邪神の子 ~赤き瞳のクレイドル~   作:末末

171 / 245
第150話 緊急依頼 オーク討伐

 

 

 

「酷くないか? 仲間だよな?」

朝食後のお茶の時間。食堂にいる客も、まばらな時間帯だ。

「だってねえ。巻き込まれたら長くなりそうだもの」

香辛料入りのお茶を啜るレンディア。お茶から立ち上る湯気から、香辛料の薫りが漂って来る。

「分かって貰えたから、良かったじゃないか」

レイナさんに、お茶のお代わりを頼みながら云うグランさん。

今、シェーミィはこの場にはいない。一足先に、冒険者ギルドに出掛けている。

「……済んだ事だからいいですけどね」

カップを手に取る。少し温くなっているが、まあいい。

──事は一時間ほど前に、さかのぼる。

 

 

早朝。夜明け間近の内に魔力制御を終え、煙草盆と煙管を持ち、一階食堂に降りる。

いつもの、端のテーブル席。他の客はいない。少々早かったかな……食堂内はまだ薄暗い。明るくなるのは、もう少しだろう。はっきりと明るいのは、厨房くらいだ。

忙しなく働く店員達と、アルガドさん。朝食の薫りが、仄かに漂って来る。

声をかけるのは止めておこう。今が一番忙しい時だろうからな……煙草盆を引き寄せ、煙管に煙草葉を詰め、パチリと生活魔法で火をつける。

すう──と一息……口の中でゆっくりと味わい、ふぅぅ~、と吐く。

薄暗い宿の中に、白煙が香りとともに舞昇って行く……直に、レンディア達もやって来るだろう。

 

食堂内が明るくなってきた。夜明けと同時に、店員が明かりを灯している。

外と食堂内の明かりとで、いつもの雰囲気になる食堂内。

やがて、レンディア達も降りて来るだろう。さて、今日の朝食は何かな?

ゆったりと煙管を吹かしながら、朝食に思いを馳せていると──夜明けに来るとは、予想もしていなかった人がやって来た……我が姉、ミザリアスさんだ。

 

ここからが、長かった……俺の対面に座り込んだミザリアスさんは、赤きジト目の微笑みを浮かべながら、開口一番に云った。

「昨日、一緒に夕食を取ろうと思って、ここに来たんですよ?」

「久し振りに、“碧水の翼”が、揃ったんだ。だから皆で夕食を取る事になったんだよ」

駄目だな、この選択肢──だからどうした、で流されるかも知れん。

「ふうん……まあ、それはいいとして。もう少し、私を待てなかったのかなと思ったのですよ。せめて、行き先でもアルガドさんに告げておくとか?」

テーブル近くに待機しているレイナさんに、炭酸水二つを注文するミザリアスさん。

緊張を顔に浮かべたレイナさんが、畏まった感じで注文を受け、厨房に向かって行く。

朝食の時間だが、全く空腹を感じない──この場を何とか収めないとな。

 

「まあ、急だったからね。久し振りの合流で、皆気が急いていたんだよ。だから、少し早いけど夕食にする事になったんだ」

お待ちどうさまです。とレイナさんが炭酸水をテーブルに置き、すっ、と距離を取る。

「急……ですか。ふうん……」

炭酸水を、静かに口に運ぶミザリアスさん。何を考えているか全く分からん──俺も炭酸水を手に取り、呷る。

炭酸の刺激で、頭をよりハッキリとさせるのだ。

「私を待っていても、良かったのでは?」

嘘だろ。ループした……? 熱した鉄板の上で土下座しないといけないのか?!

