ふと、目が覚める──何か、色々夢を見ていた様な気がするな……深淵の女王から声をかけられたり、ミザリアスさんが部屋に来ていたり──うん、はっきりしないな……夢だ夢。それでいいのだ。
倦怠感があるが、これは寝すぎたからだろう。疲労感ではない。
疲れは、睡眠によって回復しているのが実感出来ている。
今の時間は──部屋に備え付けの時計を見ると、昼過ぎになっている。
半日以上は眠っていたのか……グランさんはいない。昼食にでも行っているのだろうか?
きゅうぅぅ~、と腹が鳴った。ふふっ、と思わず笑ってしまう。
腹は減ってはいるみたいだが、まずは水分補給だ……ベッドから身を起こし、水差しを取ってコップに水を注ぎ、ゆっくりと飲み干す。
染みるな……もう一杯半、今度は一息に飲み干した。
気分も落ち着いた事だし、さてどうするか。顔を洗ってスッキリするか、煙管を一服やるか──もう少しばかり、ぼんやりするのもいいかな……眠気が来たら、もう一眠りするのも悪くない気がする──きゅくうぅ、俺の怠惰さに抗議するように、また腹が鳴った。
取り合えず浄化を済まし、タオル片手に洗面所へ向かう。
顔を洗ってさっぱりした後は、余り物でもいいから何か食べさせてもらうとするか──
部屋に戻ると、グランさんが戻っていた。
「クレイドル、ようやくお目覚めか。体調はどうだ?」
「少し怠いですけど、眠りすぎってとこですね。もう大丈夫です」
ふむ、とグランさんが頷き、続けて云った。
「オーク討伐の報酬が支払われたぞ。報酬は一人当たり、金貨十五枚に銀貨五枚と決まった。後は、回収した魔石の計算が済み次第、追加報酬を出すとの事だ」
金貨十五枚に銀貨五枚。それに加え、追加報酬ありか……相場としては、どうなんだろうな?
「まあ、悪くないだろう。あれだけの激戦だったからな……負傷者多数だったが、重傷者と死者は無し。上手く治まったものだよ」
グランさんに促され、部屋の中央のテーブルに着くと同時に、ドアがノックされた。
「ああ、私が出よう」
グランさんがドアを開けると、ちょっとしたレストランで見かける様な、カートワゴンを押しながら、レイナさんが部屋に入って来た。
「失礼しますね」
レイナさんがテーブルに、ワゴンで運んで来た料理と取り皿を乗せていく──皿々に盛られたベーコンに、チーズ。
スライスされた茹で玉子。たっぷりのポテトサラダに、塩茹でのブロッコリー。
青菜と玉葱の胡麻油炒めに、キャベツの酢漬け。そして皿に盛られた丸パン──おお……何か凄い事になったぞ?
「私も昼を食べ損ねていたんだ。せっかくだから、一緒に食べようと思ってな」
「構いませんよ。一人で食べるより、誰かと食べた方が美味いですからね」
うん、何か楽しくなってきたな……よし、どうせだったら──
「レイナさん、果実酒お願いします」
えい。まだ明るい時間だが、酒を頼んでしまえ。たまには良いだろう。
「ふむ、昼から飲むのか……珍しいな。私も黒ワインを頼む。ボトルでな。グラスを二つ」
「分かりました。すぐにお持ちしますね!」
レイナさんが、何か嬉しそうにカートワゴンと共に下がっていった。
「さて、遅い昼食を楽しみますか」
「ああ、のんびり食べるとするか……うん、ブロッコリーはいい塩具合だな。美味い」
ブロッコリーをフォークで摘まみ、目を細めるグランさん。
青菜と玉葱の胡麻油炒めに箸を伸ばす──うん、美味い。シャッキリとした歯触りと共に、胡麻油の薫りが口内に広がる。いい昼食だな……ベーコンにチーズ。茹で玉子にポテトサラダ──たっぷり味わう時間はある。
ベーコンに茹で玉子、ポテトサラダを取り皿に取る。チーズを摘まみながら、丸パンを口にする──うん。パンとチーズは合う……。
「失礼しまーす。果実酒と、黒ワインのボトルとグラス二つ、お持ちしましたー!」
部屋に入って来たレイナさんが、微笑みながらテーブルに注文の品を置く。
酒を前に、遅い昼食は終わった──ここからは、飲みの時間だ……まあ、たまにはいいか。
残った料理は、酒の摘まみにすればいい。よし、グランさんと差しでたっぷり飲むか──「ゆっくり飲みましょうか、グランさん」
「ああ」
ニコリ、と微笑みながらグランさんが杯を上げる。
「大いなる父君に」
「
カチリ、と杯を合わせ乾杯するグランとクレイドル──男同士の乾杯を、レイナは憧憬のまなざしで見ていた。
「ご用があれば、お呼び下さい」
頭を下げるレイナさんに、心付けを渡す。銀貨一枚──多すぎます、と辞退しようとするレイナさん。
俺とグランさんの分だからと云って、手のひらにねじ込む様に納めて貰った。
顔を赤く染めたレイナさんが、か細い声で礼をいい、カートワゴンを押しながら出て行った。
「相変わらずだな」
グランさんが、ワイングラスを掲げながら笑う……何ぞ?
