邪神の子 ~赤き瞳のクレイドル~   作:末末

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第156話 ダーンシルヴァス神王国とロングスウォード領

 

 

 グランさんとの昼食と、昼下がりの宴会が終わった後はレンディア達と夕食を取りながら、今後の行動を決める事となった。

 カートワゴンの片付けは、レイナさんを呼ぶまでもないと、グランさんが運んで行った──いいのかな?

夕食まで、まだ少々時間はあるな……腹も満たされ、酒も入っている……ふむ。

ベッドに横たわる。あれだけ眠ったからな、さすがに──意識はすぐに、離れていった。

 

「……まだ眠れるのか」

すう、と寝息を立てるクレイドルを、呆れた様に見るグラン。

 部屋を出て、カートワゴンを階下に運ぼうとした所、見るからにベテランの女性従業員から、やんわりと注意された。

 曰く──「そういう事は、お店の仕事です」と。面目ない事をしてしまったな……ワゴンを渡しながら、ついでに茶も注文した。そして部屋に戻ると、クレイドルがまた寝入っていたのだ。

 時計を見ると、午後四時少しか……ふむ、夕食までは時間はある。私も寝るか。

 

 明け方まで飲んでいたので、ちゃんと寝ていないからな。それに昼過ぎにも飲んだし、少し寝て酒を抜くか……レンディアが、迎えに来ると云っていたしな。

ノックの音──そうか、茶を頼んでいたな。眠気覚ましにでもするか……。

「どうぞ」

失礼します、とドアが開く。先ほどのベテランの従業員。歳は、四十少しだろうか?……整った顔立と、所作からは気品さを感じる。

「お待たせしました」

軽く一礼し、テーブルにティーポットとカップを並べ置く。

その時、ベテラン従業員がちらりと、ベッドに横たわるクレイドルに目をやる──固まってしまった。

 すやりと眠るクレイドルの顔立ちを見た、ベテラン従業員が目を瞬かせ、硬直している。

 

 釣られて、クレイドルを見る──輝く様な金髪に白磁の肌。異様に整った目鼻立ちと……妖艶に濡れた紅色の唇。

安らかな顔で眠るクレイドルの顔は、どういう表現もしようがないからな……多少慣れているとはいえ、私にしてもちと目の毒だ。

 初めてクレイドルの顔を間近に直視した人には、なかなかに耐え難いかも知れない──よし。

「ああ、後は自分でやります」

ほとんど硬直している従業員に声をかけ、我に返らせる。

一瞬、ぴくりと体を震わせ、はあ、と熱っぽいたため息を吐き、我に返る従業員──顔が赤い。

「少ないですが、取っておいて下さい」

「……あ、どうも、ありがとうございます」

銅貨五枚を、心付けとして受け取ってもらう。その間も、チラチラとクレイドルの顔を見る従業員。まあ、仕方ない。

 

「他にご注文がありましたなら、いつでもお呼び下さい」

一礼し、部屋から出て行く従業員。最後まで、チラチラとクレイドルに視線を送っていた……。

 さて、起こさないで放っておくか。レンディア達が来るまで寝かせておこう……さて、眠気覚ましに茶を──どうも、クレイドルが気になるな……。

 ベッドに向かい、クレイドルを転がして、顔を壁際に向ける。全く起きる気配無く、ゴロリと体を向けた──これで、落ち着いて茶を飲む事が出来る。

 

 今後の活動予定か……ふむ。クレイドルが、暗黒都市に行ってみたいと云っていたな。

しばらく、実家にも顔を見せていない事だし、騎士団本部にも、たまには顔を出さないとな──レンディアに提案してみるか……。

 少し開いた窓から吹き込む風に、カーテンが揺れ、冬の風が部屋に入って来る……いい風だな。

茶を啜りながら、故郷のダーンシルヴァス神王国に想いを馳せる──今の時季、雪はどれくらい降っているだろうか?

 

 

 ココン、とノックの音。どうぞ、答えるとレンディアが入って来た。

「直に夕食よ……クレイドルは?」

「ああ、さっき目を覚まして顔を洗いに行ったよ」

ふむ、とレンディアが頷く。

外を見ると、夕暮れの時間が訪れていた。

茶を片付けてもらうために、従業員を呼ぶベルを鳴らす──すぐに、先ほどのベテランの従業員がやって来た。

「ティーポットを下げて下さい。ご馳走さま」

従業員に礼を云う。はい、と微笑みながら一礼するベテラン。

部屋から出ていく際に、チラっとクレイドルがさっきまで寝ていたベッドに、視線を向けていた。

 

「取り合えず降りましょうか。多分ミザリアスさんも来るでしょうね」

レンディアが云う。丁度、クレイドルもタオル片手に戻って来た。

 

 

 食堂の、いつもの端のテーブル席。当然の様にレイナさんが近くに控えている。

夕食は、ここ“黒山羊の蹄亭”で取る事になった。

話し合いをするには、ここがどこより落ち着けるとの事だ。“碧水の翼”の定宿だしな。

「あら、皆さんお早いですね」

我が姉、ミザリアスさんがやって来た。ギルドの制服ではなく、普段着だ。

朱色を基調としたワンピースの上から、厚手の濃い茶色のハーフコートに、黒のブーツ──シックな装い。金髪と褐色の肌に、妙に合っている。

「上着をお預かりします」

レイナさんが、ミザリアスさんからコートを受け取り、壁際のハンガーにかける。

「ん。ありがとう」

礼をいい、俺の隣の席に着くミザリアスさん。

 

「さて、皆揃った事だし、食事を注文しようかしら。レイナさん、夕食のお勧めは?」

レンディアが云う。さて……今日は何があるだろうか……?

