邪神の子 ~赤き瞳のクレイドル~   作:末末

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第167話 冒険者と見習い騎士の決着後

 

 

介抱されている、ヒルデガルド嬢を横目で見る。外傷は、ほとんど無いはずだ。腹に膝を撃ち込み、足を払って転ばせたくらいか……うん?所々、記憶が飛んでいる気がする。

「頭部への攻撃は、禁止と言われていたのに……思いきった事するわよ」

呆れ笑いを浮かべたレンディアが、やれやれといった感じで云う。

頭部への攻撃……? そういえば、柄頭で殴ったな。

でもまあ、ストップが入らなかったからいいだろ。バレなけりゃあ反則じゃないからな。

「頭部への攻撃は禁止って、言っただろが……全く」

アルバートさんが、髪を撫で付けながら呆れた様に云った。

うん。普通にバレていた。だが、止めなかった方が悪い。

「でもまあ、あの嬢ちゃんもなりふり構わないで、頭部を狙っていたから、どっちもどっちだわな」

ごりごり、と頬を掻きながらアルバートさんが云う。

 

介抱されていたヒルデガルド嬢が、騎士達に連れられ、訓練場を後にする。

一人残ったガーランドさんが近付いて来る──何かしらのクレームだろうか?

「改めて、自己紹介させて頂く。神聖騎士カイル・ガーランド。お見知りおきを」

目礼をする、ガーランドさん……この人は、確か早朝に宿の裏庭で、剣の素振りをしていた人だな。

改めて近くで見ると、だいぶ引き締まった体付きだ。灰色がかったロマンスグレーの髪を、後方に撫で付けている。

歳は五十代くらいだろうか……一見穏和そうに見えるが、瞳には強い光が宿っているのが伺えた……。

 

「……ヒルダには、いい勉強になったでしょう。礼を言います」

ガーランドさんが頭を下げる。

「礼には及びません。頭を上げて下さい。対等な立ち合いだったと思っています」

慌てて、ガーランドさんに頭を上げてくれと云う。皮肉や嫌味の一つ二つは言われるものだと思っていたのだが……。

 

「ヒルデガルド嬢は……その、大丈夫でしょうか?」

自分で叩きのめしておいて、何だ。という気はしたが、思わず尋ねていた。

「しばらくは、使い物にならないでしょう。忖度無しの、実戦形式の立ち合いをしたのですから」

笑うガーランドさん。アルバートさんも苦笑している。

 

しばし、ガーランドさんとアルバートさん達と立ち話をする。やがてガーランドさんが、ヒルデガルド嬢の様子を見てきますと云って、離れていった。

「夕飯までは時間あるな……クレイドル、レンディアに伝えておいてくれ、夕飯は一緒に取ろうとな」

ぽん、と俺の肩を叩き、アルバートさんは副ギルドマスターのセリオスさんと共に、ギルド内に戻って行った……夕食か。何か小腹が減ってきたな。

ロングスウォード伯と、立ち話をしているレンディア達の所に向かう事にする。

 

 

「ああ、ご苦労さん。いい立ち合いだったわね」

明るく笑うロングスウォード伯。目鼻立ちのはっきりとした、彫りの深い美貌が目立っている……よく見たなら、化粧、濃い目だな。

じっと見られている事に気付いたロングスウォード伯が、そっと俺から目を逸らす……何ぞ?

「まあ、こんなものでしょうね。良くやったわよ」

ニコリと笑うレンディア。 シェーミィとグランさんも頷く……うん、まあいいか。やる事をやっただけだ。

 

「……うん、そうだな。ああ、それと、アルバートさんが夕食を一緒に取ろういっていたぞ」

レンディアに告げると、グランさんとシェーミィに、ロングスウォード伯も頷いた。

「じゃあ、宿に戻りましょうか」

レンディアの一言で、この後の行動が決まった。

 

ロングスウォード伯が、護衛達と訓練場から去って行った。

俺達も、宿に戻る事にする……夕食か。宿の外、外食になるだろうな。と何となく思った。宿の食堂で、ヒルデガルド嬢達と顔を合わせる事になるのは、少し気まずいからな……。

 

 

部屋に戻り、普段着に替える。一っ風呂浴びるか、それともシャワーで済ませるか……。

「グランさん、ここの浴室の広さってどれくらいですか?」

「うん? そうだな……五、六人は入れるかな」

結構広いな。昔からある、町内の施設内の銭湯という感じかな……。

「一っ風呂浴びてきます。グランさんも行きませんか?」

持って行くものは、着替えと下着くらいか。タオルは備え付けの物があったからな……。

「いや……私は後からにする。先に済ませてくるといい」

妙に、グランさんが遠慮がちに云う。

なら、お先に済ませるとするか。じゃあ、後でとグランさんに云い、部屋から出る。

さっぱりした後にでも、煙管で一服といくか。

 

 

風呂から戻り、洗濯物をまとめて篭に入れる。一篭分で、銅貨三枚だっけか。

「グランさん、洗濯頼みますけど、ありますか?」

「うん? そういえばあるな。まとめて頼むか」

 

篭に洗濯物を詰める……俺とグランさんの洗濯物の区別はどう見分ける?

