「ロングスウォード伯、来たわよ」
レンディアが気安く、兵舎の中に入っていく。
「一番乗りね、レンディア」
武装状態のロングスウォード伯。頑丈そうな赤い革鎧の上から、派手な柄の陣羽織を羽織っている……陣羽織には鎖、チェインメイルが編み込まれている様だな。
その重量を感じさせない動きを見せ、レンディアの両肩に手を乗せるロングスウォード伯。
「頼りにしているわ。“碧水の翼”には」
「期待には応えるわ……それと、兄上に連絡しておくわよ。
レンディアが、懐から小さな器具を出した。一見、補聴器の様に見えた……レンディアが、それを耳にかけると、ロングスウォード伯が驚いた声を上げた。
「それは……“魔導卿”の通信具、よね?」
「そうよ。兄上に、魔城門が開いたと連絡を取るわ……」
レンディアが、兵舎から出て行った……あれって、携帯っぽいな。
少しして、レンディアが戻って来た。
「兄上は、よほどの事が無い限り、出てこないわよ……その、
レンディアの報告を聞き、ロングスウォード伯がため息を付く。
「魔導卿が、出張って来る様な事態にならなければいいけどね……」
兵舎に衛兵が入って来た。この人は前にも見たな、一際体格のいい衛兵……金属製の胸当ての下に、チェインメイルを身に付けているのが見てとれた。
俺達を見て、一瞬驚いた様な素振りをしたが、すぐにロングスウォード伯に向き合う。
「冒険者達が到着しました。ギルドマスターが彼等をまとめています……ただ」
少しいい淀み、俺達を見た。ロングスウォード伯は手を振り、云った。
「レンディア達は大丈夫よ。ただ、何?」
「はい。武芸者連中も押し掛けて来ているのです。ギルドマスターは、冒険者と衛兵の邪魔はしないならば、参加は認める。と云っているのですが……」
「……ふむ。ギルドマスターの云う通りね。参加を認めましょうか。ただ、武芸者達への報酬は基本的には、一切無いと伝えさせて」
分かりました、と衛兵は答え、兵舎から出て行った。
「今来たのは、衛兵団長のガイルよ。後から、改めて紹介するわ……それより、対悪魔戦では期待しているわ。レンディア、後で会いましょう」
ええ、とレンディアが答え、俺達は兵舎から出る。
「レンディア、ギルドマスターに合流しよう」
グランさんが云う。取り合えず、他の冒険者と合流し、連携の確認をしておいた方がいいだろうしな……。
「ええ、そうしましょうか」
レンディアが、早速ギルドマスターに合流するべく、歩み出す。
ギルドマスターのアルバートさんを中心に、冒険者達と武芸者達が集まっていた。
「冒険者連中は、取り合えずパーティーを組め。ソロは危険だ。いいな? 武芸者連中もだ。言っておくが、武芸者連中に対しては基本、何の保証も、報酬も無いからな。これについては、自己責任てやつだ。いいな」
アルバートさんの口上に、冒険者達と武芸者達がざわめく。
ざわめきを背に、ふう、とアルバートさんが戻って来た。
胴鎧を身に付け、その上から青色のマントを羽織っている。
「ご苦労様ですね。アルバートさん」
レンディアが、アルバートさんに声をかける。
「おう……全くだぜ。冒険者連中はともかく、武芸者連中は、まとまりが無いんだよな。なまじ、腕に自信があるんで、一騎当千気取りの奴等が多いんだよ……最も、そんな連中から死んで行くんだがな……全く」
苦々しく云うアルバートさん。ギルドマスターも楽じゃ無いな……。
衛兵が、駆け込んできた。
「もう直に、魔城門が顕現します。配置を済ませて下さい。ロングスウォード伯と衛兵達は、すでに前線に出ています」
それを告げると、即座に戻って行った。
「ふん。いよいよか……レンディア、前線に出てくれるか?」
アルバートさんの要請に、ニヤリと笑うレンディア──「ええ、もちろんよ」
シェーミィが矢を二本、弓につがえる。グランさんは、暗黒神へに祈りを捧げている。
さて、俺は
ろくな事にならないからな……まあ、やる事をやるだけだ。
首から下げていた、
街道から、衛兵が駆けて来た。アルバートさんに何かしらを話している。
「分かった。ロングスウォード伯にも伝えてきな」
衛兵はすぐに、駆け出していった──
「魔城門は、街道の外れ。森向こうの荒野側に顕現したとの事だ。すでに
アルバートさんの号令一下、俺達は移動する。
それなりにまとまって動いている冒険者達に比べ、武芸者達はちぐはぐな感じがした──「我が強いからねー、武芸者達は」
