邪神の子 ~赤き瞳のクレイドル~   作:末末

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第177話 新たな縁と漆黒の来訪者

「……この武器を持ち込んだのは、誰だ!!」

大声で喚きながら、鍛冶場から店内に飛び込んで来たモヒカン頭のドワーフ。

丁寧に織り込まれた髭に、細工が成された髭輪をしている。

「俺ですが……」

ごまかし様は無いしな……ドワーフ相手に、嘘はないだろう。

キッ、と俺を睨み付け、向かって来るドワーフ。

「どこで、手に入れた?!」

喧嘩腰で、尋ねて来るドワーフ……ちと腹立つな。

「……言う必要は、ありません」

きっぱり云う。教えた所で、何だよな……邪神と深淵の女王から貰いました、ブヘヘ──何て言えないからな。

 

むううう……唸るドワーフ。言えないんだよ、邪神から貰った何て。

まず、録な事にならないからな……ともかく、言うつもりは無い。

睨み付けてくるドワーフから、目を逸らさない。言えないものは、言えないのだ──

「もういいでしょ。訳有りな事はあるものよ」

レンディアが、明るく云った。

店の空気が、和らいだ──ふう、とドワーフが息を吐く。

「……いや、すまなかった。“魔剣”を久し振りに見たんでな。俺の名は、ゴォレス。よろしくな」

頭を振り、手を差し伸べてくるドワーフ。少し間を置き、その手を握る。

「……クレイドルです」

今だ、腹立ち収まらず。第一印象は、良くないからな……ゴォレス、さんから少々距離を取る。

 

「武器の手入れを頼みたいのだけど、どう?」

レンディアが、ゴォレスさんに尋ねる。

「もちろんだ。ただ……“魔剣”については、少し時間を貰いたいがな」

ちらりと、俺を見るゴォレスさん。時間なあ……。

「あまりかかる様だったら、他に回しますよ。帝都には、腕利きがいますからね」

下らん駆け引きは、止めて貰いたい。レンディアには悪いが、手入れを急ぐ理由は無いからな。

ゴォレスさんの顔が、また赤くなった。俺は、根に持つ人間でね。

 

「……俺の腕前が、帝都の鍛冶屋に劣ると?」

「知りませんよ。ただ、下らん駆け引きめいた物言いをする人はいませんでしたね……俺の武器を返して下さい」

俺の言葉に、殺気さえ滲ませて睨み付けて来るゴォレスさん……構うものか。

「武器を、返してくれますかね」

「……二日、時間をくれ」

絞り出す様な声で、ゴォレスさんが云った。

「二日あれば、あの魔剣と戦鎚(メイス)を磨き上げて見せる……二日だ」

最初からそう言ってくれれば、喧嘩腰にならなくて済んだのに。

「……では、お願いします」

「ふん。じゃあ、私のもお願いね」

ああ、と頷くゴォレスさん。この店に、もう用は無い──「宿に戻りましょうか」

 

「イーライさんに、悪い事になったかな……」

あの店主が、イーライさんの旦那ならば、怒らせた事は不味かったか……いかんな、いかん。ついカッとなってしまった……。

「気にしなくていいわよ。何も間違った事は無いもの。客と鍛冶師がぶつかる何て事、珍しくないわよ」

あっさりと言うレンディア。そんなものかねえ……。

「時間はあるわ。じっくりと露店巡りしましょうよ。掘り出し物、あるかも知れないわよ。最も、魔導具関連はダメだけどね」

 

様々な露店が立ち並ぶ露店通り。 雑貨、日用品、武具、魔術系を扱う露店商が客を呼び込んでいる。

「飯屋は出ていないんだな」

露店通りを、冷やかしながら歩く。いや、熱気がすごいな。冬の気配を感じさせないほどだ。

「ああ、飯屋はね、この先の広場に色々あるわよ」

屋台広場てやつか。まあ、もう少し露店を見て回るか──

 

