邪神の子 ~赤き瞳のクレイドル~   作:末末

195 / 245
第171話 地獄の騎手(ヘルライダー)地獄の騎士(ヘルナイト) 最終ラウンド

 

 

奈落の貴族(ヘルマスター)との戦いは、短いながらも、かなりの激戦だったな……地獄の猟犬(ヘルハウンド)を始末し終えた、レンディアとシェーミィと合流し、第三波に備えてのしばしの休憩中に、ヘルマスター戦を思い出す──

 

放たれた雷球を、真正面からガーランドさんがカイトシールドで弾き散らした。神聖神の加護を受けているのだろうな……。

その左右から、グランさんと若手の神聖騎士が、挟み込むように攻めかかる。俺は、少し距離を取り様子を見る……。

「下郎らめ!」

こめかみに青筋を受かべ、三人の攻撃を迎撃をするヘルマスター。

いつぞや戦ったヘルマスターよりも近接戦闘に長けているのか、レイピアで攻撃を受け流し、払い落としながら、反撃をしている。

さすが、上級悪魔……余裕のある様子だ。でもな……四人目がいるんだよ。

 

特に気配を隠すという事もなく、剣の鯉口を切りながら、静かにヘルマスターの側面から背後に回り込み──抜き打ちに、剣を斬り上げる。

確実な手応え。背後からの強襲に、振り返ろうとする、ヘルマスターの動きが止まった。

目の端に、グランさんがヘルマスターを袈裟斬りにするのが、少し見えた──

 

 

ヘルマスターの死体が、障気を上げながらくすぶっている。悪魔の死体は、皆こうなるのだ……。

「副団長、冒険者の背後からの強襲は、私としては──その……」

「卑怯、汚い、とでも言いたいのですか?」

若手の神聖騎士に、ガーランドが問うた。

「いえ……ですが」

「ガルス、細かい事は言いません。ただ、殺せる時に殺す……それを覚えておきなさい。彼らのやった事は間違っていません。対悪魔戦は、そういう事ですよ」

若いな、とガーランドは思った。ガルスの言いたい事は分かる──だが、対悪魔戦においてだけでなく、戦いにおいてはなりふり構わない事も必要なのだ。

「……分かりました」

ガルスという名の若手の神聖騎士が頭を下げた。いや……まだ分かっていないだろうと、ガーランドは思った。

 

 

ヘルマスター、ヘルハウンドも始末し終えた今、小休止状態だ。今だ魔城門(デモンズゲート)は顕現したまま──第三波が現れるのは、時間の問題だ。

「おめえら、直に第三波が来るぞ! 今の内に休んでいろ!!」

ギルドマスターのアルバートさんが、冒険者と武芸者達に指示を出している。

地獄の猟犬(ヘルハウンド)奈落の貴族(ヘルマスター)……さて、次に来るのは何でしょうかね」

ガーランドさんが、干し果物を口にしながら呟く。その目は、鋭く魔城門(デモンズゲート)を見つめている。

 

ロングスウォード伯の騎兵隊が、魔城門から距離を取り、待機しているのが見えた。

その数二十。一騎も欠けていない様だ──先頭に立つ、ロングスウォード伯の赤ずくめの佇まいが、何ともきらびやかだ……。

 

ドウンッ……ドンッドウン……ドンッ……。

魔城門から、太鼓の様な太い音色が鳴り響いて来た。

「来るぞっ! 皆、下がれっ!!」

アルバートさんが、指示を出す。第三波のお出ましだ……だが、明らかに今までの雰囲気と違う。

奈落の貴族(ヘルマスター)以上の、上級悪魔の出現なのか……?

魔城門が、ゆっくりと広がっていく──太い音色はまだ止まない。

「う~ん……何だろ。馬?みたいな臭いするよー」

スンスン、とシェーミィが鼻を鳴らす。レンディアが尋ねる。

「ロングスウォード伯の騎馬隊じゃなく?」

「ううん。今臭ってるのは、馬みたいな臭い……魔城門からね」

 

 

 

武人然とした顔付きの悪魔が、魔城門(デモンズゲート)の内側、地獄から人界を見つめている……濃い紫の、重厚なゴシック調の全身鎧(プレートアーマー)を身に付け、両手持ちの大剣を逆手に持ち、柄に手を重ねている。

優に二メートルを越えた、がっしりとした体格。全身鎧を身に付けながらも、動きは鈍る事は無いだろう。

「人間側にも、騎馬隊がいるな……門から出たなら騎馬隊を相手にしろ。私は冒険者と、武芸者らしい連中を相手にする」

低くよく通る声で、側で騎乗している悪魔に云った。

 

