邪神の子 ~赤き瞳のクレイドル~   作:末末

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第147話 碧水や 帝都の内に 猫を待つ

 

 

早朝、魔力制御を終えて部屋に戻る。

カーテン越しの陽光が、部屋に射し込んでいる──ゆらゆらと、外からの風にはためくカーテンの隙間から漏れる陽光が、何とも云えない風情を感じさせる……おっと、朝食に遅れると面倒な事になるな。顔を洗うべく、タオル片手に洗面所に向かう。

「浄化」で済ませてもいいんだが、やはり水でシャキッとした方が、気持ちいいんだよな──

 

少し早めに、一階に降りる。いつもの、端のテーブル席に着き、自前の煙草盆を前にして朝食の時間までゆっくりと煙管を楽しむ──うん、いい時間だ。

ぷかりと、宙に煙を浮かべながら、ぼんやりと過ごす時間は貴重だ。

直に朝食の時間──今日の朝食は、何かな……ふうっ、と煙管を吹く。

いつの間にか、レイナさんが近くに立っていた。

「おはようございます……朝食までは、まだ少しありますけど?」

「炭酸水を、お願いします」

思わず頼んだ。はい、少々お待ち下さいね、とレイナさんが明るく言い、厨房に戻って行った。

 

……そういえば、レンディアも同じ宿なんだよな。ミザリアスさんと一緒に、朝食を取る事になるのか?

レンディアの事をどう紹介すればいいんだろうか……“碧水の翼”のリーダーです──か?

いや、まてよ。確かミザリアスさんは、ラーディスさんを後見人として、冒険者ギルドに就職したと云っていたな。

だったら、レンディアとミザリアスさんは面識があるんじゃないか……?

まあ、いい。直に分かるさ……ゆったりと煙管を吹かす。

 

 

煙管を吸い終え、二杯目の炭酸水を注文した頃に、ミザリアスさんがやって来た。ニコニコと、機嫌良さげに向かいの席に座る。

「今日の朝食は、何です?」

レイナさんに尋ねる、ミザリアスさん。目が笑っていない……店員さんに、圧をかけるのはどうかと思いますよ、姉さん?

「今日は、鶏と青菜の雑炊に大根の酢漬け。それと茹で玉子です」

ミザリアスさんの圧に動じる事なく、きっぱりと云うレイナさん。

朝っぱらから、女の闘いは是非止めて頂きたいのだが……?

 

「あれ、ミザリアスさん? クレイドルも一緒なの?」

二階から降りてきたレンディアが、席に着く。適当に纏めた髪。今だ眠気が取れていない寝惚け顔──うん。年頃の女子が見せていい顔付きではないな。

着古した長袖を、肘まで捲り上げている。長ズボンにサンダル。とても、貴族の出身には見えない出で立ち──「レンディアさん、もう少し身嗜みを……」

呆れたように、ミザリアスさんが云う。

「いいわよ。今は冒険者だから……炭酸水と、朝食をお願いね」

あくび交じりにレンディアが、レイナさんに注文をする。

「じゃあ、俺達も朝食をお願いします」

「私の茹で玉子は、半熟でお願いしますね」

分かりました、とレイナさんが一礼して厨房に戻って行った。

 

うん? 今の会話からしたならば……やっぱり、レンディアとミザリアスさんは顔見知りか。

「二人は知り合い何ですか?」

改めて、ミザリアスさんに尋ねる。ミザリアスさんとレンディアが、顔を見合わせる。

「知り合いも何も、ミザリアスさんは一年ほど、グレイオウル家で働いた後、兄上が後見人になって帝都の冒険者ギルドの職員になったのよ」

そういえば、ラーディスさんがミザリアスさんの事を云っていたなあ……俺の心配は、杞憂だったか。まあ、良かった。

 

「朝食、お待ちどうさまで~す。酢漬け野菜と茹で玉子、直ぐにお持ちしますね~」

レイナさんが、三人分の朝食を危なげなく運んで来た。

雑炊の匂いが、何とも食欲をそそる。朝食にはベストな食事だ──「いただきます」

スプーンで雑炊をすくう。刻まれた鶏肉と青菜。少し崩れた米が、スプーンに乗る。すうっ、と一口に啜る──熱い。

だが美味い。これは、鶏出汁だな。

うん……うん、美味いぞ。あっさりとしながらも、充分な味わいが口内に広がる。食が進むな──この出汁は大概の汁物、麺類に合うだろう──美味い。

 

朝食後の食休み。お茶の時間だ。ミザリアスさんとレンディアも、ゆったりとお茶を楽しんでいる……ミザリアスさん、冒険者ギルドの仕事は大丈夫なのだろうか?

「レンディアさん、“碧水の翼”は、しばらく帝都で活動するのですか?」

香草茶を啜りながら、ミザリアスさんがレンディアに尋ねる。

「う~ん……メンバーが集まり次第で、決める事になるでしょうね」

今現在、帝都にいるメンバーは、俺にレンディアにグランさん。後はシェーミィ待ちだが……直ぐに帝都に来るかなあ?

