邪神の子 ~赤き瞳のクレイドル~   作:末末

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ヒルデガルド嬢の扱いを、さてどうするか?


第175話 碧水の翼とヒルデガルド

 

 

「レンディア殿、ヒルダは冒険者活動をするために、ロングスウォード領に残ります。面倒を見てくれとは言いません……ただ、様子を見ていただければと思っています」

ガーランドは、茶に口を付ける。

「ふん。構わないわよ。これも、何かの縁でしょうしね……それと、初級訓練は必ず受ける様に言っておいてね」

レンディアは茶を飲み干し、ポットからお代わりを注ぐと、ガーランドのカップにも茶を注ぐ。

「もちろんです。今までの騎士見習いとしての訓練は、なるべく忘れる様にとも伝えています」

湯気立つカップに、ゆっくりと口を付けるガーランド。

 

場所は、冒険者ギルドの喫茶室。ヒルデガルドの今後について、ガーランドとレンディアが話し合っている。

ヒルデガルドは一旦、神聖騎士見習いの訓練を休止し、冒険者活動をするという事になった──

初級訓練を終えた後、“碧水の翼”に属するかどうかは、ヒルデガルド次第という事──初級訓練を終えた後に、気心知れた仲間とパーティーを組む可能性があれば──「多分、そうはならないと思います」

ガーランドが云う。なぜ?とレンディアが問う。

「ヒルダには、“碧水の翼”の面々が見えているからですよ」

ガーランドが、お茶のお代わりを注文した。ふむ。とレンディアが頷く。

「……なるほどね。まあ、いいわ。ヒルデガルドは、碧水の翼の面子に加えるわよ」

「次、ヒルダに会うときは、見違えるほどになっているといいですが」

ガーランドの言葉に、ふん。とレンディアが笑った。

 

 

グラン、シェーミィにクレイドルは食堂で茶を飲みながら、のんびりとしていた。レンディアはガーランドと、ヒルデガルドの事で、冒険者ギルドに出向いている。

昼食前の食堂内は静かだ。人もまばらで、穏やかな時間になっている。

先日の対悪魔戦の報酬は、回収した素材の選別や鑑定がまだ済んでいないという事で、まだ決まっていない。

中には、どう値段を付けるか決めかねるものや、障気抜きをしないといけない代物もあるので、今冒険者ギルドは相当に忙しく、魔術師ギルドにも協力してもらっている状況だ──

 

テーブルに、ぐでりともたれかかっているシェーミィが、くああぁ、と大あくびをする。

「ガーランドさん、だっけ? レンディアに何の用なんだろーねー」

「……ふむ。見当もつかないな」

グランさんがシェーミィに答え、テーブル近くに当たり前のように待機しているラーシアさんにお茶のお代わりを頼んだ。

シェーミィは果実水炭酸割りを頼む。俺は炭酸水を頼んだ。

すぐにお持ちしますね、とラーシアさんが厨房に向かって行く……というか、テーブル近くに待機していていいのだろうか? 昼食の仕込みとかあるだろうに。

 

 

昼食の時間と共に、食堂内に活気が溢れて来た。

冒険者、武芸者、商人達に市民──それぞれ好きな席に着き、従業員達に今日のランチを尋ねている。

今日のランチは二種──鶏野菜炒め定食にベーコンエッグ定食。米かパンを選べて、サラダとスープに酢漬け野菜付き。

お得なランチだ……そうだな、今日はベーコンエッグにパンにするか。よし、決まりだ。

「ご注文、決まりました?」

ラーシアさんがやって来た。一瞬、目が合うと、すいっ、と目を逸らされた……顔が赤い……昨日の、我を忘れてのしがみつきを思い出したのだろう……ああいうのは止めてほしい。心臓によくないからな。

 

それぞれ注文を終える頃に、レンディアが戻って来た。

レンディアはベーコンエッグ定食のパンを頼んだ。

「ガーランドさんの用件は何だったんだ?」

気になっていた事を、レンディアに尋ねる。ふむ、と頷き、レンディアが云う。

「ヒルデガルド・ハインワースを、預かる事になったわ。神聖騎士見習いの訓練を一旦休止して、冒険者活動を始めるそうよ」

レンディアが、はっきりと言った──

 

「預かると言っても、初級訓練を終えて後の事だけれどね。つまり、一月は彼女の訓練終了を待たなければいけないという事よ……どう?」

意外……と言えばそうだな。見習い訓練を休止して、冒険者活動?

