邪神の子 ~赤き瞳のクレイドル~   作:末末

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第193話 霊園解放と武門街への帰還

 

祠のある地下湖から、グランさんとシェーミィの所に戻る途中、ソウルリーパー(魂を刈る者)と地下湖。そして祠について、レンディアと少しばかり話す。

「ソウルリーパーと、地下湖の事は驚いたわよ」

「そうだな。ピックマンは洞窟の中には入れなかったと言っていたから、ソウルリーパーと地下湖、祠の事も知らないだろう」

「ふん、そうね。帰りにピックマンの所にでも寄って、見聞きした事を話すのもいいかもね」

地下湖と洞窟を繋ぐ橋を渡り、洞窟内の通路に足を踏み入れる──「うん?」

 

先に気付いたのは、レンディアだった。

「空気が、澄んでいるわね……」

深呼吸を深々とするレンディア。

カタコンベの厳かさと静寂の中に、澄んだ爽やかな風が、静かに漂っているのを確かに感じた……グランさんが“浄呪(ディスペル)”を使用した後の雰囲気に似ているな。

 

「どうやら、グランの“浄化”も終わった様ね……合流しましょうか」

レンディアが云う“浄化”とは、“浄呪(ディスペル)”とは少し違うそうで、不死族(アンデッド)の亡骸を、灰と塵として大地に戻すための儀式があるのだそうだ──その儀式とやらを見たかったと、少し思った。

 

 

グランさんとシェーミィと合流する。

小山の様に積み上がっていた灰は綺麗さっぱりと無くなり、白い砂の様な物が床に少し広がっていた。

「お帰りー、奥はどうだったー?」

“浄化”中のグランさんの護衛をしていたシェーミィが、陽気に声を掛けてきた。

当のグランさんは、少し離れた場所で岩に腰掛け、革の水筒を口に含んでいる。

恐らく中身は黒ワインだろう──

グランさんの顔には、少しばかり疲労の色が見えた。

 

洞窟奥の事を説明する──奥の空間には地下湖があり、その中央に小島。小島には石造りの祠。祠とその周囲はソウルリーパーの影響で穢れているが、地下湖にはその影響は及んでいない事──

「少し休んだあと、改めて小島に戻って再調査するわよ。祠をもう少し見てみたいのよ」

レンディアの提案に、否は無い。

早速、キャンプの準備に取りかかる事になった──

 

休憩用のマットを床に敷き、魔道コンロを取り出して、お茶の準備を始める。

レンディアが生活魔法で鍋に水を満たし、魔道コンロの火にかける。

お茶はシェーミィに任せ、俺とレンディアは軽食の準備をする。

グランさんは、先ほどの“浄化”で疲労が残っているだろうから、ゆっくり休んでもらう事にした。

「ああ……少しばかり横になるよ。食事の用意が出来たら、起こしてくれ……」

そう云うと、壁際に寄りかかり、そのまま目を閉じた。

寝ようと思えば、すぐに寝られる──冒険者の能力の一つだ。実戦に身を置く者の常識とも云える。

早くも、グランさんの静かな寝息が聞こえて来た……。

 

シェーミィが用意したのは茶ではなく、豆と野菜の乾燥スープだった。

冒険者向けの携帯食の一つで、栄養もあり、腹持ちの良い携帯食だ。

冒険者活動中に、野営、ダンジョン内に関わらず、温かい食事を取る事が出来るというのは、パーティーの士気に大きく影響する。

乾燥スープの他には、薄い塩味のビスケットに干し果物。共に、冒険者御用達の携帯食とも言える物だ──

 

「まあ、こんな所ね」

食事の準備を終え、レンディアが云う。

食事の内容は、乾燥スープとビスケット。そして干し果物の三種類。キャンプ中の食事は、こういう物で充分なのだ。

グランさんを起こし、早速食事にする。

その後、小島の再調査だ……さて、あの祠の事で何が分かるかな?

 

 

「穢れた祠と土地か……見てみない事には何とも言えないが──」

カタコンベ(地下墓所)内というのに、穏やかな雰囲気での食後の茶の時間。

改めて、小島の話を聞き終えたグランさんが、茶を啜る。

「私の“浄化”では、手に負えないかも知れないな」

「ふん……ソウルリーパーの穢れは、尋常では無いでしょうからね。まあ、とりあえず見てみるといいわよ」

茶の時間を終え、早速皆で小島に向かう事になった──

 

 

地下湖の畔。小島に向かうための古びた橋を渡りながら地下湖を改めて見ると、最初に来た時よりも澄んでいる様に見えた。

大きな違いは、水中に様々な生物が群れ成している事だ。レンディアの放った水の精霊の働きの成果だろうか?

