邪神の子 ~赤き瞳のクレイドル~   作:末末

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第149話 碧水の翼 活動開始 そして久し振りの食事会

 

 

快速船は、貿易区に無事到着。待ち合わせの日にちには──一日ちょっと過ぎたけど、まあいいでしょ。

獣神王国と竜神皇国の、二国共同使用の港、“神皇港”まで見送りに来てくれた家族達。特に弟妹達に泣きながらしがみつかれ、宥めるのに苦労したなー。

ズボンとシャツが、ビシャビシャになったのは、寂しい様な、微笑ましい様な思いだけどね──ヒュウ──海風が冷たく吹き付けて来た。

 

広場の時計を見ると、昼時少し前。

昼食は、“黒山羊の蹄亭”でレンディア達と合流して、と思ったけど──鶏源亭(とりげんてい)の屋台が目に入った。外にまで、湯気が出ている。

「寒いから、温かいのをお腹に入れておくかなー」

屋台に足早に向かうシェーミィの脳裡から、碧水の翼の事はさっぱりと消えていた。

 

 

昼時、グランさんが訪ねてきた。シェーミィが来ているかの確認と、昼食を一緒に。と云う事だった。

ヨレヨレの寝巻きのまま、一階に降りて来ているレンディア。

さっき起きました、と言わんばかりの格好。乱れた銀髪を、無造作に結っている。

「……ええ、とレイナさん、炭酸水お願いよ」

「私は、香草茶をホットで頼む」

レンディアとグランさんの注文を受けたレイナさんが、はい、と一礼して厨房に向かった。

午前中に頼んだ洗濯物は、もう戻って来ている。丁寧にアイロンまでかけてくれていた(魔道具だそうだ)。

 

「シェーミィは、まだよ。まあ今日中には戻って来るでしょ……多分」

運ばれて来た炭酸水を手に取り、レンディアがレイナさんに礼を云う。

グランさんも香草茶を取り、レイナさんに一礼する。

「レイナ、厨房とホールを頼む」

アルガドさんの声。もう昼時だ。

忙しくなる時間帯。呼ばれたレイナさんが、俺達に頭を下げると厨房に戻って行った。

確か、今日の昼食メニューは──ソーセージと目玉焼き。丸パンに、玉葱のスープ。大根の酢漬け、と聞いたな。

「三人前、そのまま注文していいな?」

グランさんの言葉に、俺達は頷く。忙しい時に余計な注文はするべきじゃないからな。

 

昼食を終え、お茶の時間。昼の忙しなさはもうない。遅れて昼食を取っている客が少数いるだけ。

「グランさんは、宿はどうするんですか?」

香草茶を啜る。碧水の翼が再活動したなら、暗黒騎士団としてのグランさんは、どうするのだろうか?

「ああ、シェーミィが戻って来て、碧水の翼が活動したなら、冒険者活動に戻るつもりだ。公務は全て終わっているからな。いつでも、ここに宿を取るつもりだ」

なるほどな。後はシェーミィ次第という事か──「こーんにちはー!」

思った側から、シェーミィが宿に飛び込んで来た。

 

「ちょっと遅れたかなー。なかなか、家族と離れにくくてねー。あ、果実水お願いしまーす」

テーブル近くに待機しているレイナさんに、シェーミィが注文をする。

「昼は済ませたのか?」

炭酸水を啜りながら、シェーミィに尋ねる。

「うん、貿易区の鶏源亭の屋台で、辛葱つくねそば食べたから、大丈夫だよー」

辛葱つくねそば、だと?……そこに反応するグランさん。前に食べたのは、つくねではなく、鶏そぼろだっけか?

