港区の貿易港に、陽に焼けた逞しい体つきの労働者達の喧騒と熱気が、景気良く湧き上がっている。何とも心地良い喧騒と熱気。
停泊中の貿易船から、荷下ろしの真っ最中だ。
巨大な帆船、凄いな……離れた場所からでも大きさが見てとれる──
「久し振りに見たが、何とも豪装な船だな」
グランさんが、染々と云った。
木と鉄で頑丈に造られた、立派な帆船。
動力は風だけでは無く、魔石も使っているそうだ。
荒波を乗り越え切り開き、突き進んでいく事だろうな──荷台や荷馬車に、次々と乗せられ運ばれていく、大小様々の木箱や樽。
それらには、各地の貿易品や生活必需品等が詰め込まれているのだろう──中には、あまり表立って運べない物もあるかも知れないな……。
「よし、戻るか……潮風が冷える」
グランさんが、マントの襟を合わせる。マフラーを鼻まで覆い、コートを着込んでいる俺でも寒くなってきた。
「はい、宿に戻りましょう……鶏源亭の屋台が気になりますけど」
「ああ、私もだ」
昼前にもかかわらず、なかなかに繁盛している鶏源亭をチラリと見て、名残惜しそうに港区から立ち去る、クレイドルとグラン──
少し早めに宿に戻れた。ひとまず剣と荷物を部屋に置き、グランさんと二人、いつもの奥の席に座り、レンディア達を待つ。
香辛料入りの茶を、ゆっくりと啜る。
冷えた体に、暖かさが染み渡る様だ──港区からの帰り、露店で販売されていた干し魚と、海草と野菜の乾燥スープを購入する。
それに釣られたのか、グランさんは干した貝柱を購入した。
乾燥スープに入れるも良し、炙って食べるも良しの物だという──俺としては、スープに入れたいな。
干し魚は、どうとでも出来る。炙り焼きにしようが、細かくしてスープに入れようが、干し肉の様にそのまま噛る事も出来るのだ。
うん、いい買い物をした。レンディアとシェーミィが合流するまで、まだ時間はあるな。
香辛料入りの茶を啜りながら、グランさんと他愛ないお喋りをする──昼食前の準備で、調理場が忙しくなっているのが、見える。
今日の昼食は何だろう? 調理場で、魚が見えたが何の種類かまでは分からなかった……さて、レンディアは何処で食べるつもり何だろうかな?
身だしなみを整えたレンディアが、食堂に降りて来た。今日は、豊かな銀髪を高く結い上げている。
いつもの深緑色のケープコートの下は、厚手の白いワンピース。腰には緑色の細いベルトが巻かれている。どことなく、上品な装い──貴族の出自だけはあるな。
シェーミィが、少し遅れてやって来た。暖色系の装い。オレンジ色の上下に、ファー付きの茶色の毛皮の上着。相変わらず、派手目の装い──何となく、猫族らしいなと思った。
「う~ん。なかなか寒くなってきたね~」
席に着き、手の平を擦り合わせながら、いつの間にかテーブル近くに待機していたレイナさんに、香辛料入りの茶を頼むシェーミィとレンディア。
「今日は、どこに食べに行く~?」
シェーミィが云いながら、厨房を見ている。
魚の匂いでも嗅ぎ付けたのだろうか? 鼻がスンスン、と動いている様に見えた……。
「そうねえ。たまにはちょっと贅沢な昼食にしようかしら?」
レンディアが、運ばれて来た香草茶を手に取りながら云う。
「……贅沢、か。ふむ、たまにはいいな」
茶を啜りながら、グランさんが云った。贅沢、か……しばしのお茶の時間。この時間もまた、贅沢かもしれないな。
「さあ、行きましょうよ」
レンディアが茶を飲み干し、席を立つ。銀貨一枚をテーブルに置いた。
「いつもありがとうございます」
レイナさんが頭を下げ、ちらりと俺を見た。俺は頷き返す。
“
確かに、たまの贅沢にはいい場所だ……前にミザリアスさんと来た時は、満足いく食事が出来たからな……。
テラス席のある、白と緑を基調としたお洒落な雰囲気の店構えは相変わらずだが、寒くなっているので、テラス席に着いている客はいない。
昼になったばかりなので、客はまばらだ。皆、女性。
「今日は。四名だけど席は空いてる?」
店に入り、レンディアが云った。
「あら、レンディア。久し振りね。いらっしゃいませ」
テーブルを片付け中の、エプロン姿の店員が振り返る──店長だった。
美しく整った目鼻立ちと、特徴的な高い耳。波打つ様な長い金髪を、高く結い上げている。
碧味がかった瞳と長い睫毛が目を引く、エルフの店長。
「奥の席にどうぞ」
微笑みながら云う、店長さん。目が合うと、笑みを浮かべたまま会釈してきた。
席に着くと、直ぐに店長さんがやって来た。
「今日のランチは、ピザ。サラダとスープ付きよ」
ピザ。この世界にあったのか……先人の転生者か転移者が広めたのか?
