邪神の子 ~赤き瞳のクレイドル~   作:末末

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第16話 野外実習 採取と採掘 晴れ時々 猪

 

「おう、クレイドル。レンケインが野外実習に連れ出したいって言ってんだが、受けるか?」

そういえば言ってたな。都市近辺を見回ってみないか、と。ここを拠点にして、早くも二週間になるか……都市内は色々、観て回ったけど外には出てないな……よし。

「はい、受けます」

「よし、レンケインに伝えておく。詳しくは奴と話しな」

 

 

揉めていた。レンケインさんがジェミアさんとリネエラさんと……俺のミスだ。掲示板に貼られている常設依頼をボケーと眺めていると、リネエラさんに声をかけられた。その際、レンケインさんと野外実習に行くと言ってしまった。

準備を終えてやって来たレンケインさんに、二人が詰め寄った。

─危険だ まだ訓練中だ 半人前を連れ回すな 未熟者だから死ぬ 二人きりで何を実習するつもりだ狐野郎─

 

レンケインさんは全く意に介さず、常設依頼を手早く三つ選び、猫族の受付、サイミアさんに手続きを頼み終えた……というか、罵声酷いな。

半人前で、未熟者だから死ぬって何だよ……あと、狐野郎って……。

 

レンケインさんと、雑談をしながら東門に向かう。門の側に、ミルデアさんがいた。

革張りの、頑丈そうな肩当て付きの胸当てと、籠手。素材は何だろうか。少なくとも金属製には見えない……。

金属で補強された小型の盾と、短槍。予備の武器を帯剣している。槍の穂先は少し幅広く、長め。穂先下に飾り羽が付いている。リザードマンらしい装いって感じだ。

 

「待たせたかい?」

「いいや。もう少し遅れるかと思った。意外と早く、あの二人を振り切れたな」

「ミルデアさんも一緒だと言えば、あんなに言われる事無かったんじゃないですか?」

あの二人は、戦闘向きではないレンケインさんと一緒という事で、心配の裏返しから、あんな罵声を浴びせたのでは……?

「いや、違うよ。単純に君を連れ出す事が気に食わなかったんだろうさ。それにミルデアが一緒だなんて言ったら、更に酷い事を言われていただろうねえ」

 

改めて、レンケインさんの装いを見る。

いつもの深緑色のローブ。手には杖、というより棒だ。持ち手に革紐が巻き付けられている、重量が感じられるような棒。肩掛けのバッグと、腰回りにはポーチ。

「まあ、これでも最低限の護身術は身に付けているからねえ」

はっはっはっ、と笑うレンケインさん。

見ると、ローブの下に板金を仕込んだ様な革鎧を身に付けている。

「何にせよ、最低限の技術と武装を身に付けているのは基本だという事だよ、少年」

はっはっはっ、と笑うミルデアさん。

頼もしい人達だな……。

 

東門から出て、馬車や人々が行き交う整備された街道沿いをしばらく歩く。雰囲気は明るい。

帝都領内の治安は、ほぼ万全というのが実感できる。

「さて、もう少し歩いてから、街道から外れよう。ほら、ここからでも森が見えるだろ? 採取、採掘先は、森の少し奥になるねえ」

レンケインさんが、手元の依頼書を確認しながら言う。声は明るい。

ミルデアさんは、どこを見るという事もなく自然に周囲を警戒している。何の隙も無い感じだ。

「昼前だから、奥に行けるねえ。よし、ミルデア頼むよ。上質の採取品が取れる可能性が高いからね」

「ふっふっふっ。任せろ。狐族とリザードマンの鼻の違いを見せてやるさ」

 

東門から出て、約一時間。

街道を外れ、森に入る。前世で森に入る経験あったっけか……ああ、中学の林間学校であったな。

遠くに近くに、鳥のさえずりを聞きながら、森の中を進む。先頭はミルデアさん。少し離れて後ろから、レンケインさんと俺。

「そういえば、俺の装備は本当にこれで良かったんですよね?」

今更ながら、訊ねる。訓練用の防具一式。兜は置いてきた。腰から下げているのは、邪神から贈られた、かのスケルトンキラー(鋼造りのショートソード)。

「うん。大丈夫。採取採掘品は、僕の収集袋に納めるからね。いざという時の治癒ポーションも僕もミルデアも、常備してるから」

 

先を行くミルデアさんが、合図を出す。

「レンケイン、あそこだ。ほら」

ミルデアさんが指差す、その先……一見、ただの原っぱ。だが一角に草が生い茂っている。

「ん……さすがだね。ミルデア、いい香りだ」

ミルデアさんが指差す一角に、レンケインさんがウキウキと近付く。

「クレイドル君、来て。第一の採取目標、ルルギの葉群だ」

ルルギの葉─おう、異世界知識発動─解熱、痛み止めに効用有り─。

「十で一束を最低三束か……クレイドル君、こいつの採取のやり方を教えよう」

レンケインさんの現場講習……いやさすが、分かりやすい。手早く、三束三十のルルギの葉を回収したレンケインさん。

「必要以上の採取はよくないからね……クレイドル君、それは覚えておいてね。乱獲は後に繋がらないから」

 

