邪神の子 ~赤き瞳のクレイドル~   作:末末

192 / 245
流血と苦痛の茨の外殻は、イメージ的に狂戦士の鎧という感じですかね。


第169話 ロングスウォード領 魔城門(デモンズゲート)前線

 

 

「ロングスウォード伯、来たわよ」

レンディアが気安く、兵舎の中に入っていく。

「一番乗りね、レンディア」

武装状態のロングスウォード伯。頑丈そうな赤い革鎧の上から、派手な柄の陣羽織を羽織っている……陣羽織には鎖、チェインメイルが編み込まれている様だな。

その重量を感じさせない動きを見せ、レンディアの両肩に手を乗せるロングスウォード伯。

「頼りにしているわ。“碧水の翼”には」

「期待には応えるわ……それと、兄上に連絡しておくわよ。魔城門(デモンズゲート)の顕現の事を」

レンディアが、懐から小さな器具を出した。一見、補聴器の様に見えた……レンディアが、それを耳にかけると、ロングスウォード伯が驚いた声を上げた。

「それは……“魔導卿”の通信具、よね?」

「そうよ。兄上に、魔城門が開いたと連絡を取るわ……」

 

レンディアが、兵舎から出て行った……あれって、携帯っぽいな。

少しして、レンディアが戻って来た。

「兄上は、よほどの事が無い限り、出てこないわよ……その、よほどの事(・・・・・)が起きた時、すぐに連絡を取れる様にしているけどね」

レンディアの報告を聞き、ロングスウォード伯がため息を付く。

「魔導卿が、出張って来る様な事態にならなければいいけどね……」

 

兵舎に衛兵が入って来た。この人は前にも見たな、一際体格のいい衛兵……金属製の胸当ての下に、チェインメイルを身に付けているのが見てとれた。

俺達を見て、一瞬驚いた様な素振りをしたが、すぐにロングスウォード伯に向き合う。

「冒険者達が到着しました。ギルドマスターが彼等をまとめています……ただ」

少しいい淀み、俺達を見た。ロングスウォード伯は手を振り、云った。

「レンディア達は大丈夫よ。ただ、何?」

「はい。武芸者連中も押し掛けて来ているのです。ギルドマスターは、冒険者と衛兵の邪魔はしないならば、参加は認める。と云っているのですが……」

「……ふむ。ギルドマスターの云う通りね。参加を認めましょうか。ただ、武芸者達への報酬は基本的には、一切無いと伝えさせて」

分かりました、と衛兵は答え、兵舎から出て行った。

 

「今来たのは、衛兵団長のガイルよ。後から、改めて紹介するわ……それより、対悪魔戦では期待しているわ。レンディア、後で会いましょう」

ええ、とレンディアが答え、俺達は兵舎から出る。

「レンディア、ギルドマスターに合流しよう」

グランさんが云う。取り合えず、他の冒険者と合流し、連携の確認をしておいた方がいいだろうしな……。

「ええ、そうしましょうか」

レンディアが、早速ギルドマスターに合流するべく、歩み出す。

 

ギルドマスターのアルバートさんを中心に、冒険者達と武芸者達が集まっていた。

「冒険者連中は、取り合えずパーティーを組め。ソロは危険だ。いいな? 武芸者連中もだ。言っておくが、武芸者連中に対しては基本、何の保証も、報酬も無いからな。これについては、自己責任てやつだ。いいな」

アルバートさんの口上に、冒険者達と武芸者達がざわめく。

ざわめきを背に、ふう、とアルバートさんが戻って来た。

胴鎧を身に付け、その上から青色のマントを羽織っている。

 

「ご苦労様ですね。アルバートさん」

レンディアが、アルバートさんに声をかける。

「おう……全くだぜ。冒険者連中はともかく、武芸者連中は、まとまりが無いんだよな。なまじ、腕に自信があるんで、一騎当千気取りの奴等が多いんだよ……最も、そんな連中から死んで行くんだがな……全く」

苦々しく云うアルバートさん。ギルドマスターも楽じゃ無いな……。

衛兵が、駆け込んできた。

「もう直に、魔城門が顕現します。配置を済ませて下さい。ロングスウォード伯と衛兵達は、すでに前線に出ています」

それを告げると、即座に戻って行った。

「ふん。いよいよか……レンディア、前線に出てくれるか?」

アルバートさんの要請に、ニヤリと笑うレンディア──「ええ、もちろんよ」

シェーミィが矢を二本、弓につがえる。グランさんは、暗黒神へに祈りを捧げている。

さて、俺は邪神(父上)に祈りを捧げるつもりは、無い。

ろくな事にならないからな……まあ、やる事をやるだけだ。

 

首から下げていた、流血と苦痛の茨の外殻(ソーンオブマックスペイン) LMS(ラストマンスタンディング)を、クレイドルは無意識に撫でていた──

 

 

街道から、衛兵が駆けて来た。アルバートさんに何かしらを話している。

「分かった。ロングスウォード伯にも伝えてきな」

衛兵はすぐに、駆け出していった──

「魔城門は、街道の外れ。森向こうの荒野側に顕現したとの事だ。すでに小魔(デーモンインプ)も群れをなしているらしい……てめえら行くぞ!!」

アルバートさんの号令一下、俺達は移動する。

それなりにまとまって動いている冒険者達に比べ、武芸者達はちぐはぐな感じがした──「我が強いからねー、武芸者達は」

シェーミィが云う。確かにな……自分の技がどれ程悪魔に通用するか、楽しみだ。ロングスウォード伯に実力を見せよう──等と言いあっている武芸者達がいるからな……正直、連中とは連携出来ないし、近付かない方がいいか。

