私達が仕留めた大きな蜥蜴──
「大きさでいえば……まあ、中くらいかな。大型になると、ブレスを吐く場合もあるんだよ」
ファルは話ながら、解体ツールでケイブドラゴンから手早く素材を回収していく。
「魔石、牙に爪……尻尾、かな」
ケイブドラゴンをひっくり返し、胸元に小刀を滑らせる様に当て、切り裂き、魔石を回収するファル。続いて、爪と牙を丁寧に引き抜いていく。
「ちゃんと、見ていてね。いずれ、君達も素材回収する事があるだろうから」
なかなかに血生臭いけれど、これも後学の内ね。解体作業が出来る仲間がいるほど、効率的になるから──ジョシュは興味深そうに、ファルの手付きを見ている。シェリナも、眉を潜めながらも解体作業を見ていた。
「肉は……そうだね。癖のある味だけど、食べられるよ。でもまあ、冒険者ギルドに卸した方がいいかな。結構な値で売れるよ」
ファルは、少量の肉を塊で切り取る。
ジョシュの素材回収袋に、素材を入れるファル。
「さて、洞窟内をちょっと調べようか。何かしらの戦利品があるかも知れないよ。運が良ければ、宝箱も出ているかもね」
ファルが率先して、洞窟に向かっていく。私達は周囲を警戒しながら、ファルの後を追った。
ケイブドラゴンの棲家だった洞窟は、獣の臭いが満ちている。耐えられないほどでは無いけど、やっぱり臭い──まだ明るい時間帯という事もあって、洞窟内には明かりが射し込んでいる。
「足下気を付けてね。獲物の骨やらが、あちこち転がっているから」
ファルは、危なげなく洞窟内を進んでいく。私達は、骨やら岩を慎重に避けながらファルに付いて行く──「おお、当たりだね。ツイていたよ」
先を行く、ファルの声。
洞窟奥──動物の骨や、血のこびりついた毛皮が、空間の端に転がっている。その奥に、鉄枠の木箱が見えた──大人一抱えほどの大きさ。見るからに、宝箱といった感じの箱。
「ほら、見てごらん。ダンジョンの宝箱ってやつだ」
ファルが手招きする。それにつられて、私達はファルの元に行く。
ダンジョンの宝箱──一定の確率で出現する、冒険者の収入源、と同時に、装備面においてパーティーを強化する手段の一つ。
「まずは、僕が調べてみるよ……君達。初級訓練受けているよね。宝箱の罠解除の講習は、受けたかい?」
ファルが振り返り、私達に聞いてきた。
「……ええ、基本的な事は」
ふむ、とファルが頷く。少し考える素振りを見せたファルは、私達に手招きをする。
「僕が今から、宝箱を調べる。その間、よく見ている事だね……分かったかい?」
真剣な面持ちのファルに、私達は頷く。
さて……と、ファルが周囲を見回り、宝箱の前に膝を付く。
罠や鍵の解除ツールから、針金とピンセットの様な物を取り出し、それらを慎重に、鍵穴に突き入れる──ふと気付いたのは、ファルは宝箱の正面には位置していないという事だ。
鍵穴から身をずらし、丁寧に鍵穴を探っているファル……やがて、カチリと音がした。
「うん。罠は無かったね。ちょっとした鍵が掛かっていたくらいだ」
ファルが明るく云う──息を潜めて見ていた私達は、はあ、と息を吐く。
「まあ、浅い場所だしね。大層な仕掛けはないよ。それよりリーネ、宝箱、開けてみなよ」
ファルの言葉。シェリナとジョシュが頷いている……そうね、うん。ファルの信用に対して、リーダーが直接、手をかけないとね……正直、ちょっと怖いけど。
少し慎重に、宝箱に手をかけて蓋を開く──中を見ると……うん?
小袋が二つに、短刀が一振りが入っている。何だろうか?
