「レイナルド、オーク五十。それを半数の二十五に分け、それぞれがオーガの統率下だ」
レイナルドの指示を受け、斥候を引き受けた軽装の人族の冒険者が、報告をする。
次いで、同じく軽装の狼族の女性が云う。
「やっぱり、居たわよ……ハイオーガ」
斥候の報告を聞いた冒険者達が、溜め息を吐いた。
「……ふん。上等だ」
にいっ、と牙を見せ微笑む、レイナルド──獅子族特有の、獰猛な笑みだ。
封鎖された西街道沿いで、俺達は待機中。斥候の報告を聞いたレイナルドさんは、各パーティーのリーダーと何人かのベテランと共に、話し合いをしている。レンディアも呼ばれていた。
即席のパーティーを組んだ者同士。後輩を受け入れたベテラン達──それぞれが話し合いをしている。
短い間にも、連携の確認をしているのだろう。
「グランさん、ハイオーガとの経験は?」
「……いつだったかな。“碧水の翼”が駆け出しの頃、ばったり鉢合わせした事がある」
あるのか……無事だったから、今があるんだろうな。
「どうなったんです?」
「うん、こちらを一瞬見たが、その後無視された。バスタードソードを肩担ぎにして、チェインメイルの上にブレストプレートを着込んだハイオーガだった。充分距離があったから、無事に別れる事が出来たな」
「あの時は、かなり不意に鉢合わせしたからねー。レンディアが、直ぐ下がろうと、指示したんだよね」
グランさんに次いで、シェーミィが云った。
ふうん……そういう事があったのか──おおっと、異世界知識、発動──ハイオーガ。単純にオーガの上位種と言える存在ではない。オーガ、オークを従える、将と言うべき存在。
腕力、体力共にオーガを越え、その戦闘技術は騎士以上。恐れるべきは、オーガ以上の腕力と、戦闘技術と知識。まさしく、武人というべき存在。
一対一で打ち破る事は極めて難しい事ではあるが、それを成したならばまさしく英雄的行為と見なされるだろう。
最も、大概は愚かな結末に終わるが──なるほどな。一対多で当たるべく相手だという事が分かった。
「取り合えず、対オーク戦の作戦が決まったわよ」
レンディアが戻って来た。今回、前線に出ている冒険者は総勢三十五名。初級のBから中級のBランク──中級のBランクはレイナルドさんだけ。
即席パーティー以外のパーティーは、三組。
リリンの所属する、“
「作戦としては単純よ。左右の陣にパーティーを一組ずつ備え、その回りに冒険者達。中央は、レイナルド率いる冒険者達と、パーティーを一組。オーク隊に向き合ったなら、まず範囲系の攻撃魔術を一、二度。そして、集団戦に移行。なるべく、乱戦にはしない方がいいと言っていたわ」
作戦の説明を終え、レンディアが干し果物を口に放り込む。
集団戦闘の訓練を幾度も経験しているグランさんは、フムと頷く。特に問題は感じなかったか。
「私達は左陣。疾風の牙は右陣。霧雨の風は中央よ」
水筒に口を付ける、レンディア。気負いも緊張も無く、落ち着いている──リーダーはこうでないとな。
くうぅ~あぁぁ~、とシェーミィが大あくびをする。お前はもう少し、緊張感持った方がいいと思うが?
