邪神の子 ~赤き瞳のクレイドル~   作:末末

176 / 245
幕間 待雪草(スノードロップス)と初ダンジョン

 

 

オーガの拳亭での朝食。宿内は喧騒に満ちている。こういう騒がしさにも、もう慣れっこだ──

今日の朝食は、ソーセージと、茹で玉子乗せキャベツサラダ。キャベツのスープに大根の酢漬け。

私とシェリナは、丸パン。ジョシュは、ライス(お米)。村を出てすぐの頃は、お米は高級品だと思い込んでいたのだけれど、そうでも無いと知ったのは、ここ城塞都市に来てからだった──知らなかった事ばかりね……ジョシュはライスが気に入ったらしく、食事はほぼライスだ。

 

「そういえば君らさ、ダンジョン経験はある?」

新メンバーの、ハーフランナー(駆け足族)のファルケン・スナッチフット──ファルが尋ねてきた。

「いや、まだだけど……?」

ジョシュが答え、いい感じに焼き目の付いたソーセージを噛る。パキリと、いい音が鳴る。

「そういえば、城塞都市付近のダンジョンって……確か、静寂の祠に青葉の庭に……ええと、後は石壁の砦だったっけ」

シェリナが、輪切りの茹で玉子が乗ったキャベツのサラダを摘まむ。柑橘のドレッシングが爽やかな味わいなのよね。

 

「ふうむ……だったら、ダンジョンを経験してみないかい? 危険ではあるよ。でも、あまり奥まで進まなければ大丈夫」

いつの間にか、朝食を平らげたファルが云う。

「ミランダさーん、果実水炭酸割りお願いしまーす!」

喧騒の中でも良く通る、ファルの明るい声。はいは~いとミランダさんの太い声が、伝わって来た。

「帝都へは急ぎじゃないなら、ここらでダンジョンを経験しておいて、損は無いと思うよ」

ファルの意見は、最もだった。これから冒険者を続けていくならば、ダンジョンは避けては通れないだろうしね──

 

「果実水炭酸割り、お待たせね~。何か他に注文ある~?」

ミランダさんがやって来た。ジョシュはライスのお代わりを頼み、食事の済んだ私とシェリナは、果実水を頼んだ。

「は~い。酢漬け野菜のお代わりも持って来るわね~」

太く力強いウィンクを放ち、厨房に戻って行くミランダさん──ダンジョンか……正直、まだ早いとは思ったけれど、ファルの加入もある事だしね……。

「手頃なダンジョンはあるの?」

「うん、さっき言ったけどね。浅い階層ならそれほど危険は少ないよ」

シェリナの質問に、ファルが明るく答えた。

「はい、注文の品お待たせね~」

ミランダさんが、果実水とジョシュのライスのお代わりと、酢漬け野菜を運んで来てくれた。

ジョシュは大根の酢漬けを口に運び、残ったソーセージと共に、湯気立つお代わりのライスを噛み締める様に食べ始める──何とも嬉しそうに食べる事ね……少し、放っておこう。

 

「初級向けのダンジョンは、何があるの?」

果実水を啜りながら、ファルに尋ねる。

「そうだねえ……静寂の祠に、青葉の庭何だけれど、静寂の祠は不死者(アンデッド)対策が出来てないと、難易度が上がるね。青葉の庭は昆虫系の魔物が中心かな。石壁の砦は、今の君らではちょっと無理だろうね」

果実水炭酸割りを啜りながら、ファルが云う。

不死者(アンデッド)対策──か。

「まあ、低級の不死者対策は難しくないよ。神聖神殿か暗黒神殿で、“祝福(ブレス)”を授けて貰えば、ある程度の対不死者への抵抗力と、物理効果が得られるんだ。効果は約一日ってとこかな。寄進がちょっと必要だけど」

云い終え、ぐっと果実水を飲み干すファル。

 

「そうねえ……早い内に対不死者の経験もしておくべきかもね。シェリナ、ジョシュ、どう思う?」

満腹になったジョシュが、果実水を頼み、云った。

「祝福を受けた場合……その、剣はどれくらい通じるんだ?」

「う~ん。種類によるかなあ。身体のある不死者なら、切り刻むなり砕くなりしたら、始末出来るよ。まあこの場合は、祝福はあまり必要無いんだけど。あ、果実水炭酸割りお代わりね──ええと、何だっけ?……ああ、霊体の場合は祝福無しだとまず無理だね。それか、何かしらの魔力付与がされた武器じゃないと物理攻撃は通らないよ」

なるほどな、と考え込むジョシュ──

少しして、飲み物を運んで来た店員に、礼を云うファルとジョシュ。

 

