邪神の子 ~赤き瞳のクレイドル~   作:末末

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少しばかり、長くなりました。
どうも、筆のノリか安定しませんな。


_〆(。。)


第162話 冒険者と神聖騎士とロングスウォード伯

 

 

 

荒野の髭(ビアードオブワイルドネス)”──ドワーフの経営する宿だ。

部屋に案内されて、驚いた。

部屋の大部分は石造り。床と窓と窓枠、カーテン。枕にシーツ、毛布以外は石造り。ベッドもだ。

部屋の真ん中には、テーブル代わりの空の酒樽が、ドンと置かれている。酒樽の左右、二脚の頑丈そうな椅子は少し高め。

「石には石の温かさがあるんだよ」

案内してくれたドワーフの従業員が云った。石には石の温かさ、か……ドワーフらしい言葉だな。

 

従業員は黒髪を、薔薇をあしらった髪飾りで髪を留めているから、女性だろう。

歳の頃は分からない。ドワーフの寿命は人の倍はあるからな……若い感じはする。何となく、リリンを思い出した。

「夕食はもう少しだからね。降りて待っててもいいし、時間になったら声をかけるからね」

部屋を出ようとする従業員を呼び止め、心付けを渡す──銅貨五枚。俺の相場だ。

「心付けだよ。取っておいてくれ」

「えー、いいの? ありがとう!」

おう、素直に受け取り、喜んでくれたか……何か気持ちいいな。

もちろん、上から目線の気持ちではない。遠慮せず、受け取ってくれたのが嬉しいのだ。

「相変わらずだな……」

グランさんが、やれやれと、苦笑混じりに云った……何ぞ?

俺達は荷物を置き、武具を棚に納めて身支度を整え、下に降りる。

レンディア達は来ているだろうか……。

 

 

夕食前の宿は賑わっていた。旅人や行商人らしき人達は見当たらず、客は冒険者に武芸者達が中心だ。

ガヤガヤと賑わう宿の中で、行き交う会話のほとんどは、武芸や武術の話。それらの話をしているのは、冒険者以外の連中だ。武芸者と冒険者達とでは、席が別れているのが気にはなる。

それとは別に、端の席に着いている、白を基調とした衣服の人達……神官らしい装い。妙に刺々しい雰囲気を感じる。

「もしかしたら、冒険者達と武芸者達の乱闘が始まるかもねー」

にっしし、とシェーミィが笑う。余計なフラグ立てないでくれるかな?

 

 

少し前、下に降りると奥の席に案内された。

四人席が座るには、少し広め。食堂全体が見渡せる席──レンディアが、そう頼んだらしい。

少しばかり多めに払った宿代から融通されて、この場所をいつもの席にしてもらったとの事だ。

情報収集には、うってつけの位置がこういう席との事……ふむ。なるほどな。

茶を飲みながら、夕食の時間を待つ。さて、今日のメニューは何だろうか。楽しみだな……。

 

「おう。皆、揃っているな」

ごろりと、“丸く、太い”人物──ギルドマスターのアルバートさん。

夕食を一緒に取る約束をしていたそうだ。

「ええ。アルバートさん」

レンディアが応えると、よいしょとばかりに席に着くアルバートさん。みしり、と椅子が軋んだ。

シェーミィが、ティーポットを取り、カップに茶を注ぎ、アルバートさんに差し出す。

「おう、ありがとよ……夕食のメニューは、聞いたか?」

礼を云い、茶を啜るアルバートさん。

タイミングよく、従業員が夕食のメニューを伝えに来た。部屋の案内をしてくれたドワーフではなく、狼族の娘さんだ。

 

「夕食は、豚と豆の煮込みと、根菜のスープに炊き込みご飯。それと玉葱の酢漬けです」

「うん。それでお願いよ」

特に意見も出なかったので、レンディアが即決した。炊き込みご飯か、いいな。

「あと、蜂蜜酒(ミード)の炭酸割りもな。先に持って来てくれ」

アルバートさんが、早速酒を頼む。後に続く様に、シェーミィも同じのを頼んだ。

飲んべえ、二人か……良い酒が揃っていると云っていたな。酒は食後に楽しもう。

 

