邪神の子 ~赤き瞳のクレイドル~   作:末末

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第159話 帝都での飲み納め

夕食は皆で取る事に決まった。それまでは、別行動。

グランさんは、帝都から離れる事を騎士団支部に伝えに行くそうだ。

レンディアは補充品を確認後、雑貨屋に出かけると云った。

シェーミィは、夕食まで一眠りするとの事──夕食まで、充分に時間はある。

 

挨拶回りの時間はあるな──「レンディア、一緒に雑貨屋を回らないか? ちょっと顔を出したい人がいるんだ」

「うん? 構わないわよ。干し果物とお茶を補充しないとね。後はまあ店を見てからね」

ロディックさんの露店にまず向かって、その後に レドック商会かな?

「その後は、ラーディスさんに顔を見せるつもりだ」

「ふん。兄上に会いに行くのだったら、私も行くわよ。手土産でも持っていかないとね」

微笑むレンディア。手土産か……何がいいかな。

 

 

「今日は、ロディックさん」

店先で煙管を吹かしていたロディックさんに声をかける。

心地良い喧騒の露店広場。いつもの場所に、いつも通り露店を出している──黒い看板に、銀色の文字で“ロディックの店”。

「うん、いらっしゃい。これはこれは、お嬢も一緒だとはな」

愛想よく笑い、ぷかりと煙管の煙を吐き出すロディックさん。

 

「ふむ。ロングスウォード領を経由して、ダーンシルヴァスにね。向かうなら早い方がいいね」

煙管に煙草葉を詰めながら、ロディックさんが云う。

「大雪になる前に、明日には向かうつもりよ」

露店裏で、ロディックさんが手ずから淹れてくれた茶をご馳走になりながら、お喋りをする。

購入した品は、干し果物と香草茶に、塩と香辛料。魔道コンロ用の魔石。煙草葉はいいか。充分にあるからな──

「気を付けてな。帝都に戻ったら、また顔を見せておくれ」

優しく微笑み、煙管を吹かすロディックさん。

 

「兄上への手土産ねえ。う~ん、まあ適当に菓子やらお茶やらでいいと思うわよ」

そういえば前に、“深緑の庭(ガーデンオブフォレストグリーン)”で菓子と茶の詰め合わせを手土産にした事があったな……ふむ。

「レンディア、ラーディスさんへの手土産は、深緑の庭の詰め合わせセットはどうだろう?」

ふうん、とレンディアが呟く。

「うん。悪くないわよ。そうねえ、クッキーと紅茶の詰め合わせか、コーヒーが良いかもね」

ラーディスさん、コーヒー好むのか──早速、深緑の庭に出向くか。

 

 

「あら、いらっしゃいませ。お買い物かしら?」

にこやかに微笑みながら迎えてくれる、ルイネミーナさん。

「ええ、兄上への手土産をね。明日にでも、ロングスウォード領に向かうから、その前に顔を出しておこうと思ったのよ」

「そうなんです。何かお勧めの品ありますか?」

ルイネミーナさんに尋ねる。そうねえ……とルイネミーナさん。土産用の品が並べられている販売カウンターへと案内される。

 

人気の品は、クッキー詰め合わせと紅茶かコーヒーのセット。そして、ハチミツのパウンドケーキか──よし決めた。

「手土産は、ハチミツのパウンドケーキと、紅茶とコーヒーのセットをお願いします」

「ん、それで良いと思うわよ。時間はまだあるから、お茶でもしていきましょうよ」

手土産はこれで良いそうだ……茶と甘いものを楽しむ時間はあるか。

「ご注文決まったら呼んでちょうだい。お土産の用意は、お茶の後にでもするから」

微笑み、厨房へ向かって行くルイネミーナさん。結い上げた金髪が揺れていた。さて、メニューを見る──「ケーキとお茶のセットが無難よ」

なるほどな。なら、何がいいかな……。

 

注文したのは、ハチミツのパウンドケーキとコーヒーセット。レンディアは、紅茶のセット。

ハチミツのパウンドケーキが美味しそう何だよな……「先に、紅茶とコーヒー、お待たせしました」

ルイネミーナさんが、直々に運んで来てくれた。

おお、コーヒーの薫りが何とも言えない──附属の砂糖とクリーム。

うん、たまには砂糖少々にクリームを少し、とやってみようか?

