邪神の子 ~赤き瞳のクレイドル~   作:末末

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相変わらず、文字数が安定しませんが。


_〆(。。)


第163話 冒険者と問題児 そして女傑

 

 

魔力制御後の一服を終え、部屋に戻る事にする。

今にも、朝陽が昇ろうとしている所だった──部屋に戻ると、グランさんが開いた窓に向かい、暗黒神(大いなる父君)に祈りを捧げていた。

祈りを邪魔しない様に、煙草盆をそっと机に置く。外から流れて来る冬の外気が、部屋の空気を新鮮なものに入れ換えていくのを感じる。

さて……朝食にはまだ早いか?

 

祈りを終えたグランさんが俺に気付き、少し驚く。

「っと……まるで気付かなかった。魔力制御は終わったのか?」

「ええ、ついさっき」

水差しから、コップに水を注ぎ、渡す。礼を云い受けとるグランさん。

自分のコップに水を注ぎ、ゆっくりと飲み干す──朝の一杯。体に染み渡っていくのを感じる。

 

「朝食までは、もう少し時間はあるだろうな……下に降りて、茶でも飲んでいようか?」

そうだな。部屋で待つより、下でレンディア達を待っていようか。

「ええ、下でレンディア達を待ってましょう」

充分に外気を取り込み、換気が済んだので窓を閉めるグランさん。

「よし、と……行くか」

「行きましょう……レンディアとシェーミィは遅いでしょうね」

昨夜。ギルドマスターのアルバートさんの奢りという事で、たっぷりと飲んだ二人。遅い朝食を取る事になるだろうな……。

「あの二人、昨日は飲みすぎだ。ボトル空けていたからな」

グランさんが苦笑する。

 

食堂に降りると、今だ人はまばらだ。

朝の早い、武芸者らしき連中と冒険者達が、ちらほら見える。

相変わらず、商人や旅人といった雰囲気の客はいない感じだ。

神官装束の人達の姿も見えない──レンディアがキープした、奥の席に着く。

ご丁寧に、“専用席”と書かれた札が立っていた。

「少し、大袈裟だな」

「まあ、指定席は便利ですよ」

苦笑するグランさんに応える。いつもの席があるというのは、安心出来るからな。

「おはよー。朝食はもう少しかかるよ。お茶でも飲んで待っている?」

顔馴染みの、ドワーフ娘がニコニコとやって来た。

後で、名前聞いておかないとな……。

「ああ、お茶を頼むよ」

グランさんの言葉に、はいはーいと応え、厨房に向かって行った。

 

グランさんと、お茶を飲みながらの談笑中、食堂内に活気が満ちてきた。

今だ、レンディアとシェーミィは来ず。まあ、待たないでいいな……グランさんと朝食を済ませておくか。

「お茶のお代わり、お待ちどうさまでーす」

先ほどのドワーフ娘が、新しいティーポットを運んで来た。

「朝食のメニューは、何かな?」

ドワーフ娘に尋ねる。

「そうだねー、今日は鰯の塩焼きに、豆腐とワカメの澄まし汁。酢漬け野菜は大根だね。パンとライス()を選べるよー」

メニューを聞くに、パンは無い──魚がメインである以上は、米一択だ。

 

「先に注文、決めておくか……このメニューだと、パンよりライスだな」

グランさんが云う。鰯の塩焼きと、豆腐とワカメの澄まし汁──米一択だな……うん。

俺とグランさんも、同じ注文をした。

グランさんも、米に目覚めたか……良いことだ。

「はーい。鰯定食二人前に、ライスねー!」

ドワーフ娘の明るい声が、食堂に響いた。

 

 

朝食が運ばれて来る頃に、レンディアとシェーミィが降りて来た。

レンディアは、寝巻きではなく、ちゃんと身なりを整えてはいるが、明らかに今だ酒が抜けていないような顔をしている。

シェーミィはシェーミィで身なりはちゃんとしているものの、猫耳がペタリと垂れ、目があまり開いていない……二人とも、酷い顔色だ。

「お二人は、お食事どうします?」

ドワーフ娘が、レンディア達に明るくハキハキとした声で尋ねる。

よく通る声が頭に響いたのか、レンディアが一瞬顔をしかめる。

「……そうね。澄まし汁と酢漬け野菜だけ、頂戴」

定食を見たレンディアが云う。続けて、シェーミィも同じ注文をした。

 

「飲みすぎだ。二人とも」

鰯の塩焼きは、醤油をかける必要が無いほど、いい具合に味付けされている。

澄まし汁も、出汁が利いて、いい味わいだ──塩焼きに澄まし汁。元日本人としては、こういうのがいいんだよという定食だ。

「焼き魚とライスの組合わせというのは、実にいいな……澄まし汁もいい味だ」

目を細めて、澄まし汁を啜るグランさん。

レンディアとシェーミィは、静かに澄まし汁を啜りながら、年寄りの様な溜め息を吐いている。

酔いの残る体に染みているんだろうな……心なしか、二人の顔色が少し良くなっている。

 