「見習いが冒険者活動か……正式な騎士になって、任意で名乗り出る事はあるが、見習いの時点で、か……」

ううむ、とグランさんが唸る。

「て事はさー、あたし達はヒルデガルドの初級訓練が終わるまで、ロングスウォード領にいるって事ー?」

「まあ、そうなるわね。ガーランドさんには、少しばかりヒルデガルドの様子を見て欲しいと頼まれているわよ。それと、これは依頼ではないからね」

レンディアが、シェーミィに答える。

依頼では無い、か……という事なら。

「ヒルデガルド嬢を、“碧水の翼”の一員に加える事を考えての事か?」

俺の言葉に、レンディアが答える──

「まあ、そうなるわよ」

レンディアが、にいっ、と笑った。

 

暗黒都市──ダーンシルヴァス神王国に行く予定は多少ずれたが、何の反対も無い。急ぐ旅でもないのだから、新たなパーティーメンバーのために一月くらいは待てるというものだ。

「夕食後にでも、改めて顔合わせするわよ」

昼食後、レンディアが云い、解散となった。

夕食まで時間はあるので、街をブラついてみるかな──いい屋台や露店を見かけたから、冷やかしついでに見て回るか。

 

 

結局、“碧水の翼”で街並みをブラつく事になった。雑貨、食料、武具、その他──食料や雑貨はともかく、武具の質は極端過ぎるので、“鑑定”持ちか目利きでないとお勧め出来ないとの事だった──なるほど……まあ、武具は充分な物が揃っているからな。今の所は必要無い。

魔導具? 論外だとの事だ。

「そろそろ、戻りましょうか」

レンディアが云う。夕食までには時間はあるが、遅れるよりマシだ。

もう少し時間があれば、面白そうな物が見つかったかもしれないが、まあいい……これも何かの縁だ。時間はある。滞在中に、いい物に廻り会えるかもしれないからな……。

 

宿に戻り、それぞれの部屋に戻る。夕食まで、まだ時間はあるんだよな……のんびり一服するか。

「私はシャワーでも浴びてくるが、クレイドルはどうする?」

グランさんが、風呂仕度をしている。

「煙管を楽しんでいますよ」

煙草盆を取り出し、煙草葉を煙管に詰める。一服するには、いい時間だからな……。

「じゃあ、後でな」

グランさんが、部屋から出ていった。生活魔法で煙管に火をつける──すう……ふうっ、と煙を吐く。

ヒルデガルド嬢、か……立ち合いをした印象として、性格は直情タイプて感じか。腕前は……はっきりいうとそれほどでもなかったが、騎士を目指している以上、伸び代はあるのだろうな。

金髪碧眼の、貴族然としたヒルデガルド嬢の顔立ちを思い出す。強い目付きをしていたな。

……立ち合いで叩きのめした事を、根に持っていなければいいが……。

 

 

夕食の時間近くになったので、グランさんと共に食堂に降りる。

いつもの、“専用席”に着く。食堂内全体が見渡せるいい席だ。

心地いい喧騒が、心を落ち着かせる──報酬は出ないと聞いていたが、ロングスウォード伯から褒賞金が出るらしいぞ──太っ腹だな、さすがだ──仕官の口もあるかな?

武芸者達が、口々にロングスウォード伯の事を話している。

 

間もなく、レンディアとシェーミィがやって来た。

「直に、ガーランドさんとヒルデガルドが来るから少し待っていましょう」

レンディアが席に着きながら云う。

正式な話し合いを、これからするのだろう……。

それほど間を置かず、ガーランドさんとヒルデガルドがやって来た。

レンディアが席を勧める。会釈をして、二人が席に着く。

ガーランドさんは、穏やかな笑みを浮かべているが、ヒルデガルド嬢は表情が堅い──緊張しているのか……。

昼食の注文を聞きに来た従業員に、レンディアが後から呼ぶから、と云い、取り合えずお茶を注文した。

 

「初級訓練後は“碧水の翼”に所属する……という事でいいのよね?」

レンディアが、茶を啜りながらヒルデガルドに問う。

「……はい、そのつもりです」

声が堅い……ヒルデガルド嬢は、レンディアに気圧されている。それは良くないぞレンディア──

「まずは、一月。所属出来るかどうかは、初級訓練次第だろうな」

わざとらしく声を上げ、適当に云う。

ガーランドさんがカップに口を付ける。その口の端が、微かに笑みを型どった。俺の意図を汲んだのだろう。

 

「グラン、シェーミィ、ヒルデガルドの加入について何かある?」

レンディアの言葉に、グランさんはクレイドルの意見と同じだと答えた。一月後の状態を見て考えるとの事。シェーミィも同意見だ──

「なら、決まりね。ヒルデガルド、あなたの意見は?」

「よろしく、お願いします」

レンディアの言葉に、ヒルデガルドが頭を下げた。ガーランドさんの顔に、喜色が浮かぶ。

レンディアの質問に、首を縦に降るヒルデガルド──決まったな。

 

 

初級訓練後。ヒルデガルド・ハインワースは、一介の冒険者としての肩書きを得る事になるが、それは少し先の話──




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_〆(。。)
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