邪神の子 ~赤き瞳のクレイドル~   作:末末

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第172話 地獄の騎士(ヘルナイト)と邪神の子

 

 

地獄の騎士(ヘルナイト)の衝撃波対策に、レンディアが風属性の魔術で防壁を造り、グランさんとガーランドさんは、俺達の“(タンク )”となってくれている──

攻撃(アタッカー)”は、俺とガルスさんにシェーミィが引き受ける構えだ。レンディアは、補助に回った。

 

ガルスさんが、ヘルナイトの蹴りを受け、撥ね飛ばされた。俺の剣は、重厚な鋼造りの籠手で受け止められ、拳で反撃された。その一撃を、盾で何とか受け流す──その間、ヘルナイトはほぼ片手。

片手で大剣を使い、グランさんとガーランドさん。俺とガルスさんをあしらっている。

シェーミィの矢も、片手で弾かれていた──強い。

俺達の攻めは、片手間であしらわれている状態だ。グランさんもガーランドさんも、ただただ、“盾”として防戦一方だ。

 

レンディアは、風の防壁を張り巡らす事を終えた後は、補佐に回っている。敏捷性強化、衝撃耐性強化等──しかしそれでも、六対一の差をものともせず、ヘルナイトは俺達の攻めを軽くしのいでいる……このままでは、不味いな。時間がかかれば、魔城門(デモンズゲート)から、新手が出現してもおかしくない……何か一手を打たないと……よし、今が使い時だ──流血と苦痛の茨の外殻(ソーンオブマックスペイン) LMS(ラストマンスタンディング)に手を触れる。

少し背後に下がり、レンディアと位置を入れ替わる。すれ違う際に、呟く。

「レンディア、少し暴れるぞ……」

「……任せるわ」

俺が何をするのか、分かったのだろう。よし、攻めの一手だ。

これで戦局が変わればいいが……いや、変える。でなければ、追い詰められてもおかしくない。

ヘルナイトは、尋常の相手じゃない──流血と苦痛の茨の外殻(ソーンオブマックスペイン)に触れる……

「血と苦痛、茨となれ」

 

 

風の防壁に、衝撃波を無効化された──風属性の使い手がいるのか……まあ、大した事では無い。

冒険者達の攻撃を受ける──前衛の、神聖騎士に暗黒騎士一人。ふむ……中々の加護を受けている様だが、実力はまだまだ足りん──とはいえ、今まで相手にしてきた連中よりも、中々、楽しませてくれる──剣を薙ぎ払い、押し返す。このままだと、いずれ詰むぞ……どうする?

 

その後方から、戦士と神聖騎士が挟撃を仕掛けてきた。

ふむ、中々の攻め──だがな。神聖騎士を蹴りにて押し退ける。甘いのだ。

戦士の剣は鋭いが、角度が良くない。それは、悪し──籠手で受け、拳を叩き込むも、盾で受け流された。

今の受けは、悪くなかった──不意に、矢が放たれて来た。

片手で弾く。戦士と神聖騎士の攻撃の最中ならば、直撃していたかもしれない……ふむ。油断なら無い相手達だな。

いいぞ……とはいえ、長くは──ぞくり。鳥肌が立つ──何だ?

「うぅぅあぁぁ~!あぁぁるうぅうるぅぅあぁぁあっ~!!」

血の慟哭が、ヘルナイトの心身に異様に響いて来た……。

 

 

「血と苦痛、茨となれ」

ミシリ、と茨が体を這う──身体、神経を貫きながら、あらゆる五感を刺激する──到底慣れる事の無い、苦痛……。

駄目だ、この痛みは、ますます、昂る……「うぅぅあぁぁ~!あぁぁるうぅうるぅぅあぁぁあっ~!!」

叫ぶ。喚く。何故だ? 何故、こんな苦痛を身にしなければならない? 血を、涙を流し、吐き気を催すほどの苦痛を味わなければならない? 何故? 誰のせいだ……?

あれか──真正面に立つ、紫がかった重装備の騎士……大剣を担いでいる、悪魔の騎士。あいつのせいか──殺そう。

 

黒灰色の突風が突き抜けて来た──前衛を保つグランと、ガーランドの間から、吹抜けて来る風が地獄の騎士(ヘルナイト)を叩く──ゴオォォンッ!! 黒灰色の突風は、ヘルナイトに蹴りを見舞った。

重い衝撃音。突風が、ヘルナイトを両足で蹴り込んだのが、レンディア達に、はっきりと見えた──「下がって! 皆、下がりなさい!!」

レンディアの、悲鳴にも似た指示。

グランが、ガーランドの肩に手を触れる。ガーランドもグランと共に、即座に下がる──「ここは、クレイドルの出番です」

グランの声に、ガーランドはただ頷くだけだった。一対一か……地獄の騎士(ヘルナイト)と。

 

 

ヘルナイト目掛けて、駈ける。前衛のグランさんとガーランドさんが、俺の姿を確認すると同時に、左右に別れた──助かる。

今から、ヘルナイトと真っ向勝負をするつもりだ……まず、最初の一手は、ドロップキック──飛び上がり、両足で蹴り込む、何という事もないプロレス技。

ダメージは望めない。パーティーから引き離し、一対一に持ち込むための一手。派手な蹴りを、ヘルナイトの胸元に叩き込む──

ゴオォォンッ!! 確かな感触。ドロップキックの直撃を受けたヘルナイトは、二、三歩よろめきながらも、大剣を構え直す。

 