第二の採取目標。アルドの実─酸味ある果肉には気付け効果。酔いざまし。種は砕いて様々な薬草と混ぜ合わせる事で、薬効を効果的にする事が出来る─か。

なるほど。常設依頼になるだけはあるが……。

「この依頼って、難易度としては簡単な方ですよね?」

「まあねえ。でもね、ここまで深く入って来る冒険者は、そうは居ないんだよ。大概は早く済ませるために、浅い所で済ませるんだよ」

「レンケイン、あそこの藪に向かおう。いい色のが生い茂っている」

ミルデアさんが指差す先。腰ほどの高さの、赤茶けた木々。所々、白い実が実っている。

あれが、アルドの実か。

「最低三十からか……うん、四十ってとこにしておくか。クレイドル君、初級者はね、根こそぎ採ろうとする人らがいるけど、それは誉められたものじゃないからね」

ひょいひょいと、白い実をもぎ取りながら教えてくれる。実を捻るように摘むのが、コツだそうだ。

乱獲。ダメ、絶対。ミルデアさんは、俺達が採取している間は、周囲を警戒している。

 

 

「奥の方がね、人手が入りにくい分だけ採取品の質はいいんだ。採掘も同じだよ」

「その分、少々危険だがな。といっても、ここら辺には、魔物、魔獣の類いが出る可能性は低いが」

「熊はいないけど猪はいるよ。その猪が……」

スンスン、とレンケインが鼻を鳴らす。

「出たね……ミルデア。あの猪、魔獣化しかかっているねえ……仕留めておこうか。魔獣化したら厄介だからね」

自分達から離れた場所。木の根元を激しくほじくっている猪の逆立つ毛並みは赤黒く、禍々しささえ感じる。

「仕留めておくかね……私が相手をする。レンケイン、補助頼むよ。少年、レンケインの背後に廻るんだ」

「任せてくれ。クレイドル君、僕の後ろに付いて、少し離れておくんだ……大丈夫、そう時間はかからないさ」

すうっと、ミルデアさんが息を吸うと……ピィィィ~と口笛を吹いた。高らかに鳴る口笛に、赤黒い毛並みの猪が、こちらに気付く……。

猪が、ミルデアさん目掛け、疾走して来る。ミルデアさんは短槍と盾を軽く構え、猪が向かって来るのを待ち受けている。ぶぅおおおっ! と猪の叫び声──ドオッン。衝撃音……猪が、ミルデアさんに体当たりをしようとした瞬間、土が大きく盛り上がり、猪を宙高くに跳ね上げた。

その後、地面に叩き付けられた猪に、ミルデアさんがあっさりと止めを刺した。

 

猪の血抜き、解体。それらは中々に刺激的な風景ではあったが、大きな経験となった……内臓はレンケインさんが土属性の魔術で、地中深くに埋めた……猪を突き上げた土柱もそうだが、魔術なんて初めて見た……猪の肉と皮は、ミルデアさんが運ぶ。今の季節、そう早くは傷まないとの事らしい。

「あとは採掘か。川沿いだったな」

スンスンと、鼻を鳴らしながらミルデアさんが進む。

 

少し進むと川辺に出た。さらさらと流れる浅瀬の川。周囲には大小様々な石。

「ここの川は微量に魔力が含まれていてね、多少でも魔力を感じ取れなければ、採掘が難しいんだよ」

レンケインさんが、手のひらを大地に向けながら川沿いに歩く。

 

「よし。ここだ……クレイドル君、今採掘するから、見てるように」

川辺にしゃがみこんだ、レンケインさんの手には折り畳み式の小さなピッケルが握られている。

「まずは、周囲の石ころをどかして……」

ザッザッと石ころを払い、剥き出しになった地面をピッケルで堀始める……やがて、握りこぶし大の石が顔を出した。水晶だ……。

「ほら、見て。半分、水晶化しているだろ? これは、言うなれば自然の魔石だよ。魔石の説明は以前したね?」

 

異世界知識では──魔昌石。魔石。魔物、魔獣の体内にある魔力が込められた石。使用方は多岐に渡る──それに加えたレンケインさんからの教えは、たまに自然環境から天然の魔石が採掘出来る事がある。その魔石に宿る魔力は、魔物や魔獣から得られる魔石よりも、純粋な魔力を持っているとの事だった。

 

「その通り。天然物は、なかなか見つかりにくくてねえ。まあ、採掘依頼は一つ見つかればよし、という事だからこれだけにしておこうか」

レンケインさん曰く、他にも採掘出来るだろうが、まだ充分に育った魔石は感じないから、次の機会にしておこうか、との事だ。

「よし……これで依頼は達成、てとこだな。予想外の獲物も得たし、引き上げるか?」

「だね、ミルデア。夕暮れまでには引き上げようか……クレイドル君、疲れたかい?」

「正直、少し疲れました。でも、いい経験させてもらいました」

「うむ。だが、油断するな。門をくぐって初めて、宿が見える。というからな」

ははは、とミルデアさんが豪気に笑う。

「よし、帰ろう。僕らの家に。品質のいい依頼品は充分に得た。報酬を楽しみにしよう」

 

レンケインさんとミルデアさんが、明るく笑った。

 

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