夕食は皆で取る事に決まった。それまでは、別行動。
グランさんは、帝都から離れる事を騎士団支部に伝えに行くそうだ。
レンディアは補充品を確認後、雑貨屋に出かけると云った。
シェーミィは、夕食まで一眠りするとの事──夕食まで、充分に時間はある。
挨拶回りの時間はあるな──「レンディア、一緒に雑貨屋を回らないか? ちょっと顔を出したい人がいるんだ」
「うん? 構わないわよ。干し果物とお茶を補充しないとね。後はまあ店を見てからね」
ロディックさんの露店にまず向かって、その後に レドック商会かな?
「その後は、ラーディスさんに顔を見せるつもりだ」
「ふん。兄上に会いに行くのだったら、私も行くわよ。手土産でも持っていかないとね」
微笑むレンディア。手土産か……何がいいかな。
「今日は、ロディックさん」
店先で煙管を吹かしていたロディックさんに声をかける。
心地良い喧騒の露店広場。いつもの場所に、いつも通り露店を出している──黒い看板に、銀色の文字で“ロディックの店”。
「うん、いらっしゃい。これはこれは、お嬢も一緒だとはな」
愛想よく笑い、ぷかりと煙管の煙を吐き出すロディックさん。
「ふむ。ロングスウォード領を経由して、ダーンシルヴァスにね。向かうなら早い方がいいね」
煙管に煙草葉を詰めながら、ロディックさんが云う。
「大雪になる前に、明日には向かうつもりよ」
露店裏で、ロディックさんが手ずから淹れてくれた茶をご馳走になりながら、お喋りをする。
購入した品は、干し果物と香草茶に、塩と香辛料。魔道コンロ用の魔石。煙草葉はいいか。充分にあるからな──
「気を付けてな。帝都に戻ったら、また顔を見せておくれ」
優しく微笑み、煙管を吹かすロディックさん。
「兄上への手土産ねえ。う~ん、まあ適当に菓子やらお茶やらでいいと思うわよ」
そういえば前に、“
「レンディア、ラーディスさんへの手土産は、深緑の庭の詰め合わせセットはどうだろう?」
ふうん、とレンディアが呟く。
「うん。悪くないわよ。そうねえ、クッキーと紅茶の詰め合わせか、コーヒーが良いかもね」
ラーディスさん、コーヒー好むのか──早速、深緑の庭に出向くか。
「あら、いらっしゃいませ。お買い物かしら?」
にこやかに微笑みながら迎えてくれる、ルイネミーナさん。
「ええ、兄上への手土産をね。明日にでも、ロングスウォード領に向かうから、その前に顔を出しておこうと思ったのよ」
「そうなんです。何かお勧めの品ありますか?」
ルイネミーナさんに尋ねる。そうねえ……とルイネミーナさん。土産用の品が並べられている販売カウンターへと案内される。
人気の品は、クッキー詰め合わせと紅茶かコーヒーのセット。そして、ハチミツのパウンドケーキか──よし決めた。
「手土産は、ハチミツのパウンドケーキと、紅茶とコーヒーのセットをお願いします」
「ん、それで良いと思うわよ。時間はまだあるから、お茶でもしていきましょうよ」
手土産はこれで良いそうだ……茶と甘いものを楽しむ時間はあるか。
「ご注文決まったら呼んでちょうだい。お土産の用意は、お茶の後にでもするから」
微笑み、厨房へ向かって行くルイネミーナさん。結い上げた金髪が揺れていた。さて、メニューを見る──「ケーキとお茶のセットが無難よ」
なるほどな。なら、何がいいかな……。
注文したのは、ハチミツのパウンドケーキとコーヒーセット。レンディアは、紅茶のセット。
ハチミツのパウンドケーキが美味しそう何だよな……「先に、紅茶とコーヒー、お待たせしました」
ルイネミーナさんが、直々に運んで来てくれた。
おお、コーヒーの薫りが何とも言えない──附属の砂糖とクリーム。
うん、たまには砂糖少々にクリームを少し、とやってみようか?