「ふうん……ピザの具材は何?」
「ベーコンにトマト、ピーマン。それと、エビとイカにアサリよ。生地は、厚めと薄めあるけれど、どちらにします?」
店長さんが云う。
ミックスピザにシーフードピザといった感じか。両方頼んだ方が、楽しめるだろうな──「レンディア、両方を二つずつ頼もう」
そうね、とレンディアが云い、二つずつを注文した。
生地の厚さは、それぞれ薄めと厚めを頼んだ……やはり、先人の教えがあったのかな?
グランさんとシェーミィからは、何も意見は無い。この注文でいいのだろう。
「あと、果実水炭酸割りを四つお願いね」
レンディアの追加注文に、明るく応える店長さん──店長さんの名前、聞いておかないとな……。
「ロングスウォード伯という人は、どういう人物だ?」
薄めの──クリスピータイプだっけか?──シーフードピザを、サクリと一口。うん、美味い。前世の物より、美味いな……。
生地にはトマトソースでは無く、ホワイトソース。野菜は玉葱だ。ホワイトソースと合うな。
「そうねえ……一言で云うと、武人ね。それと、正確にはロングスウォード辺境伯ね。ロングスウォード家は、ダーンシルヴァス神王国と、ミルゼリッツ帝国の国境を護る役割を担っていたのよ。まあ、今もだけどね」
レンディアは厚めの──アメリカンタイプか──ミックスピザを、ハフリと一口。チーズが波打つ様に伸び、トマトソースが、レンディアの口の端に付いている。ピザの醍醐味だな。
「武門の家だけあって、各種武術の道場が盛んな土地柄だな。領主が代々、武術を推奨しているんだ」
少しトロミのあるクリームスープを啜るグランさん。刻んだジャガイモとニンジンが入ったスープ。濃い目でまろやかなスープだ。
玉葱とピーマンのサラダを、真っ先に平らげたシェーミィが、シーフードピザを口に詰め込んでいる。
「一人で食うつもりか。おい」
皿を引き戻す。シーフードピザはもう、厚めと薄めそれぞれ、ニピースしか残っていない。
「むー」
もっくもっくと、片手にピザを持ちながら口を動かすシェーミィ。
代々、武術が盛んな所か……国境を見張り護る立場だから、自然と武力を持たざるを得ないんだろうな。それが今まで続いている、と……ふむ。
厚めのシーフードピザに手を伸ばす。うん、ふっくらとした生地もいいな。
「ルイネミーナさん、ミックスピザとシーフードピザ、薄めの生地を一枚ずつ追加ね。あと果実水炭酸割りを四つ、お代わりお願いよ」
レンディアが、よく通る声で追加注文をした。
「はーい。少しお時間頂きますねー」
厨房から、声が聞こえた……ルイネミーナ? 店長さんの名前……。
「レンディア、“
「ん、そうよ。確か、ネエラミーナさんが姉だったかしらね」
スープカップを両掌で抱え、ゆっくりと飲み干すレンディア。
何となく、容姿が似ていた気がしたんだよな。雰囲気は全然違うが──
贅沢な昼食を終え、食後のお茶をのんびりと味合う──ランチ時の、お代わり無料の香草茶とコーヒー。
まったりとした昼過ぎ。他の客達も茶を嗜みつつ焼き菓子などを摘まんでいる。
冬の昼下がり、か──コーヒーのお代わりを頼む。
コーヒーを頼んでいるのは俺だけだ。シェーミィはそんな苦いの、と言い放ち、レンディアとグランさんは、匂いが苦手だそうだ……苦いのがいいんだろうに、そしてこの薫りが分からないか。
ちなみに、砂糖とクリームも付いているが、俺は砂糖だけを少し多めに入れるだけ。
「さて、お暇しましょうか。ルイネミーナさん。ご馳走さまでした」
カップをソーサーに置き、ナプキンで口回りを上品に拭うレンディア。
「代はここに。釣りは取っておいて下さい」
グランさんが、金貨一枚をテーブルに置く。さすが高級店──前世のピザよりも美味かったし、何より前世のピザ、安くなかったからな。
デリバリーとテイクアウトとの値段の差ときたら……まあ店で食べれば、そうでも無かったが。
食事中も、今もチラチラと俺達に視線を送ってきている女性客達──冒険者が珍しいのだろうか?
「ありがとうございます。またのお越しをお待ちしていますね」
微笑むルイネミーナさん。やはり、エルフ。明るく美しい美貌だ。
月と太陽に例えられるだけはあるな──
ロングスウォード領に向かうのは明日。
オーク討伐の報酬を受け取ってからだ。
夕食は、宿で取る事に決まった。
それまでは自由行動。補充する品があるなら、雑貨屋にでも行くか……だったら、補充ついでに露店商のロディックさんに、顔を出しておこう。そして、ラーディスさんだな……。
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(゚∈゚ ) チュチュッチュン