邪神の子 ~赤き瞳のクレイドル~   作:末末

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第180話 碧水の翼とヒルダの冒険者登録

 

朝食の時間──今日の朝食は、鶏肉と野菜たっぷりの雑炊に、ゆで玉子に酢漬け野菜。

シンプルな朝食だが、肉と野菜のバランスが良く取れている朝食だ。

朝食が並ぶテーブルを前に、レンディアが不審の声を上げた──「うん?」

飲みかけた水の入ったグラスをテーブルに戻し、何か考える様に、首を傾げる。

「どうした?」

レンディアの振るまいに、声をかけるクレイドル。グラン、シェーミィも訝しげにレンディアを見る。

「……兄上が来ていたわね」

そう云い、グラスに口を付ける。

「へー、分かるんだー?」

シェーミィの言葉に、頷くレンディア。

「近ければね。父上か姉上の場合も分かるわよ」

縁の繋がり、絆というやつか。俺の場合、邪神(父上)が近くに来れば、分かるのだろうな……。

 

食後の茶の時間──今日の予定は、見習い騎士のヒルダを、冒険者ギルドへと案内する事。

冒険者登録は、昼食前か、後にするかはガーランドさんに聞いてから、という事になった。

「初級訓練の期間は一ヶ月。それが終わるまで、ロングスウォード領を拠点にする……それでいいわね?」

レンディアの言葉に、俺達は頷く。

「昼食前に、ガーランドさん達と合流しましょうか。それまで、自由行動にしましょうよ」

 

さて、自由時間と決まったが何をしようか?

魂食み(ソウルスレイヤー)”と“宵闇(トワイライト)”は、まだ磨き上がっていないだろうし……そうだな、露店巡りではなく、商店街をブラついて見るか。雑貨屋に装飾品店、他にも色々回ってみよう。

武門街らしい、何か面白い店があるかもしれないからな──

 

結局、“碧水の翼”の面々で商店街を巡ることになった。

消費した雑貨や日用品の補充を済ませた後は、屋台広場で軽食を取る。

肉と野菜の串焼きの立ち食い──釣りは取っといてと、レンディアが銀貨一枚を支払う。

毎度!と、屋台の大将の声を背に、屋台広場に背を向ける。

 

一旦宿に戻り、“碧水の翼”の身の回りの整理を済ませる。携帯食、雑貨、その他──それらを皆、新しく入れ換えた。前の物は、まだ使えるだろうが全部廃棄だ。

「ん。そろそろ、ガーランドさん達と合流する時間ね」

レンディアが云った。ヒルダが初級訓練の申請をする時に、ガーランドさんも立ち会う事になっている。

待ち合わせ場所は、冒険者ギルド──少し早いが、ギルドに移動する。

 

ギルド内は、以前ほど慌ただしい雰囲気ではなかった。受付嬢がカウンターに数名、依頼受付のために待機している。

「前より、落ち着いているねー」

ギルド内を見渡しながらシェーミィが云う。

確かにな。依頼を物色中の冒険者は、少数。初級冒険者達が、常設依頼を受付に申請している。

「昼前だからな。こんなものだろう」

と、グランさん。

一番混む時間帯が朝。割りのいい依頼を求めるのなら朝だからな。

次に混むのは、夕方。依頼を終えた冒険者達が、依頼達成の手続きをしたり、回収した魔物、魔獣の素材を買い取りカウンターに持ち込んだりする時間帯だ。

昼前の現在は、そんな喧騒は無く、穏やかな時間だ。奥の喫茶室も暇な時間だろう。

レンディアが受付嬢に、ガーランドさんという人が来たら、喫茶室に案内してと伝言を頼む。

「お茶しながら、待っていましょうよ」

早速、喫茶室に向かう。

 

 

 

思った通り、喫茶室に客は居なかった。俺達、“碧水の翼”だけ。

何しろ、従業員が暇そうにあくびをしていたくらいだ。俺達が来ると、慌てて挨拶をしてきた。

四人で、のんびりと茶の時間だ。

「喫茶室も忙しくなるのは、朝方よねー」

茶を啜り、シェーミィが云う。何かしらの依頼を受けた後、計画を立てながら茶を飲む事も珍しくないからな──

「遅れましたか?」

柔らかな声に、振り返る。神聖騎士団副団長ガーランドさんだ。その後ろには、ヒルデガルド嬢が立っていた。

「いえ、私達が早すぎただけよ」

レンディアが、どうぞ、とガーランドさんとヒルデガルド嬢をテーブルに誘う。

「お茶のお代わりとー、カップ二つ追加ねー」

シェーミィが、追加注文をした。

 

 

ガーランドさんは、冒険者登録は急ぐ必要も無いですが、昼食前にしましょうと言った。ヒルデガルドも反対は無いようだ。

ただ登録後は、直ぐに初級訓練に移らずに、他の見習い騎士達と別れがてらの食事を取らせてやりたいとの事──「という訳で、初級訓練を始めるのは明日からです」

と、ガーランドさん。その判断に、俺達は否は無い。構わないわよ、とレンディア。

「とにかく、お茶を済ませましょうよ」

ガーランドさんとヒルデガルド嬢のカップに、レンディアが茶を注ぐ。

 

 