 

街道から外れ、森を抜ける頃。魔城門を監視している衛兵達と合流した。

「よう。連中の様子はどうだ?」

アルバートさんが、ベテランらしき衛兵に声をかける。

「インプの数も、二十体は越えている。まだ増えるだろうな。中級の悪魔が出現する前に、インプどもを殲滅しておいた方がいいだろう」

アルバートさんとは顔見知りなのか、気安い感じで会話をする、ベテランの衛兵。

「よし、任せろ。ロングスウォード伯も手勢を率いて、やがて来るだろう。その前に、インプどもを始末するさ」

アルバートさんの言葉に、頷く衛兵。

「頼んだ。俺達は街の防衛に付く」

ベテランの衛兵が云い、部下の衛兵達を引き連れ去って行った。

 

「よし……このまま進むぞ。やるべき事は、インプの殲滅だ。その後は、中級の悪魔が出現してくるだろう。気合いを入れろ……行くぞ!!」

マントを翻し、アルバートさんが俺達を先導しながら、進んでいく。

左手には、ラウンドシールド。右手には、バトルハンマー……なるほど。らしい、装備だな。

インプ達が、こちらに気付いた。

喚き声を上げ、こちらを威嚇している──真っ先に突っ掛けたのは、武芸者達だった。

剣を、槍を、長刀を引っ提げ、インプの群れに突撃していく……馬鹿だな。不味いぞ、あれは。

インプ達の火球が、武芸者達を襲う。その直撃を受けた武芸者達が、たちまち転げ回る。

 

「……馬鹿どもが。行くぞ! 落ち着いて進め。インプどもを、殲滅しろ!!」

地に伏す武芸者達を放置し、冒険者達を先導しながら、突き進むアルバートさん。

まとまりを見せながら、インプ達を囲む様に進んでいく冒険者達。

俺達も進む──〈んっふふっ……楽しみだねえ。魔城門(デモンズゲート)邪神(父上)の声が、聞こえた……。

 

 

前線に出ている冒険者達の数は、三十人。後方支援についている冒険者達は十名少しほどだ。

武芸者連中は……何人いる? 二十名はいない様だが、数名はインプの火球を受け、早くも脱落している。

倒れた武芸者達を、即座に後方に運んで行く衛兵達。ここら辺は、冒険者ギルドと衛兵とで連携は取れているのだろう……さすがだな。

 

すでに乱戦状態になっているが、アルバートさんの指揮の下、冒険者達はインプを押し包む様に動いている……だが、インプの数が多い。いつの間にか増えている。

冒険者の包囲を抜けたインプが、こちらに攻めよって来る。その数は、二十はいるか?

「今ね。抜けて来たインプを叩くわよ」

チイィィン──レンディアが抜刀した。それが合図となり、“碧水の翼”は進む。

 

包囲を抜けて来たインプを叩く事になった。二体、三体と、斬り払う。

シェーミィの矢を受け、インプ達が次々と倒れていく──レンディアの詠唱による、風属性の魔術が、インプ達を切り裂き、突き倒す。

俺とグランさんは、インプ達を手当たり次第に斬り払っていく。他の冒険者達も、包囲を抜けて来たインプ達を始末しているのだが、数が中々減らない……一気に始末しないと駄目なのだろうか?ならば……。

 

「レンディア、少し暴れて(・・・)もいいか?」

流血と苦痛の茨の外殻(ソーンオブマックスペイン)に、そっと手を触れる。

「……ちゃんと、正気に戻れる(・・・)のでしょうね?」

ちらりと、レンディアが尋ねてくる。

うん、当然だ──「大丈夫だ」

ふむ、とレンディア──「任せるわ。やりなさい」

よし。リーダーのお墨付きだ。やって来る痛みに備え、深呼吸を一つ、二つし、発動の文句を口にする……「血と苦痛、茨となれ」

即座に、ザキリ、ザキリと全身に茨の棘が突き立っていく……神経にまで食い込んでいく棘──くっそ……痛い。

痛い痛い……何だ、これは……こんな目に合うのは、何の、誰のせいだ……?

ああ、そうか、この、醜い小魔(デーモンインプ)どもの、せいか……殺そう。一匹残らずだ。しらみっ潰しに、一匹残らずだ……。

 

ごおうっ、と戦士が哭いた。びしゃっ、と戦士の体から、血が弾けた──あぁぁぁ~るうっぅぅっあぁぁぁ~~!!

異様な叫び声に、何事か、とこの場にいる者が思った。

あの血塗れの戦士は何者か、と皆が思った──

 

血塗れの戦士は、インプの群れに突き進んで行く。インプの攻撃をものともせず、ひたすらに剣を振るい続ける──薙ぎ払われ、裂かれ、叩き斬られ、インプ達が数を減らしていく。

「今が攻め時だ、インプどもを殲滅するぞ!」

アルバートの指示に、冒険者達が奮い立つ。

「……派手な事になったわねえ。クレイドル」

苦笑するレンディア。グランとシェーミィが頷いた。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。