「私の物は、基本黒だからな」

俺の疑問に、あっさりと答えるグランさん。なるほどな……というか、みんな黒だな。分かりやすい。

早速、部屋のベルを鳴らして従業員を呼ぶ。ついでにお茶でも頼むか。

それほど間を置かないで、狼族のラーシアさんがやって来た。

「ご用は何でしょうか?」

笑みを浮かべ、元気良く尋ねてくるラーシアさん。尻尾が勢いよく振られている──「洗濯を頼みます」

洗濯代銅貨三枚を渡し、お茶を頼んだ。

「お洗濯の方、承りました! お茶もすぐお持ちしますね!」

洗濯篭を受け取ったラーシアさんは、即座に駆け出して行った。

「私が頼んでも、ああはならないだろうな」

何か呆れた様に、グランさんが云う……何ぞ?

 

茶を飲みながら、夕食の時間を待つ。時間がくればレンディア達が呼びに来るだろう。グランさんとの会話は、先の立ち合いの事だ。

見習い騎士に対しての行動はどうだったとか、こうしたらどうなっていたか──とりとめもない会話だ。

ココン、と扉がノックされた──「どうぞ」

グランさんが云う。扉が開くと、シェーミィが顔を覗かせた。

「そろそろ夕食の時間だから、下に降りてるよー」

それだけ云うと、ひょいと顔を引っ込めた。

「よし、行くか」

グランさんが立ち上がる。お茶の片付けを頼んでおくか──「先に降りていて下さい」

ああ、と答え、グランさんが部屋から出て行く。早速、ベルを鳴らす。

 

 

いつものテーブル席には、レンディアとシェーミィ。

そしてアルバートさんにロングスウォード伯が着いている。

席に着くと、ロングスウォード伯が云った。

「港区に、“渦潮亭”という店があるのだけれど、そこに行きましょうか。海鮮類だけでなく、肉類も揃っているのよ。どう?」

海鮮類以外にも、肉類か……いいな。

「ええ、そこにしましょうよ」

レンディアが云う。ならば、反対する理由は無いな……。

「渦潮亭か。久し振りだな……よし、俺が案内するぜ」

アルバートさんが、妙に張り切りながら云う。それほどいい店なのか……楽しみだな。

 

港区の食通りに、その“渦潮亭”はあった。石造りの頑丈な造り。

城塞の雰囲気を残している建物なのだろう……ロングスウォード伯が、何の迷いも無く店に入り、声を上げる。

「予約していたロングスウォードだけれど?」

店内がざわつく……それはそうだろう。何しろ領主が直々に訪れたのだからな。

「待ってたよ。奥座敷でいいね?」

店の奥から、恰幅のいい女性が出て来て云った。

雰囲気からするに、ロングスウォード伯とは馴染みらしいな。

そのまま、恰幅のいい女性に案内されて、奥に向かう。特別席という事か……。

 

「今日は私にご馳走させて。鍋に、刺身もあるし、いい羊の肉が入っているそうなのよ」

ロングスウォード伯が、機嫌良く云った。

「羊肉あるんだー、楽しみー!」

シェーミィが喜んでいる。羊肉か……ラムかマトンだっけか?

「ふん。ここらだったら、骨付き肉ね。いいわね」

「そうよ。塩と香辛料で味付けした骨付き肉よ」

レンディアに答える、ロングスウォード伯。単純に味付けした骨付き肉を炙り、それを手掴みで食べるのだそうだ……いいな、楽しみだ。

「羊肉はメインにして、取り合えず海鮮鍋と刺身を頼もうぜ。さて……何があるかな?」

アルバートさんが、楽しそうにメニューを眺め始める。

「まずは、お酒頼もーよ。すいませーん!」

シェーミィが店員を呼んだ。

 

 

海鮮鍋は、魚と貝とたっぷりの野菜という単純な物だったが、充分に美味かった。出汁の取り方が絶妙な物で、これ以上の物は中々に味わえないだろうという味わいだった。

刺身の盛り合わせ──トゥーナ(マグロ)。イカ。白身魚。サバ。貝各種……どれも新鮮で食べ応えのある物だった。

山葵を追加で頼み、またしても皆に引かれたが……俺は構わん!

 

そして、炙られた骨付きの羊肉が大皿に盛られてやって来た……何とも豪勢だな。

「熱い内に、お召し上がり下さい」

運んできた店員が云った。確かにな、熱い内にこそだ……炭火で焼いたのか、炭の薫りがする。食欲をそそる薫りだ──誰ともなく、骨付きの羊肉を手に取った。




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