「ふうん? もしかしたら、結構な代物かもしれないね……取り合えず、街に持って帰って鑑定してもらった方がいいね」
ファルが云う。初級訓練で習ったわね……ダンジョンで入手したものは、街に持ち帰り鑑定した上で、身に付けた方がいいと……。
ひとまず、私のバックパックに小袋と短刀を入れる。街に戻ったら、すぐに鑑定に出しましょう……。
青葉の庭での経験を無事に終えて、城塞都市に戻ってきた──ファルが云うには、余裕がある内に戻れて良かったとの事だ。うん、まあ確かにそうだ……時間は、昼少し過ぎ。青葉の庭で過ごした時間は、半日少しかな。
「まずは、冒険者ギルドに戻って回収品を買い取って貰おうか。その後、宝箱からの回収品を鑑定かな……それから、昼食にしようか?」
ファルが、朗らかに云う。うん、そうね。ちょうど、お昼時だから……。
「そうね、まずはギルドに行きましょうか。ファル、鑑定してくれる所に心当たりはあるの?」
「ああ、もちろん。ギルドには大概、専門の職員さんがいるよ」
そういえば、聞いた事あったわね。なら、冒険者ギルドで全部済むわね……。
「今の時間、ギルドは空いているから、すぐ用事は済むよ。済んだら、お昼にしようか」
ファルが云った。
「そうね。お昼は、鶏源亭にしましょうか?」
鶏そばとかき揚げ丼セットが、頭に浮かんだ──「いいな、そうしよう」
そば好きのジョシュが、嬉しそうに云った。
「私、肉葱そばにしようかなあ」
シェリナが云う。肉葱そばかあ……それもいいわね。
「君ら、そば好きかい。ふうん……今の時期だと、鶏煮込みそばがおすすめだけどね」
鶏煮込みそば!? 聞いた事のないメニューに、私達は気を引かれた──
巨大蜂と、ゲイブドラゴンの素材の売値は、合計、金貨八枚と銀貨四枚、銅貨四枚という事になった──「まあ、こんな所かなあ」
ファルが云い、それぞれ配分を終え、パーティー口座に入金を済ましても、充分に私達の懐は暖かい──「そういえば、宝箱の回収品の鑑定はどうする?」
ジョシュが云った。ああ、そうだったわね……そうねえ。
「鑑定を済ませた後に、鶏源亭に行きましょうか」
皆が笑った。本当にそば好きねえ……。
鑑定をしてくれたのは、ベテランらしき、お婆さんと云ってもいいほどの職員さんだ……鑑定の結果──小袋二つは、宝石の詰め合わせ。高価な物ではないけれど、装飾品店に持ち込めば、それなりの値で買い取ってくれるとの事──「ふうむ。なかなかの逸品だね」
と云われた短刀は──
「貫通力と、切り裂きの効果が魔力付与された逸品だよ。大事にしな」
職員さんが、短刀を手渡して来る。鑑定代金は一品につき、銀貨一枚。
計銀貨三枚になった──パーティー口座から出しましょうか。
「持つべく人間が、持った方がいいよ」
ファルが朗らかに笑う。
鑑定も終わった事だし、少し遅い昼食の時間だ──うん。鶏源亭にしようか……鶏煮込みそばが気になるのよね。
「鶏源亭に行こう、リーネ。煮込みそばが気になる……!」
急かす様に、ジョシュが云う。装飾品店に、宝石袋を売り込みに行くのは、その後ね──
「売買のやり取りは、僕に任せてもらえるかい? 悪い様にはしないからね」
クスクスと、ファルが笑う……うん、そうね。任せてもいいでしょう。まあ、その前に腹ごしらえと行きましょうか。
「じゃあ、鶏源亭に行きましょうか」
いい具合にお腹空いた頃だからね。ジョシュが嬉しそうに、率先して先導する。
鶏煮込みそば、ねえ……うん、楽しみね。美味しい物を、食べたい時に食べられる……これって、最高の贅沢よね。
一旦、“オーガの拳亭”に戻り、荷物を置く。
鶏源亭で食事を済ませた後は、どこか店に寄って装備を新調しようか、という話になった。
「ジョシュ、パーティー貯金、どれくらい貯まっている?」
「ああ、結構な金額になっているよ」
口座担当のジョシュに尋ねると、驚いた。
金貨三十枚に、銀貨十八枚。銅貨四十枚との事。銅貨と銀貨は、あえて銀貨と金貨に替えていないそうだ──
「細かいお金はあった方がいいからな」
「ちゃんと管理出来てるね。この稼業、いつまとまったお金が必要になるか、分かんないからね」
ファルが、感心した様に云う。確かにファルのいう通りね……私では治癒出来ない、怪我や何かしらの状態異常になった場合、治癒院や神殿にお世話になる事もあるかもしれないしね……。
とりとめもない話をしながら歩く。城塞都市にもう少し滞在して、アンデッドが出現するダンジョン、“静寂の祠”に挑戦するか、何らかの依頼をこなすか──
「帝都へは、急ぎという訳でも無いしね」
対アンデッドは、経験しておいた方がいいでしょうね……鶏源亭が見えてきた。
「一足先に行って、席を取っておくよ!」
ファルが駆け出して行く。その姿を見たジョシュが呟いた。
「
確かに、凄い速いわね……。