「……ふう。やっと人心地付けたぜ」

運ばれてきた蜂蜜酒炭酸割りを、ほとんど一息に飲み干したアルバートさんが、沁々と云った。

「この時期には、腕に覚えのある連中があちこちから来るんでしょー」

シェーミィが杯を傾ける。

「ああ、帝都の新年祭が明けてから始まる、武闘祭に向けての最後の腕試しやら、訓練の仕上げにな」

アルバートさんが、通りがかった従業員に追加の蜂蜜酒炭酸割りを頼む。

新年明けての武闘祭か……この世界にも、そんなのあるんだな。

「お食事、お待ちどうさまでーす!」

従業員達が食事を運んできた。

豚と豆の煮込み。根菜のスープに、炊き込みご飯。そして玉葱の酢漬け──豚と豆の煮込みは、豚バラ肉と思っていたが、食べごたえありそうな、脂の乗った角煮だ。良い匂いさせているな。

とろみのある根菜のスープの具は、ジャガイモにニンジンと茸。

炊き込みご飯は、刻んだ炙り魚と青ネギのシンプルな具。

胡麻がパラリと振られている。仄かな醤油の香り──よし、いただきます。

 

 

「武術者連中が大勢流れ込んで来る事で、治安が乱れるのを領主は嫌うからな。状況によっては、冒険者ギルドにも治安維持の協力依頼が来る事も珍しくねえんだ」

がぼり、とジョッキに並々と注がれたエールを、半分一息に飲むアルバートさん。食後は、そのまま飲み会になった。

食事は、かなり満足のいくものだった……皆、美味かった。それしか言えない。

煮込まれ、充分に味の染みた豚の角煮と豆。どちらも、口の中でほろりと崩れるほど柔らかだった。

根菜の旨味が出た、濃厚なスープも良かったな。

胡麻と青ネギの風味が良い味を出していた炊き込みご飯。

炙り魚の塩が効いていたので、醤油は控えめなのが良かった──いい宿だ。

 

「少し気になったんですが、武術者連中と冒険者達との関係はどうなっているんですか?」

これは聞いておいて方がいいと、何となく思った。

何かしら、いざこざが起こらないとも云えないからな──果実酒炭酸割りを片手に、アルバートさんに尋ねてみる。

「ふむ……そうだなあ。付かず離れずの喧嘩友達という所か?」

半分残ったエールを飲み干し、従業員を呼ぶアルバートさん。

 

「まあ、あれよ。互いの立場が異なるから、どうあっても相容れない部分があるのよ。何でもありの冒険者に、譲れない何かを持った武術者……はっきり云えば、金になるかならないかと云う考えよ」

オウルリバーの、ロックを呷るレンディア。さらに続けて云う。

「食うために、日雇いで金を稼ぐ冒険者達を横目で見て笑う武術者連中ほど、世間知らずのアホウは無いのよ。そんな連中ほど、尻尾巻いて故郷に帰っていくのよ」

オウルリバーの炭酸割りを頼むレンディア……うん? 結構酔ってないか……?

「武術者の中にも、冒険者登録して日銭を稼ぎながら、経験を積む人達もいるのよ。そういう人達は、仲間と云っていいわね……でもねえ」

据わった目で、酒場を見渡すレンディア……珍しく酔っているなあ……。

「気取った騎士が、冒険者を見る目は気にくわないわよねえ……神聖騎士様達?」

酒場の端の席に着いている、神官らしい装いの一行に向けて、レンディアが云った。

そうか……俺が、刺々しい雰囲気と思っていたのは、冒険者と武術者達に対しての、ある種の侮蔑の感情だったのか……レンディアは、それを感じ取っていたのだろうな。

 

「ま、そこらにしておけや。お嬢」

アルバートさんが、レンディアをたしなめた。エールを干し、従業員に声をかける。

「……あの女性だな。彼女からは狷介な雰囲気を感じる」

神官一行のテーブルを、見るともなく見ながらグランさんが黒ワインを傾ける。

端の席から、こちらを睨み付けている、まだ少女の面影が残る、金髪の女性──

「グランさん、分かるんですか」

「ああ、敵意探知が働いた。大いなる父君のちょっとした忠告というやつだ。ちなみに、他の同席者達からは、そういうのは感じない」

黒ワインを干し、注文を取りに来た従業員に、ワインのお代わりを頼むグランさん。

ちょっとした忠告、か……それほど危機感はないって事か。よし、飲むか。

「すいません、オウルリバー炭酸割りお願いします。それと、揚げジャガイモとハムサラダを」

 

「オウルリバーをボトルで頼む。それと、氷と炭酸水もな。あとは、ソーセージとチーズの盛り合わせだ」

アルバートさんの注文に合わせ、レンディアとシェーミィも酒を頼む。

レンディアは……少し飲みすぎではないだろうか?