「……これは凄いな。水の透明度が普通じゃない……底まで見えるとはな」

「お~、魚が群れてるねー。あ、でっかいエビと蟹!」

感に堪えない様子で地下湖を眺めるグランさんに、橋の欄干から身を乗り出して、地下湖を覗き込むシェーミィ。

短時間で、地下湖の雰囲気が一変していた。

レンディアの使役する水の精霊の力なんだろうか……?

「ふん。ここの地下湖、水の精霊達と相性が良いみたいね。結構はしゃいでいるわよ」

優しい眼差しで、地下湖を見つめるレンディア。

改めて地下湖を見ると、心なしか水草がさっきよりも増えている気がする。

 

「エビ!でっかいエビ!」と欄干から体を落とさんばかりに興奮するシェーミィを、橋から引き離すのに少々手間取ったが、小島に無事到着。早速、祠を再調査する事になった──

 

 

瘴気に侵食されて、穢されたかの様な色合いになっている石造りの祠……だったのだが、少し離れていた間に、少々祠の雰囲気が変わっていた。

嫌な色合いに染まっていた地面の色も、不快な感じが弱まっている様に感じる。瘴気が薄まっているのか……?

「ふうん……ソウルリーパー(魂を刈る者)を排除した影響が、早くも出ているという事かしらね?」

祠の前にしゃがみこみ、まじまじと観察するレンディア。

改めて祠を見ると、堅牢で時代を感じさせる造りになっているのが分かる。

何か、厳かささえ漂わせている様だ……。

 

「……ふむ。妙な気配だな。神を祀っている、という感じはしない……どちらかというと、精霊関係じゃないか?」

石造りの祠を見つめながら、グランさんが云うと、その言葉にレンディアが首を捻る。

「そうねえ、言われてみれば……ふん、どうかしらね?」

グランさんとレンディアの会話。訪う者無く、長く放棄されていた祠か……そういう祠に対しては、そう気安く手を合わせたり、捧げ物をしない方がいい──

そう聞いた事があるんだよな。何が祀られているか分からない祠に、気安く関わらない方がいいと……とはいえ、捧げ物や奉納品が納められた形跡も最早無く、長く放棄されていた祠はあまりに悲しすぎるよな……。

 

クレイドルは肩掛けの鞄を探ると、干し果物と干し肉を取り出し、祠の前に恭しく捧げると、瞑目し一礼して、手を合わせた。

「ん?……クレイドル、それは……」

グランの声に、クレイドルは我に帰った様に顔を上げる。

「……正直、何が祀られているか分からない祠に手を合わせるのは、あまり良くないな」

グランが呆れ顔で、クレイドルに云う。

「ふん……まあ、悪い気配は感じないから、大丈夫でしょうよ。水の精霊も警戒態勢では無いし」

 

やはりか……“精霊(そういう)”のが、前世以上に力を持つ世界だから、気を付けないといかんな。

「さて、もうここでやる事は無いわね……精霊を戻すわよ」

レンディアがパチンと指を鳴らすと、地下湖から小さな水流が這い出て来て、スルスルとレンディアの足下で消える。

「ああ、そうだ。ソウルリーパー(魂を刈る者)の魔石を拾ったんだ」

 

グランさんが、握り拳大の魔石を俺達のに差し出す──鈍く光る、黒と銀色の色合い。正直、見ていて気持ちいいものでは無い──うん? ソウルリーパーの魔石に、魂食み(ソウルスレイヤー)が少し反応したな……?

 

「グランさん、その魔石、俺が預かっていいですか?」

「……よし、いいだろう。ほら」

グランさんから魔石を受け取ると、あからさまにソウルスレイヤーが自己主張し始めたが、この場では無視だ……大人しくしなさい。

 

「シェーミィ、戻るわよ。弓を仕舞って」

何を狙おうとしていたのか、地下湖に弓を向けていたシェーミィに声を掛けるレンディア。

あーい、と手早く弓を仕舞うシェーミィ。まだ未練があるのか、地下湖から目を離さないシェーミィ……何を狙いたかったんだ。

 

 

霊園から出る前に、ピックマンに会いに行こうとしたが、どこに出掛けたのやら、ピックマンは不在。アトリエにも居なかった。

ちなみに、地上に戻るまでに不死族(アンデッド)には一切遭遇しなかった。

「まあ、ピックマンには何時でも会えると思うから、またにしましょうよ。武門街に戻るとしましょうか……うん?」

レンディアが、空を見上げる。釣られて空を見ると、雪だった。

ハラリと、一片の雪が手のひらに落ちて来る。

「あー、寒くなりそうだねー。早く帰ろうよー」

手を擦り合わせながら、シェーミィが云う。

「そうね、さっさと戻って温かい物でも食べましょうか……帰り道に馬車でも通ればいいけどね」

云いながら、レンディアが先を行く。

さて、霊園から武門街まで歩きでどれくらいだろうか?

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