シェーミィが云う。確かにな……自分の技がどれ程悪魔に通用するか、楽しみだ。ロングスウォード伯に実力を見せよう──等と言いあっている武芸者達がいるからな……正直、連中とは連携出来ないし、近付かない方がいいか。
街道から外れ、森を抜ける頃。魔城門を監視している衛兵達と合流した。
「よう。連中の様子はどうだ?」
アルバートさんが、ベテランらしき衛兵に声をかける。
「インプの数も、二十体は越えている。まだ増えるだろうな。中級の悪魔が出現する前に、インプどもを殲滅しておいた方がいいだろう」
アルバートさんとは顔見知りなのか、気安い感じで会話をする、ベテランの衛兵。
「よし、任せろ。ロングスウォード伯も手勢を率いて、やがて来るだろう。その前に、インプどもを始末するさ」
アルバートさんの言葉に、頷く衛兵。
「頼んだ。俺達は街の防衛に付く」
ベテランの衛兵が云い、部下の衛兵達を引き連れ去って行った。
「よし……このまま進むぞ。やるべき事は、インプの殲滅だ。その後は、中級の悪魔が出現してくるだろう。気合いを入れろ……行くぞ!!」
マントを翻し、アルバートさんが俺達を先導しながら、進んでいく。
左手には、ラウンドシールド。右手には、バトルハンマー……なるほど。らしい、装備だな。
インプ達が、こちらに気付いた。
喚き声を上げ、こちらを威嚇している──真っ先に突っ掛けたのは、武芸者達だった。
剣を、槍を、長刀を引っ提げ、インプの群れに突撃していく……馬鹿だな。不味いぞ、あれは。
インプ達の火球が、武芸者達を襲う。その直撃を受けた武芸者達が、たちまち転げ回る。
「……馬鹿どもが。行くぞ! 落ち着いて進め。インプどもを、殲滅しろ!!」
地に伏す武芸者達を放置し、冒険者達を先導しながら、突き進むアルバートさん。
まとまりを見せながら、インプ達を囲む様に進んでいく冒険者達。
俺達も進む──〈んっふふっ……楽しみだねえ。
前線に出ている冒険者達の数は、三十人。後方支援についている冒険者達は十名少しほどだ。
武芸者連中は……何人いる? 二十名はいない様だが、数名はインプの火球を受け、早くも脱落している。
倒れた武芸者達を、即座に後方に運んで行く衛兵達。ここら辺は、冒険者ギルドと衛兵とで連携は取れているのだろう……さすがだな。
すでに乱戦状態になっているが、アルバートさんの指揮の下、冒険者達はインプを押し包む様に動いている……だが、インプの数が多い。いつの間にか増えている。
冒険者の包囲を抜けたインプが、こちらに攻めよって来る。その数は、二十はいるか?
「今ね。抜けて来たインプを叩くわよ」
チイィィン──レンディアが抜刀した。それが合図となり、“碧水の翼”は進む。
包囲を抜けて来たインプを叩く事になった。二体、三体と、斬り払う。
シェーミィの矢を受け、インプ達が次々と倒れていく──レンディアの詠唱による、風属性の魔術が、インプ達を切り裂き、突き倒す。
俺とグランさんは、インプ達を手当たり次第に斬り払っていく。他の冒険者達も、包囲を抜けて来たインプ達を始末しているのだが、数が中々減らない……一気に始末しないと駄目なのだろうか?ならば……。
「レンディア、少し
「……ちゃんと、正気に
ちらりと、レンディアが尋ねてくる。
うん、当然だ──「大丈夫だ」
ふむ、とレンディア──「任せるわ。やりなさい」
よし。リーダーのお墨付きだ。やって来る痛みに備え、深呼吸を一つ、二つし、発動の文句を口にする……「血と苦痛、茨となれ」
即座に、ザキリ、ザキリと全身に茨の棘が突き立っていく……神経にまで食い込んでいく棘──くっそ……痛い。
痛い痛い……何だ、これは……こんな目に合うのは、何の、誰のせいだ……?
ああ、そうか、この、醜い
ごおうっ、と戦士が哭いた。びしゃっ、と戦士の体から、血が弾けた──あぁぁぁ~るうっぅぅっあぁぁぁ~~!!
異様な叫び声に、何事か、とこの場にいる者が思った。
あの血塗れの戦士は何者か、と皆が思った──
血塗れの戦士は、インプの群れに突き進んで行く。インプの攻撃をものともせず、ひたすらに剣を振るい続ける──薙ぎ払われ、裂かれ、叩き斬られ、インプ達が数を減らしていく。
「今が攻め時だ、インプどもを殲滅するぞ!」
アルバートの指示に、冒険者達が奮い立つ。
「……派手な事になったわねえ。クレイドル」
苦笑するレンディア。グランとシェーミィが頷いた。