邪神の子 ~赤き瞳のクレイドル~   作:末末

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幕間 待雪草(スノードロップス) 初めての対不死族(アンデッド)

 

 

 

古びた墓碑が立ち並ぶ墓地を通り抜け、静寂の祠に無事到着した。

建物の中は、外から見た以上に広い空間になっていて、何か厳かな雰囲気を感じさせる──時間帯が関係しているのか、全体が仄かに明るい。

天井付近にある天窓から射し込む光が、建物内を照らしているのも影響しているのだろうか。

さすがに奥までは見えないけれど、規則正しく並び立つ柱が、天井を支えているみたいだ。

周囲を見渡すと、壁際に壺が並べられた棚がいくつもある事に気付いた。

「ファル、あの棚に並べられている壺は何?」

シェリナが、物珍しそうにファルに尋ねた。

「ああ、遺灰壺と骨壺だよ」

さらりと答えるファル。まあ、そうだと思った。ここは霊廟だしね……。

 

遺灰壺に骨壺、と聞いたシェリナが、少し怯む。

「大丈夫だよ。あれ(・・)から不死族(アンデッド)が湧く事は無いよ。浄められているからね」

ただ、気を付けないといけないのは──ファルが続けて云う。

「幾つかある小部屋、もう使われていない礼拝室なんだけど、半々くらいの確率でアンデッドが潜んでいるんだよ」

「……そこから、アンデッドが出てくる事もあるのか?」

ジョシュが、周囲を警戒しながらファルに尋ねた。ファルが首を橫に振る。

「ああ、それは大丈夫。この場所に限らず、魔物(・・)魔獣(・・)が部屋から出てくる事は無いんだ。ダンジョンの不思議の一つ何だよね……まあ、例外はあるんだけど」

ファルは霊廟内を見渡しながら云った。私達も、改めて周囲を見渡す……厳かな雰囲気の中、アンデッドが出現するという事が、ちょっと想像出来ないわね……。

 

「とりあえず、安全な礼拝室見つけて拠点にしようか。アンデッド戦を、何度か経験するのが目的だから、少しばかり腰を据えた方が良いと思うんだ」

ファルの発言に、少し考える……。

今回、ここに来た理由はアンデッド戦の経験を積むため。

だったら、ファルの発言は最もな事だ──うん。私が決める事よね。

「そうしましょうか……シェリナ、ジョシュはどう思う?」

二人に尋ねると、当然否は無かった。

そうと決まれば、早速、安全な礼拝室を確保するために動かなきゃね。

 

「どの礼拝室が安全かは、踏み込んでみないと分からないからね。そうだなあ……まあ、あまり考えないで手前付近から試そうか?」

妙に嬉しそうに、提案(?)するファル。

微かな胸騒ぎを、ほんの一瞬、感じた……ファルにどう試すのか聞こうとした時──「よし、俺が盾になるよ」

乗り気になったジョシュの言葉に、ファルがさらに嬉しそうに云う。

「うん、頼むよ! え~、と……あの礼拝室にしようか!」

器用に音も立てず、直ぐ近くの礼拝室に駆けて行くファル。その姿に、若干の不安を感じるのだけれど……。

「ねえ、リーネ。私、なんか嫌な予感する」

シェリナを見ると、眉をひそめ、杖を強く握り締めている……大丈夫よ、とシェリナに声をかけようと──「おりゃああぁっ!」

 

ハーフランナー(駆け足族)特有の、甲高い声と同時に、衝撃音が聞こえた──ファルが礼拝室の扉を蹴り開けたのだ。

「……嘘でしょ」

シェリナが呆然と、呻く様に言った。

全くの同意見……こんな大きな物音立てたら……。

 

ぉぉぉ……ぁぁぉぉぉ……

遠くから、どう例えようもない呻き声が聞こえてきた……「ひ、ぃっ」

シェリナが、妙な悲鳴を上げた。

うん、そうよねそうなるよね──「ツイてるよ! この礼拝室は“空き部屋”だ!」

ファルの、底抜けに明るい声が周囲に響き渡る……ファル!!

 

 

妙に嬉しそうに、近くの礼拝室に音も無く駆けて行くファルを追う。

ファルの器用さは知っている。どんな風に扉を開けるのか、今後の為に見学させてもらうとするかな──盾を構え、剣の柄に手を掛ける。何が現れてもいい様に準備しておこう……ファルは扉を少し調べると、扉から距離を取り始めた──うん? 何をするつもりなのか?

「よし……せえ、の」

身構えるファルを見て、嫌な予感がした……まさか、だよなファル……?

