邪神の子 ~赤き瞳のクレイドル~   作:末末

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第173話 ラストマン・スタンディング──決着の時

 

 

「……宵闇(トワイライト)

全身から血飛沫を撒き散らす戦士が呟き、戦槌(メイス)を脇腹に当ててきた──衝撃が鎧を貫き、体にまで届いてきた。

耐えられる──意表を付かれたが、耐えられ……何だ? 目眩に、吐き気? 戦闘中にか!?

何、だ?……メイスか!!何かしらの魔力付与がされたメイス……いや違う。

そんな生易しい物では、無い──「呪物か!」

血塗れの戦士が、フェイスガード越しに笑いかけているのが伺えた。

 

 上等だ──状態異状があろうが、関係無い。やれる事を、互いにやっているだけだからな──私は構わない。それより、貴様気付いているか……?

 

 宵闇(トワイライト)の一撃を加えた時に、はっきりと分かった──状態異状が通ったと。

最も、その状態異状がどういうものかは分からない……それより、あんた分かっているか?

 

「貴様、今──」

「あんた、今─」

──笑っているぞ──

 

 撃つ打つ避ける避ける撃つ斬りかかる斬る避ける撃つ凌ぐ受け流す受け流す撃つ避ける撃つ──いつまで続く?続く続く受け流す避ける斬り撃ち打つ──しんどくなってきた……向こうもそうなのか?同じか?出血と痛みなぞどうでもいい妙に頭が冴えてきたな……血の匂いが強くなってきたそのせいか?痛みが集中力を引き起こしている?

 “ 最後に残る者(ラストマンスタンディング)”──相手取る敵が多いほど身体強化が増し、集中力も強化される──その効果が発動しているのか?

 大剣の突きを捌くのがキツいなこれは斬り落としの方がまだましだ考えるな行動が追い付かなくなる余計な事を考えるなと思っても考えてしまうまた突きだ何か狙っているのか……大剣の、左右の薙ぎ払い──左、右、左、右そして、袈裟斬り。

 それを避け───よし、ここだ。渾身の一撃を。ほら、鎧の隙間に横薙ぎの剣が入った── ぞぶり、と深い手応え……

 

 

 地獄の騎士(ヘルナイト)とクレイドルの一騎討ち──火花散る、壮絶な闘い。その結果、クレイドルがヘルナイトの腹を引き裂き、膝を着くヘルナイトの首を跳ね飛ばして、闘いは終わった……。

「一対一で、ヘルナイトを……」

 ガーランドさんが、呟く。

あの呪物、“流血と苦痛の茨の外殻(ソーンオブマックスペイン)”を使用した上での勝利だろうが、それはいい。

クレイドルは、出来る事をやっただけだから──「グラン、行きましょう。クレイドルは直に動けなくなるだろうから、回収しないと」

 レンディアの言葉に、頷く。

 

 

「……ふむ、見事、だ」

 腹を裂かれたヘルナイトが、地に膝を着いている。はらわたが、血と共にドロリと垂れている──

魂食み(ソウルスレイヤー)”の斬擊は、ヘルナイトの胴を深く斬り裂き、致命傷を与えていた──魂食みは、対悪魔属性だったな……。

「首を……取れ。それなりの、名誉、になるだろう、な」

ヘルナイトの言葉に……応えなければ。

「では」

ソウルスレイヤーを上段に構える──介錯か……上手く出来るだろうか……?

「さらば、だ」

 ヘルナイトの最後の言葉。体が、自然に動く。うなだれるヘルナイトの首筋目掛け──剣を振る。

ヘルナイトの首は、綺麗に落ちた──その体が、ゆっくりと横倒しに崩れ落ちる。

 

 

「血と苦痛は去った」

流血と苦痛の茨の外殻(ソーンオブマックスペイン)”を解除する。瞬く間に、傷口と出血が消えた──だが、血の匂いは消えない。

 血生臭い体に、浄化をかける──悪魔を殺した際に得られる活力は、感じられない。流血と苦痛の茨の外殻(ソーンオブマックスペイン)使用後の疲労と相殺されているのか──今すぐ横になりたいが、やる事がまだある……生活魔法の土属性を使い、深く穴を掘る。

 あまり使わない属性だが、なかなか上手くいったな……一メートル近く、穴を掘った──理由は一つ。地獄の騎士(ヘルナイト)の首を埋める為だ。

 静謐な顔立ちをしているその首を、放置は出来ない──穴の中にそっと置き、土魔法で深く埋める。

 これで、済んだ……疲れたな。ただ、疲れた。

 あとは、レンディア達に任せよう──よし、少し横になるか……。

 

 