「いただきます」

優美な手付きで、紅茶のカップを手に取り、啜るレンディア。

俺は、砂糖とクリーム少々をコーヒーに入れ、ゆっくりかき混ぜる──ふうん……砂糖だけよりも、いい薫りだな。コーヒーを啜る。

いい味だ。クリーム入れただけでこうも変わるものか──甘味が引き立つ様な、まろやかな味わい。これでケーキを合わせたら、どうなる事か。

「ハチミツのパウンドケーキ、お待ちどうさまです」

 

運ばれて来たパウンドケーキを、フォークですくい取り、口に運ぶ──甘い。

ハチミツとパウンドケーキの甘さが、口に広がる。砂糖とクリームのコーヒーを口にすると、また違った甘さが広がる──その後に、コーヒー独特の苦さが交わって来た。

うん。ケーキとコーヒーの組み合わせというのは、実にいいな……。

はっきりと言える。“深緑の庭(ガーデンオブフォレストグリーン)”は良い店だ……ちとお高いが。

 

「はい、こちらお土産ね」

ルイネミーナさんが、お土産を持って来た。白と緑を基調とした手提げの紙袋。結構大きい。

ここは私が払うわよ、とレンディアの払いとなった。金貨一枚……茶とケーキのセットが二人分、銀貨四枚で、ラーディスさんへの手土産の、ハチミツのパウンドケーキと、紅茶とコーヒーのセットが計銀貨四枚、か……しめて、銀貨八枚。昼下がりに使う金額じゃないな。

「お釣りは、取っておいて」

「いつもありがとうございますね」

さらっと、釣りは取っておいてと言えるのもすごいな。銅貨じゃなく、銀貨だぞ。まあこれくらい言えなきゃ、高級店には来れないか……。

 

近くの馬車乗り場から、城へと向かう。馬車の中は、冷温陣がほどよく効いていて暖かい。軽く眠気を感じるな……。

 

 

ラーディスさんの妹であるレンディアが門番に声をかけると、誰何される事なく、顔パスで通る事が出来た。さすがグレイオウル家。

城内に入ると、さっと周囲を見回す──前見た様に、何とも豪壮かつ豪華だが……豪華絢爛さの中にも、武骨な雰囲気が漂っている。

先導して案内してくれている衛兵さんが、ドアをノックする。

「ラーディス様、レンディア様とクレイドル様が、お越しです」

一拍の間を置き、どうぞ、と返事がしてドアが開いた。

その声は、ええと確か……ラーディスさんの従者、スケルトンのギルバートさんだ。

 

「ふむ。レンディ、久し振りだな」

ラーディスさんが手土産を受け取り、ギルバートさんにお茶の用意を頼んだ。軽く頭を下げ、ギルバートさんが奥に向かった。

椅子を勧められる座る。前にも見た、頑丈な造りで、縁には細かな装飾が成されているテーブルだ。椅子の座り心地はかなりいい──

「明日には、ロングスウォード領に向かうのよ。だから、クレイドルと一緒に兄上に挨拶したかったのよ」

「ロングスウォード領か……私もしばらく顔を出していないな。ふむ。ロングスウォード伯に会うのだろう? なら、私も近い内に顔を出すと伝えておいてくれ」

分かったわよ、とレンディア。

 

ギルバートさんが、お茶の用意をしてくれ、ラーディスさんとお茶の時間だ。

暫しの歓談。ロングスウォード領と、領主の話。いかに武門の家かという事を聞いた。

なかなかの女傑らしい──「まあ、色々と騒がしい事になるだろうが……良い経験が出来るだろうな」

ハチミツのパウンドケーキを、美味しそうに口に運びながらラーディスさんが云った。

「美味いな……さ、一緒に食べよう。クッキーもある」

ギルバートさんが、クッキーとパウンドケーキをレンディアと俺の前にも出して来た。

「贅沢な時間だ。紅茶にコーヒーに、クッキーとパウンドケーキ……少しばかり、のんびり過ごそうか」

妙に嬉しそうに、ラーディスさんが笑う。

「うん。やっぱり美味しいわね」

パウンドケーキを口に運び、レンディアが澄まし顔で云う。

「雪が深くなる前に向かった方がいいな。いまの時期なら、大雪が降るまで、まだ間がある」

オウルリバーを垂らした紅茶を、美味しそうに啜りながら、ラーディスさんが云った。

 