「オウルリバー炭酸割りに、揚げジャガイモとハムサラダ、お待たせしましたー!」

狼族の娘さんが、注文した品を運んで来た。礼を云い、オウルリバーを受け取ると、小さな声で云ってきた──「あ、あのこれサービス、です」

小エビの揚げ物を、俺の前に置いて去っていった……。

「おいおい、二枚目ってのは得するもんだなあ……」

呆れた様に苦笑するアルバートさん。

「はーい。お酒と氷に炭酸水。ソーセージとチーズの盛り合わせ、お待ちどうさまでーす!」

酒と料理を運んで来たのは、部屋を案内してくれたドワーフの娘さんだ。

「ゆっくりしていってねー」

俺にウィンクをして、厨房に戻って行くドワーフ嬢。

 

「今日の夜は、ゆっくり飲みましょうよ」

レンディアが杯を掲げ、宣言した。

先ほどまでの、神聖騎士達への態度はきれいさっぱり忘れている様だった──まあ、いいか。

ゆっくり飲むとしよう……酒も摘まみもたっぷりある事だしな。

「二枚目さん、貰うよー」

シェーミィが、小エビの揚げ物を素早くつまみ取り、口に運ぶ。

揚げたてのエビが、しゃきりと鳴るのが聞こえた──ふむ。食わねば。

マイ箸で小エビ揚げをつまみ上げ、口に運ぶ……いい揚がり具合。塩のみで味付けられた小エビからは、微かな甘味が感じられた。

 

「おう、今日は俺の奢りだ……たっぷり飲んで、食べな。たまにはこんな日もいいだろうよ」

アルバートさんが豪快に云い、オウルリバーのストレートをぐいっ、と飲み干した。

「ふん。じゃあ、お言葉に甘えるわよ。注文お願いね」

レンディアが杯を干し、従業員を呼ぶ。

よし……ロングスウォード領初日は、賑やかな夜になりそうだ。

おっと、揚げジャガイモは熱い内に食べないとな……オウルリバー炭酸割りを飲みながら、揚げジャガイモを楽しむ。

塩と香辛料がたっぷりと効いた、ジャガイモの歯触りが何とも堪らない──口直しの、ハムサラダも美味い。

「アルバートさんの好意に甘えるか」

グランさんが、杯を傾ける。明日は何の用事もないからな……うん。いい夜になりそうだ。

 

 

ふ、と目が覚めた。部屋の中は、薄暗い──天井に備え付けられたランプからの、仄かな青い光が部屋を静かに照らしている。

明け方前か……窓に近付き、カーテンをめくって外を見ると、衛兵が街灯を灯して廻っているのが見えた。

よし、顔を洗って魔力制御だ……その後に一服するか。

冬の夜明け前は冷えるだろうから、しっかりと着込んで、マフラーを巻く。

タオルと煙管。煙草盆を抱え、静かに部屋から出る。

その時、毛布を頭まで引き上げているグランさんが、寝返りをうつのがちらっと見えた。

 

 

荒野の髭(ビアードオブワイルドネス)の裏口から、裏庭に出る。厨房は早くも賑わっていて、従業員達が忙しなく働いていた。

朝食の匂いが、裏口まで漂って来ている──裏庭には、きちんと手入れされた花壇があり、冬の花が静かに佇んでいる。帝都の、皇妃の庭園を思い出した。

複数あるベンチは、石と木で造られた頑丈なもの。裏庭から少し離れた広場で、一人の男性が、剣での素振りをしている……俺より早起きの人がいた。武芸者だろうか?

 

さて、魔力制御の時間だ。ベンチに腰掛け、胡座をかき、座禅の形をとる──息をゆっくりと吸い、ゆっくりと吐く。みぞおち部分を意識しながら、おのが魔力を認識する……よし、良いぞ。

ゆっくりと、魔力を全身に廻らせる──冬の空気が、心地いいな……。

 

 

千の素振りを終える。千の素振りと聞くと、誰しもためらいがちになるが、百を十度と聞けばいくらか気は楽になる──そう先輩から教わったのは、いつだっただろうか?