「まあ、シェーミィ待ちね。それまではのんびりしてましょうよ」

香草茶を干しながら、レンディアが云った。

 

 

お茶の時間を終え、ミザリアスさんは冒険者ギルドに戻って行った。

その際、「帝都から出る時は、必ず私に報告して下さいね」と再び釘を刺して来た。

冒険者ギルドにではなく、自分にというのがミザリアスさんらしかった……。

「クレイドル、ミザリアスさんとはどういう関係なの? 親しい感じだったけど」

ああ、それな。

「……姉弟何だよ」

「ふうん? 似ている、と云えば似ているわね」

レンディアは、俺の髪と瞳を見ながら云った。うん。云いたい事は分かる。

 

今日の内に、シェーミィは帝都に来ないだろうとレンディアと話す。グランさんに、レンディアとの合流を報告しに行く事を引き受けた。

出来れば、昼か夕食を一緒に取ろうと伝えてくれとも云われた。

「もう一杯お茶を飲んでから、行くとするよ」

当然の様に、テーブル近くに待機しているレイナさんに、香辛料入りのお茶を頼む。

「私にもお願いよ」

レンディアの注文に分かりました、と一礼して厨房に向かって行くレイナさん。

「久し振りの帝都ね……クレイドル、色々見て回った?」

そうだな……観光スポットは、皇妃の庭園に行ったくらいか。

「皇妃の庭園には行ったな。椿の並木道が良かった」

「ああ、椿並木ね。うん、あそこは特に有名だからね」

観光スポット以外にも、色々と帝都の事について話す。観光や帝都周辺のダンジョン等について。

「お茶、お待たせしました」

新しいティーポットを運んで来た、レイナさん。

ティーポットからは、さわかやな香りが溢れて出ていた──

 

レンディアは、昼までのんびり過ごすと云い、部屋に戻って行った。

さて──暗黒騎士団支部に出向くとするか。

約束は取り付けていないが、会えるといいな……何だったら、伝言だけでも伝える事が出来ればいいか。

一旦部屋に戻り、身支度を整える──コートを着込み、マフラーで口許を覆って手袋を着ける──防寒対策をしっかりしておこう。

宿から出る際に、アルガドさんから声を掛けられた。

「おう、クレイドル。気を付けてな」

アルガドさんの声に、手を上げて答える。

 

宿から出ると、風の冷たさが身を覆って来た──おお、本格的な

冬到来だろうか?

いいな。冬好きの俺としては、何とも心踊る。ふうっ、とマフラー越しの息が白く漂う。

暗黒騎士団支部に向かうか……特に急ぎでもないが、馬車を使ってもいいな。宿の近くの馬車乗り場に向かうか……。

 

 

暗黒騎士団支部に到着。門は開放されていて、衛兵らしき人達は居ない。前来た時もこうだったな……門を通ると、すぐに受付所が見えた。早速中に入り、カウンターに向かう。雰囲気が、役所っぽいんだよな。

襟元が銀色で縁取られた、黒い制服を着た女性が書類仕事をしている。

「すいません。予定は入れていないのですが、騎士のグランさんとの面会をお願いしたいのですが」

声をかけると、すい、と書類から顔を上げる女性職員。

公務員ぽい雰囲気だな……職員は、まじまじと俺の顔を見つめてくる。

何ぞ?……ああ、マフラーか。顔をはっきりと見せないとな。

マフラーを引き下げて、改めて用件を告げる。

 

「騎士の──」

「……あ、ああはい。直ぐにお取り次ぎしますね! 少々お待ち下さい!」

ガタガタと椅子を鳴らしながら、職員さんが席を立ち、何処ともなく去って行った……マフラーを引き上げ、周囲を見回す。

ほう……と、熱っぽい吐息が聞こえた……何ぞ?

 

「訓練場にご案内しますね。どうぞこちらへ」

少し待っていると、カウンターで相手をしてくれた職員さんが案内してくれた……心なしか、少々衣服と髪形が乱れている気がするが……?

 

誰が訓練場に案内するか?

揉めに揉めた挙げ句に、「私が責任者よ」の一言で収めたのは、クレイドルを受け付けた職員だった(多少の取っ組み合いはあったが)。

 

 

喧騒が聞こえて来た。鉄と肉体がぶつかり合う音に雄叫び……おお、冒険者の訓練場を思い出すな。何とも心地いい喧騒だ。

「あ、あの。グランさんの元にご案内します。こちらへ、どうぞ」

顔を赤らめ、ぎこちなく云う職員さんの案内の元、訓練場を横切る。

やがて、グランさんの姿が見えた。全身を、漆黒の武装で固めた暗黒騎士の姿。

案内してくれた職員さんが、グランさんの元に駆け寄って行き、何かしら話をしている。

直ぐにグランさんが俺に気付き、軽く頷いて微笑む。

 

「レンディアが来たか。シェーミィは?」

「まだですねえ……まあ、猫ですから」

ふふん、と微笑むグランさん──俺達は騎士の訓練を眺めている。

ほぼ実戦形式の、ぶつかり稽古が続いていた。

生傷が絶えないだろうな、あの調子じゃなあ……これが、騎士の訓練なのか?

訓練場の周囲を見回すと、見物人が何人もいるのが見えた。

市民だけじゃなく、 冒険者(同業者)らしき連中も見えた──見た様な顔もいるな。

「荒っぽいだろ? 騎士とはいえ、基本は腕っぷし何だよ。まあ……それだけで収まらないのが宮仕えの面倒なとこ何だけどな」

グランさんがのんびりと云う。

怒号にも似た号令の元、二つに別れた騎士達がぶつかり合う。

 

「グランさん、昼か夕食に、食事を取らないかと、レンディアから言付かっているんですが?」

「昼は、帝都騎士団と神聖騎士団との懇談会があるんだよな。夕食なら時間は取れる。レンディアにそう伝えてくれ。宿に行けばいいな?」

グランさんの言葉に頷く。

夕食まで、のんびりとするか……「じゃあ、グランさん。夕方に」

「ああ。後でな……碧水の翼は、シェーミィ待ちだな」

「まあ、のんびりしましょうよ」

ふうあぁぁ~、と背伸びをする。

我ながら、シェーミィと変わらないな……全く。

グランさんが苦笑するのが、目の端に見えた。




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(゚∈゚ )クルッポポー
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