邪神の子 ~赤き瞳のクレイドル~   作:末末

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元ネタは、あれですよ。


第186話 ピックマンの霊園 一風変わった屍鬼(グール)

 

 

明け方前の、いつもの魔力制御を終えて、部屋に戻る。

いよいよ冬の気配が強まって来たので、明け方はかなり冷える。そんな中、外での煙管の一服はキツいので、大人しく部屋に戻る。

千の素振りを終えたガーランドさんも、「お先に」と早々に宿の中に引き上げて行ったくらいだ……。

 

部屋に戻るとグランさんは居なかった。ベッドの上には丁寧に畳まれた毛布、その上に枕。シーツも整えられている。

きちんと寝床を整え、シャワーにでも向かったのだろうな。

よし……一服といこう。その後、熱いシャワーを浴びるかな。

 

 

「今日の予定何だけれど」

宿の一階。朝食前に、いつもの“指定席”に着く、碧水の翼──その顔触れを前に、レンディアが云う。

ヒルデガルドの──ヒルダの様子を見に行く事と、ロングスウォード領のダンジョンの一つ、“ピックマンの霊園”を訪れる事の二つを予定として考えているとの事。

ヒルダの様子を見に行く、か……それはいいが、ピックマンの霊園とやらには何か用があるのだろうか?

 

「用という用は無いわよ。ピックマンの霊園には、中級の不死者(アンデッド)が出現するからね。対アンデッドの経験を積むには、いい場所だと思っただけよ」

クレイドルの疑問に答える様に、レンディアが云う。

「中級のアンデッドか……鬼火やダスター、アッシャーとは格が違ってくるな」

グランさんが、ふむ、と考える。暗黒騎士として、何か思う事があるのだろう。

対アンデッドでいえば、暗黒神の信徒であるグランさんが適任者何だよな。

 

「中級からのアンデッドで、実体があるのは、“哭き女(バンシー)”に“屍鬼(グール)”、“歩く腐肉(ロッティコープス)”。あとは、武装スケルトンっていったとこかなー」

とシェーミィ。バンシーにグール、ロッティコープスか……名前と存在は聞いた事はあるな。

武装スケルトンの強さは、場所によって変わるそうだからな……ピックマンの霊園に出現する武装スケルトンの強さは、どの程度だろうか……?

それより、聞きたいことは“ピックマンの霊園”についてだ──

 

「ピックマンの霊園ね。兄上から聞いたのは、霊園としては広めで、中央に霊廟。その霊廟奥に、地下二階まで降りる階段があって、二階奥は洞窟になっているそうなのよ」

なるほど。霊廟って事は、ただの墓地ではなく、それなりの歴史があるのだろうな。

「ピックマン、というのは人名なのか?」

「ん、そうよ。生前は、良くも悪くも名の知れた芸術家だったみたいね」

レンディアが俺の疑問に答え、ピックマンという芸術家が、どんな人物だったかを簡単に説明してくれた──

 

レイノルズ・ピックマン──一世を風靡した抽象画家。しかし、ある時期から“奇妙”な抽象画とも、風景画とも言えない画風になり、それがきっかけで画壇から距離を置く事になった──そして問題作の、極めて冒涜的な“棄てられし者達の宴”を発表した事で、完全に画壇、画家達から絶縁を言い渡された──(この作品は破棄される寸前、ピックマンの親族と少数の友人達により、帝都美術博物館に寄贈された)──その際のピックマンの言い分は、「君らは幸いであり、不幸だ。この世の暗き部分を見ていないのだから」

この言葉を最後に、不世出の異才、レイノルズ・ピックマンは姿を消した──ピックマンの霊園との名が付いたのは、この霊園にピックマンが足しげく通い、霊園をモデルにした絵を描き続けたからとも、この霊園で姿を消したからとも言われているが、本当の所は誰にも分からない……いずれにしろ、昔の話だ──

 

ピックマンの霊園。なかなかに曰く付きの場所だな……。

「まあ、ピックマンの霊園については、そんな感じよ。そういう背景がある以外は、他所の墓地や霊廟と変わらないわよ。それに、冒険者以外に霊園に立ち入るのは、“浄化”や“浄霊”の経験を積むために訪れる神官や、司祭くらいのものよ」

「基本的に、不死者(アンデッド)は実入りの少ない存在だからな。望んで挑む冒険者は、そう多くは無い。レンディアの云う通りだ」

レンディアの言葉を引き継ぎ、グランさんが云った。

 

「そろそろ、朝食の時間だよー。今日のメニューは何だろねー?」

シェーミィが、俺達を現実に引き戻す発言をする──気付くと、朝食に良い時間になっていた。

「ふん。話は食事の後ね」

レンディアが、いつの間にか“指定席”近くにいたラーシアさんを呼んで、尋ねた──「今日の朝食は?」

 

 

少しばかり遅い朝食の内容は、青菜と鶏肉の雑炊に豆とトマトの煮物。それと、玉葱の酢漬けだった。

雑炊もそうだったが、豆とトマトの煮物が中々に美味かった……豆の甘味とトマトの酸味が良い風味を出していて、それを気に入ったシェーミィがお代わりをしていた。

 

 