 

宿に戻る頃には、いい時間になっていた。夕方までは少しばかり時間はある。さて、どうするかな……レイナさんに、夕食前に起こしてくれるよう頼み、部屋に戻る。少し眠るか……。

 

 

ふと、目が覚める。窓からは見える外は、薄暗くなっていた──感覚的に、夕方だろうか……?

こん、ここんと、ノックの音。どうぞ、と返事をするとレイナさんが顔を見せた。

「そろそろ、夕食です。グランさんは先に降りていますよ」

との事。二、三時間は眠れたかな……。

「ありがとう。今、降りるよ」

礼とともに、あくび混じりに応える。

うん、よく眠れたな。心身ともに、スッキリしている──

 

いつもの端のテーブル席。グランさんとレンディアが早くも席に着いていた。

「レイナさん、炭酸水お願いします」

寝起きの炭酸水は、気持ち良いからな……。

グランさんとレンディアが、追加の飲み物を注文する頃に、シェーミィも降りて来た。

「夕食、何か聞いた~」

くあぁ、とあくび混じりにシェーミィが云う。

丁度、飲み物の追加を持って来たレイナさんが答える。

「夕食は、鶏の根菜煮込みにエビとアサリのシチュー。白菜の酢漬けです。パンかライスを選べますよ」

「ふん、良いわね。私はパンでお願いよ」

早速、レンディアが注文を決める。

うん、いいメニューだ。シェーミィもパンで頼み、俺とグランさんは米で頼んだ。

「はい。ご注文承りました。少々お待ちくださいね!」

早速、厨房に向かって行くレイナさん。ふと厨房を見ると、煮込みの香りが漂ってきた様な気がした……鶏の根菜煮込みか。楽しみだな──

 

夕食後、軽く酒を飲みながら明日の予定を話し合う。残る帝都での用は、オーク討伐の報酬を受け取るだけだ。その後、ロングスウォード領に出発という事に決まった。

「朝は報酬受け取りで、ギルド内は混んでいると思うよー。だから昼くらいに行くのが、いいかなー」

シェーミィが、くぴりと果実酒を呷る。

「シェーミィの言う通りだ。報酬は逃げない」

くいっ、と黒ワインを干すグランさん。昼には報酬を受け取り、ロングスウォード領に出発か。

「昼に出発となると、到着はどれくらいになる?」

俺は酒は控え目にして、炭酸水をちびちびと飲む。

この後、酒場に移動するだろうからな。

 

「そうねえ、大雪が降る事も無いだろうし、昼に出たら夕方には着くと思うわよ」

果実酒を呷るレンディア。帝都とロングスウォード領、結構近いんだな。

国境の守りを任されている場所だけはある──兵站が整えられているんだろうな……。

「よし、飲みに行こうか。帝都での飲み納めとしよう」

グランさんが席を立ち、銀貨四枚を夕食代と酒代として置く……いや、多いと思うけどな。

「久し振りに、港区の“白波の鱗亭”に行こーよ。寒くなってきているし、鍋物で暖まりたいなー」

シェーミィが云った。白波の鱗亭……海鮮鍋かな?ふむ、いいな。

 

「良いわね。そこにしましょうか」

レンディアの一声──よし決まった。

冬の鍋か、楽しみだ。食材豊かな帝都の鍋物は、何があるだろうか?

白波の鱗亭への案内は、シェーミィがすると云い、宿から飛び出して行った。

そんなに楽しみか……おっと、宿主のアルガドさんに、行き先を告げておいた方がいいかな──直感。我が姉、ミザリアスさん対策だ……。

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