「今日の予定はどうする?」

大根の酢漬けを、ポリポリ齧っているレンディアに尋ねた。

シェーミィは、とうに大根を平らげ、酢をくぴくぴと飲んでいる。

酔い醒ましに良いそうだ……本当か? 胸焼けするぞ。

「そうね……私はちょっと挨拶したい人がいるのよ。だから午前中は出掛けるわ」

「ふむ。ならば、午前中は自由行動にするか?」

グランさんが云う。自由行動か。

そうだな……“武門街”を少し見て廻るかな。

 

「少し、街を見て廻るかな。レンディア、観光出来る場所はあるか?」

観光ねえ……とレンディア。従業員を呼ぶ。

「武骨な街だからね。精々、元要塞としての面影を見学する……という所かしらね」

やって来た従業員に、お茶を頼むレンディア。シェーミィは果実水炭酸割りを頼んだ……二人とも、それなりに元気を取り戻した様で何より。

「道場見学というのもあるな。一般向けに、開放されているんだ」

「それもあるわね。まあ、道場によっては見世物っぽい事もする所もあるけどね」

そういうのは、好きじゃないけどとレンディア。道場見学なあ……あまり興味無いかな。縁があれば、というとこか?

 

「お茶と果実水炭酸割り、お待たせしましたー」

狼族の娘さんが、注文した品を運んで来た。ちらりと目が合うと、ポッ、と顔を染めた……何ぞ?

どうぞ、ごゆっくりと云うと、足早に厨房に戻って行った。

「まーた。女殺し」

シェーミィが、果実水炭酸割りを呷る。人聞きの悪い事言うの止めろ。

 

 

レンディアは、挨拶したい人の元に出向き、昼には戻って来るとの事だ。

宿で合流後、冒険者ギルドに顔を出すと決まった──それまで俺達は、グランさんとシェーミィとで、武門街を適当に歩き巡る事になった。

露店や、屋台なり、面白い場所があればいいな……。

「まずはーそだねー、露店通りでも冷やかしながら、通って見るー?」

シェーミィの言葉に、グランさんが面白そうだなと云った。

「適当にぶらつくとするか……シェーミィ、先導頼むよ」

シェーミィの嗅覚に任せるか。悪い事にはならないだろうからな。

「任せてー」

とシェーミィ。にしし、と笑いながら先を行く。

 

なかなかの活気の露店通り。一般客もそうだが、武芸者然とした連中が多い。

露店の店先に、様々な武具が取り揃えられているのが見えた。

「気を付けないといけないのはねー。露店に並べられているのは、大概が三級品なんだよー。もちろん、例外はあるけどね」

シェーミィが云うには、ほぼ使い捨てレベルの品々が売られている事も、珍しく無いそうだ。

「武具を揃えるなら、ちゃんとしたお店に行かないとね。品を見る目が無い、世間知らずの武芸者ほど、騙されるんだよねー」

「そこらが、武芸者達の甘い所何だよな……それを当て込んで、商売する方もする方だが」

シェーミィとグランさんが云う……心しておこうか。

明日は我が身と云うからな……露店通りを抜けた先には、肉や野菜の焼ける匂いが漂って来た。

 

「ここから先は、屋台通りだね。串焼き、煮込み、麺類にサンドイッチ、その他色々あるよー」

まだ朝の時間なので、腹拵えをしている武芸者や冒険者に混じり、市民も屋台の食事を楽しんでいる。

「立ち食いの露店も、結構出ているな」

グランさんが、物珍しそうに云う。

いつだったかな、前世の社員旅行で台湾に行った時の屋台通りを思い出すな……あそこまで、ギラギラしたネオンは出ていないが。

 

「少し、食べてこーよ。澄まし汁と酢漬け野菜だけじゃ、駄目だねー」

すっかり回復したシェーミィが、食欲を訴えてきた。

仕方ないな……汁物くらいなら食べてみるか。

「まあ、いいだろう。麺類を出している屋台にしよう」

グランさんは結構乗り気だな。やはり、麺好きか。麺類ならねー、確か……と云いながら、俺達を先導するシェーミィ。鶏源亭の屋台だろうか?

 

 

シェーミィの案内で来た、麺類を提供する店は、鶏源亭とは違う屋台だった──うどんの店。

コシの効いた、中細麺のうどん。魚介と野菜の出汁が良く効いたうどんだった。

ネギの乗った、ホタテの貝柱とワカメのうどんに、魚の練り物を揚げたものが一緒に出た。

ワカメと、細かく刻まれた炙った魚の干物が、たっぷりと乗せられたうどん。これにも、練り物が付いていた──今日のメニューは、この二品。替え玉一玉無料との事だった。

シェーミィは当然の様に替え玉を頼み、汁まで飲み干していた。

 

「あー、満足したー」

ふう、と一息吐き、水をゆっくりと飲み干すシェーミィ。

美味かったな……やはり、うどんはコシが無いといけないな。グデグデのうどんは、ダメだ。

グランさんも満足したみたいで、何よりだ……さて、少し早いが宿に戻るか?