「そうですね……いい魚介類が入ったと云っていましたから、海鮮料理がお勧めですかね」

レイナさんが答える。

「じゃあ、海鮮料理を中心でお任せにするわよ」

レンディアが俺たちを見回す。否、は無く、皆頷く。食の好みが合うのは、何よりだ……うん。お任せか、楽しみだな。

アルガドさんの事だ、まず外れは無いだろう。

「先に、飲み物注文しよーよ」

シェーミィが酒を注文し、俺達も続く。

 

 各自の酒が届くと同時に、料理の前の一品が届いた──平皿に盛られた、蛸と大根の煮付け。刻まれた生姜が、上に乗っている……。

「後の料理は、少しお時間かかるのでこれを摘まみながら、待っててくれとの事です」

酒を配りながら、レイナさんが云う。

「ふん。大丈夫よ」

レンディアが取り皿を分け、ミザリアスさんが手早く、蛸と大根の煮付けを各自の皿に均等に盛っていく。

杯を手に取ったレンディアが、「じゃ、乾杯ね」といい、杯を上げる。

 

 蛸と大根の煮付けは美味かった……柔らかく煮えた蛸の歯応えと、トロリと中まで味が染み込んだ大根は、何とも堪らない味だった。

酒の摘まみにも、飯のおかずにも合う一品──また食べられるだろうか……?

 

 蛸と大根の煮付けを食べ終え、酒のお代わりが来ると同時に、お任せの料理が運ばれて来た。

平皿に、大輪の花の様に並べられた赤身と白身魚のマリネ。

海老と大振りの貝の揚げ物と、小魚の素揚げ。

イカと貝の刺身と、魚のアラから取った出汁を使った〆のすまし汁──たっぷりと海の幸を楽しんだ。

これからが本題だ──まあ、大袈裟な事ではない。この後、どう活動するのかという事だ。

「ダーンシルヴァスに行かないか?」

グランさんが提案する。もしかして、前に俺が暗黒都市を見てみたいと云ったを、覚えていたのか?

ああ、そういえば、覇王の訓練場(グラウンドオブオーバーロード)で回収した、ファイアドレイク(火竜)の素材の事を思い出した。

後ろ足の大爪八本と尻尾から剥いだ皮に、両目に魔石。素材回収袋に入れっぱなしだったな……後で確認しよう。

「ダーンシルヴァスね……そうねえ、しばらく行っていないわね。シェーミィ、クレイドル、どう?」

「う~ん、今の時期は寒いからな~。ま、構わないよー。ダーンシルヴァスのホットワイン、寒い日には格別だからね~」

にしし、と笑い、果実酒を呷るシェーミィ。

「漆黒と黒銀の都、ダーンシルヴァス神王国……か。見応えあるだろうな。この眼で見てみたい」

グランさんが、俺をチラっと見た。何か驚いた様な顔だったな。

 

「ふん、決まりね。出発は……そうねえ。ミザリアスさん、先のオーク討伐の報酬はいつ決まるの?」

オウルリバーの炭酸割りに口を付け、レンディアが尋ねる。

確か報酬は、一人当たり、金貨十五枚に銀貨五枚と決まってたんだったか。後は、回収した魔石の計算が済み次第、追加報酬だったな──

「そうですねえ。魔石の数はともかく、質をちゃんと鑑定するのに、少々手間取っていますので、明後日まではかかると思いますよ」

追加で注文したチーズ盛り合わせを摘まみながら、ミザリアスさんが答える。

 

「明後日ね。まあ、急ぎという訳じゃないから、出発は明後日以降ね……ああと、ダーンシルヴァスに向かう前に、ロングスウォード領に寄りたいのだけど?」

「ふむ。ロングスウォード辺境伯とは、知り合いだったな」

レンディアの言葉に、グランさんが答えた。

「そうよ。辺境伯と、父上のロウディスは同期なのよ。その関係で、付き合いがあるのよ。しばらく顔を見せていないから、会いに行きたいのよ」

テーブル側に控えているレイナさんに、オウルリバーのボトルと、氷を頼むレンディア。

「果実酒お代わりね。それとソーセージ盛り合わせと、酢漬け野菜もお願いねー」

シェーミィの注文。グランさんも黒ワインを頼んだ。

よく食べて、よく飲む事だな──まあ、冒険者だからな。

「レイナさん、山葵葉の刻み漬けとオウルリバー炭酸割りをお願いします」

はーい、と明るく応え、厨房に向かって行くレイナさん。

 

 ダーンシルヴァス神王国に、ロングスウォード辺境伯か……また、何か新しい縁が出来そうだな。

出発は明後日以降。ロングスウォード領を経由して、ダーンシルヴァス神王国に向かうという事に決まった。

「ロングスウォード領には、しばらく留まる事になるかもしれないわよ」

と、レンディアが云った……ロングスウォード領か、どんな所だろうな。

 

 

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