邪神の子 ~赤き瞳のクレイドル~   作:末末

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たまには息抜きに短話でも。

( ´-ω-)y‐┛~~


幕間 魔導卿と奇妙な魔術師

 

 

「うん?」

ラーディスは妙な気配を感じ、読んでいた本を思わず閉じた。

 

“死霊術の死生観”──二百年以上前に、極少数発行された魔術書とも哲学書ともいえる稀覯本。

覇王公ミルゼリッツの庇護を受けた死霊術士達の共同執筆と伝えられている(覇王公が死霊術士に庇護を与えた理由は、不明。この事もミルゼリッツの悪名の一つになっている)。

発行部数、僅か百部。現存が確認されているのは、“魔導士の塔”と帝都図書館に所蔵されている二冊のみ。

今読んでいたのは、“魔導士の塔”から特別に許可を得て、ラーディス自らが写本した物だ。

 

「ギルバート君、今日の予定は何があった?」

作業台を整理していたスケルトンの執事、ギルバートにラーディスが今日の予定を尋ねる。

『……そうですね。冒険者ギルド、魔術師ギルド、商人ギルドに宮廷魔術師達との、昼食を兼ねた懇談会が昼に予定されています』

予定表を確認しながら、ギルバートが答える。

「ふん……急用が出来たと、キャンセルにしてくれ」

その予定はどうでもいい。といわんばかりのラーディス。

『それと午後には、ギルラド卿との夕食が入っています』

「そうだったな……ギルラド卿はいつまで帝都に?」

『明後日の昼後には、領地へ戻る予定だと伺っております』

ギルバートの答えに、むう、と悩む様に唸る。

「今日の夕食は無理になったと伝えてくれ。夕食は明日に。でなければ、明後日の昼食を一緒にと」

『はい。そのように』

予定表に書き込むギルバート。

 

「出掛けてくる。帰りは……そうだな。遅くなるか、明日になるかもしれない」

宮廷魔術師のローブをギルバートに渡し、金縁の漆黒のローブを受け取るラーディス。

漆黒のローブを身に付けるという事は、私用なのだな、とギルバートは思った。だが、用は何なのかとは聞かない。伝える必要があると判断したならば、自ら云うだろうから。

 

『杖をどうぞ』

差し出された黒灰色の杖を、ラーディスは受け取る。持ち主の決まった、“魔導士の杖”に触れる事が出来るのは、魔導士が心許した相手のみ。

それ以外の者が触れたら? 治癒院か神殿行きになるだろう。

「よし、ギルバート君。留守を頼む」

フードを被り、ドアに向かうラーディスに先んじて、ギルバートが手慣れた動きでドアを開ける。

『お気をつけて』

うん、とラーディスが頷き、廊下を進んで行く。

その背に、ギルバートが一礼をした。

 

 

「だから、魔導卿に会いに来たと言っているだろうが!」

洗いざらしの、濃い灰色のローブ。同色の旅人帽(トラベラーズハット)。瘤だらけの木の杖。

いかにも魔術師然とした、褐色の肌の年齢不詳の男性が、城門側の通用口で、二人の若い衛兵と揉めていた。

「ですから、お名前を教えていただければ、と……」

辛抱強さと忍耐力も、衛兵の能力の内である。先ほどから二人の衛兵は、その二つを試されていた。

 

「名前?!……名前か……名前なぁ」

ふむ、と年齢不詳の魔術師?は、望洋とした表情で宙を見つめ始めた。

二人の衛兵は互いに顔を見合わせ、溜め息を吐きたい気持ちを押し殺す。

このやり取りは、三度目だった──魔術師が、不意に睨み付けてきた。

「いいか。私は重要人物だぞ? 私を通さないという事はだな……何だろうな?」

魔術師はまたしても、ぼんやりと宙を見つめる。

若き二人の衛兵の辛抱強さと忍耐力も、限界を向かえそうになった時、声が聞こえた。

 

「その人は重要な人だよ。私が引き受けよう」

聞き覚えのある穏やかな声に、二人の衛兵は安堵のあまり(辛抱強さと忍耐力の試験が終了したという喜びもある)、ついに溜め息を吐き出した。

「重要な人物だって?!」

灰色ローブの魔術師は、帽子を押さえながら、背後を勢いよく振り向く。

そのあまりの勢いに、衛兵二人はビクリと体を震わせた。

「私の言う重要人物とは、あなたの事ですよ」

ラーディスの声に、灰色ローブの魔術師はゆっくりと正面を向き、まじまじとラーディスを見つめる。

「……ふむ。面と向かっては、初めまして、だな? 魔導卿よ」

灰色ローブの魔術師から、先ほどまでの望洋とした雰囲気と表情が消えていた。

強い眼光を湛えた瞳をラーディスに向けている。

「はい。ですが……前々から知っていますよ。あなたの事は」

眼光に怯む事なく、微笑むラーディス。

 

「聞いたな? この魔導卿が、私の事を重要人物(・・・・)と云ったのだぞ?! だからそこを通せ……いや、もうその必要は無い、か?」

「ええ、その通りです。私に、何か用があったのでしょう?」

うん? と何かを考え込む灰色の魔術師。そして──「それはそうと、私の名前は何だったかな?」

 

 

城門から離れ、街の方へと去っていく魔導卿と奇妙な魔術師の背を見送る、若き衛兵二人。

「色々な人が魔導卿を訪ねて来るが……さっきのは、相当な変わり者(・・・・)だったな」

「全くだ。疲れたよ……それより、あの奇妙な魔術師の名前、結局何だったのか……」

衛兵二人は、先ほどの灰色の魔術師と、魔導卿のやり取りを思い出す──

 

自分達二人を無礼者と憤る魔術師を、魔導卿がやんわりと宥め、この二人の衛兵は、ただ職務に忠実なだけですので御勘弁を、との言葉に──「それもそうか」と、魔術師はあっさり怒気を解いた。

その後、魔導卿が魔術師を酒に誘い、二人は街へと向かって行った。

「よし、そろそろ交代の時間だ……日誌にはどう書くかな」

「そうだな……奇妙な魔術師の訪問と魔導卿の取りなしの件は外せんだろう」

だな、と頷く二人。

 

二人の耳に、先ほどの奇妙な魔術師の大声が聞こえた。

「帽子め! また逃げるつもりか?!」

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