 

「おりゃああぁっ!」

嫌な予感は的中した。ハーフランナー(駆け足族)特有の、甲高い声による雄叫びと同時に衝撃音──ファルは、礼拝室の扉を蹴り破る様に開けた。

嘘だろ……こんな大きな物音を立てたなら、静寂の祠に眠る不死族(アンデッド)達が──ぉぉぉ……ぁぁぉぉぉ……

どこからともなく聞こえてくる呻き声。

見ずとも分かる……眠りを覚まされた、アンデッド達の声。直に、対不死族(アンデッド)戦が始まるだろう……。

 

リーネ達と早く合流しないと──「ツイてるよ! この礼拝室は“空き部屋”だ!」

底抜けに明るい、ファルの声が周囲に響き渡る……ファル!!

 

 

喧騒を聞き付けてやって来た不死族(アンデッド)は、霊体だった。

例えるなら、漂う霧の塊といった感じだろうか──それはともかく。

「ちょ~っと、数が多いなあ……みんな、とりあえず礼拝室(拠点)に避な……一時、撤退しようか」

蠢きながら近付いてくる、霊体の群れを見ながらファルがのんきに云った……というか、避難と言いかけたわね?!

 

「急ぐよ! ほら、そこの礼拝室に向かって!」

早く、早く! と私達を急かすファル──妙に嬉しそうなのが、腹立つわね……ジョシュが、すっかり怯えて涙目になっているシェリナの手を引きながら、先を行く。

霊体の群れを直視したシェリナは、すっかり怯えてしまい、体が竦んでしまっていた。

そんなシェリナを見かねたジョシュが、手を貸して礼拝室に向かう事になったのだ。

 

ジョシュとシェリナを先頭に、私とファルが続く──ファルの様子を横目で窺うと、何が楽しいのかニコニコと微笑んでいる……何を考えているの?

「少しあの連中(グレイブミスト)を散らさなきゃなあ。え~と……どこにやったか……これだ」

ファルは腰回りに下げているポーチを探り、手のひらに収まるほどの小瓶を取り出した。中身は……何だろう? 水の様に見えるけど……。

「リーネ、ほんのちょっとの時間だけ、凄く眩しくなるんだ。だから合図をしたら、すぐ礼拝室に入って。いいね?」

いつになく、真剣な面持ちで云うファルに、私は頷く。

 

そうこうしている内に、ジョシュとシェリナが一足早く礼拝室に入った。

漂う霧の塊──霊体の群れが、呻き声を上げながらじわじわと近付いて来ている……それに目を凝らすと、幾つもの人の顔の様なものが、浮いては消えてを繰り返している──正直言って、気持ち悪い……ファルに質問をする。

「あの霊体の群れ、意思というか意識はあるの?」

「……う~ん。無いと思うよ。下級の不死族(アンデッド)、特に霊体は、魂の残滓、残留思念が形になったものと言われているからね」

魂の残りかす、か……脅威としてはどれほどのもの何だろうか?

「はっきり言って、下級の霊体は大したこと無いよ。ただね、神聖神殿で祝福を受けたとはいっても、シェリナの様に元々耐性が低い人にとっては、油断ならないかな……まあ、慣れだよ慣れ」

しれっと云うファルに、ほんのちょっとイラッとした……シェリナがすっかり怯えてしまったのは、誰のせいだったっけ?

 

霧の様な塊から、顔が浮き上がっては消えを繰り返し、呻き声を上げながら近付いて来る霊体の群れ……見れば見るほどに、薄気味が悪い。

「そろそろ、頃合いかな……いいかい、辺りが冷えてきたら要注意だ。霊体の攻撃範囲に入りかけている証しだからね」

ファルが、前方の霊体の群れから目を離さずに云う。

確か、初級訓練で習ったわね……霊体型のアンデッドの中には、急激に温度を下げる物もいると。 そういうアンデッドに触れられたなら、体温──つまり生命力を奪われ、昏倒、下手をすれば死亡する事もある──と。

もちろん、それは中級以上のアンデッドに場合であって、今目の前で蠢いている下級の霊体にそんな大層な力は無いのだけれど……まあ、油断はしないわ。

 

ヒヤリとした風を、微かに感じたと同時にファルが云う。

「よし、頃合いだ。五つ数えるから、その間に礼拝室に入って」

ファルが深呼吸をし、ゆっくりと数を数え始めた──背後を振り返り、礼拝室を見ると、ジョシュが真剣な面持ちで私達を見ていた。いつでも退避出来る様に、ドアを開いて待っていてくれているのだ。

私達も、すぐにそこに行くから、と声をかけ──「三!」

 

ファルの甲高い声と同時に、パシィィン! と何かが砕ける音……ファルが手にしていた、小瓶が砕ける音だと、直感した──と同時に、凄まじい光が礼拝室周囲を照らし、ジョシュが屈み込むのが見えた。

私は、ジョシュに目を向けていたので光を直視せずに済んだ、けど……というか、三!? 五つ数えるって言わなかった!?

「ぐわあぁぁっ!? 目がぁぁっ!!」

光を直視したのだろう、顔を押さえて、バタバタと床でのたうち回るファル……ファル!?

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