_〆(。。)
ガーランドさんと、ヒルデガルドとの話し合いは終わり、ヒルデガルドは早速明日から、冒険者ギルドに登録する事になった。
「登録名は……そうね、ヒルダとでもしておくといいわ。名字を名乗ったら面倒になるわよ」
とは、レンディアの言葉だ。
ヒルデガルドは、レンディアの言う通りヒルダと登録する事になり、冒険者見習いとしての活動が始まる──
ガーランドさんとヒルデガルドが去った後は、酒の時間になった。
「さて。ヒルダの初級訓練中、のんびりするのも悪くないけど、何かしらの活動しないとね」
レンディアが云う。まあ、確かにな……そういえば、ロングスウォード領内にダンジョンはあるのだろうか?
「適当に依頼を受けるのもいいけどねー。ダンジョンとかあったっけ?」
シェーミィが云う。ふむ、とグランさん。
「確か、ダンジョンではないが、二つあるな……ピックマンの霊園に、淑女の庭園だったか」
霊園に、庭園か……前者はアンデッド。後者は──「昆虫系、中心ね」「却下だ」
レンディアの言葉をはね除ける。虫は駄目だ。
だよねー、とシェーミィ。虫よりも、アンデッドの方がずっとマシだ。
「まあ、いいわ。しばらくはここロングスウォード領に止まる事になるわよ。いいわね?」
構わない、とグランさん。俺もシェーミィも同意見だ。急ぐ事もないしな。
採取に採掘と、討伐依頼もあるだろうし、護衛の仕事も有るかもしれない。働き口は色々ある──昆虫系は御免こうむるが。
早朝。朝の魔力制御を終えて、身支度を整えると、階下に降りる。
いつもの“専用席”に一人、着く。夜が明けるにはまだ少し──持ってきた煙草盆。煙管に煙草葉を詰め、生活魔法で火をつける。
今日の煙草葉は、“朝日”だ──爽やかな口当たりと、やや辛口の味わい──いい香りだ。
ぽかり、と煙を吐く──今だ薄暗い食堂内の天井に、煙管の煙がふわりと漂う。
朝食前の慌ただしさを眺めながら、煙管を吹かすのは少しの罪悪感を感じる。
さて、今日の予定は何かあったかな──ああ、そうか。今日はヒルデガルドの冒険者登録に立ち会う用があったんだな。
茶を注文してもいいが、厨房の忙しさを見るに、遠慮してしまう……まあ、いい。
レンディア達が来るまで、のんびりと煙草を楽しんでいよう──ふうぅぅ~、と煙を吐く。
ぼんやりと、食堂内を見回しながら煙管を吹かし続ける──煙管の煙が、ふうわりと漂う。
食堂内に、外からの明かりが射し込んで来た。同時に、灯りが食堂内を照らす。直に朝食だ──「クレイドルさん、御用は何かありますか?」
不意に、声をかけられた──ラーシアさんだ。
「ええと……お茶をお願いします。それと、今日の朝食を教えてくれますか?」
刺激しないよう、ラーシアさんに尋ねる。昨日の様な獣人タックルは洒落にならん。
「今日はですね。鶏玉子とじ定食に、鶏野菜炒め定食です……それと、隠しメニューで鶏玉丼というのもありますよ……」
ニヤリ、とラーシアさんが云い、厨房に戻って行った。隠しメニューなんてあるのか……鶏玉丼か。親子丼の事かな?
朝食前の厨房の慌ただしさが、ここからでも見える。リーライとラーシアさんが、厨房内を忙しなく動き回っている──微かに玉子の匂いが漂って来た。
「相変わらず、早いわね」
レンディアとグランさんがやって来た。シェーミィは、やはり遅いな。
少し離れた席に、ガーランドさん達が着くのが見えた。
ふと出入り口に目をやると、ギルドマスターのアルバートさんがのしのしと、こちらに向かって来る。威圧感凄いな……。
「おはようさん。邪魔するぜ」
席に着くアルバートさん。ギシリ、と椅子が抗議の声を上げる。
「おはよう。ギルドの様子はどうなの?」
「てんやわんやってとこだな。報酬が決まるのは、もうちっと待ってくれ。何しろ量が量だからな。あと厄介な代物もあってなあ……」
レンディアに答えながら、ちらと俺を見るアルバートさん。何ぞ?
朝食の注文を伺いに来た従業員が、今日のメニューを告げる。
鶏玉子とじ定食に、鶏野菜炒め定食……鶏玉丼は言わないんだな。さすが隠しメニュー。
レンディア達が、それぞれ注文する。
さて、俺は……「鶏玉丼、お願いします」
朝食後の茶の時間。アルバートさんは、美味そうに茶を啜っている。
「……鶏玉丼かあ~」
シェーミイが沁々と云う。どんぶり飯に盛られた、玉子とじの鶏肉を目にした時、羨望の目で見つめていたな……。
「隠しメニューだったらしいからな。次に頼めばいいだろ」
シェーミィに云う。鶏玉丼は、想像通り親子丼だった……先人の知識だろうか? まあ、次があるか分からないが。
「隠しメニュー、なあ……ふふん、色々考えるもんだな」
アルバートさんが笑う。
「そうだ。レンディア、ちと頼みがある。いや、正確にはおめえの兄貴、“魔導卿”に頼みがあるんだよ」
アルバートさんが云うには、悪魔の残した遺留品の瘴気抜きを頼みたいとの事。
低度の瘴気はともかく、上級悪魔の瘴気を抜くのは簡単にはいかないそうだ……そこで、レンディアの兄。“魔導卿”ラーディスにお越し願いたいとの事らしい。
ラーディスさんのお越しか……簡単に呼べるものなのかな?