朝食後の茶の時間──さて、改めて今日の予定だが、“ピックマンの霊園”を先にして、ヒルデガルド嬢──いや、今はただのヒルダか……。

「ふん。まずはピックマンの霊園ね。陽のある内に行きましょうよ。ヒルダの様子を見に行くのは午後からでもいいでしょうからね。皆、準備して」

さりげなく、後輩のヒルダ嬢に気を使う様な発言をするレンディア。俺達は何も云う事は無い。

 

「よし。陽のある内に、ピックマンの霊園にお邪魔するか」

グランさんが、香草茶を飲み干し席を立つ。

「ごちそうさまー!」

シェーミィが席を立ち、さっ、と自室に戻って行く。

俺は茶代として、チップ込みで銀貨四枚を直接ラーシアさんに渡す。

「いつもありがとうございます!」

パタパタと尻尾を振りながら礼を云うラーシアさん。狼族は感情が分かりやすいな……。

まーた、とレンディアが呆れた様に云った。

 

 

ピックマンの霊園は武門街、ロングスウォード領から、北西にある。

馬車は霊園には止まらないので、近場で降ろしてもらい、あとは徒歩だ。

といっても、近場から十分もかからないらしい──

「気い付けてなあ」

近場まで運んでくれた御者が、手を振りながら去って行った。

「……さて。行きましょうか。シェーミィとクレイ、斥候を兼ねて先頭を進んで。グランは殿ね」

馬車を見送り、レンディアの指示の元、速やかに隊列を組んだ。

「あの、大きな柵向こうがピックマンの霊園よ」

皆に、と云うより、ここが初めての俺に向けてのレンディアの声──ピックマンの霊園、中々の雰囲気だな……。

 

錆びながらも、頑丈そうな鉄柵が延々と霊園を囲んでいる様に見える。

柵の高さは、見上げるほどに高い。侵入者を防ぐというより、 中からの(・・・)脱走者を防ぐためのものに見えた……。

「グラン、不死者探知お願いよ。シェーミィとクレイは、斥候お願いよ。ゆっくり進んで」

レンディアが、錆び付いた霊園入り口の門を軽く押す──キ、ギイィィと門が簡単に開いた。

 

 

霊園の中は、想像以上に圧巻だった──朽ち果てた墓標群が、数え切れないほどに並んでいる。

墓標に刻まれた文字は、どれ程の年月が経っているのか、今ではほとんど読めないほどにすり減っていた。

微かに地面が踏み固まり、道の様になっている所があるのは、レンディアの言っていた様に“浄化”や“浄霊”の経験を積むために訪れる、神官や司祭達の足跡だろう……。

 

「朝方だからか、不死者探知には何も反応無し、だな」

殿を務める、グランさんの声。不死者探知──神の信徒ならではの術だ。

「ふん。このまま中央の霊廟に向かうわよ」

レンディアが云う。

古ぼけた石造りの建物──霊廟がここからでも見えた。

 

シェーミィを先頭に、周囲に気を配りながら進む。霊園の空気は澱んでいるものの、陰鬱な雰囲気は感じない──朝方の空気がそう感じさせているのだろうか……?

「ん……ちょっと待って」

少し先を行くシェーミィが立ち止まる。そして地面に片膝を付くと、前方に目を向け、弓を構えた。

「……どうした?」

矢をそっとつがえるシェーミィに、尋ねる。

シェーミィの耳が数度、小刻みに動く……何かを聴いたか?

後方を振り返り、レンディア達に止まる様、ハンドサインを出す。

 

「……何か、お香みたいな匂いがするのよねー」

ここは霊園だからな、そういう匂いも……いや、違う。

朽ち果てた墓標が並ぶこの場所。不死者(アンデッド)の巣窟に訪れる連中が、そういう事をするだろうか……?

剣の鯉口を切り、臨戦体勢に入る。シェーミィは矢をつがえながら、身動き一つせずに前方を見つめている──

ザッ……ジャッ、ザッ……不意に聞こえてきた音。足音、だな。

 

「……シェーミィ、何か向かって来るぞ……」

静かに剣を抜く。シェーミィもまた、キリリと矢を引き絞る──背後から、レンディアとグランさんの気配が近付いてくるのが分かる。

すぐに、“碧水の翼”が臨戦体勢の構えを取るだろう──足音が、少しずつ近付いてくる。

 

「おや……人、とはな。これは、珍しいね」

足音の正体は、古びた三つ揃いのスーツを身に付けた──不死者(アンデッド)だった。

干からびた顔立ちに、妙に整えられた頭髪が印象的な、紳士然とした人物(不死者)だ……ミイラの様な容姿と言ったらいいだろうか。

その雰囲気からは、敵意や害意は全く感じられない佇まいをしている──呆気に取られる俺達。

 

先に口を開いたのは、レンディアだった。

「ええと……不躾な質問何だけど、あなたは、その……何なの?」

剣を収めながら、レンディアがスーツ姿の紳士(不死者) に尋ねる。

会話が出来る相手に、戦意は無いとのレンディアの判断に、俺達は従う。

「おお……話が、通じる人達で良かった、よ。私が姿を見せ、ると大概は、襲いかかって、来る、からね」

うん、うんと嬉しそうに頷く、不死者。

「まあ、屍鬼(グール)、とでも言っておこうか、な。一応、生前の名前、は覚えている、から……自己紹介をして、おくよ。私は、ピックマン。レイノルズ・ピックマン、さ」

 

 

悪名高い、かの画家──レイノルズ・ピックマンとの出会いは、“碧水の翼”との縁になる。

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