邪神の子 ~赤き瞳のクレイドル~   作:末末

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第158話 ロングスウォード領について

 

 

港区の貿易港に、陽に焼けた逞しい体つきの労働者達の喧騒と熱気が、景気良く湧き上がっている。何とも心地良い喧騒と熱気。

停泊中の貿易船から、荷下ろしの真っ最中だ。

巨大な帆船、凄いな……離れた場所からでも大きさが見てとれる──

「久し振りに見たが、何とも豪装な船だな」

グランさんが、染々と云った。

木と鉄で頑丈に造られた、立派な帆船。

動力は風だけでは無く、魔石も使っているそうだ。

荒波を乗り越え切り開き、突き進んでいく事だろうな──荷台や荷馬車に、次々と乗せられ運ばれていく、大小様々の木箱や樽。

それらには、各地の貿易品や生活必需品等が詰め込まれているのだろう──中には、あまり表立って運べない物もあるかも知れないな……。

 

「よし、戻るか……潮風が冷える」

グランさんが、マントの襟を合わせる。マフラーを鼻まで覆い、コートを着込んでいる俺でも寒くなってきた。

「はい、宿に戻りましょう……鶏源亭の屋台が気になりますけど」

「ああ、私もだ」

 

昼前にもかかわらず、なかなかに繁盛している鶏源亭をチラリと見て、名残惜しそうに港区から立ち去る、クレイドルとグラン──

 

 

少し早めに宿に戻れた。ひとまず剣と荷物を部屋に置き、グランさんと二人、いつもの奥の席に座り、レンディア達を待つ。

香辛料入りの茶を、ゆっくりと啜る。

冷えた体に、暖かさが染み渡る様だ──港区からの帰り、露店で販売されていた干し魚と、海草と野菜の乾燥スープを購入する。

それに釣られたのか、グランさんは干した貝柱を購入した。

乾燥スープに入れるも良し、炙って食べるも良しの物だという──俺としては、スープに入れたいな。

干し魚は、どうとでも出来る。炙り焼きにしようが、細かくしてスープに入れようが、干し肉の様にそのまま噛る事も出来るのだ。

うん、いい買い物をした。レンディアとシェーミィが合流するまで、まだ時間はあるな。

 

香辛料入りの茶を啜りながら、グランさんと他愛ないお喋りをする──昼食前の準備で、調理場が忙しくなっているのが、見える。

今日の昼食は何だろう? 調理場で、魚が見えたが何の種類かまでは分からなかった……さて、レンディアは何処で食べるつもり何だろうかな?

 

 

身だしなみを整えたレンディアが、食堂に降りて来た。今日は、豊かな銀髪を高く結い上げている。

いつもの深緑色のケープコートの下は、厚手の白いワンピース。腰には緑色の細いベルトが巻かれている。どことなく、上品な装い──貴族の出自だけはあるな。

シェーミィが、少し遅れてやって来た。暖色系の装い。オレンジ色の上下に、ファー付きの茶色の毛皮の上着。相変わらず、派手目の装い──何となく、猫族らしいなと思った。

 

「う~ん。なかなか寒くなってきたね~」

席に着き、手の平を擦り合わせながら、いつの間にかテーブル近くに待機していたレイナさんに、香辛料入りの茶を頼むシェーミィとレンディア。

「今日は、どこに食べに行く~?」

シェーミィが云いながら、厨房を見ている。

魚の匂いでも嗅ぎ付けたのだろうか? 鼻がスンスン、と動いている様に見えた……。

「そうねえ。たまにはちょっと贅沢な昼食にしようかしら?」

レンディアが、運ばれて来た香草茶を手に取りながら云う。

「……贅沢、か。ふむ、たまにはいいな」

茶を啜りながら、グランさんが云った。贅沢、か……しばしのお茶の時間。この時間もまた、贅沢かもしれないな。

「さあ、行きましょうよ」

レンディアが茶を飲み干し、席を立つ。銀貨一枚をテーブルに置いた。

「いつもありがとうございます」

レイナさんが頭を下げ、ちらりと俺を見た。俺は頷き返す。

 

 

深緑の庭(ガーデンオブフォレストグリーン)”。繁華街の喧騒が、ほとんど聞こえない奥まった場所にある店。

確かに、たまの贅沢にはいい場所だ……前にミザリアスさんと来た時は、満足いく食事が出来たからな……。

テラス席のある、白と緑を基調としたお洒落な雰囲気の店構えは相変わらずだが、寒くなっているので、テラス席に着いている客はいない。

 

昼になったばかりなので、客はまばらだ。皆、女性。

「今日は。四名だけど席は空いてる?」

店に入り、レンディアが云った。

「あら、レンディア。久し振りね。いらっしゃいませ」

テーブルを片付け中の、エプロン姿の店員が振り返る──店長だった。

美しく整った目鼻立ちと、特徴的な高い耳。波打つ様な長い金髪を、高く結い上げている。

碧味がかった瞳と長い睫毛が目を引く、エルフの店長。

「奥の席にどうぞ」

微笑みながら云う、店長さん。目が合うと、笑みを浮かべたまま会釈してきた。

 

席に着くと、直ぐに店長さんがやって来た。

「今日のランチは、ピザ。サラダとスープ付きよ」

ピザ。この世界にあったのか……先人の転生者か転移者が広めたのか?