「ふん。兄上次第ね。興味がわけば来るだろうけど、そうでなければ来ないわよ……まあ、いいわ。兄上に連絡してみるわよ」
レンディアが云う──
「来るかどうかは、兄上次第だからね。過度の期待はしない方がいいわよ」
「……ああ、頼むぜ」
ふう、とアルバートさんがため息を吐く。何か疲れているみたいだな──
「随分と疲れているようですけど、何かあったんですか?」
「
愚痴混じりにアルバートさんが云い、従業員にエールを頼んだ。
朝酒を窘める事は出来ないな……。
レンディアが、ラーディスさんに連絡を取るため、部屋に戻って行った。
「そういやクレイドル。おめえ、
やはり見られていたか。責めている様な口ぶりではない。単純な疑問何だろう。二杯目のエールを注文するアルバートさん。
「……そうですね。あえていうなら、敬意です」
落とした首を、素材とはどうしても思えなかったという事もあった。
「……ふうん。まあ、気持ちは分からねえでもねえな」
二杯目のエールを、がぼり、と胃に流し込むアルバート。
「敬意ねー」
いつの間にか注文していた、果実酒炭酸割りを口に運ぶシェーミィ。
グランさんは、感慨のこもった様なため息を吐いた。
「アルバートさん、仕事はいいんですか?」
雰囲気を変えるべく、アルバートさんに仕事の事を聞く。
「俺の仕事は取り合えず済んだ。後は、書類確認とサインをするだけだ……とはいえ、そろそろ戻るかな」
残ったエールを飲み干し、アルバートさんが席を立った。
「アルバートさん、兄上に連絡付いたわ。今日にでも向かうそうよ」
丁度戻って来たレンディアが、アルバートさんに告げる。
おう、と嬉しそうに声を上げるアルバートさん。
「すぐ冒険者ギルドに向かうと言っていたわよ」
レンディアの言葉に、そりゃ、助かるとアルバートさん。
レンディアに礼を云い、エール代として銀貨一枚をテーブルに置くと、宿から出ていった。
「“魔導卿”が来るのか……久し振りだな」
グランさんが、嬉しそうに云う。
「駆け出しの頃、よくお世話になったよねー」
シェーミィが、懐かしそうに云う。
やはり、ラーディスさんと“碧水の翼”は関係あったのか。
妹のパーティーだしな。当然か……。
昼までは、それぞれで過ごす事になった。シェーミィは、昼まで一眠り。
グランさんは暗黒神の支殿に出向くとの事──さて、俺はどうするか……?
「クレイドル、特にやる事無いのなら少し街を歩かない? 鍛冶屋に行きたいのよ。あと露店をゆっくり見たいのよ」
レンディアに声をかけられた。鍛冶屋に露店か……うん。興味あるな。
「ああ、構わない。鍛冶屋には心当たりあるのか?」
「もちろん。イーライさんの旦那さんの工房よ」
旦那さんは鍛冶をやっていると言っていたな……“
支度を整え、レンディアと合流する。
まずは、イーライさんの旦那さんの工房から出向く事にした。宿から出て、大通りに出る事なく路地裏をスイスイと進んでいくレンディア。だいぶ慣れた足取り。
住民達の談笑と井戸端会議。はしゃぐ子供達の声。たまにすれ違う、衛兵達──治安は、完璧だろうな。
路地裏を進んでいくと、やがて金属音が聞こえてきた。更に進むと、広場に出た──「ここが、職人街よ」
金属音だけでなく、木工の音も聞こえてきた。まず感じたのは、熱気だ。
職人達の立ち働く音が、熱気として伝わって来る気配がした──「さ、行くわよ」
レンディアの後を追う。
達筆の看板には──“
老舗感のある店構え。それよりも、店名のハンド、という所が気になった……城塞都市のスティールハンドに、グレイオウル領のブレイズハンドと関わりがあるんじゃないだろうか……?
「クレイドル、入るわよ」
「……お、おう」
いらっしゃいませー!! 店員の明るい声が出迎えてくれる。
「武器の手入れを頼みたいのよ」
レンディアが、剣を帯から外す。
俺も“
「ん。この三品、お願いよ」
「はい。お預かりします」
店員が丁寧に受け取り、奥に下がっていった。
店内を眺める──棚に納められている武具。武器掛けに並べられている武器に、棚に立て掛けられている防具。
値段は、安価な物からそれなりに値の張る物まで様々だ。
なるほど。こういう店は、初級から中級の冒険者を対象とした、良心的な店何だろうな……。
「ここは、いい店よ。大概な事に相談に乗ってくれる店なのよ。腕も良いしね」
レンディアが、店内を見回しながら云う。客層を何となく見ると、若手っぽい連中がちらほら見える。
相談に乗ってくれる店、か……駆け出しに、優しい店という感じが──「あの武器を持ち込んで来たのは、誰だ!!」
店の奥から、顔を真っ赤にしたドワーフが飛び出して来た……。
面倒事の予感だ……間違いない。