「いただきます」
優美な手付きで、紅茶のカップを手に取り、啜るレンディア。
俺は、砂糖とクリーム少々をコーヒーに入れ、ゆっくりかき混ぜる──ふうん……砂糖だけよりも、いい薫りだな。コーヒーを啜る。
いい味だ。クリーム入れただけでこうも変わるものか──甘味が引き立つ様な、まろやかな味わい。これでケーキを合わせたら、どうなる事か。
「ハチミツのパウンドケーキ、お待ちどうさまです」
運ばれて来たパウンドケーキを、フォークですくい取り、口に運ぶ──甘い。
ハチミツとパウンドケーキの甘さが、口に広がる。砂糖とクリームのコーヒーを口にすると、また違った甘さが広がる──その後に、コーヒー独特の苦さが交わって来た。
うん。ケーキとコーヒーの組み合わせというのは、実にいいな……。
はっきりと言える。“
「はい、こちらお土産ね」
ルイネミーナさんが、お土産を持って来た。白と緑を基調とした手提げの紙袋。結構大きい。
ここは私が払うわよ、とレンディアの払いとなった。金貨一枚……茶とケーキのセットが二人分、銀貨四枚で、ラーディスさんへの手土産の、ハチミツのパウンドケーキと、紅茶とコーヒーのセットが計銀貨四枚、か……しめて、銀貨八枚。昼下がりに使う金額じゃないな。
「お釣りは、取っておいて」
「いつもありがとうございますね」
さらっと、釣りは取っておいてと言えるのもすごいな。銅貨じゃなく、銀貨だぞ。まあこれくらい言えなきゃ、高級店には来れないか……。
近くの馬車乗り場から、城へと向かう。馬車の中は、冷温陣がほどよく効いていて暖かい。軽く眠気を感じるな……。
ラーディスさんの妹であるレンディアが門番に声をかけると、誰何される事なく、顔パスで通る事が出来た。さすがグレイオウル家。
城内に入ると、さっと周囲を見回す──前見た様に、何とも豪壮かつ豪華だが……豪華絢爛さの中にも、武骨な雰囲気が漂っている。
先導して案内してくれている衛兵さんが、ドアをノックする。
「ラーディス様、レンディア様とクレイドル様が、お越しです」
一拍の間を置き、どうぞ、と返事がしてドアが開いた。
その声は、ええと確か……ラーディスさんの従者、スケルトンのギルバートさんだ。
「ふむ。レンディ、久し振りだな」
ラーディスさんが手土産を受け取り、ギルバートさんにお茶の用意を頼んだ。軽く頭を下げ、ギルバートさんが奥に向かった。
椅子を勧められる座る。前にも見た、頑丈な造りで、縁には細かな装飾が成されているテーブルだ。椅子の座り心地はかなりいい──
「明日には、ロングスウォード領に向かうのよ。だから、クレイドルと一緒に兄上に挨拶したかったのよ」
「ロングスウォード領か……私もしばらく顔を出していないな。ふむ。ロングスウォード伯に会うのだろう? なら、私も近い内に顔を出すと伝えておいてくれ」
分かったわよ、とレンディア。
ギルバートさんが、お茶の用意をしてくれ、ラーディスさんとお茶の時間だ。
暫しの歓談。ロングスウォード領と、領主の話。いかに武門の家かという事を聞いた。
なかなかの女傑らしい──「まあ、色々と騒がしい事になるだろうが……良い経験が出来るだろうな」
ハチミツのパウンドケーキを、美味しそうに口に運びながらラーディスさんが云った。
「美味いな……さ、一緒に食べよう。クッキーもある」
ギルバートさんが、クッキーとパウンドケーキをレンディアと俺の前にも出して来た。
「贅沢な時間だ。紅茶にコーヒーに、クッキーとパウンドケーキ……少しばかり、のんびり過ごそうか」
妙に嬉しそうに、ラーディスさんが笑う。
「うん。やっぱり美味しいわね」
パウンドケーキを口に運び、レンディアが澄まし顔で云う。
「雪が深くなる前に向かった方がいいな。いまの時期なら、大雪が降るまで、まだ間がある」
オウルリバーを垂らした紅茶を、美味しそうに啜りながら、ラーディスさんが云った。
宿に戻る頃には、いい時間になっていた。夕方までは少しばかり時間はある。さて、どうするかな……レイナさんに、夕食前に起こしてくれるよう頼み、部屋に戻る。少し眠るか……。
ふと、目が覚める。窓からは見える外は、薄暗くなっていた──感覚的に、夕方だろうか……?