「ふうん……ピザの具材は何?」

「ベーコンにトマト、ピーマン。それと、エビとイカにアサリよ。生地は、厚めと薄めあるけれど、どちらにします?」

店長さんが云う。

ミックスピザにシーフードピザといった感じか。両方頼んだ方が、楽しめるだろうな──「レンディア、両方を二つずつ頼もう」

そうね、とレンディアが云い、二つずつを注文した。

生地の厚さは、それぞれ薄めと厚めを頼んだ……やはり、先人の教えがあったのかな?

グランさんとシェーミィからは、何も意見は無い。この注文でいいのだろう。

「あと、果実水炭酸割りを四つお願いね」

レンディアの追加注文に、明るく応える店長さん──店長さんの名前、聞いておかないとな……。

 

「ロングスウォード伯という人は、どういう人物だ?」

薄めの──クリスピータイプだっけか?──シーフードピザを、サクリと一口。うん、美味い。前世の物より、美味いな……。

生地にはトマトソースでは無く、ホワイトソース。野菜は玉葱だ。ホワイトソースと合うな。

「そうねえ……一言で云うと、武人ね。それと、正確にはロングスウォード辺境伯ね。ロングスウォード家は、ダーンシルヴァス神王国と、ミルゼリッツ帝国の国境を護る役割を担っていたのよ。まあ、今もだけどね」

レンディアは厚めの──アメリカンタイプか──ミックスピザを、ハフリと一口。チーズが波打つ様に伸び、トマトソースが、レンディアの口の端に付いている。ピザの醍醐味だな。

 

「武門の家だけあって、各種武術の道場が盛んな土地柄だな。領主が代々、武術を推奨しているんだ」

少しトロミのあるクリームスープを啜るグランさん。刻んだジャガイモとニンジンが入ったスープ。濃い目でまろやかなスープだ。

玉葱とピーマンのサラダを、真っ先に平らげたシェーミィが、シーフードピザを口に詰め込んでいる。

「一人で食うつもりか。おい」

皿を引き戻す。シーフードピザはもう、厚めと薄めそれぞれ、ニピースしか残っていない。

「むー」

もっくもっくと、片手にピザを持ちながら口を動かすシェーミィ。

 

代々、武術が盛んな所か……国境を見張り護る立場だから、自然と武力を持たざるを得ないんだろうな。それが今まで続いている、と……ふむ。

厚めのシーフードピザに手を伸ばす。うん、ふっくらとした生地もいいな。

 

「ルイネミーナさん、ミックスピザとシーフードピザ、薄めの生地を一枚ずつ追加ね。あと果実水炭酸割りを四つ、お代わりお願いよ」

レンディアが、よく通る声で追加注文をした。

「はーい。少しお時間頂きますねー」

厨房から、声が聞こえた……ルイネミーナ? 店長さんの名前……。

「レンディア、“青葉の鋼(スティールオブリーブス)”のネエラミーナさんと店長さんは、姉妹か何かなのか?」

「ん、そうよ。確か、ネエラミーナさんが姉だったかしらね」

スープカップを両掌で抱え、ゆっくりと飲み干すレンディア。

何となく、容姿が似ていた気がしたんだよな。雰囲気は全然違うが──

 

 

贅沢な昼食を終え、食後のお茶をのんびりと味合う──ランチ時の、お代わり無料の香草茶とコーヒー。

まったりとした昼過ぎ。他の客達も茶を嗜みつつ焼き菓子などを摘まんでいる。

冬の昼下がり、か──コーヒーのお代わりを頼む。

コーヒーを頼んでいるのは俺だけだ。シェーミィはそんな苦いの、と言い放ち、レンディアとグランさんは、匂いが苦手だそうだ……苦いのがいいんだろうに、そしてこの薫りが分からないか。

ちなみに、砂糖とクリームも付いているが、俺は砂糖だけを少し多めに入れるだけ。

 

「さて、お暇しましょうか。ルイネミーナさん。ご馳走さまでした」

カップをソーサーに置き、ナプキンで口回りを上品に拭うレンディア。

「代はここに。釣りは取っておいて下さい」

グランさんが、金貨一枚をテーブルに置く。さすが高級店──前世のピザよりも美味かったし、何より前世のピザ、安くなかったからな。

デリバリーとテイクアウトとの値段の差ときたら……まあ店で食べれば、そうでも無かったが。

 

食事中も、今もチラチラと俺達に視線を送ってきている女性客達──冒険者が珍しいのだろうか?

「ありがとうございます。またのお越しをお待ちしていますね」

微笑むルイネミーナさん。やはり、エルフ。明るく美しい美貌だ。

月と太陽に例えられるだけはあるな──

 

 

深緑の庭(ガーデンオブフォレストグリーン)から出て、宿に戻る。

ロングスウォード領に向かうのは明日。

オーク討伐の報酬を受け取ってからだ。

夕食は、宿で取る事に決まった。

それまでは自由行動。補充する品があるなら、雑貨屋にでも行くか……だったら、補充ついでに露店商のロディックさんに、顔を出しておこう。そして、ラーディスさんだな……。




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(゚∈゚ ) チュチュッチュン
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