邪神の子 ~赤き瞳のクレイドル~   作:末末

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これから、五人パーティーになると思います。さて、上手く描けるかどうか。


第174話 見習い騎士の決意と冒険者達との縁

 

「クレイドルさん!!」

部屋のドアを開け放し、飛び込んで来た狼族の従業員──ラーシア。あまりの突然さに猫族のシェーミィが驚き、尻尾がブワッ!と膨らんだ。

「クレイドルさん……! クレイドルさん!!」

ベッドに横たわるクレイドルに掴みかからんとするラーシアの頭部を、鷲掴みにして止めるグラン。

むぎぎ、と唸るラーシア。呆れた様にレンディアが云う。

「心配無用よ。ただ疲労で寝ているだけよ」

 

すやすやと、寝息をたてているクレイドル──少し前に、激戦を制した事など思わせ無いような安らかな寝顔。

「少し遅くなったけど、昼食にしましょうよ。ラーシア、まだ昼食は大丈夫?」

レンディアの声に、我に返るラーシア。今までクレイドルの顔を見つめていたのだ──

「あっ、はい! 大丈夫ですよ!!」

ラーシアは、部屋から飛び出して行った。

さて、今日の昼食は何だろうか? レンディアは思った──

 

宿の食堂は、なかなかに賑わっていた。食堂内の話題は、悪魔を退けた事の話が飛び交っている──やれ、どこそこの武芸者が悪魔連中を退けた。あの道場出身の武芸者が、一人で多数の小魔(デーモンインプ)を始末しただの──そういう話で盛り上がっている。

冒険者達は、そういう話に同調する事なく、食事をし、酒を飲みながら談笑している──明らかに、武芸者達と冒険者達の空気は違った。

武芸者と冒険者の間で、微かな火種がチリリとくすぶっているのを、分かる者は分かっていた。

 

 

レンディア達は、いつもの食堂の奥の席に陣取る。食堂内が見通せる席だ。

「リーライ、今日の昼食は何?」

「今日はねー、豚肉野菜炒めに玉葱スープ。玉葱の酢漬けだよー」

リーライの声に、レンディアが応える。

「じゃあ、それでお願いね。あと追加で、目玉焼きの半熟ね」

はーい、と応えるリーライに、グランとシェーミィも同じ様に注文する──レンディアとシェーミィは丸パン。グランは米。

 

食事を終え、のんびりと茶を喫している所に、冒険者ギルドのギルドマスター、アルバートがやって来た。

よう、と挨拶をし、席に着く。ギシリと、アルバートの巨体に抗議するかの様に椅子が鳴った。

早速、エールと塩の炒り豆を注文するアルバート。

「まだ昼過ぎよ。今からエール飲むの? 仕事はどうしたのよ」

レンディアは遠慮ない口を利きながら、自分も果実酒炭酸割りを頼んだ。

ついでとばかりに、シェーミィも果実酒とチーズを頼む。

グランはやれやれとばかりに、ティーポットから茶のお代わりをカップに注ぐ。

 

「報酬は、明日までには決まるだろうと知らせに来たんだよ」

二杯目のエールを口にし、アルバートが云う。

アルバートは、エールを流し込む様に飲む。一口でジョッキの半分ほどが、消える──

「悪魔連中を撃退出来たんだ。酒も進むってもんだ」

明るく云うアルバート。その声に、微かな苦さが混じっていた──冒険者、武芸者、ロングスウォード伯の部下の犠牲──それを良しとしないギルドマスターの感情が、苦さとなって現れていた。

「ああ、それとな、武芸者連中には報酬は出ねえ事になってたんだが、ロングスウォード伯が自腹で少々の銭を配るそうだ」

アルバートは、残ったエールを喉に流し込んだ。

「まあ、タダ働きって訳にはいかないわよね」

レンディアが云う。注文のためにリーライに声をかける。

 

 

「それより、クレイドルはどうした?」

アルバートは二杯目のエールを飲み干し、摘まみに頼んだチーズに手を伸ばす。

「疲労で眠っています。前にも同じ事がありました」

茶から黒ワインに切り替えたグランが杯に口を付ける。

「ふうん……前にも、な」

アルバートはリーライに三杯目のエールを頼む。

「そういや、クレイドルのあれ(・・)の話は、ここじゃまずいか?」

クレイドルの、異様な出血状態の事だ。

 

「……う~ん、そうね。外聞良くないから、ギルドで話すわよ」

レンディアが応える。おまたせ、とエールを運んで来たリーライに、果実酒炭酸割りを頼む。

グランとシェーミィも、それぞれ酒を注文した。

「分かった。ロングスウォード伯が来た時にでも聞かせてくれ」

三杯目のエールを、がぼり、と流し込む様に飲むアルバート。一息で、ジョッキの半分が消えた。

 

 

ふと、目が覚めた──階下から聞こえるざわめきに起こされた、という訳ではない。睡眠を充分に取れたからだろう。

ん~、とベッドの上で背を伸ばす……窓に目をやると、閉め切ったカーテンの裾が風に揺らいでいる。

換気のために、ほんの少し窓を開けていたのだろう──窓に近付き、カーテンを開く。

窓から見える外は、ほの暗くなっている──今の冬の季節は、陽が暮れるのが早いからな……直に夜か。

さて、シャワーでも浴びるかな……着替えを準備して、シャワー室に向かう。

その後、煙管を一服するとしよう。その頃には、レンディア達も戻っているだろう……。

 