「グラン、担いで」

「了解」

レンディアの指示を受け、グランが意識を失っているクレイドルを肩担ぎにする。

ロングスウォード卿がやって来た。馬から降り、手綱を引きながら私達に合流する。その身は、返り血にまみれていた──「私の騎兵隊も無傷ではすまなかったわ……」

顔をしかめながら、ロングスウォード卿が云う。

二十名の部下の内、五名を失ったそうだ。

地獄の騎手(ヘルライダー)二十騎を殲滅した代償は、決して少なくなかった──

「有意義な……犠牲だと思いたいわ」

歯を食い縛りながら、呻く様にロングスウォード卿が云う。

 

「それより……クレイドルは大丈夫なのか?」

グランに担がれているクレイドルを見て、ロングスウォード卿が尋ねてきた。レンディアが答える。

「疲労ですよ。身体には異状は無いでしょう」

「む、そうならいいが……」

すうすう、と寝息をたてているクレイドルを、ロングスウォード卿は呆れた様に見ている。

「おう、レンディア。クレイドルの奴、血塗れになっていたが、ありゃあ何だ?」

アルバートがやって来て、レンディアに尋ねる。

う~ん、と考える素振りを見せるレンディア……。

「冒険者ギルドに戻ってから話すわよ」

レンディアの言葉に、ふうむ、と頷くアルバートとロングスウォード卿。

 

 

 ギルドマスターのアルバートは、改めて戦場を見渡す……魔城門(デモンズゲート)は魔力を失い、すでに崩れ去っている。後に残るは、悪魔連中の死骸だけ──冒険者の死者、四名。武芸者の死者、八名。計十二名が、今日死んだ──今日、この場に来た冒険者と武芸者合わせて、五十名ほど。

 それに加え、ロングスウォード卿の騎馬隊は、二十名の内、五名失っている。

出現した悪魔の数からしたならば、犠牲の割合でいえばそれほどでもない(・・・・・・・・)

 

「……ちっ」

アルバートは、ぎりりと歯を食い縛り、戦場を眺める……戦後処理は、少々時間がかかるだろう。

「セリオス、戦後処理の指揮を頼む」

「分かりました」

側にいた、副ギルドマスターのセリオスに指示を出した。

セリオスはいつものスーツ姿ではなく、茶色のローブ姿。セリオスは、一流の治癒士でもある。

 神聖騎士のガーランドとガルスは、自発的に負傷者の治癒に加わってくれていた。

ガーランドとガルスに目をやり、(ありがてえ事だ……)と感謝する。

 アルバートは、もう一度戦場に目をやると、ロングスウォード卿とレンディア達に合流すべく、歩み去って行く……。

 

 

「ロングスウォード卿、アルバートさん、私達は先に戻っていい? クレイドルを宿に運びたいのよ」

「うん? 構わねえよ。魔石やらの回収はこっちでやるさ。早くクレイドルをちゃんと休ませてやりな」

グランに担がれ、寝息をたてているクレイドルを訝しげに見るロングスウォード。

「……に、してもだ。地獄の騎士(ヘルナイト)を一人で討ち取る、とはな……」

「あの状態のクレイドルは、普通(・・)じゃないのよ」

レンディアの言葉に、ロングスウォードとアルバートは、クレイドルの異様な出血状態の事を言っているのだと、分かった。

「ま、後でね。皆、宿に戻りましょうか」

先を行くレンディア。では、と頭を下げるグラン。じゃねー、と軽く手を振るシェーミィ。

二人は、レンディアの後を追って行った。

「“碧水の翼”か……」

悠々と去って行く、レンディア達の後ろ姿を見送りながら、アルバート、ロングスウォード共に、呟いた。

 

 

 宿に戻るまで、クレイドルはグランに担がれたままだった。

「ただいま」

とレンディアが、“荒野の髭(ビアードオブワイルドネス)”の入り口を潜る。

 ぐったりと、グランに担がれているクレイドルを見て、女将のイーライが目を見張る──「クレイドルは、大丈夫なのかい!?」

「眠っているだけよ。部屋に運ぶわよ。グラン、お願いね」

驚くイーライを尻目に、レンディア達が二階に上がっていく。

 

 

 部屋に戻った時には、クレイドルは目覚めていた、グランは居ない。

ただクレイドル一人──しばらくボンヤリすると、普段着に着替える。

地獄の騎士(ヘルナイト)との闘いは、よく覚えていない──ただ……楽しかった様な感覚がある。気のせいかもしれないが……とにかく、疲れた……部屋の時計を見ると、とうに昼は過ぎている。昼食を食べ損ねたか?

 まあ、いいか。腹も減っていないしな……眠たい。ただただ、眠たい──クレイドルは、毛布にくるまり身を丸める。

すぐに、深い眠りの底に落ちて行く──

 

 

 〈んっふふふ~。良くやったよ我が子よ。“魂食み(ソウルスレイヤー)”も喜んでいるよ~〉

 邪神の声は、クレイドルには届かなかった……。

 




感想あれば、是非。


(゚∈゚ )ビヨビビビ~。
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