邪神の子 ~赤き瞳のクレイドル~   作:末末

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第14話 座学と投擲訓練

 

黒板を前に、レンケインさんがチョークで書き込みをしながら解説をする。

俺の手元には、わざわざレンケインさんが用意してくれた、プリント用紙ならぬ、簡単な説明用紙。簡易なものではあるが、レンケインさんの解説を聞きながらだと、とても分かりやすい。

 

「気を付けるべきは、箇所だ。花、葉、根。丁寧に採取する事が重要だ。丁寧に採取、採掘できるかどうかで、信頼度が大きく変わるし、何より報酬が段違いだからね!」

レンケインさんが、ぐっと拳を握る。

「初級冒険者はね。常設依頼を軽んじる事も珍しくないんだ。君はそうなってはいけないよ」

うん? レンケインさんが、妙に熱くなってきてないか……?

「ろくに採取、採掘も出来ない連中がね、一人前の面をする時があるんだよ! コツコツと、慎重に稼いでいる冒険者を馬鹿にする奴等がいるんだ。そういう手合い連中に限って! いざというときに、僕らのように、堅実に経験を積んでいる冒険者に、助力を求めてきたりするんだ! しかも上から目線でね! 助けさせてもいい、と言わんばかりにね……そういう時、僕は言うんだ」

すう、と息を吸い、レンケインさんが言う。

「知るか。失せろ……とね。人が培ってきた知識、技術を! 上から目線で求めてくるんだ! ふざけるな! 僕が培ってきた知識、技術は安っぽくない! 魔物、魔獣の効率的で、手際のいい解体法。学ぼうと思えば、いくらでも学べるのに!

その知識、技術が無いというならば、ある程度の敬意を持って、頼んでくればいいものを! そうすれば、僕は喜んで力を貸す! 知識、技術に敬意を持て!!」

 

「レンケイン、待て待て待て! 落ち着け! 座学の途中だ! 落ち着け!」

ダルガンさんが、レンケインさんを抑える。

ダルガンさんが座学に立ち会った理由が分かった。レンケインさんは冷静な学者肌だと何となく思ってたのだが違った。激情学者だった……。

ウルルル、と牙を見せ唸っているレンケインさん……落ち着くまで、少々待つか……。

 

「いや、すまなかったね。つい興奮してしまったよ」

静かにお茶を啜る、レンケインさん。

「貴族院での講義を依頼で受けたんだけど、本当つまらなくて。何の熱意も感じなくてね、彼らは単位さえ取得できれば、いいとしか……!」

「おいおい。落ち着け。クレイドル、こいつは久しぶりに教えがいのある新人が来て、喜んでんだ。つまらなかった貴族院の反動で、無駄に熱くなってんだよ」

ダルガンさんが茶を啜る。

レンケインさん、相当にストレスたまってたのか。溜め込んで、ぶちまけるタイプか……覚えておこう。

「お昼までまだ時間はある。もう少し続けようか」

「はい、お願いします。ああと、樹液採取の時の注意点をもう少し頼みます」

「あれかい。確かにね、難しいんだよねえ」

二人のやり取りを見ながら、ダルガンが微笑んだ。

 

昼食は、野菜たっぷりの米の雑炊。ベースは鶏汁。出汁がよく効いている。

付け合わせは、皮付きの鶏肉を、皮に焦げ目がつくほどに塩焼きにしたもの。そして、酢漬け野菜。

雑炊が、美味い。鶏皮はパリパリ。だが肉は柔らかく、ほどいい塩味。美味いとしか言えんね。

「お代わりどうぞ」

ジェミアさんに、まだ残っている器を取り上げられ、ドバドバ雑炊を注がれた。

いや、あんまり食べ過ぎると午後の訓練に支障が出るのですが……。

 

昼食後は昼寝だ。なかなかに頭を使い、疲れたからな。頭の疲労は体とは違うものだ……。

 

走り込みと戦闘訓練が一通り終わった後、何となく言った。

「投擲技術って学べますかね?」

んん? とマーカスさんとジャンさんが言った。

「投擲か。それなら、レンケインかな」

「ですね。大道芸の見世物で稼げるほどの、腕前ですから」

 

「まずは、武器の重量とバランスをはっきりと理解する事だね」

練習用の投擲武器。直刃の短刀。ダガーてやつか。刃渡り大体、二十センチくらいか。

レンケインさんは手慣れた様に、ダガーを手のひらでクルクル廻している。なんか意外な姿だ。

刃先を持ち、やっ、とばかりに打ち込み用の木偶人形にダガーを投げた──ガッ、とダガーが木偶人形の頭部真ん中に突き立った。

さらに続けて、両手に構えた二本のダガーを投げる──ガガッ、と木偶人形の胸部に突き立つ。

「ま、こんなとこかな。投擲武器がどんな形だろうと、さっき言ったように重量とバランスを理解すれば、大抵上手くいくよ。投擲の一番いいところは、仕留める事じゃない。相手の隙を作る事なんだ。戦闘中、意識してないところから不意に攻撃されたら、誰だって驚くからね」

 

レンケインさんは、さらに手斧の投擲を見せてくれた。放物線を描いて木偶人形に突き立つ手斧の迫力はなかなかのものだった……。

「そこら辺の石ころでもいいんだよ。投石は昔からの攻撃手段だからね」

 

ううむ。なるほどな。何にしろ、攻撃手段が多いのは悪い事じゃない。

「ご指導、お願いします」

改めて教えを乞う。レンケインさんは、嬉しそうに笑いながら言う。

「いいよ。僕にも戦闘訓練を手伝えるのは、嬉しいね」

 

夕暮れまで、ひたすら投擲訓練をした。興に乗ったレンケインさんが、俺の頭に林檎を乗せようとしたので、酷く嫌な予感がして訓練を切り上げた。

その時レンケインさんが、「大道芸でコレをやると、相当盛り上がるのになあ」といったのが怖かった……ウィリアム・テルは勘弁してもらいたい。




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