 

 

宿の食堂内の片隅。二人の神聖騎士と三名の神聖騎士見習いが席を囲んでいる。

五名は、少し早めの夕食を取っていた──鶏とジャガイモにニンジンの煮物。玉葱のスープ、大根の酢漬け。丸パンか米──量も味も、何の文句も無い夕食だ。

 

「ふむ……本気なのですね。ヒルダ」

食事を終え、口許を紙ナプキンで丁寧に拭う、ロマンスグレーの髪色の、初老の紳士──神聖騎士団副団長、カイル・ガーランドが云った。聴く人の気持ちを穏やかにする声だ。

丁度、ガーランドの席正面に座って、俯いているヒルダ──ヒルデガルド・ハインワースを、優しい目で見つめる、ガーランド。

「……はい」

ヒルダは、絞り出す様な声で返事をする。

 

『見習い騎士でも、冒険者活動は出来るのでしょうか?』

少し前に、ヒルダは副団長のガーランドに相談に来たのだ──理由は、分かっている。クレイドルという冒険者に、あしらわれ打ち倒されたからだ。

彼は、依頼通りの事をしてのけた。

『鼻っ柱をへし折る』──という依頼を。同じ神聖騎士にやらせると、要らぬ禍根が出来かねないと判断し、ロングスウォード伯を通して依頼をした事は正解だったようだ。

 

ヒルダと同じ見習い騎士の二人は、考え直したほうがいい──と説得するが、ヒルダは静かに首を振る。

二人は、ヒルダの同期の女性。歳はヒルダと同じ、十六。友人、といってもいい仲だ。心から心配しているのが、よく分かる──「早速、神聖騎士団本部と、あなたの父上に手紙を出します」

ガーランドが、ヒルダに云う。

ヒルダが、冒険者活動をする事についての、是非を問う手紙ではない──神聖騎士団副団長として『ヒルデガルド・ハインワースが決めた事を、尊重する』という内容の手紙を送るつもりだ。

 

ガーランドの言葉に、ヒルダが頷く。

「……よろしい。手紙の返信が来るまで、ロングスウォード領で待機ですね」

ヒルダの同期二人が何か言いたそうにしたが、もう一人の神聖騎士、ガルスが視線で押し止めた。

「三名とも、部屋に戻りなさい。自由時間にします」

ガーランドの言葉に、ヒルデガルド達は頭を下げ、席を立った──

 

「よろしいのですか? 副団長」

部屋に戻って行く見習い三名を見送りながら、ガルスが云う。

ガルス・ヴァンガルン──神聖騎士副団長ガーランド付きの騎士。二十代少しの若手の代表格。頑健な体格をした、紫がかった黒髪の美丈夫。

見習い達から、相談役として慕われている若手だ。

 

「……彼女自身が、世間を知りたいと願った以上、止める事は無いでしょう」

ガルスに、ガーランドが云う。ガルスが頷く……さて、とガーランドが明るく声を放つ。

「ここからは、酒の時間にしますか」

ガーランドが従業員を呼ぶ。すぐに、明るい返事が聞こえた。

その声を聞きながら、酒のつまみは何があるかな、とガルスは思った。

 

 

うん……? ふと目覚める──煙管を一服した後、ベッドに横たわったまでは覚えているが、記憶はそこまでだ……二度寝ならぬ、三度寝をしたのだろうか?

部屋は、天井に備え付けられたランプの仄かな青い光に照らされている──ならば、時間は夜になっているという事か……そう自覚したと同時に、腹が減った……まだ、食事は出来るだろうか?

 

食堂に降りる。いつもの“指定席”には、レンディア達はいない。どこぞに飲みに行っているのだろうな……まあ、いい。

腹が減ってたまらない。早速、従業員を呼ぶ──ガゴン! 椅子ごと倒された──何ぞ?!

「クレイドルさん……! クレイドルさん!!」

ラーシアさんが、俺の体にしがみついている。ちょっ……ええ?

「……ラーシアさん。離れてくれ、ませんか?」

ラーシアさんの額に手をやり、引き剥がそうとするも……力、強いな……!

スンスンスンスンスン、と凄い勢いで匂いを嗅いでくる。止めて!

 

パカァン!! と打撃音。女将のイーライさんがラーシアさんをお盆でひっぱたいたのだ。

「何やってンだい! いい加減にしな!!」

我に返ったラーシアさんは、顔を真っ赤にして厨房に駆けて行った……。

「……全く。すまないねうちのやつが。でもね、ここに担ぎ込まれてきたあんたの事が心配だったんだよ、あの娘はさ……許してやっておくれな」

イーライさんが云う……もちろん、責める気はない。むしろ俺が余計な心配をかける側なんだよなあ……ん、それはそうと。

 

「いえ、気にしていません……腹が減っているんですが、今からでも食事出来ますか?」

椅子を片しながら、イーライさんに聞く。

「もちろん。いいシチューがあるよ。揚げ物に出来る魚も残っているからね。どうだい?」

シチューに揚げ物か……いいな。うん。

「じゃあ、それで。あと、パンでお願いします」

あいよ。パンだねとイーライさん。

ふむ、シチューに揚げ物か。パンでいいだろう。何の揚げ物が出て来るか楽しみだ。

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