料理を食べ終え、酒を飲んでいる頃にレンディアとシェーミィが、部屋にやって来た。
レンディアは、テーブルに重ねられた皿とワイングラスに、呆れた様に目をやる。
「昼過ぎの宴会ね……まあいいわ。オーク討伐の報酬だけれど、クレイドル、グランから聞いた?」
確か、金貨十五枚に銀貨五枚。追加報酬はまだ決まっていない……だったな。
「ああ、聞いてる」
「なら話は早いわね。報酬の受け取りは、追加報酬が決まってからという事にしたわよ。それでいい?」
グランさんと顔を見合わせ、頷く。構わんよ、とグランさん。
シェーミィが、皿に残ったチーズを素早く摘まみ取り、口に放り込んだ──
「それで、本題なのだけれど……」
レンディアが、俺のベッドに腰掛ける。シェーミィは、ドア近くの壁に背を持たせかけて立っている。部屋に近付く人間を気にしての事だろう。
俺とグランさんは、そのまま席に付いている。
二人部屋ではあるが、四人が入るには狭くないスペースだ……本題は、分かっている──“
きちんと説明はするべきだよな……どう入手したのかは……うん、その時はその時だ。
「血塗れの事だよな。ちょっと見てもらいたいものがある」
席を立ち、机に向かう。机に置かれている、茨の装飾が施されている細長い箱。箱を開け、茨状の鎖に、鮮血の様な色の宝石が繋がっているネックレス──“流血と苦痛の茨の外殻”を手に取り、レンディア達に見せる。
「
ふうん。と、レンディアが興味深そうに
「手に取ってみていい?」
構わない、と云ってそのまま渡す。
茨状のネックレスに、血の色の様な宝石を見つめながら、顔色一つ変えず、手に取るレンディア──「ふうん……これは、周囲に何か影響与えるの?」
「いや、俺個人だけだ。効果発動中は、出血状態になって、身体強化と状態異常に対して耐性が付くんだ」
「なるほど、ね……その効果は、任意で発動出来て、いつでも止められるの?」
流血と苦痛の茨の外殻をまじまじと見つめながら、レンディアが尋ねてくる。
「ああ、いつでも止められる」
血を流せば流すほど効果が上がるだとか、
「まあ、良いでしょう。呪物の話はこれで終わりよ。クレイドル、呪物の事を知っているのは他に誰がいるの?」
「ギルドマスターのシュウヤさんに、ミザリアスさん。あとリリンだな……もちろん、なるべく口外しないように、シュウヤさんに言い含められているけどな」
ギルドマスター直々の口止めだ。まず漏れる事は無いだろう……。
「なら、安心ね。返すわ、ちゃんと保管しておいてね……グラン、シェーミィ、口外無用よ」
レンディアの言葉に、二人がしっかりと頷く。
レンディアから、流血と苦痛の茨の外殻を受け取り、きちんと箱に戻す。
常時身に付けるものじゃないからな──
ひとまず解散という事となった。夜にまた合流して、報酬を受け取った後、今後の活動をどうするかの話し合いを改めてする事に決まった。
レンディアが部屋から出る時、ミザリアスさんに顔を見せた方がいいと、言い残していった──むむむ……。
「ミザリアスさんに顔は見せておいた方がいいだろうな。明け方、部屋に戻った時にミザリアスさんがお前の枕元に座っているのを見た時には、驚いたぞ……」
グランさんの言葉……ミザリアスさんが来ていたのは、夢じゃなかったか。
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