「うおぁぁぁッあぁぁッ!!」

痛い、痛い、いぃぃつぅっ~~!! ヘルナイト目掛け、剣を振るう。振るう。振るう。振るう──大剣に防がれ、弾かれる。関係ない──何も考えるな。ただ苦痛が、この身に拡がっていく──ガアァンッ。

大剣と撃ち合わせた時に、互いに離れた──俺の身は、間違いなく血塗れだろう。さっきから、血の匂いが漂っている。

ただ、剣を振るう──このままだと、らちが明かないが切り札はある。

ただ、その隙があるかどうかだな……向かってくる大剣を受け流す。

中々、キツいな。とはいえ、切り札を出す機会はまだ見えない。痛いな全く──動く度に、バシャリと血が散る。

 

「ガッハアッ!」

体からの出血が、地面に迸り、ヘルナイトの体にもかかる──苦痛と出血状態にも関わらず、冷静に物事を見る事が出来ている……大剣を受け流し、防ぐ。

このままでは防戦一方だ──不味い、不味いなこれでは……大きく距離を取るために、後方に飛び下がる。

 

「少し、待っていてくれませんか」

悪魔に一言告げ、まずはラウンドシールドを外し地面に置く。

そして、腰回りのポーチを置き、腰の後ろに装備していたハンドアクスと白銀の短剣も置く。

マントも外そうかと思ったが、止めた──小細工に使えると思ったからだ。

魂食み(ソウルスレイヤー)”と“宵闇(トワイライト)”が残った──うん。この二つだな、頼りになるのは。

宵闇の効果を使うのは少々心苦しいが、相手は、なりふり構う相手では無いからな──仕方ない。

ロングソードと、メイスの二刀流か……まあ、何とかなるだろうが……それよりも、だな──

 

「待っていてくれたんですか」

悪魔に声をかける……本当に、待っていてくれるとは──左手に、魂食み(ソウルスレイヤー)。右手に宵闇(トワイライト)。剣と戦槌の二刀流……切り札を、一つ切った。

「ふむ……仕切り直しと言う所だからな……いざ」

ざらつく声で、応えるヘルナイト。大剣の切っ先を向けて来る──

「いざ」

魂食みと、宵闇をヘルナイトに向ける。そして──ガヅン。大剣とロングソードとメイスが、ぶつかった。

 

 

地獄の騎士(ヘルナイト)との一騎討ち──火花散る打撃の応酬を、誰が止められる?

とはいえ、仲間の窮地を見過ごす訳にはいかない。万一の備えは必要だ……。

「何時でも援護出来る様に、準備しておいて」

レンディアが言った。グランは剣を構え、シェーミィは矢を二本つがえた。ガーランド達も、剣を構える……。

戦場に響く音は、ヘルナイトとクレイドルの攻撃の応酬の音のみ。衝撃音と共に、火花が散る。

剣と戦槌が大剣を叩き、大剣が剣と戦槌を弾き返す──両者共に、一歩も退かない。

(……笑っている?)

レンディアは、ヘルナイトを見た。厳つい、武人然とした顔には確かに笑みが浮かんでいる。

(クレイドルも……)

フェイスガードで顔は見えないが、恐らくクレイドルも笑っているだろうと、レンディアは思った。

 

「加勢するぞ!!」

グラン達の目に、武芸者三名が、剣、槍を携え駆けて来るのが見えた。

馬鹿な……!ヘルナイトとクレイドルの闘いを見て、血気に逸ったのか? それとも、手柄になるとでも思ったのだろうか!?

「邪魔! なり!!」

ヘルナイトが、叫ぶ様に怒鳴った。

ボォウッッ!と大剣が横薙ぎに振られ、武芸者三名が胴体を両断されて地面に叩き付けられた。血と内臓が、雨の様に舞い散る──

「邪魔が入ったものだ……続けよう」

「……ええ、では」

目の前で、武芸者達があっさりと殺された事に、何の感情も湧いていないかの様なクレイドル。

この闘い、どうなる……?

グラン達には、闘いを見守るしかなかった。

 

撃ち合う。ただひたすらに──フェイントだとかの小手先は通じない。上下に撃ち分けても、弾かれ受け止められる。

真っ向勝負に持ち込んだのは、悪手だったか?

いや、いいや──手札はまだある。それが通じるかは、分からないが……。

大剣の振り下ろし。まともには受けられない。辛うじて受け流す。ギリリリリ、と耳障りな金属音──脇が、空いたな。地獄の騎士(ヘルナイト)さんよ。

ここで、手札を切る──防御にのみ使っていた武器を振るう。

戦槌(メイス)・“宵闇(トワイライト)”──打撃の際に「宵闇(トワイライト)」と囁けば、対象に対して何らかの状態異常を与える──これが、俺の持ちカードだ。

 

宵闇(トワイライト)

ヘルナイトの空いた脇腹に、思いきり叩き込んだ……。

 

 

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