 

「おはよ~、早いね。今日の朝食何?」

どすどすと、リリンがテーブルにやって来て、席に着いた。

リリンの明るさに毒気を抜かれたのか、ミザリアスさんが、ふう、と息を吐く。

「……まあ、これからは気を付けて下さいね?」

ニコリと微笑む、ミザリアスさん。

助かった……リリンに、今度一杯奢ろう。

「レイナさん、今日の朝食は何です?」

「え、あ、はい。ベーコンと目玉焼き。豆とトマトのスープに、丸パンと酢漬け野菜です」

ミザリアスさんに答えるレイナさん。

「ベーコンと目玉焼きは、固めでお願いします」

「私も、それで」

俺の注文に被さる様に云う、ミザリアスさん。

「あたしはそのままで、いいよ~」

呑気にリリンが云う。少々、お待ち下さいと云い、厨房に向かって行くレイナさん。

何とか、切り抜けたか……レンディア達はどうしているだろう?

ふと、食堂を見渡すと……違う席で、朝食取っていやがる! 覚えてろ──根に持つからな……!

 

 

朝食を終え、改めてレンディア達と合流する。

「俺個人の問題にしては、なかなかに重かったんだけどな?」

「ちゃんと、話し合いは済んだんでしょうに、今度から気を付けるわよ」

果実水炭酸割りを啜るレンディア。グランさんは、ただ苦笑している。

まあ、いい……さて、今日の活動はどうするのかな?

シェーミィが、ふらりと宿に戻って来た。何かいい依頼でもあったかな?

 

「レイナさん、果実水下さい」

席に着き、妙に真面目な口調で注文を頼むシェーミィ。それに何かを感じたのか、直ぐ厨房に向かうレイナさん。

俺達は顔を見合わせ、シェーミィから話を急かさない。

運ばれて来た果実水を、くうっ、と一息に半分飲み、云った。

「緊急依頼だって。街道近くに、オーク数十体が確認された見たいねー」

食堂内に響く様な声で、シェーミィは報告する。

ざわり……と食堂内の雰囲気が一変した。

 

食堂には、同業者(冒険者)らしき人達も、ちらほらと見受けられる。そして、行商人達も……。

頑丈そうな革鎧を着た、ベテラン風の冒険者が近付いて来た。

「確か、なのか?」

「うん。緊急依頼として、最優先事項になってたよー」

緊張感に満ちた冒険者に対し、明るく答えるシェーミィ。

ありがとよ、と手短に云いながら仲間の元に戻って行くベテランの冒険者。

にわかに、食堂が騒がしくなった。特に行商人風の人達が、忙しない雰囲気を見せている。

 

「ふん。冒険者ギルドに出向きましょうか……いい功績稼ぎになるでしょうからね」

何の気負いもなく、レンディアが云う。オーク数十体……とならば、それを指揮するオーガ。それに加えて──オーガの上位種、ハイオーガのお出ましかな……?

「お茶代を置いておくぞ」

グランさんが、銀貨四枚をテーブルに置く。多すぎます、とのレイナさんの声に、釣りは取っておいてくれと、グランさん。

「身支度整えて、合流しましょうか」

席を立つレンディア。はいはーい、とシェーミィ。

さて……オークとオーガなら経験はあるが、ハイオーガ、か。ただのオーガの上位種ではないとは聞いているな。まあ、いい。行けば分かるか……。

「クレイドル、身支度といくか」

席を立つグランさんの後に続く。レイナさんに、どうか、お気を付けて下さい、と声をかけられた。片手を上げ、応える。

 

 

手早く、漆黒の鎧を着込むグランさん。金属音をほとんど鳴らさず、滑らかな動きで装着する。

腰に帯びる剣は、前に武人の練武場で手に入れたやつだ──ラザロさんの鑑定で、衝撃属性に刺突強化。二属性持ちの名剣──わざわざ、鍛冶ブレイズハンドのドルヴィスさんに、鞘を黒く染めてもらったんだよな。

