体力造り、戦闘訓練、座学……ベテラン連中が揃っての新人訓練。ミルデアも訓練に加わってくれるのを承知してくれた。
座学はレンケインに任せれば充分……だが、もう一つ、クレイドルに経験させてやりたい事がある……。
「詰め込みすぎは、よくねえって事はわかっているがな……」
「魔術、関連ですね?」
レンケインが、茶を啜りながら言う。
「僕でも基本的なものは教えられると思いますが、専門じゃない。どうせ学ばせるなら、魔術に長けた人に頼んだ方がいいと思います」
「おめえの言う通りだ。せっかくだから、クレイドルの野郎には、ベテランを……いや、それ以上の奴に頼みたいんだよなあ……」
「心当たりはあるんですか?」
「おう。もちろんだ……ラーディスに頼みたいんだが、野郎、なかなか連絡つかねえんだよな」
レンケインが目を見張る。
「魔導卿……ダルガンさん、魔導卿と知り合いなのですか……」
「ああ。現役引退して、後輩連中を鍛えたいって事を考えるきっかけを示してくれたのが、ラーディスだったんだよ」
魔導卿ラーディス。帝都の宮廷魔術師。当代無双の“魔導士”。逸話には事欠かない、上級冒険者──
「俺が、引退前の三十過ぎの時からの知り合いだから、そうだな……もう、十年以上も前か」
「魔導卿は、その頃にはもう魔導士だったのですか?」
「いや、まだだった。その時は、俺と同じ中級Aランクで、上級に上がって少しして、魔導士試験に合格したと聞いたな」
ダルガンは懐かしそうにいい、茶を啜る。
レンケインはお茶を入れ換えながら、ダルガンに訊ねた。
「魔導卿は、どういった人物ですか?」
「そうだな、真っ直ぐな奴だ。とはいえ、腹の底は読めない野郎だな……誰だったか、冷徹な激情家って、言ってたなあ」
「怒らせると、酷い事になりそうですね」
レンケインが、ダルガンの湯呑みに新しい茶を注ぐ、湯気とともに、ふわりと茶が薫り立つ。
「そりゃそうよ。“死ね”、の一言で絶命させる事が出来る奴だからなあ」
ずずっ、と入れたての茶を美味そうに啜るダルガン。
「ええ……」
レンケインは、自分の顔が引きつるのを感じていた。
左右からの横薙ぎを、盾で何とか防ぐ。
腕が痺れるのを気にせず、反撃の一撃を──ミルデアさんの背中が一瞬見えた……尻尾に足を払われ、横倒しになる。そして首に突き付けられる訓練用の短槍。リザードマンが好む武器だそうだ。
「少年、私は言ったぞ? リザードマンの尻尾には警戒しろ、とな」
ミルデアさんが、バッシバッシと逞しい尻尾を振りながら言う。
「種族ではなく、魔物としてのリザードマンも同様な攻めをしてくる。尻尾を意識しないと、命取りになるぞ」
要するに、対リザードマンの戦闘時の選択支は多い、という事か……。
「それと、相手に背を向けなくても、尻尾は使えるからな。それだけ行動の選択が多い。リザードマンとの戦闘は、容易くない。奴らとは基本、集団戦になるからな」
「心しておきます。有難うございました」
兜を脱ぎ頭を下げる。ううむ、やはり戦闘訓練は幅広い……座学もそうだが、まだ時間が足りない気がする……訓練期間の延長できないだろうか。
「クレイドル、両手武器の訓練どうする?」
ジャンさんが聞いてくる……よし。ある程度、武器に習熟するのは悪くない。中途半端にならないように訓練しておくべきだ。
「やります。バトルアクスで」
「振り下ろしは、倒れた相手にやるものだ。まずは薙ぎ払え、腰を落として上半身の力を意識しろ!」
ジャンさんが言う。
「身体を流すな! 足腰と背中を意識しろ! そうすりゃ、武器に振り回されるこたあねぇ!」
マーカスさんが怒鳴る。
「少年! 肩、腕の連動も意識しろ! 足腰から上半身! そして肩、腕だ!」
ミルデアさんが叫ぶ。
三者三様の教えを聞きながら、バトルアクスを振るう。何だろうな。うるさく感じない。
一言一言を意識しながら、アドバイス通りに武器を振るう──これ、無心になれるな──
体力造りに戦闘訓練。午後の訓練を終えてシャワーを浴び、夕食待ち。
このぼんやりとした時間が、なかなかに休息になるんだよなあ……夕焼け雲が流れて行く空をボーと眺める。
異世界に来て、それほどの時間は立っていないが、早くもこの世界に馴染んでいる自分がいる。
とはいっても、この城塞都市しか知らない。
いや、ここ城塞都市についても、本当に知っている訳じゃない……アウトサイダー。そんな言葉が浮かんできた。
望郷の気持ちではなく……何だろうな。
この世界で生きる覚悟、意思が実感として湧いてくる自分の心を、素直に受け止める事が出来ないというか……いや。躊躇うな。右も左もわからない自分を助けてくれる人達がいる。恵まれているぞ、俺は。
生きる。この世界で、生きる。今だ目的は定まってはいない。だからどうした。
目的なんぞは、これから決めたらいいのだ。
感謝しよう。俺の回りの人達に。そして、邪神に……。
んっふふふっ 邪神の笑い声が─聞こえた気がした。
少しばかり、辛気くさくなってしまいましたが、これは筆者の流儀ではありません。