「承知」

騎乗の悪魔が、言葉短く頷く。引き締まった体格の、騎兵らしい中装備の装い。急所を金属で補強された、濃い紫の革鎧を身に付け、手には薙刀の様な長柄の武器を持っている。

灰色がかった顔には、武人然とした悪魔と同じく、奈落の貴族(ヘルマスター)の様な傲慢さは浮かんでいない。精悍な騎士の顔付きをしている。その背後には、騎兵が二十。

「よし……頃合いだ」

全身鎧の悪魔が、魔城門を見て云った。門はもうじき開ききる……その時が、決戦の時だ。

 

「では、お先に」

騎乗の悪魔が云うと、背後に揃っている騎兵隊に合図を出した。

騎兵達が規律よく、騎乗の悪魔の左右に陣取る。

ドドンッ──魔城門が、腹まで響く様な音を立てた。同時に──「行くぞ、蹴散らせ!」

騎乗の悪魔の指示と共に、悪魔の騎兵隊が魔城門から飛び出していく。

それを見届けた全身鎧の悪魔は、大剣を肩担ぎにして、ゆったりと魔城門から出て行く……。

 

 

大きく開いた魔城門から飛び出して来たのは、灰色の馬に騎乗した、悪魔の騎兵隊だった──「地獄の騎手(ヘルライダー)か!」

ガーランドさんが叫ぶ。

そのヘルライダー達は、脇目もふらず、ロングスウォード伯の騎馬隊に向かって行く。

ロングスウォード伯は槍を振り上げ、指揮する騎馬隊に反転の合図を出す……ヘルライダーの騎兵から、俺達を遠ざけるつもりなのだろう。

騎馬の移動する轟きが、大地に響く──悪魔の騎馬隊とロングスウォード伯の騎馬隊が、遠く離れて行った……だが、それだけでは無かった。

 

続いて、魔城門(デモンズゲート)から巨体が姿を現した──大剣を肩に担いだ、濃い紫の重厚なプレートアーマーを身に付けた悪魔。

武人──そうとしか言い様のない悪魔が姿を見せた。

厚く、濃い気配をまとわせる悪魔。奈落の貴族(ヘルマスター)の気配とは全く違う、分厚い気配──「……地獄の騎士(ヘルナイト)

ガーランドさんが呟く。グランさんは、巨体の悪魔を睨み付けている。

地獄の騎手(ヘルライダー)地獄の騎士(ヘルナイト)ね……大詰めだな。最終ラウンドというところか……? 気合いの入れ所だな。

流血と苦痛の茨の外殻(ソーンオブマックスペイン)に、手を触れる。

 

早くも、地獄の騎士(ヘルナイト)に突っかかって行く武芸者達。討ち取れば、手柄とでも思ったのだろうが──ダアァァンッッ!!

衝撃音と共に、武芸者達が宙を舞い、地面に叩き付けられた。

ヘルナイトがやった事は、ただ大剣を振っただけだった。ただそれだけで、強力な衝撃波を発生させて、武芸者達を払いのけたのだ──地に伏している武芸者達を見向きもせず、ヘルナイトがゆっくりと歩を進める。

その歩みには、戸惑いは無い──真っ直ぐに、こちらに向かって来る。

 

その理由は、暗黒騎士と神聖騎士がいるからだろう。悪魔にとって、この現世の神々。そしてその信徒は、敵でしかないのだからな……グランさんも、ガーランドさんも、それが分かっているのだろう。

二人共に、俺達の前に出て盾を構えた──「私とクレイドル、ガルスさんは中衛。シェーミィは後衛!!」

矢継ぎ早に指示を出すレンディア。その指示に、素早く陣形を整える。

中央、レンディア。その左右に俺とガルスさん。シェーミィは少し距離を取り、背後に付く。

 

ゆったりとした歩調で距離を詰めて来る地獄の騎士(ヘルナイト)……流血と苦痛の茨の外殻(ソーンオブマックスペイン)の出番は、まだ早いだろう。使わないにこした事は無いだろうが、使うべきと判断したなら、使う。身を削らないといけない時はあるからな……ヘルナイトが、再び大剣を薙ぎ払うのがはっきりと見えた──ゴウゥゥンッ!!

鳴り響く衝撃音。その衝撃を、前衛に立つグランさんとガーランドさんが、しっかりと受け止めていた──さすが、騎士だ。“盾”の役割を充分に果たしてくれている……ならば、今度はこちらの番だな。

 

「左右挟撃! シェーミィ、補助!」

レンディアの指示。ヘルナイトの左右に回り込むべく、挟撃の体勢に入る。

ほんの少しガルスさんが遅れたが、それは仕方ない。俺達がフォローすればいいだけだ……キリ、リと、シェーミィが弓を引く音が微かに聞こえた──一対六。ヘルナイトはそれほどの相手。

レンディア達には、他の冒険者や武芸者の事は、脳裏から消えていた。

ただ、全力を持ってヘルナイトを倒す。それだけを考えていた──

 

よし、俺達で、仕留めよう……改めて、対地獄の騎士(ヘルナイト)戦の始まりだ──クレイドルの瞳が赤く瞬いた。

 




評価、感想あればぜひ。


(゚∈゚ )クックルポー
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。