「うん?ちょっと待って」

レンディアが、ある露店の前で不意に足を止めた。店とも言えない、店。机が一つ。例えるなら、街角に出ている、路上占いの様な店だ。

机の上には、様々な色と形をした水晶や、液体が満ちた小瓶が並べられている。

椅子に腰掛けている、白髪のローブ姿の老婆が煙管を燻らせている。油断ならない、強かそうな面構えをしていた。

「おや、ハーフエルフなんて久し振りに見たね」

老婆がレンディアを見る。意外に声が若いな……レンディアの見た目で、ハーフエルフと見抜いた。言われなければ、外見はエルフと変わらないのにな。

 

「ねえ、ここにある品物はこんな風に置いていて大丈夫なの?」

「ふむ……分かるかい。精霊と契約しているだけはあるね。大丈夫さ、ちゃんと落ち着かせている(・・・・・・・・)からね」

レンディアの質問に、笑って答える老婆。

「レンディア、この水晶と小瓶は何だ?」

「水晶は、精霊の魔力を魔石化したものさ。小瓶は、同じく精霊の魔力をポーション化したものさね」

老婆が、レンディアに代わり答える……精霊の魔力、か。どういう使い道があるのだろうか?

「水晶は、精霊の力を一時的に強化するのよ。小瓶は、魔力回復に使えるのだけど、普段の魔力が、“精霊力”に置き換えられるのよ」

「精霊の力を使えないなら、普通の回復ポーションさ。ある意味、精霊術師専用と言ってもいいかねえ」

 

レンディアと老婆の説明を聞いた。これらの品は、中々高価な物じゃないだろうか?

「何かの縁さね。水属性の“精霊石”か小瓶でも買っていかないかい?」

ふむ。とレンディア。というか、今気付いたが値札が無いな……交渉次第という事か。そう思った目の前で、早速交渉が始まった。

長くなるかもな……他の露店を見て廻るか。

「ダメね。このサイズなら、銀貨三枚。小瓶は言い値で良いけど」

「おやおや、小瓶はいいけど、このサイズなら銀貨五枚が妥当だよ?」

 

我らがリーダーと、強かそうな店主の攻防を背に、クレイドルはその場から離れた──

 

 

結局、レンディアは水の“精霊石”を二つに、精霊のポーションを一つ購入したそうだ。

計銀貨六枚に、銅貨六枚──との事。パーティー口座からではなく、自腹だそうだ。

「ま、互いに損はしてないわよ」

何か嬉しそうに言うレンディア。良い買い物だったらしいな……俺の方は、特に何も気になる店は見つけられなかった。

露店ではなく、普通の店に行った方がいいな。

「昼まで、間も無いわね……屋台広場も気になるけど、宿に戻りましょうか。皆でお昼にしましょうよ」

「よし、戻るか……」

多少、露店通りに後ろ髪引かれながら、レンディアの後を追う。

また、いずれ来る機会もあるさ……背後から、またおいで、と老婆の声。

レンディアは振り返らず、手を振って応えた。

 

 

昼食は、皆で揃って宿で取る事にした。

赤身魚のソテー。付け合わせには、塩茹でしたブロッコリーとニンジン。玉葱とワカメのスープに大根の酢漬け。

いい昼食だ──丸パンか米を選べるので、当然、米で頼んだ。うん、何の文句も無い昼食。

 

昼食後は、茶の時間だ。腹休めに飲むお茶は、心と体に沁みる──「ちょっと冒険者ギルドの様子を見てくるわ。どれだけ忙しいか気になるのよ」

レンディアが云う。確かに──ギルドが忙しければ、俺達冒険者達にも何かしらの影響はあるだろうからな。

「俺も行くよ」

身支度を整えるため、席を立つ。

何かしら、緊急の依頼があるかもしれない──結局、全員でギルドに向かう事になった。

 

 