「昼には少し早いけれど、宿に戻りましょうか」

「……そうだな。レンディアが戻るまで、昼寝でもしてるか」

グランさんが頷く。シェーミィも、一眠りしたいと云った。なら、戻るか……ご馳走さん、と銀貨二枚を支払う。

あれだけの具沢山の上、替え玉一玉無料で一杯、銅貨四枚。 儲けは出ているのだろうか……大きなお世話かな。

「釣りは取っといて下さい。また来ます」

毎度! と大将の声を背に、屋台を後にする。うん、また来よう。

うどんの種類は毎日変わるらしいからな……そばも良いが、やはり俺はうどん派だな。

 

 

昼には、まだ早い時間に宿に戻った。レンディアはまだ帰っていない──レンディアが戻るまで、部屋でのんびりしていよう……レンディアが戻ったなら、呼んで下さいと従業員に言付けた。

狼族の従業員に心付けを渡す──「あ、ありがとう、ございます」

頬を染めながらも、ぎこちなく受け取ってくれた。

そういう所なんだよな、とグランさん。何ぞ?

 

ベッドに寝転びながら、寝るでもなくダラダラとした時間を過ごしているとノックされた。

返事をすると、部屋に入って来たのはレンディアだった。

「急なのだけれど、紹介したい人がいるのよ。会っておいた方がいいわよ。シェーミィは?」

「多分、昼寝中だろう」

グランさんの言葉に、ふん、と頷くレンディア。

「シェーミィ起こして来るから、一応身だしなみは整えていて。まあ、普通でいいけど」

矢継ぎ早に言うだけ言うと、風の様に出ていった……紹介したい人ね。さて?

「全く、心当たりは無いな……ふむ」

グランさんが、開け放されたままのドアを見ながら呟いた。

 

 

特に身だしなみを整える、という事はしなかった。普段着でいいだろう。グランさんはいつもの黒ずくめ。俺は少し厚目の長袖。互いに、変という事はないだろう。

「まあ、こんなもので良いだろう」

「ですね……待たせるのもよくないですから、降りましょうか」

部屋から出たら、丁度レンディア達も出てきたところだった。

「うん、普段着で充分よ。客として招待された訳じゃないし、公式の場でもないしね」

客として招待? 公式の場? 誰を紹介しようとしているのだろうか?

「レンディア、誰を紹介しようとしているんだ?」

グランさんが、訝しげにレンディアに尋ねる。

「結構久し振りに会う人よ。クレイドルは初対面ね。昼食をご馳走してくれるわよ」

「あー、何となく予想付いたかも」

レンディアの言葉に、シェーミィが反応する。

「多分、シェーミィの予想通りと思うわよ。待たせちゃ悪いわよ」

レンディアは軽快な足取りで、階段を降りて行った。

 

 

いつもの“専用席”には、先客がいた。女性。お茶を、優美な仕草で口に運んでいる。

ウェーブがかった深紅の髪が、肩まで伸びている。その顔立ちには、不敵なものが浮かんでいる様に見えた──目鼻立ちの整った美麗な顔立ちをしているが、不敵さというか、強かさが出ているので、油断なら無い雰囲気が漂っている。

 

歳は幾つくらいだろう? 四十代というところだろうか……?

「ちょっと、待ちなさい……この彼が、新顔……?」

早速、席に着こうとするレンディアに、深紅の髪の女性が云った。

「ええ。言いましたよね、まともに顔を見たらいけない男がいるって」

レンディアが席に着くと、グランさんとシェーミィも着席した。俺も席に着く。

「全く……シェーミィ、グラン、久し振りね」

女性は戸惑いを隠せない様な、何とも言えない表情を浮かべ、俺から視線を反らし、レンディア達に声をかけた……解せぬ。

気を取り直す様に、深紅の髪の女性が微笑みながら云った。

 

「“碧水の翼”に、ちょっと頼み事があるのよ。今、ロングスウォード領に神聖騎士団の一行が来ている事は、レンディアに伝えたのだけれどね」

追加のお茶の注文を頼む女性……この人は誰何だ? レンディア達は顔見知りみたいだが……。

「レンディア、この人、誰だ」

ちょっと、言葉に棘が付いたかな?……思わず身構えてしまうような雰囲気がどうもな。

「ああと、紹介遅れたわね。この人は、ロングスウォード伯。ネイ・ロングスウォード伯よ」

レンディアが、どうという事も無いように云った。

「……最初に自己紹介すべきだったわね。改めて云うわ。ネイ・ロングスウォード伯よ。よろしく」

軽く、頭を下げた……この人が、ロングスウォード伯か──奥まった席なので、ロングスウォード伯の自己紹介は、食堂内には響かなかった。

 

「宿の人達は、ロングスウォード伯が来る事は知っているわよ。もちろん、お忍びでという事になっているけどね」

「そういう事よ。昼食を取りながら、頼み事について話しましょうか」

レンディアとロングスウォード伯が云った。

豪勢な昼食になりそうだ……。

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