邪神の子 ~赤き瞳のクレイドル~   作:末末

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第18話 猪鍋と討伐依頼

「クレイドルに、実戦経験をさせておこうと思うんですがね」

「うん? 藪から棒だな。何か手頃な依頼でもあるのか?」

ギルドマスター室に来た、ジャンベールが言う。

「オークが十匹程、出現したらしいんですがね。今、前衛連中、タイミング悪く出払っているんですよ」

「ふむ……確か、護衛が数件と、討伐遠征も数件出てたか……通りで少々、ギルド内が静かなんだな」

ふーん、と考えるダルガンデス。オーク十匹なあ……。

オークが十匹以上集まれば、何処からともなくオーガがやって来る。オーガに統率されたオークは、危険度が上がり、村を襲うのも時間の問題になる。

オーガの下にオークが集い、群れを成す。数十の群れにオーガが、更に合流する。

こうなっては、冒険者達だけでは、対処出来ない状況になる可能性も少なくない。衛兵や騎士団が出てくる事も充分有り得るのだ。はっきり言うと、そうなれば、ギルドの顔が潰れる。

 

「ふうん、面子はどうする?」

「俺とミルデア、レンケインです」

「よし、いいだろう。ちなみに依頼人は?」

「メルデオ商会です。南街道を少し離れた場所で休憩していたら、目撃したそうです」

オークか。初めての討伐には手頃、という訳では無いが……ベテラン連中の、訓練の成果を確認させるか……。

 

「討伐ですか」

昼食後、マーカスさんとお茶をしていると、ジャンさんがやって来た。

「ああ。南街道沿いでオークが、目撃されたんだ。目撃したのは、メルデオ商会の人達だ。数は十匹程だったそうだ」

確か、オークが集まれば集まる程、オーガが来る可能性が高くなるんだったか……。

「行きます」

「速決だな。オイ」

ワハハ、とマーカスさんが豪快に笑う。

「面子は、俺とミルデアにレンケインだ」

「まあ、オークは初の討伐には、少しばかり手強いが、その面子なら大丈夫だろ。それに、ベテラン連中に日頃、鍛えられているからな」

ジャンさんとマーカスさんが云う。確かに、常日頃の成果を確認したい……。

装備はどうするか……スケルトンキラー(鋼造りのショートソード)を、予備の武器にして……バトルアクスをメインに、って待てよ? 訓練用のやつは、実戦に耐えられるだろうか……。

 

「大丈夫だ。刃が付いてないだけで、長さ、重量は本物と変わらねえよ。充分、振れるようになってるし、あとは実戦で試しな」

「クレイドル、武器選びは慎重にな、と言っても……片手武器、両手武器、それなりに使えるようになってるからな。好きなの使えばいいさ」

よし、二人のお墨付きを得た。あとは防具だけど……。

「防具は訓練用のやつでいいだろ。実戦でも充分、役立つようにしつらえているからな」

じゃあ、兜の実戦デビューだな。盾の実戦デビューは少し、待ってもらおうか。

 

オーク討伐に出向く事が決まり、ジャンさんがレンケインさんと、ミルデアさんを呼びに行く。

「昨日、お前らが持って来た猪肉あったろ? あれ仕込みが済んだからよ。夕飯に、鍋にして出してやるよ。あとは焼肉だな。鍋用の野菜をたっぷり、準備させてる最中だ。まあ、楽しみにしておきな」

マーカスさんが、夕食のメニューを告げる。おお、野菜たっぷりの猪鍋。そして焼肉。いいな……うん。

 

ジャンさん、ミルデアさんとレンケインさんが揃った。ジャンさん達が、準備した道具の再確認をする。

結局、俺は荷物を持つ事なく済んだ。治癒ポーションは自分達が持っている。収納袋等は用意しているから、戦う事だけ考えてればいい……これって、甘やかされているのでは?

 

南門から出て、街道沿いに歩く冒険者四人組。

門側に待機している、馴染みの衛兵さん達に軽く手を振り、何事もなく通り過ぎる。

ううむ。ベテランの振る舞い……渋いな。

 

南街道を雑談混じりに進む。様々な人達とすれ違う。旅人。同業者らしき人達。馬車に、行商人達。少しづつ、街道から外れる頃には、口数は少なくなっていく……そろそろ、戦場か。

 