「鶏つくねは甘口でね。辛葱の辛さと、とても合うんだよ。その甘辛さの内に、麺を啜るのがおいしかったなあー」

シェーミィの感想に、むう、と腕組みをして唸るグランさん。この人、麺好きなのか。

 

「シェーミィ、冒険者ギルドに移動登録してきなさいな。私も一緒に行って、碧水の翼の再活動を伝えるわ」

はいはーいと、シェーミィ。何かテンション高いな……久し振りの合流に、気が昂っている様だ。

「シェーミィが戻ったならば、ふむ……私もこの宿に移る事にしよう。ああと……クレイドル、二人部屋でいいか? その方が安くすむからな」

妙に照れた様に云うグランさん。もちろんだ。

「ええ、構いませんよ」

何なら四人部屋でもいいが……?

「じゃあ、私とシェーミィの二人部屋ね。日数は……取り合えず、一週間という事にしましょうか?」

レンディアの言葉に、グランさんが答える。

「パーティー口座には、充分過ぎるほどの余裕がある。口座から宿代を出そう。レンディア、いいか?」

「ふん。構わないわよ。任せるわ」

レンディアの発言にグランさんが頷き、早速宿主のアルガドさんの元に出向く、グランさん。

 

部屋替えも済んだ。男女二名ずつ──四人部屋でも良かったのだが、値段は変わらないとの事で、二名ずつの二部屋となった。

棚に、武具と日常使いの道具を取り出した、肩掛けのバッグを納め、呪物を引き出しにしまう……意外と、俺の荷物多いな。

バトルアクスと、ラウンンドシールドに、“魂食み(ソウルスレイヤー)”と“宵闇(トワイライト)”──後は装飾品がいくつか。

“闇銀の月輪”に“流血と苦痛の茨の外殻(ソーンオブマックスペイン)”。装飾品は、皆呪物何だよな……これらは、そっと閉まっておく……。

まあ、遅かれ早かれ、発覚するだろうが──「クレイドル、またよろしくな」

グランさんが、手を差し伸べてきた。ぐっ、と握る。

「はい。ようやく、“碧水の翼”の再開ですね」

互いに、ニヤリと微笑む。夕食は、久し振りに碧水の翼の面子で取る事になるだろうな──

 

 

黒山羊の蹄亭の一階。いつもの端の席に、碧水の翼の面々が久し振りに顔を合わせている。当たり前の様に、レイナさんが近くに待機している。

「ちょっと早いけど、夕食に行きましょうか」

身だしなみをきちんと整えたレンディアが云う。ヨレヨレの、寝巻き姿のハーフエルフはいない。

緑色のケープコートの下は、上質そうな水色のシャツが見えた。よそ行きかな?

「さて、何処にする?」

髪を結い上げた黒ずくめの男、グランさんが炭酸水を口にする。

「久し振りに、“囀ずり亭(ソングバード)”に行こーよ。鳥刺し食べたい!」

シェーミィの、両肩から下げている、明るい栗色の短めの三つ編み二つも、久し振りに見たな。服装は、相変わらずの派手な暖色系の服装。

 

「囀ずり亭ね……良いわね、久し振りよ。吟醸酒が美味しいのよね」

レンディアがにこやかに云う。煮込みもいけるんだよな。

「うん、いいな。囀ずり亭にしよう。今の時季の熱燗はいいぞ」

嬉しそうに云うグランさん。冬の熱燗か……堪らんな。

「いいわよ。囀ずり亭にしましょうか」

レンディアが、お茶代として銀貨一枚をテーブルに置く。

「ちょっと、多すぎます」

慌てた様に云うレイナさんに、レンディアが云った。

「いいの。お釣りは取っておいて、心づけよ」

気前良く、貴族然としているな。さすがレンディア。ちら、とレイナさんが俺を見る。

取っておいていいんやで……との意思を込めて、頷く。

 

 

「四名様、ご案内しま~す」

囀ずり亭に到着。早速、テーブル席に通された。

夕方になったばかりなので客は少ない。炭火の匂いもそれほど強くない。火を入れたばかりなのだろう。

「取り合えず、飲み物の注文だな。焼き物はもう少し後にしよう。すいません、注文お願いします」

俺の言葉に頷くレンディア達。さて摘まみは、何にするかな?