受付で、ヒルデガルド・ハインワース改め、ただのヒルダとして、冒険者登録が完了した。

受付嬢とのやり取りの後、初級訓練を始める前に準備があるので、明日の朝、改めて来ますとヒルダが受付嬢に告げた。

はい、お待ちしています。と受付嬢──これらのやり取りは、ヒルダ自身が終えた。

ガーランドさんと俺達は、離れた場所でそのやり取りをただ見守っていた。

「さて、昼食にしましょうか。港区にいい店があるのよ、そこに行きましょうよ」

レンディアが云う。そういえば、ロングスウォード領には、港町があるんだよな。

「港町の食事処ですか……いいですね。神聖教国は港が無いですから、干物ばかりで新鮮な魚介類が、なかなか入って来ないんですよ」

ガーランドさんが、沁々と云った。

「なら、たっぷり堪能すると良いよー。新鮮なマリネに刺身。焼き物、煮物、色々あるからねー」

シェーミィが、にししと笑いながら、楽しそうに云う。

受付を終え、今だ緊張した面持ちのヒルデガルド──ヒルダが戻って来た。

 

 

そのまま、港区に食事に出向く事になった。先導するシェーミィが、何とも楽しそうだ。

マリネに刺身もある……そして、ワサビもあったな。

とにかく、昼食は海鮮尽くしになるか。うん……楽しみだ。

 

 

昼食には少し早い時間という事もあり、港区は静かだった。

ここが忙しいのは、夜明け前と昼だそうだ。陽が上る前に出港し、昼前には戻る漁師達で賑わう港区。今はのんびりとした雰囲気になっているが、いくつかの店は開いている。

「せっかくだから、屋台って事も無いしね……え~と」

「レンディア、あそこにしよーよ。前に行った“渦潮亭”」

シェーミィの言葉に、レンディアが頷く。

「そうね、そうしましょうか。せっかくだし、ちょっと豪勢なお昼にしましょうよ」

“渦潮亭”といえば……骨付きの羊肉を食べたあそこか。うん、いいな。

 

港区の食通りに、“渦潮亭”はある。石造りの頑丈な建物は、城塞の雰囲気を残している──「こんにちは。六名だけど、大丈夫?」

レンディアが店に入り、店員に尋ねると、ちらりと、店員が店内を見る。

「大丈夫ですよー。奥のテーブル席にご案内しますねー!」

俺達を先導しながら、店員が声を上げる。

「六名様、テーブル席奥にご案内しまーす!」

以前、ロングスウォード伯とアルバートさんと来た時と、同じ席に通された。

さて、まずは飲み物の注文かな……?

 

「おや、いらっしゃい。また来たね」

注文を取りに来たのは、この店の女将さんだ。

恰幅のいい、四十半ばの愛想のいい女性だ。俺達の事を覚えているようだ。

「こんにちは、今日のお勧めは、何がある?」

尋ねるレンディアに、女将さんが答える。

「今日はね、特に活きのいい魚と貝が入ってるんだよ。マリネと刺身がオススメだね。あと、煮物と焼き物もオススメだよ」

「ふうん……じゃ、まずはマリネと、刺身の盛り合わせをお任せでお願いよ。飲み物から先に注文するわ」

レンディアが早速注文をする。取り合えずはお任せか。俺達も、各々で飲み物を注文する。

 

「ガーランドさんもヒルダも、好きに注文するといいわ。今日は、“碧水の翼”のお祝いよ……刺身とか生物(なまもの)は、大丈夫?」

レンディアが、ガーランドさんとヒルデガルドに声をかける。

ガーランドさんは大丈夫だといい、ヒルデガルドは、初めてだが是非、試したいと云った──なかなかに勇気がいるだろうが、刺身を試してもらいたいものだ……ワサビの良さにも、目覚めるかもしれないからな。

 

女将さんが、直々に注文を運んで来た。果実酒炭酸割り、エールに黒ワイン。

「はいよ、飲み物お待ち。料理が来るまで、これでも摘まんどいておくれ」

酒と一緒に運ばれて来たのは、そぼろ肉と揚げ豆腐……早速、揚げ豆腐を口にする。

うん、悪くない。良いお通しだ。ガーランドさんも、これはいいな……と呟いている。

 

「昼から飲めるって、いいよねー」

シェーミィが、果実酒炭酸割りをグビリと飲む。

昼酒は、酔いが早いんだよ……自重しないとな。

最初に、マリネが運ばれて来た。大皿に広げられた、赤身と白身のマリネ。

その上に、たっぷりと玉葱が敷かれ、酢がかけ回されている──レンディアが、それぞれの取り皿にマリネを取り分ける。

「さあ、食べましょうか」

レンディアが率先して、マリネに手を伸ばす。

「これが、マリネという物ですか。話には聞いていましたが……」

ガーランドさんが、興味深そうに赤身魚をフォークですくい、口に入れる……。

「これは、いい歯応えと味わいですね……うん、美味い。玉葱の風味も良く効いている」

どうやら、ガーランドさんは気に入った様だ。

恐る恐る、口に運んでいるヒルデガルドも、目を見開いている。

 

「まだ、海鮮料理は来るわよ」

レンディアが、嬉しそうに云う。そうだ、ワサビを追加で頼んでおくか……。

「すいませーん!」

早速、店員を呼ぶ。やがて刺身も来るだろうし、ワサビが無いと物足りないからな。

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