ギルド内は、思ったよりも落ち着いていた。冒険者達がテーブルに着き、談笑している。奥の喫茶室からは、笑い声が聞こえて来る。

何か拍子抜けしたな──と思っていたが、受付内に目をやると、髪が乱れ、血走った目をした職員達が忙しなく立ち働いていた。

「依頼を受けるどころじゃないな……」

グランさんが呟く。そーだねー……とシェーミィ。戻りましょうか──とレンディアが言いかけた矢先、受付嬢が受付カウンターから回り込んで来た。

「受けて貰いたい依頼があるんですよ~! どうか話だけでも、お願いします!!」

受付嬢が、レンディアにしがみつく……何が起こったのやら……。

 

依頼内容は何の事は無い──とある若い武芸者が、俺との立ち合いを望んでいるとの事。

その武芸者は、ある貴族の一門だと云う……地獄の騎士(ヘルナイト)を一騎打ちで倒した腕前を、是非とも体験したい──との事だそうだ……。

「馬鹿馬鹿しい」

吐き捨てる。貴族の興味本位に付き合いたくない……馬鹿馬鹿しい。

「……受けて貰えると、ギルドへの貢献度が上がるのですけど──」

受付嬢の言葉を無視する。馬鹿馬鹿しい……。

「見世物になるつもりはありませんよ?馬鹿馬鹿しい」

 

馬鹿貴族に付き合うつもりはないが……レンディアは貴族の出自だからな……無関係、という訳にはいかないか?

レンディアは、気にしなくていいとは言っているが……さて、どうしたものか──「条件付けたら、いいんじゃないー。もちろん対等な条件をねー」

シェーミィの言葉に、気付く。

地獄の騎士(ヘルナイト)戦と同じく、対等な条件を、か──とするならば……。

「その依頼を受けるに当たって、条件が三つあります。真剣勝負。結果生死問わず。代理を認めない。これを飲んだなら、やりますよ」

「まあ、その条件は妥当ね」

レンディアが、受付嬢に云う。だろうな、とグランさんが呟く。

 

結果──依頼は、取り下げられる事になる。当然の事だった。

 

 

 

夜。ロングスウォード領内の中心、“武門街”の門は閉ざされている。

この時間になれば、いかなる身分であろうと、閉ざされた門は潜る事は基本出来ない。

領主本人と、緊急の用で訪れた貴族のみが潜る事が出来る──無論、例外はあるが。

 

「うん?」

門番をしている、若手の衛兵達が気付いた──篝火が、暗くなっていると……篝火は門から数メートル置きに配置され、その周囲を明るく照らしている。

数十メートル先まで、それなりに見通せるほどに明るいのだが──妙に暗く感じる。

じっ、と前方に目を凝らすと──黒い何かが見えた。

それは、真っ直ぐこちらに向かって来る。やがて、その黒い何かの正体が見えた。

黒灰色の杖をついた、漆黒のローブ姿の魔術師だ。目深に被ったフードからは、顔がよく見えない──冷たい空気が、漂うのを衛兵達は感じた。

冬の空気とは違う、異質な空気。

 

近付いてくる漆黒のローブ姿の魔術師に、待ったをかける──「……すまないが、夜明けまで向こうの宿舎で過ごしてくれないか? 宿舎には余裕がある。ゆっくり過ごせるだろうから──」

宿舎。どの街の門近くにある、素泊まりの宿の様な物だ。門が閉まるまでに到着できなかった旅人が、夜を明かす宿。

身分関係無く、泊まらざるおえない場所となっている──漆黒のローブ姿の魔術師が、懐から何かを出した。

一瞬、身構えた衛兵達だったが、その何かを確認する──

銀で縁取られた黒いカードだ。そのカードには、

☆ ラーディス・グレイオウル ☆と刻まれていた。

名と姓の両端を銀の星印で囲まれ、同じく銀色で彫印された名前……銀で縁取られた黒いカード。

 

上級冒険者……そのカードは、資料でしか見た事は無い──「通してくれるか?」

否も何も無い。上級冒険者が通せと言ったならば、そうするしかないのだ。

「……通用口に案内します」

「助かる」

案内され、通用口に向かって行く漆黒のローブ姿の魔術師を見送る、衛兵達。

今更ながら、冬の風を感じていた。

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