「不死者に……魔術は、通じるの?」

不安げに、シェリナがファルに尋ねる。

「うん、通じるよ。ええと、神聖属性に暗黒属性が特に有効で、後は火属性かな。風、水、土の属性もそれなりに有効だけどね……ああ、低級ならともかく、それ以上の不死者だと魔力に対しての抵抗力を持つから、生半可な術は通用しないよ」

くぴくぴと、果実水炭酸割りを美味しそうに飲むファル。ふむふむ、と頷くシェリナ。

取り合えず、魔術が通じるという事は強みになるわね……後は、昆虫系の魔獣が中心となる青葉の庭の事を聞こうかな。

 

 

話し合いの末、まずは青葉の庭に向かう事になった。

初のダンジョンに加え、初の対不死者を経験するよりも、まずはダンジョンに少しでも慣れた方がいいと、決まった──青葉の庭。昆虫系の魔獣、魔物が出現する場所だそうだ。

入った先には、明るく照らされた草原が広がっているらしい。

草原があり、その端々には草むらと木々の茂み──なぜダンジョンに、こんな自然があるのだろうと思わせる場所だという。実際目にして確かめないと、理解出来ないだろうとファルは云った。

 

「決まりね。早速、準備しましょう」

食事の追加料金に、銀貨一枚をテーブルに置く。パーティー貯金から出しておきましょう……ファルがパーティー加入した時に、貯金の事も了承してもらったのよね……ファル、曰く──「当たり前の事だよ?」と云われた。

各々部屋に戻り、準備出来次第、冒険者ギルド前で待機と決まった。

ちなみに部屋割りは、私とシェリナ、ジョシュとファルの二部屋という事になっている──そう時間もかからず、皆準備を終えてギルド前に集合する。まだ朝早く、ギルド内はそれほど騒がしくない。

 

「リーネ、ちょっと良いかい?」

ファルが、少し離れながら私を手招きした。ちらりと、シェリナとジョシュを見て、ファルの下に向かう。

うん? 何だろうか……陽気さは影を潜め、真剣な面持ちのファル。

「リーネ、君はリーダーだ。僕は君の決断に従うよ。でもね、冒険者として僕は君らの先輩だ。経験も多い……迷った時には、僕に意見を聞いてくれ。僕が危険だと思った時には、はっきりと君らに云う。その時は、僕の意見を最優先して欲しい……出来るかい?」

 

ファルが私の腕に手を触れ、きっぱりとした口調で告げる──明るく、陽気なハーフランナー(駆け足族)の表情は無く、経験豊かなベテラン冒険者の顔で、問いかけてきた──この質問の答えには、否は無い。

「もちろん。これからよろしく」

手を差し出す。ファルが微笑みながら手を握ってきた。

「うん。君は良いリーダーになるよ」

 

 

早速、青葉の庭に向かう事になった。方角は、城塞都市から真東。

途中まで馬車で向かおうかと話になったが、ファルが馬車を使っても、到着時間はそう変わらないから、歩いて行こうと云った。東門から、一時間ほどの近場だとの事。

「近場だから初心者向けとは云われているけど、それは奥まで進まなければ、という前提だからね。奥はなかなかに、危険なんだよ」

ファルの説明を受けながら、街道を進む。

まだ朝の雰囲気を充分に残した街道は、冬の陽射しを受けて朗らかな気配を見せている。

これからダンジョンに向かうというより、散歩でもしている様な心持ちになってくる──旅人や馬車が行き来している舗装された街道から、横合いに延びている、舗装されていない道の前で、ファルが立ち止まった。

 

「さて、ここから先が青葉の庭に通じる道だ。出現する魔物、魔獣は昆虫系に植物系。後は、普通に野性動物だけど、あまり気にしなくていいかな。宝箱だとかは期待しない方がいいね。それと罠もあまり心配しないでいいよ」

「分かったわ……シェリナ、ジョシュ、何かある?」

二人とも、首を横に振る。うん、私も特に無いわね。

 

「ファル、先導をお願いね」

「うん、任せてくれていいよ。そうだねえ、昼頃には戻る様に考えておこうか。もちろん、手ぶらじゃ帰りたくないから、それなりの回収品を得るつもりでね」

ファルは明るく云うと、飾り付けがされた頑丈そうな杖を振り上げながら、道を進んで行く。

「さて、行きましょうか」

ハーフランナー(駆け足族)のファルケン・スナッチフット──新しい仲間の背中が、何とも頼もしく見えた。

「明るい内に帰れるならいいなあ」

ジョシュがのんきに云った。緊張感も何もない言いぶり。

「……のんきねえ」

呆れたように云うシェリナ。その口調にも、のんびりしたものが漂っている──まあ、無駄に堅くなるよりもこの方が良いかもね。

これが、待雪草(スノードロップス)の持ち味になると思うわ。




待雪草(スノードロップス)編も、そろそろ本格的にしようと思っています。

(゚∈゚ )ピーピヨ
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。