キキキ(鳴き声)
人々の賑わいが心地いい。里に帰っていた頃は里の静かさ、穏やかさに心休まっていたのだが、都市の賑やかさを体に浴びると、心が弾む……。
「ふふ」思わず、笑みが浮かぶ。
吸い込まれる様に、冒険者ギルドに足が向かう。
すっかり体に馴染んだ喧騒が、心地いい……うん? いつもの喧騒が、やや違う。なんだろうな……受かれた感じがする。何かいい事でもあったのだろうか?
カウンター正面にいたのは、青い瞳のしなやかな体付きの、猫族の受付嬢。サイミアだ。
「お久し振りですね。ミルデアさん、里はどうでした?」
「充分、骨休めできたよ。ところで、ギルド内の雰囲気がちょっと変だが、何かあったのか?」
「はい。久し振りに新人君が来たのですよ」
サイミアが嬉しそうにいう。何となく、頬が赤く染まっている様だ。
「ふむ。どんな奴だ?」
サイミアはクスクスと笑い、訓練所にいますから、行ってみるといいですよ。との事だった。
「武器に振り回されてるぞ。武器の重量とバランスを、もう少し確認しろ」
「おお、お……!」
訓練用の防具を身に付け、鷲の顔を模したフェイスガード付きの兜を被った男。
手にしている武器は、両手持ちの訓練用バトルアクスか。見る限り、何とか振れてはいるので、あとはバランスを取る事が出来れば……。
「上半身が泳いでるぞ。足腰を重視しながら身体全体を意識するんだ」
訓練を見ているのは、マーカスさんと、ジャンベールだ。
「おお……おっ!」
おっ。良くなってきたな。いいぞ。マーカスさんとジャンベールの教え方もいいが、本人の吸収もいいのだろう……。
「まあ、今日はこんなとこだろ。休憩にしようや。茶を入れて来る……おう、ミルデアか。久しぶりだな。新人紹介するぜ、クレイドル、来い」
マーカスさんが、バトルアクスを地面に置き、座り込んでいる男を呼んだ。
リ・ミルデアさん。リザード族、リザードマンってやつか。爬虫類の頭部から伸びる巻き角。大きな瞳に長いまつ毛。おお……紫がかった瞳が綺麗だな。あと、髪飾りならぬ角飾りが派手だ。
がっしりとした体格だが、出るとこ出て、引っ込んでいるとこは引っ込んでいる……グラマラス体形てやつだ……。
「少年、角飾りと首飾りが気になるか?」
おお、ハスキーボイス。渋いな……。
「え、ええ、はい」
「ふふん……この角飾りと首飾りはだな──」
二人のやり取りを見ていたジャンベール。
(長くなるぞ、リザードマンの飾り自慢は……)
いつの間にか、側にいたレンケイン。
「夕暮れまで、かかるでしょうねえ……あれ」
「そこで私は、乾坤一擲の覚悟で──」
身振り手振りで、飾りを得るための狩りの話しをする、ミルデアさん。なかなかに面白い。
十三の成人の儀式に、決められた獲物を狩るのだという。大人のある程度のフォローはあるが、一対一の闘いで仕留めるのだという。
命の危険がない限りは、大人が助けに入る事はないとの事。
失敗したとしても、成功するまで機会を与えられるそうだ。
ミルデアさんの話しは夕暮れ近くまで続き、さらに続こうかという頃に、ジャンさんとレンケインさんが止めに入って来た。
「うむ。やはり、ここの食事と酒はいい」
ミルデアさんは、エール大ジョッキをがぶりと呷った。
目の前の皿に盛られている料理は、充分に火の通った、焦げ目の付いたソーセージ。揚げたジャガイモには、ほどよく塩とスパイスが振られている。当然のようにある、玉葱の酢漬け野菜。
今ここは、オーガの拳亭。面子はジャンさん、レンケインさん、そしてミルデアさん。
珍しく冒険者の客はおらず、宿内は一般の泊まり客と、酒と食事の客が大半らしい。
やはり冒険者は目立つのか、客がチラチラとこちらを伺う様子を見せている。
「気にしなくてもいいわよ~。一般のお客さんが多いだけだから~。冒険者が珍しいのよ」
同席して来たミランダさんが言う。
「あとね~クレイドル君が気になってるのよ」
「はいい?」
なんだ? 俺、何かしたのか?
「うむ。リザード族の私から見ても、少年の顔立ちは、罪作りだからな」
ぶふぁっ! と、ジャンさんとレンケインさんが、酒を吹く。
ミルデアさんが、エール大ジョッキを頼み、ジャンさんとレンケインさんはワインを頼んだ。
俺は柑橘酒の炭酸割り。炭酸水あるんだな……。
追加料理は塩漬けの焼豚とベーコン青菜炒め。追加の玉葱の酢漬け。
飲めや食えやの宴会状態になった。
オーガ亭に宿を取っていたミルデアさんが、まだ話したい事があるからと腕を掴んできたが、ミランダさんが、やんわりと助けてくれた……。
なんか、獣人女性に対しての警戒感が増してきた気がする……邪神のせいだ。
対獣人フェロモン持ちかもしれませんな。
邪神の息子は。