邪神の子 ~赤き瞳のクレイドル~   作:末末

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──龍虎の門をくぐる者、心せよ。
くぐった先の、さらに先に見える道は修羅の道につながる門あり。
そこに至れば、もう引き返せない。心せよ──

拳神ダンの一言(いちげん)


第161話 武門街 ─龍虎の門─

 

 

龍虎の門をくぐる──そういう言い回しがある。

元々は、睨み合う龍と虎の間を通るという意味だったらしいが(それが何を意味するのかは、今となっては分からない)、いつしか、武の道を行くという意味に変化していたそうだ。

それからさらに時を経て、現在では龍虎の門をくぐる──という意味は、武術、武芸で身を立てる覚悟を決めた者が通る道──という意味になっている。

 

 

帝都の北西部に位置する、ロングスウォード領の中心部。ロングスウォード伯が住まうその地は、“武門街”という通称で知られている──

ロングスウォード領の南側から、一直線に進むと、武門街に到達出来る。

 

 

「直に到着するな……クレイドル、門を見てみろ。なかなかに見応えあるぞ」

グランさんの声に、まどろみから覚めた。武門街の門か……フェイスガードを上げ、馬車の外を見る──おお……これは、凄いな。

睨み合う虎と龍が装飾された、巨大な鉄城門。帝都の門に勝るとも劣らぬ大きさ。そして城壁もまた……そうか、国境の守りを担う場所であるからには、ロングスウォード領は城塞としての働きもするんだよな。

 

おっと、異世界知識発動──帝都領内の、重要な城塞や砦を設計建設し、鉄壁将と称されたヴォルガンド伯。

そのヴォルガンド伯が、各地の重要拠点を築いた経験と、歴戦の知恵、知識を総動員して、辺境に城塞と砦を築いた。

城塞を囲むのは、互いに連携し合う、四つの砦。

常時、二千の兵が駐屯する砦は、どちらかが攻められれば、すぐに他の砦から救援が送られる様に築かれていた。

 

城塞を陥落させるには、砦を攻略する必要があるが、それは簡単では無い。

四つの砦を同時に攻め落とす必要がある。例えそれが出来るとしても、城塞には常に、八千から一万の兵が常駐している。砦と城塞合わせ、二万近くの兵が国境を守っているのだ──攻略するのは、容易い事では無い。

それに帝都から近く、事あらばすぐに兵站街道を通って援軍が来る──異世界知識、終了。

歴史講座って感じだったが……うん、ためになった。覚えておこう。

 

「おおー、久し振りに見たけど、相変わらず凄いねー!」

さっきまで寝転んでいたシェーミィが、窓の外から見える武門街の門を見て云った。

開け放された城門は、まさに睨み合う虎と龍……虎と龍(タイガー&ドラゴン)概視(デジャヴ)感あるな。気のせいか?

「ふん。相変わらずの迫力ね」

レンディアもまた、微笑みながら窓の外を眺めている。

龍虎の門か……間近で見たら、さらに凄いだろうな。

 

 

馬車乗り場に到着。夕方前に着く事が出来た。

帝都から出発したのが昼少しだったから、四時間ちょっとか……快適な移動だったな。

馬車内は暖かく、ほとんど揺れを感じなかった。街道整備が行き届いているのが大きいな……馬車にも、揺れを押さえる仕組み、サスペンションが付けられているんだろうか?

 

荷を下ろし、手早く身支度をする。

肩掛けカバン、ラウンドシールドを肩に掛け、バトルアクスを担ぐ。

腰回りには“魂食み(ソウルスレイヤー)”に “宵闇(トワイライト)”、そして腰の後ろにはハンドアクス──準備ヨシ!

 

身支度を終えた俺達は、レンディアを待っていた。

レンディアは、ロングスウォード領の近況を聞くため、御者と話をしている──話が済んだのか、御者に手を振り、戻って来た。

「待たせたわね。色々教えて貰ったわよ。ともかく、列に並びましょうよ」

ロングスウォード領、武門街に入るために並んでいる人々の中に交じる。

 

熱気。並んでいる人々の熱気が普通では無い。 それもそのはず──旅人、行商人よりも、明らかに“普通(カタギ)”の人じゃないのも色々交じっているんだよな……冒険者とも違う連中が。

「武術家、武芸者、喧嘩自慢に、力自慢。腕に覚えありの連中が、よりどりみどりよー」

にしし、と笑うシェーミィ。

なるほどな、“武門街”か……改めて周囲を見回すと、やはり冒険者のまとう雰囲気とは違う連中がちらほら。

 

鞘に収めた、穂先の長い槍を担いだ者。二剣を背負った者。どうやって抜くのか、想像もつかないほどに長い剣を肩掛けにしている者。

流派名が刺繍された胴着の上から、上衣を羽織っている者──様々な、腕に覚えありの連中……まあ、中にはただの荒くれにしか見えないのもいるが。

どこそこの道場はどうだとか、あの流派のやり方はどんなものだろうか、ロングスウォード伯に、是非腕前を認められたい、だとか──そんな会話が聞こえてくる……これらの会話も、何らかの情報になるのだろうな。

「御者さんから、色々聞いたのよ。いい中宿の事もね。お勧めは、冒険者ギルド近くにある、“荒野の髭(ビアードオブワイルドネス)”。ドワーフがやっている宿だって」

ドワーフの宿ね。ふむ……楽しみだな。

 