こん、ここんと、ノックの音。どうぞ、と返事をするとレイナさんが顔を見せた。
「そろそろ、夕食です。グランさんは先に降りていますよ」
との事。二、三時間は眠れたかな……。
「ありがとう。今、降りるよ」
礼とともに、あくび混じりに応える。
うん、よく眠れたな。心身ともに、スッキリしている──
いつもの端のテーブル席。グランさんとレンディアが早くも席に着いていた。
「レイナさん、炭酸水お願いします」
寝起きの炭酸水は、気持ち良いからな……。
グランさんとレンディアが、追加の飲み物を注文する頃に、シェーミィも降りて来た。
「夕食、何か聞いた~」
くあぁ、とあくび混じりにシェーミィが云う。
丁度、飲み物の追加を持って来たレイナさんが答える。
「夕食は、鶏の根菜煮込みにエビとアサリのシチュー。白菜の酢漬けです。パンかライスを選べますよ」
「ふん、良いわね。私はパンでお願いよ」
早速、レンディアが注文を決める。
うん、いいメニューだ。シェーミィもパンで頼み、俺とグランさんは米で頼んだ。
「はい。ご注文承りました。少々お待ちくださいね!」
早速、厨房に向かって行くレイナさん。ふと厨房を見ると、煮込みの香りが漂ってきた様な気がした……鶏の根菜煮込みか。楽しみだな──
夕食後、軽く酒を飲みながら明日の予定を話し合う。残る帝都での用は、オーク討伐の報酬を受け取るだけだ。その後、ロングスウォード領に出発という事に決まった。
「朝は報酬受け取りで、ギルド内は混んでいると思うよー。だから昼くらいに行くのが、いいかなー」
シェーミィが、くぴりと果実酒を呷る。
「シェーミィの言う通りだ。報酬は逃げない」
くいっ、と黒ワインを干すグランさん。昼には報酬を受け取り、ロングスウォード領に出発か。
「昼に出発となると、到着はどれくらいになる?」
俺は酒は控え目にして、炭酸水をちびちびと飲む。
この後、酒場に移動するだろうからな。
「そうねえ、大雪が降る事も無いだろうし、昼に出たら夕方には着くと思うわよ」
果実酒を呷るレンディア。帝都とロングスウォード領、結構近いんだな。
国境の守りを任されている場所だけはある──兵站が整えられているんだろうな……。
「よし、飲みに行こうか。帝都での飲み納めとしよう」
グランさんが席を立ち、銀貨四枚を夕食代と酒代として置く……いや、多いと思うけどな。
「久し振りに、港区の“白波の鱗亭”に行こーよ。寒くなってきているし、鍋物で暖まりたいなー」
シェーミィが云った。白波の鱗亭……海鮮鍋かな?ふむ、いいな。
「良いわね。そこにしましょうか」
レンディアの一声──よし決まった。
冬の鍋か、楽しみだ。食材豊かな帝都の鍋物は、何があるだろうか?
白波の鱗亭への案内は、シェーミィがすると云い、宿から飛び出して行った。
そんなに楽しみか……おっと、宿主のアルガドさんに、行き先を告げておいた方がいいかな──直感。我が姉、ミザリアスさん対策だ……。