

 

「はーい。お昼の注文、聞くわね~」

ミランダさんが云うには、今日のおすすめは、チキンソテーにポテトサラダ。丸パンに豆とトマトのスープだそうだ。うん、それに決まりかな。

皆、同じメニューにした。その方が早く出来上がるからね。

「城塞都市には、何時まで止まるか決めている?」

果実水炭酸割りを口に運び、ファルが尋ねてくる。そうねえ……挨拶したい人達がいるんだけど、まだ城塞都市に戻って居ないし……。

 

「明後日には、帝都に向かうつもりよ」

シェリナとジョシュとは、そう決めている。

「僕は構わないよ。リーダーの決定に従うさ」

ニコリ、と無邪気に笑いかけてくるファル。シェリナとジョシュが頷いた。

「は~い。お待ちどうさま~」

ミランダさんの声とともに、チキンソテーのソースが匂ってきた。

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