何の問題も無く、武門街に到着。

「まずは、冒険者ギルドに移動登録に向かうわよ」

はいはーい、とシェーミィが先導して行く。宿を取るのはその後だな。

シェーミィを先頭に通りを少し行くと、四方に道が広がる大きな広場に出た。

その北側正面に冒険者ギルドがあった。大きな石造りの建物。趣のある、独特の造りをしている──

「覇王公の時代から、ほとんど代わっていないらしいわよ」

建物を眺めがら、レンディアが云う。歴史的建造物といった所か……何か感慨深いな。

「さ、行きましょうか。移動登録した後、宿を取りましょうよ」

レンディアが率先して、ギルドに入って行く。

 

 

「お久し振りよ。アルバートさん」

正面カウンターで、書類仕事をしている“丸い”人物に声をかけるレンディア。

うん? と書類から顔を上げる丸い人物──濃い褐色の肌。彫りの深い、厳つい顔。切れ長の、形の良い目をしている。歳は四~五十くらいだろうか。

紫がかった黒髪を、丁寧に後ろに撫で付けている。

アイロンがけされた、パリッとした白い長袖のシャツ。袖口には黒いカフスボタン。首が太いので、第一ボタンを開けている。

シャツの上から赤茶色のベストを着ている、どことなく気品の様なものを漂わせた人物だ──

 

「おお、お嬢か。久し振りだなあ」

アルバートと呼ばれた“丸い”人物が微笑みながら、立ち上がる。

その体は、丸かった。ごつりとした、厳つい顔以外の部位は丸かった──肩、腕、手指、胴。恐らく下半身も。

“丸い”、という言葉以外に付け加えるならば、“太い”が適切だろう。

「ええ、移動登録お願いよ。帝都から移動して来たのよ」

「ふむ、帝都から移動な」……再度椅子に腰掛け、書類をカウンター内から取り出すアルバート。

 

「碧水の翼、冒険者証出してくれ……うん?」

ここで、アルバートは気付いた。一人多い事に。

ハーフエルフのレンディア。暗黒騎士のグラン。斥候のシェーミィ──そしてもう一人……黒鷲を模したフルフェイスの兜に、禍々しささえ感じる、赤闇色の鎧と籠手を身に付けた、戦士然とした雰囲気の冒険者──下ろしたフルフェイスからは、何の表情も伺えない。ただ、視線だけは感じる……まあいい。

碧水の翼から、冒険者証を受け取る。

 

 

「ふむ、中級Cランクに到達したか。ベテランの仲間入りだなあ……さて、新顔はクレイドルか」

「少し前に、加入したのよ。腕前は保証するわよ。まあ……たまに無茶するけど」

レンディアが云う。無茶なあ……クレイドルが差し出した冒険者証を確認する。

「二枚羽とはな……二ヶ月、初級訓練受けたのは、何か理由でもあるのか?」

冒険者証に刻印された、名前の左右を挟み込む様に翼が二つ……中級のEランク、か。

「城塞都市で初級訓練を受けたんですが、一月の訓練後、せっかくだからともう一月の訓練を頼んだんです」

性別を感じさせない、よく通る声でクレイドルが云った。

ふむ……追加で訓練を頼んだのか……変わっているなこいつは。

 

「良し、いいだろう。移動登録完了だ。お嬢、宿は決まっているのか?」

レンディアに、まとめて冒険者証を返すアルバートさん。

荒野の髭(ビアードオブワイルドネス)をお勧めされたから、そこにしようと思っているのよ」

「そこは確かにお勧めだなあ。飯も美味いし、良い酒を出す。俺も食事はそこで済ませてるよ」

レンディアとアルバートさんの会話からするに、荒野の髭は、なかなかの良宿らしい……荒野の髭か。

改めて聞くと、凄い宿名だな。

 

ギルドから出て、早速宿を取りに行く。場所は本当に近く、ギルドの裏通りにあった。

荒野の髭(ビアードオブワイルドネス)”──ウィンクをしているドワーフ女性(髪飾り付き)の顔が描かれた看板が、いい感じだ。

宿も頑丈な石造り。ここもまた、歴史的な雰囲気がある。城塞の名残なんだろうな。

「ごめんくーださーい!」

シェーミィが、勢いよく宿に入って行った。さて、四人取れるといいが。

 

「二人部屋、二つね。互いに近い方がいいだろ?」

「そうして貰えるとありがたいわ」

看板娘ならぬ、看板女将とレンディアのやり取り。部屋は無事取る事が出来た。まずは、一安心といった所か。

宿泊期間は、取り合えず一週間。週区切りの宿泊という事で割り引きをしてもらった。

「ちょいと多いよ?」

「追加の食事代だと思って、取っといて頂戴」

レンディアが気前よく、金貨七枚を払った。何となく、貴族っぽい振る舞いだと思った。

「ありがとさん。こりゃ、おもてなししないとね」

あっはっは、とドワーフらしく豪快に笑う女将さん。

女将さんの名前は、イーライ。旦那さんは、鍛冶工房の大将だそうだ。

「夕食は、もうちょい後だね。それまでのんびりしてるといいよ」

イーライさんが従業員を呼び、部屋の案内を頼んだ。奥の方から、明るい返事が聞こえた。

ドワーフの宿か、どんな部屋か楽しみだ……。

 

 

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