十五で騎士見習いから卒業して、かれこれ四十年以上たつ……副団長として、もう二十年勤めている訳か……さすがに長いな。

さっさと副団長の席から降りて、引退まで後進の育成に回りたいのだがな……。

 

「ふう」

水筒から一口飲む。冬という事もあり、汗はあまりかいていない……歳だな。

若い時は、冬だろうが千の素振り後は、シャツが肌に張り付くほど汗をかいたものだったが。

体が千の素振りに慣れきっているので、疲労はそれほど無いが、回復まで少し時間はかかるだろうな……。

今回のこの旅の目的。貴族出身者に、少しでも世間を理解させる事──私を含めた、神聖騎士五名。その内三名が、貴族出身の騎士見習い。見習いを終える前に、旅をさせる事になった。

これは通例で、否は無い。たとえ王族であろうと否は無い。神聖騎士団のみならず、他の騎士団もやっている事だ。

 

神聖騎士団本部がある、神聖教国から出発し、帝都を経由して、ここロングスウォード領に来た。

帝都では、神聖騎士団の支部。宿舎で一泊した。かって知ったる本部と雰囲気は同じだったので何の問題もなかったが、立ち去る際、支部長から気になる事を告げられた。

「貴族出身者三名。少しばかり、出自を鼻に掛ける所が見受けられます。ご注意を」

確かにな。言われてみれば、多少心当たりはあった。忠告に礼を云い、ロングスウォード領へと出発した。

 

ロングスウォード領に到着した直後、すぐにロングスウォード伯に挨拶に出向く事に決まった。

貴族出身の見習いを連れているからには、顔を見せないと不義理になり得るからだ。

あらかじめ通告していたので、すぐ会うことが出来、一緒に昼食を取る事になった。

出された食事は、なかなかの物だった。私達が来るという事で、取り立てて豪勢にした訳ではないと云ったが──

生姜のソースがかけられた、柔らかなポークソテー。

神聖教国ではまず食べられない、新鮮なマリネ。玉葱の上から、酸味の強いソースがかけ回されていた。

そして、魚介たっぷりのシチューに、塩茹でのエビが乗ったサラダ。

満足のいく饗応を浮け、お茶の時間になった。

談笑後、ロングスウォード伯がはっきりと云った。

 

「あなた方を、この屋敷に泊める事は出来ません」と──ロングスウォード伯曰く。

ロングスウォード領へは、騎士見習いとして訪れて来ている以上、貴族としては扱えない。

屋敷に泊める事になれば、貴族として扱わなければならなくなる。それでは、世俗を知る事は出来ない──と。

正論だ。何の反論のしようも無い正論。不満そうな表情を見せた三人を、視線で大人しくさせるロングスウォード伯。

伊達に、女傑とは云われていないな……。

「その代わりと言っては何ですが、いい宿に話を通してあります。荒野の髭(ビアードオブワイルドネス)という中宿です。なかなか悪くない宿ですよ」

一転して、にこりと微笑みながら、ロングスウォード伯が云った。

 

 

ロングスウォード伯のお勧め通りだけあって、いい宿だ。

最も、貴族出身の見習い達からしたらドワーフの宿に対して、あまりいい感じはしてないようだが……そこらは、甘やかす気は全く無い。

そして、昨夜だ。食堂に集う武術者、武芸者に冒険者達に、あからさまな侮蔑の表情を見せる問題児……ヒルデガルド・ハインワース。通称、ヒルダ。

 

ハインワース子爵の次女。幼い頃から、英雄譚や神話の英雄に憧れ、騎士の道を選択した娘だ。

名の通った武術家を師として、剣や槍を学んだ貴族の子。ある意味エリートではあるが、生来の狷介な性格のせいで、伸び悩んでいるのが現状だ。

先輩や同僚からは──頭が堅い。他者の意見を聞かない。我が儘──という評価だ。

 

昨夜、食堂で食事を取っていると、離れた席からあからさまに、我々神聖騎士に対しての批判の声が聞こえてきた。曰く──気取った神聖騎士が、冒険者を見る目が気にくわない。武術者、武芸者を下に見ている──それは、一部の世間知らずの振る舞いだと反論したかったが、堪えた。

多少なりとも、ヒルダに響けばいいと思っての事だったが……さて?

こればかりは、言葉で改善される様なものではなし……鼻っ柱を折るような事が起きない限りは、改善は難しいだろう。

 

まあいい。部屋に戻るとするか。

直に夜が明ける……軽くシャワーを浴びて、朝食を待つとしよう。

木剣を片手に、宿の裏口から中に戻ろうとした所、煙草の香りに気付いた。

ベンチに腰掛け、ゆったりと煙管を吹かしている人物。

後ろ姿しか見えないが、いつからそこにいたのか……声をかけたい気持ちを抑え、宿に戻る。何の気配も感じなかった……。




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