「その剣、武人の練武場で手に入れたやつですよね」

「ああ、初披露の時だと思ってな」

グランさんが鞘から剣を抜き、灯りにかざす。

切っ先鋭い、幅広の刀身は、薄く灰色に輝いている……魔力を感じとる事が出来た。

「よし、行こう」

剣を納め、カイトシールドを肩掛けにするグランさん。

「オーク狩りといきますか」

黒鷲の兜を被り、フェイスガードを下ろし、ガンガンと兜を叩く。

「もう、癖だな」

グランさんが苦笑する。気合い注入ですよ。気合い。灯りを消して、部屋から出る。

 

食堂でレンディア達と合流。自分達と同じ様に、身支度を整え終えた冒険者達が数組。

何人かの顔見知りと、軽く挨拶を交わす。

「おう、皆気を付けてな。無事戻ったら、一杯奢ってやるよ」

リザード族特有の、猛々しい笑みを浮かべながらアルガドさんが、俺達を激励してくれた。宿が、活気に溢れる。

 

 

他の冒険者連中と共に、冒険者ギルドに入る。もうすでに、ギルド内は熱気に溢れていた。

カウンター内にいたのは、我が姉ミザリアスさんだ。目が合うと、ニコリと微笑んだ……ジト目じゃないな。

ギルドマスターのシュウヤさんは、階段の踊り場に立ち、ギルド内を見渡している。

「すでに知っている人もいると思いますが、改めて、伝えます。緊急依頼が入りました。巡回中の衛兵が、西街道の外れに、多数のオークの群れを発見。その数、数十との事……オーガの姿は確認出来なかったとの事ですが、間違いなく現れているでしょう。二、三体はいると思って間違いない……そして、ハイオーガも」

ギルド内がざわめく。焦りや不安ではない。その逆。士気の昂りから来る、喧騒だ。

 

「すでに街道は封鎖済みになっていると、連絡がありました。今回の依頼は、初級のB以上はなるべく前線に出て下さい。ソロで行動している人は、なるべく即席でパーティーを組むか、先輩パーティーに志願して下さい。初級のB以下は、ギルド内で待機。職員達と、補助に回ってもらいます──レイナルドさん、皆のまとめ役をお願いしてもよろしいですか?」

シュウヤさんが、壁に寄りかかり話を聞いていた獅子族の冒険者──レイナルドさんに声をかけた。

背に大剣を担ぎ、がっしりと引き締まった筋肉質の体の上から、重装備を着込んでいる。

ベテランからも人望のある、中級Bランクの若手──皆の注目が集まる中、何の気負いも感じさせないまま、レイナルドさんが応えた。

「了解した」

きっぱりと頷き、応えるレイナルドさん。確か、前の甲殻ムカデ(メイルセンチピード)戦でも陣頭指揮を取っていたそうだな。

あの時は、流血と苦痛の茨の外殻(ソーンオブマックスペイン)を発動中に加え、“虫滅”の精神だったので、レイナルドさんの指揮はよく分からなかったが……。

 

「ふん。レイナルドの指揮ならば問題ないでしょう。まあ、私達なりにやるべき事をやるだけよ……いいわね?」

レンディアが、強かな笑みを浮かべながら俺達を見回す。

「ああ、やる事をやるだけだ」

グランさんの言葉に、俺達は笑う。

「では皆さん、準備が出来次第、現場に向かって下さい。レイナルドさん、後は頼みます」

シュウヤさんは踊り場から一階に降り、副ギルドマスターのライザさんと職員達に、指示を出している。

「さ、行きましょうか。いい場所を取らないとね」

レンディアが緑のケープコートを翻し、ギルドから出る。

ふと視線を感じ、振り返るとカウンター内のミザリアスさんと目が合った。

その赤い瞳が笑みを浮かべ、チラリと光っていた。

「クレイドル、行くよー」

シェーミィの明るい声に応え、ギルドから出た。

 

オークはともかく、オーガにハイオーガか……楽しくなりそうだな──クレイドルは首に掛けた、流血と苦痛の茨の外殻(ソーンオブマックスペイン)を無意識に撫でていた。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。