 

「え~とねえ。鶏そぼろ豆腐三人前と、鳥刺し二人前ね。あ、鳥刺しは生姜多目でね」

注文を受けにやって来た店員に、シェーミィがメニューを見ながら注文する。豆腐……?

豆腐あるのか! 塩もあるし、豆もある世界……作れるんだろうな。ただ、あまり出回らない感じなのか?

各々、飲み物の注文をする。豆腐か……他の店でも出すのかな……?

今度アルガドさんに聞いてみよう。

 

鶏そぼろ豆腐が、湯気を立たせながら大きく器に盛られている。

レンディアが、手早く取り皿に盛り付け、俺達の前に並べた。

「熱いうちに食べましょうか」

真っ先に、レンディアが鶏そぼろ豆腐にスプーンを通し、口に運ぶ。

「熱いうちがいいわね。うん。早く食べた方がいいわよ」

パクパクと、鶏そぼろ豆腐を口に運ぶ、レンディア。放っておくと、一人で食べかねないな──豆腐と鶏そぼろをすくい、口に入れる。

熱く、美味い。甘口の味付けが食欲をそそる。ぱらりと振られた青ネギが、いい歯触りだ──

 

「鳥刺しと、お飲み物お待たせしました~」

大皿に、円形に並べられた鳥刺し。真ん中には、山盛りのすりおろしの生姜──前世なら多少の警戒心を持っていたが、この世界なら万一があっても、まあ、何とかなるだろう。

「お~、鳥刺し久し振り~」

備え付けの小皿に生姜を取り、鳥刺しと一緒に運ばれて来た、甘口のタレ(恐らく甘口醤油)を小皿に満たすシェーミィ。

にしし、と笑いながら鳥刺しをフォークですくい上げ、生姜をたっぷりと付け、タレに潜らせると口の中に放り込む──う~ん、と目を細めながら、美味しそうに、もくもくと咀嚼するシェーミィ。

 

こういうのを見せられたら、食べない訳にはいくまい。

小皿にタレを満たし、生姜を箸ですくい取り手早く混ぜ、鳥刺しを二枚重ねに取り、小皿に潜らせる──箸の利点は、ここにある。素早く料理を掴み取る事に特化しているのだ(?)。

生姜が満ちた小皿に鳥刺しを浸し、口に運ぶ──うん、美味いな。

生姜の風味と甘口醤油の味わい、鳥刺しの歯触りが堪らない。いいな……。

 

 

“碧水の翼”揃っての、久し振りの食事は楽しかった。酒はそこそこで、食べる事が中心になったな。

串盛り合わせに、手羽先の塩揚げ皿盛り。最後に、〆の鶏雑炊──それぞれ、シェーミィが絶賛するだけはあった。

特に、手羽先揚げは人気ナンバーワンだそうだ。今回は塩だったが、他にはニンニクダレと、生姜ダレも人気だそうだ……まあ、次だな。次の機会にしよう。

 

夜遅くならない内に、“碧水の翼”は、揃って宿に戻った。明日から本格的に、活動開始だな──「結構早い時間に帰れたわね……明日の朝食後に、改めて活動の話し合いをしましょうか」

レンディアの言葉に頷く。

今日は解散となり、それぞれ部屋に戻った。

 

「少し早いが、今日は休むか」

壁掛け時計を見ながら、グランさんが云う。時間は、夜十時少し。早いといえば早いか。

「そう……ですね。明日から活動開始ですから、ゆっくり休みますか」

早速、寝巻きに着替える。これ、いつ買ったっけか? 帝都に来てから使うようになったんだよな。

「いい寝巻きだな。暖かそうだ」

毛布に潜り込みながら、グランさんが云った。すでに眠そうだ。

「良く眠れるんですよ……明かり消します」

ああ、お休みとグランさん。さて、消灯の時間だ。

 

 

次の日、早朝。不貞腐れるミザリアスの機嫌を取らなければならない事を、クレイドルは夢にも思っていない──

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