周囲の雰囲気が、変わり──静かな緊張感が満ち始めていた。
レイナルドさんが、俺達冒険者を見回しながら云った。
「……よし、頃合いだ。皆、行くか。“碧水の翼”は左陣を、“疾風の牙”は右陣をそれぞれ頼む。“霧雨の風”は俺に付いてくれ……皆、豚面はそれなりの統率は取れているだろうが、大した事はない。とっと殲滅して、オーガも始末しよう……気を抜くなよ!!」
応!! と冒険者達が応えた──さすがだな、将の気質というやつだ。
レイナルドを先頭に、オークの群れを目指し冒険者達が行進する。
その統率の下に進む冒険者達に、混乱は無い。先行していた斥候二人が、戻って来た。
斥候が云うには、こちらに気付いてはいるものの、それほど警戒をしていない様に見えたそうだ。という事は──数の利を確信しているのだろうな……甘いよな、うん。
「よし……少し急ぐか。強襲をかけるぞ」
報告を聞いたレイナルドが、足早に駆け出す。
それに続く冒険者達。平野に轟く足音──よし、“
一番最初に突っかかって行ったのは、レイナルドさんだった。慌てるオークの群れに飛び込んで、大剣を左右に振るう──ほぼ同時に、霧雨の風のパーティーから放たれた魔術が、オーク達を貫き、切り裂いた。
撒き散らされるオークの血肉。たちまちの内に、血が降り注ぐ──「押せえ!!」
レイナルドさんの、咆哮にも似た指示の下、俺達はやるべき事をやるべく動く。
レンディアの風属性の魔術が、渦を巻きながらオーク達の肉体を削り、切り裂いていく。
「今よ。出来る限りオークを、減らすわよ!」
レンディアが、叫ぶ。
血飛沫舞う中、碧水の翼と共に行動する冒険者達が、オーク達に斬り混んで行く──ヒュヒュッ、と弓鳴りの音。オーク二体が、胸元を貫かれて仰向けに倒れる。シェーミィの速射──にしし、と声が聞こえた。
錆び槍を向けて来るオークの横面を盾で殴り付け、その隣にいたオークの首を跳ねる。
返す剣で、盾で殴ったオークを袈裟斬りに仕留めた──すぐ隣を、緑色の風が吹き抜けて云った。 レンディアだ。
風に乗る様な動きで、オーク達の間を駆け抜けて行く──腕が、足が、斬り飛ばされ、腹が、首筋が、斬り裂かれ、血飛沫が舞う──数体のオークが、地に伏した。
致命傷を与えるよりも、戦闘不能に出来れば良し、というのがレンディアの考えだ。
いずれ他の冒険者に止めを刺されるか、失血死するだろう……。
周囲の喧騒をよそに、俺達“碧水の翼”の面々は、少し一息吐く。
「まあ、こんな所かしらね」
ふうっ、一息吐くレンディア。緑のケープコートには、返り血一つ無い。
「そろそろ、オーガ戦が見えてきたな」
グランさんがカイトシールドを構え、レンディアと入れ替わる様に、オークの群れに突き進んで行く──
腹を押さえ、地に横たわるオークの首を踏み砕き、切断された腕を押さえる、虫の息のオークの首を撥ね飛ばしながら、グランさんが進んでいく。
すっかり、引き腰になっているオークなど物の数ではないとばかりに、カイトシールドで殴り付け、例の初披露の剣を振るい──衝撃属性に刺突強化。二属性持ちの剣──独特の刃音を鳴らしながら、オーク達を斬り潰していくグラン。
斬られ、突かれたオークの体が四散していく。
暗黒騎士の威圧感を前面に押し出しながら、グランは突き進んで行く──その合間に矢音が鳴り、オーク達の体に、シェーミィの矢が突き立っていく。
致命的なものではなく、戦闘能力を奪うための一矢。それを立て続けに放つシェーミィ。
一矢絶命を狙うのは時間がかかる。集団戦において、素早く敵の戦闘能力を奪う事を重視しての、シェーミィの行動だ。
他の冒険者達と共に、次々とオークを始末していくグラン──ゴオァァァッ!!
オーガの咆哮。その咆哮には、怒りが満ちている。オークの統率者としての怒りだろうか。
獣皮を身にまとい、錆び付いたバトルアクスを両手に構えたオーガは、真っ直ぐにグランに向かって行く。
この黒ずくめの男が、中心なのだろうと直感したのだろう──
「ふむ。私の所に来るか。だがな──」
グランは、オーガに向けてニヤリと微笑む。
怒りに満ちた一撃を加えんと、バトルアクスを振るおうとするオーガの胸板と肩に、矢が突きたった。
ダメージ目当ての射撃では無い。注意を逸らすための二射──何の痛痒も感じさせない素振りで、オーガは矢が飛んで来た方向に、怒りの視線を向け、矢を払い落とす。
「集中力、無いな」
一歩踏み込み、オーガの腹を撫でる様に剣を潜らせる。獣皮が裂け、腹に刃が充分に潜りながら裂ける感触が、滑らかに腕に伝わって来る──衝撃属性に刺突強化。二属性持ちの剣──腹を裂いたその直後に、心地好い衝撃音が剣から腕に伝わって来た。
ドゥン──そのまま、剣を振り抜く。
グバアッ! オーガのうめき声と共に、ズシリと重量音。オーガが、地に膝まずく音だろう。
オークの様に、肉体を四散させないまでも充分な致命傷を与えたのが、見て分かった。
腹からは内臓が溢れ出て、口や鼻からは大量の血がドボリ、と溢れている。
「さよならだ」
オーガの首を斬り落とす。すぱん、と綺麗に切断する事が出来た。
おおぉぉぉっっ!、と上がる歓声を、グランは他人事の様に聞いていた。
「さて、レンディア達の所に戻るか」
剣を納め、何事も無かった様にオーガの死体に背を向けるグラン。
“
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