「依頼書によると、ここら辺か……よし、少し見てくる」

「頼む。レンケイン、クレイドル、何時でも出られるよう、用意しておけ」

ミルデアさんが斥候に出ていった。手早いな。

兜を被り直し、フェイスガードを引き上げる。

何か、落ち着かない──実戦に向かう気分が、妙に気を逸らせているのだろうか──ぽん、と肩を叩かれた。

「クレイドル君、落ち着けよ。僕らがいる。頼れ。多少の無茶をしても、構わない。思い切り、やるといいさ」

教授レンケインさん。その落ち着いた口調に安心する。

深呼吸─一つ、二つ、ミルデアさんが戻って来た。

「オーク十二。オーガが一匹来ている……」

「オーガか。引くわけにはいかないな。俺がオーガを相手取る。ミルデア、クレイドルはオークの相手を。レンケイン、補助を頼む」

 

手早く、手慣れた指示。トン、とミルデアさんに肩を叩かれた。

「少し距離を取って、私の横に」

短く告げる、ミルデアさんに頷き、深呼吸、一つ。フェイスガードを引き下げる。

 

クレイドルの瞳が赤く瞬いたのを誰も知らない。クレイドル本人にも──

 

ジャウッッ─旋風一閃。ジャンベールが、突き出したレイピアを横薙ぎに、二度振るう。

ジャンベールのレイピアはやや幅広で、突きだけではなく、切断にも適した特注品。

風属性の旋風が、風刃となって三匹のオークを襲う。顔、首筋を切り裂かれ、うずくまり、倒れる。

強襲を受けた豚面の獣人連中が、騒ぎ出した。

一切気にする事無く、ジャンベールがオーガに向かって駆け出す。

ジャンベールの行く手を阻む動きを見せたオーク達の頭部や胴体に、石塊が叩き込まれていく。

レンケインの土属性の魔術。石塊の直撃を受けたオーク連中を、ミルデアが短槍で突き払い、小盾で殴り付けていく。

 

上手い連携だ。いや、さすが……流れるようなベテラン達の動きと連携──横薙ぎにバトルアクスを振る─しっかりとした手応え。刃が付いて無くとも、この重量。直撃したなら、ただでは済まないだろうな─オークの動き。遅い。油断もしないが、余計な緊張感も無い─足を薙ぎ払い、転倒させ、頭部に撃ち下ろす。中々の手応えと感触。血肉、骨が鳴る─いや、遅い。棍棒を高々と振り上げる、その動き。胴を薙ぎ払うに充分過ぎる──あと、何匹だ─んっふふふ──

 

短目の丸太。それを両手で振るオーガ。力任せではあるものの、攻撃のタイミング、距離の取り方。ただのオーガじゃないな……こいつ、ハイオーガに成りかけか……!

「ちっ」

上等だ……距離を取るために、大きくバックステップ。すう、と息を吸う……。

 

風は吹きすさび 飄と鳴る 鳴る風は刃となり

旋風として顕現する─旋風刃─

 

バシャリ、とオーガの周囲が鳴る。鋭い風切り音。オーガの身体が風の刃に切り裂かれ、血を吹き出す。ぐらりと揺らぐ、オーガの身体。致命傷にはならなかったか。オーガの殺気は衰えていない。ならば……背後から、気配。誰かが駆け寄って来る。

「屈んで!!」

クレイドルの声だと確認する前に、ほぼ横倒しに倒れ込む──バトルアクス。両手武器が勢いよくオーガの頭部に直撃した。オーガの身体が、ぐらりとよろめいた。

刃が付いていたら、これで決まったんだろうなと、ジャンベールは思った──だが、これで終わらなかった。

クレイドルは、短剣を手に持ったままオーガに飛び付き、その首筋に短剣を押し付ける。

クレイドルの体重を受けたオーガは、仰向けに倒れ込む。

クレイドルはオーガの首に体重をかけ、思い切り短剣を押し付け……引き切った。

 

 

 

くつくつ、と鍋が静かに鳴っている。猪肉と野菜を煮ている最中。側にある大皿には、たっぷりの追加の肉と野菜。焼肉は鍋の後だ。

「なるほどな。初討伐にしては、なかなかに激しいな……首を掻ききった、か」

マーカスは鍋の蓋を少し開け、中を確認する。

魔道具のコンロにかけられた鍋。火力を少し弱める。

「ええ。あんなやり方、教えてないんですけどね。オークに対しても充分、戦えていたそうですし……それにしても、両手武器をぶん投げるなんて、ねえ」

ジャンベールが嬉しそうにいう。

「なるほどなあ。やっぱり、面白い野郎だな」

鍋の火を弱くする。もう少し火を通して、野菜をゆっくり温めるか。そろそろ、焼肉のために七輪を用意しねえとな……。

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